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新たな小売の潮流「ARショールーミング」ーー ARユースケース開発企業「MESON」が新サービス「PORTAL」提供開始

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8月23日、ARユースケース開発企業「MESON」が大手アパレル企業「オンワード樫山」と協業し、GINZA SIXと東京ミッドタウンでARファッションショー「PORTAL BY JOSEPH」の提供を開始した。 PORTAL BY JOSEPHとは、壁面に設置されたポスターにiPadをかざすことで現れるランウェイを通じて、新しい服やコーディネートに出会うことのできるARファッションショー。アパレル…

8月23日、ARユースケース開発企業「MESON」が大手アパレル企業「オンワード樫山」と協業し、GINZA SIXと東京ミッドタウンでARファッションショー「PORTAL BY JOSEPH」の提供を開始した。

PORTAL BY JOSEPHとは、壁面に設置されたポスターにiPadをかざすことで現れるランウェイを通じて、新しい服やコーディネートに出会うことのできるARファッションショー。アパレルブランド「JOSEPH」の商品を楽しめる。

起点となったコンセプトはブランド体験の向上。店舗が商品を販売する場所から体験する場所へと変わっていく中で、どのようなARソリューションを提供できるかを考えた上でたどり着いた1つの小売ユースケースが今回のPORTAL BY JOSEPHとなる。

JOSEPH GINZA SIX店では9月23日までの1ヶ月間、東京ミッドタウン店では9月16日までショーを体験できる。

店舗のショールーミング化はARで新たな形へ

PORTAL BY JOSEPHの登場背景として、小売市場におけるショールーミング・トレンドが挙げられる。

どの小売ブランドもEC店舗を持つようになってから、誰もが自宅から手軽に各商品情報へアクセスできるようになった。この点、店舗に大量の商品を並べて各商品を認知してもらい、販売実績で事業拡大を目指す従来の出店手法を見直す必要が出てきた。単調な商品認知に重きを置く店舗に顧客が価値を見出せなくなったのだ。

店舗が商品を認知する場所として機能しなくなってきている。1つ1つの商品を陳列棚に並べても顧客は満足しない時代になってきた。そこで顧客が店舗に求めるのは今までにはなかった発見と体験。

たとえば世界的小売企業「Walmart」傘下のアパレルブランド「Bonobos」が好例。店員と対話をしながら最適なコーディネートを顧客と一緒に探すガイドショップの機能を店舗に持たせたのだ。筆者がサンフランシスコ店を訪れた際は、小一時間ほど2人の店員が付きっ切りでアドバイスをくれた。

同社は店員の接客にリソースを割く代わりに店舗に在庫を一切持たない。購入品は後日の自宅配送されるため、店舗は売り場から体験の場になった。店舗を顧客に合ったコーディネート発見やブランド・接客体験に特化した場所として位置付け、割り切った戦略を描いたのだ。

他事例では眼鏡D2Cブランド「WarbyParker」が挙げられる。著書『サブスクリプション』によると、同社は来店客の85%が事前に商品を調べてきていると結論づけ、店舗に全商品を隙間なく並べるような従来の出店手法を捨てた。

その代わり1平方フィート当たり$3,000ドルのコストをかけて店舗建設を行い、ゆったりと商品を見回せて世界観を知れるブランド体験を提供。このコスト感は高級ジュエリーブランド「Tiffany & Co.」の1平方フィート当たりの費用に匹敵する豪華さだという。

こうした事例から紐解けるショールーミング化の本質とはオンラインで手軽に閲覧できる「2次情報」ではなく、オフラインでしか手に入らない自分だけの商品体験、つまり「1次情報」を提供することにあると考えられる。

今回、MESONが展開するPORTAL BY JOSEPHもまさにこうした体験を提供することをコンセプトに開発が進められてきた。MESON代表の梶谷 健人氏は次のように語る。

MESONがPORTALを通じて提供するのは、「出会い: 新しいアイテムや着こなし方の発見」「学び: ブランド世界観の体感」「つながり: 店員やブランドとのコミュニケーション」の3つ。

近年、店舗が単にモノを買う場所ではなく「体験」を提供する場へと大きく役割が変化している中で、「今回届けるべき体験は何か」からチームで議論し、この3つに定めました。

AR技術を活用することで、従来の店舗で体験できなかった没入感の高い体験を提供しつつも、ブランドや店舗、季節ごとにカスタマイズして展開することが可能になります。

3つの体験を抑えるPORTAL


MESONではPORTALを、ウェブ検索ではたどり着けない新たな商品発見がある「出会い」、ブランド世界観に浸れる「学び」、顧客が店員と双方向のコミュニケーションを行える「つながり」が発生するAR体験プラットフォームとして機能させる狙いがあるとのこと。

たとえば読者の方々がデパートへ行った際、店員か皆さんのどちらかがぎこちなく声を掛けるところからブランドとの対話が始まるはずだろう。先述した3つの要素全てが上手く働くとは考えづらいシチュエーションだ。

しかしMESONはPORTALという一種の「仕掛け」を店頭に設置しておくことで先述した3つの要素を効率的に体験させる仕掛けを作った。圧倒的な没入感が売りのARショールーミングでは、新しい商品コーデ発見・ブランド認知・店員とのコミュニケーションを一気通貫で行えるようにしたのだ。

