韓国スタートアップの新潮流

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(訳注:今回のニュースの舞台となる「ソウル・スペース」は、韓国・ソウルのインキュベータ、コー・ワーキングスペース、韓国のスタートアップ・シーンを伝えるメディアが一つになった組織。ソウルメトロで、新沙(シンサ)、狎鴎亭(アプクジョン)、鶴洞(ハクトン)のいずれの駅からも、徒歩約10分でたどり着ける。ちなみに、スタートアップ・デイティングが毎週末届けるメルマガには、ソウル・スペースが伝える、韓国のスタートアップに関するニュースも含む。)

【原文】

「10年前は、街中の皆がスタートアップをしていたよ」と、ソウル・スペースのショーン・パクが語った。2000年代前半のITバブル崩壊後、世界の例にもれず、多くの韓国スタートアップが市場から姿を消した。しかし今日、韓国のスタートアップは、新たな復活を遂げつつある。

最近、私はソウルのスタートアップ・エコシステムを調査すべく現地に飛んだ。滞在は数日だったが、未成熟ではあるものの確かなビジネスの形が形成されつつあるのを感じた。

韓国の起業環境や、その今後の展望についての理解を深めるため、現地の方々から話を聞くことができた。


財閥の支配と、スタートアップにリスクの高い韓国


アジア経済をリードしてきた国のひとつ、韓国は1960年代以降、最も勢いとスピードのある経済成長を遂げてきた。1997年の経済危機に見舞われるも、不死鳥のごとく再生し、名目GDPで世界ランキング15位という地位を獲得している。

近隣の台湾同様、爆発的成長の理由は工業生産力の向上で、なかでも造船業の生産力は世界トップレベルにある。造船業がヒュンダイ(現代)やデウ(大宇)といった、自動車製造業で知名度の高い財閥に牽引されていることは興味深い。しかし、圧倒的に有名な韓国の国際企業といえば、サムスン(三星)である。

サムスンは販売高では世界一を誇る技術企業であり、造船業では世界第二の企業だ。サムスンは驚くべきことに韓国の総輸出量の20%を占めている。これらの大財閥の力が印象的だが、同時に韓国の人材の多くが、財閥企業に勤めているということになる。伝統的なアジアのメンタリティに沿って、若い人たちは親の望みを満たすべく、猛勉強し、財閥企業で得られる特権と安定を目指すことを求められる。5歳の子供が宿題を終えられず、夜中の2時まで泣いていた、という話を聞いたことがある。

さらに、長年、韓国社会を見てきたマリオ・ガルシアは次のように考えている。「この教育システムでは創造性とリスクに立ち向かう力はつかない。多くの学生はただ座って話を聞き、テストのためにメモを取っていればいいと思っている。」 サムスンやLGのようなビッグネームを履歴書に書けるようになれ、サラリーマンになれ、というプレッシャーは非常に強い。韓国ではこのような社会的・文化的プレッシャーが、起業家精神を阻害してきた。

 


過小評価される起業家


一般的に、学生は、人と違った考えを検討したり、現状改革に挑戦するようには仕向けられていない。「自立心のある学生が、たまに自分の教授に反発することはある。起業家精神を持っている人が、適切な指導を受けるというのは実際にはかなり難しい。」とガルシアは言う。

社会の中で年上の人に敬意を払うことが浸透している国では、若く輝いた人達が、年上や権威のある人に対して、挑戦することは難しい。

スタートアップ・エコシステムの、もう一つの重要な要素は投資家である。ガルシアは指摘した。「投資家、中でも、年配の投資家が非製造系のスタートアップを理解するのは難しい。韓国は半世紀足らずで農業型社会から技術型社会へ移行したので、国内での世代間格差が大きい。年配の投資家が柔軟な考えを持っていても、彼らが受けた教育から、今日の教育はすっかり変わってしまっている。」 投資や支援に関する、このような不足が、スタートアップの成長を阻害しており、多くの人をアメリカに目を向けさせてしまっている。

 


物事は変わり始めている - 「リトル・ガイズ(小さな開発者たち)」の台頭


ソウル・スペースのジェネラル・マネージャーで、スタートアップを育てるリチャード・ミン氏によれば、韓国は中国と同じガラパゴスの状態にあり、巨大な国際企業は、失われゆく韓国の均一的な社会風潮が受け入れられないのだそうだ。韓国は世界で最も通信が発達した国であるが(全人口のインターネットユーザが81%、世界一の数字)、それでも、「誰もこの国で起こっていることをわかっていない。一度は進出したノキアも韓国市場から退散し、ウォルマートは韓国の地元企業に買収され、ヤフーやグーグルはネイバーに負けて、みんなにケツを蹴られている状態だった。」とミン氏は言う。

そして、iPhone が入ってきた。「まるで「トロイの木馬」みたいだった。突然、韓国の規模の小さな開発会社が海外市場にアクセスできるようになったんだ。アップルの洞察力のよかったのは、規模の小さな開発会社に、新しい挑戦をさせるきっかけを作ったことだ。」

 


必要に迫られて起業する人々


エコノミスト紙の記事では、韓国の346,000人の学校卒業生が現在仕事に就いておらず、これは2年前の268,000人から上昇している。彼らのうち、必要に迫られて起業家になった人達もいる。約3万人の若い韓国人は、自分の会社を立ち上げたいと言っている。また、韓国政府によれば、韓国内で「一人だけのクリエイティブ企業」は昨年より15%増えて235,000社となった。

 


政府は韓国のザッカーバーグを求めているが…助けが必要


韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は、韓国にもマーク・ザッカーバーグが必要だと訴えた。起業精神を盛り上げ、リスクを許容する社会を作るために、税免除などリソースやインセンティブを提供する、政府主導のインキュベータやファンドを立ち上げた。ソウル市は「若者CEO 1,000人プロジェクト」を立ち上げ、賃料タダのオフィススペースと、毎月最高100万ウォン(約74,000円)の支援金を提供してくれる。

「しかし、問題は彼らのアプローチがアカデミックすぎるんだ。起業家が欲しているのは、もっと本質的なこと。会社を成長させるにはどうすればよいか、ということなんだ。」

「政府は、インキュベーション・プログラムに申し込んだスタートアップが、そのプログラムの修了後に受けられる、7ヶ月のプログラムも準備している。スタートアップなら、7ヶ月もあれば、プロダクトを作るために使うだろう。政府は信頼を得ようと、スタートアップ支援の決定には正しい一歩を踏み出した。その考え方は正しいが、方法が正しいとは言えない。」とミン氏は言う。

政府は自らがスタートアップ支援のノウハウを持ち合わせていないことに気づき、起業家支援の経験を持つソウル・スペースのような組織と活動するように、方向転換し始めた。

 


韓国市場に特化し過ぎる傾向


ミン氏は、自らがアメリカで立ち上げたスタートアップの経験を通じて、韓国人は優秀で、アメリカの優秀な人々とも競い合えることを知っている。ただ、彼が思う問題は、韓国人が考えを自ら制限してしまうことだ。「韓国だけに特化しすぎて、物事を小さく考え過ぎる。韓国国外に打って出る人は、必ず規模との戦いが必要になる。そして、世界に出ようとする韓国人にとっては、まずは言葉の違いが壁になるだろう。」

 


新しい「後ろ盾」の必要性


中国もそうだが、韓国は昔から、証明済のビジネスモデルを採用し国内に導入する、というベンチマークモデルをとってきた国だ。次第に人々はこのモデルから卒業し、自ら新しいことに挑戦し始めている。

「財閥は、自社のポートフォリオに加えたくて、スタートアップを買収しようとするなど、少々自分勝手なところがある。しかし、彼らが保守的でなくなり、自分勝手でなくなり、同じ土俵の上に載ることができたら、スタートアップを育てることができるんだ。若い起業家が自らのアイデアを世界に出す上で、財閥が適切なバックアップをしてくれれば、彼らはスタートアップのいい後ろ盾になってくれると思う。だって、スタートアップが普通にやるなら、インキュベータとか、アクセラレータとか、投資家とかの協力なサポートが必要になるからね」

 


スタートアップ新潮流へ、いい嵐が吹いている


財閥が過度に幅を利かせる社会には多くの問題があるし、政府の一部にはスタートアップや起業家を育てるための理解が欠落しているが、韓国がスタートアップ革命に向けて正しい道を歩み始めていることは明らかだ。エコシステムの要素が形を成し始め、「ソウル・スペース」のような革新的な組織や「ベンチャースクエア(벤처스퀘어)」のようなテックブログの力によって、韓国はより面白い市場になりそうである。

【via Technode 】 @technodechina

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