ここで他社の動きを見てみたい。大手ブランドもARサービスをいくつか展開済みだが、PORTAL BY JOSEPHにおけるショールーミングの流れを捉えた体験には追いついていない印象である。

GUCCI」は自宅試着向けARアプリをローンチしているが、こうしたサービスはネット情報に多少の付加価値があるものでブランド世界観の認知までには至らない。「ZARA」も同様にARアプリを発表。PORTAL同様に動きのあるモデルが登場するが、世界観の再現・認知を目指したクオリティには達していない。

ARとファッションを組み合わせた事例は、世界でいくつか登場し始めていますがどれもまだ実験的な段階に過ぎません。

PORTALも非常にチャレンジ要素が多数ありましたが、他社ファッションARサービスと比較して、「登場するモデル/コーデ数」「リアルな買い物体験との繋がり」「演出完成度」などの面において、世界最高レベルのものが作れたと自負しています。

ARは都市出店戦略の最適なソリューション

ショールーミング化を支えるにはそれなりの店舗規模が必要となる。1つのブランドがリッチな店舗体験を提供するには建設や内装コストがかかるもの。

しかしARショールーミングであれば体験価値を損ねずにバーチャル空間に店舗空間を持てるようになる。加えて、先述した梶谷氏のコメントにあったように、店舗側にメリットが発生する購買導線をしっかりと引いているのが大手競合他社との差別化ポイントと言えよう。単なるコーデ参照や、試着サービスなどの域には留まらない設計がなされている。

ARコンテンツの制作費だけで店舗面積の拡大を図ることができる。坪単価に依らない商品展示スペースの確保が可能となるだろう。かつ、顧客はバーチャル空間を含めた広大な売り場の中でリッチな商品ブランド体験を通じて、その場で購買が発生する。

MESONが提供する価値はまさにこうした小売体験と店舗出店における不動産価格問題のソリューションの2点だと言える。この点、PORTALは店舗事業者に向けて、ARが小売 × 不動産市場を見据えた最適なソリューションであることを指し示していると言えよう。

銀座や青山、渋谷などの都市部へ店舗出店するには多大なコストが発生する。店舗面積も限られてしまい、商品数を多くして隙間なく並べてしまえばブランド世界観を損ねる危険性も。

そこでAR空間に店舗空間を延長する考えを取り入れば、「店舗面積確保」と「新たな商品コーデ発見」「ブランド世界観」「店員とのコミュニケーション」の全てを満足させることができる。

今後市場原理が働き、3D撮影機材が出回ればコンテンツ制作コストも下がるはず。そうなればなおさら圧倒的な出店コストダウンに繋がる考えというわけだ。

このようにPORTALは「購買体験」と「都市部への出店費用対効果」を最大化する高いメリットを持つ。小売不動産系スタートアップのトレンドにも乗っている戦略的なサービスとも言える。

「ライブ感」がARファッションシューの鍵に

一点気になるのはファッションショーの本質である「ライブ感」を再現しきれるのかどうか。

従来のファッションショーは広大なスペースを必要としたが、PORTALではポスター1枚と顧客がコンテンツを眺められる数坪のスペースさえあれば十分。

だが、決定的に欠けてしまうのが「ライブ感」。たとえば東京ガールズコレクションなどのショーでは、好みのモデルが着けている洋服が即座に売れていく。モデルへの熱い憧れが販売に直結する導線ができているからだ。

静かな店内でガールズコレクションのような雰囲気作りや人数を集めるのは無理があるが、仮にPORTALの優れた小売戦略に基づいてライブ感を演出できれば、AR時代の本格ファッションショーを展開できるとも想像できる。この点を踏まえ、将来的なPORTALの展開などの長期戦略を聞いた。

今後のサービス発展の方向性としては2つ挙げられます。「没入感・ライブ感の進化」と「複数ブランドを巻き込んだプラットフォーム化」を考えています。

前者に関してはメガネ型デバイス「Magic Leap」や「Nreal」などが複数出てきていることを踏まえ、こうした最先端デバイスを用いたより没入感の高い空間演出を考えています。

また、モデルを3D化する際に動きの機微までキャプチャすることで本当に目の前でランウェイが展開されてるかのようなライブ感を引き続き提供していきます。

後者に関しては、PORTALをプラットフォーム化して複数のブランド毎に広く展開。ブランドが季節ごとに従来のルックブックを作る代わりにPORTALを更新して顧客に実際に体験を提供していく世界を作っていきたいと考えています。

今後1-2年、AR/MR市場では新たな端末が次々と投入される予定だ。こういったデバイスがどの程度利用価値があるのかは未だわからない。しかし、デバイス数が増えれば低価格化も早まる。スマートフォン市場も同様の流れだったかと感じる。

こうした未来を見据えれば、たとえば有名モデルが7PMに渋谷新パルコ前の巨大ARポスター越しのPORTALに登場。若い女性たちが街中でデバイス越しにモデルが着る洋服を飛ぶように買っていくなどの現象が起きるかも知れない。

場所にとらわれず、しかし巨大なステージで起きるようなライブ感を失わせない体験が世界中に広がる可能性を秘めている。この需要をプラットフォーマーとして汲み取るのがPORTALというわけだ。

昨今の小売市場のトレンドを理解しつつ、次なる市場を見据えたMESONの展開に注目したい。

Image Credit: Alexis LamsterRachelH_, Zengame

情報開示:筆者はMESONのメンバーとしてPORTALプロジェクトの一部に参画していました

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