オープンエイトがデザイン制作のTHE CLIPを子会社化ーー若手のプロが考える新しいキャリア形成とは

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動画広告事業を手がけるオープンエイトは2月17日、デザイン制作会社のTHE CLIPの発行済み株式を全て取得して子会社化すると発表する。1月21日付の取締役会にて決定したもので、2016年4月から連結子会社となる予定。株式取得にかかった費用等の詳細は非公開。

THE CLIPの創業は2013年12月。フリーのデザイナーで代表取締役の山本健人氏と、エンジニアで取締役の石橋尚武氏の2人が創業し、大手企業の新規事業立ち上げや、スタートアップ各社のデザインコンセプトを手がけてきた。(情報開示:THE BRIDGEのロゴは彼らの手によるもの)

<参考記事>

今後、山本氏と石橋氏はオープンエイトにおけるデザインとエンジニアリングを俯瞰しつつ、新たな人材確保を含めて同社の事業推進に携わることになる。

国内スタートアップによるAcqui-hiring(人材買収)のかたち

スマホ・ネイティブ動画広告の文脈と@cosmeをはじめとする豊富な女性系ネットメディアのリーチ力を背景に、創業わずか4カ月で月商4000万円に到達した大人なスタートアップ、オープンエイトが次に手がけたのは買収だった。

同社がTBSグループをはじめとするファンドから約8億円の資金調達を発表したのが昨年10月。話はその直後から始まっていたようだ。オープンエイト代表取締役の高松雄康氏は買収の交渉をこのように語る。

「元々、(執行役員の)針北(陽平氏)が山本さんと友人だったことがきっかけですね。事業の方は順調ですし、今後重要になってくるのは人材。プロ集団が必要だった。こういう方々って中途採用ではなかなかお会いできないじゃないですか。お話自体は2カ月から3カ月ほどで決まりました」(高松氏)。

北米を中心に広がるスタートアップ・シーンでは、サービスではなく人材にフォーカスした企業買収という風習みたいなものがある。いわゆる「Acqui-hiring」と言われるもので、今回も少し形は違うが目的は似たようなものと言えるだろう。

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THE CLIPの制作事例

この方法はスタートアップという厳しい環境下に置かれた、経営経験のある人材を獲得できる一方で、双方の文化が合わないとなかなかうまくいかない。下火になって買われた経営陣が買収先で離散する姿は国内でも数例見かけている。

ただ、今回はそういった懸念点はなさそうだ。何よりもTHE CLIP自体が成長期で、さらに身軽な状態にあったのはひとつポイントになるかもしれない。

「元々2人ともフリーランスで始めたんですが、法人化してからは取引先の幅も広がり、特に事業立ち上げの案件が多く、2期目には売上も上がって黒字化もしていました。それでさて、ここからどうしようかなと思ってたんです」(山本氏)。

人員を拡大して受託ビジネスを続ける選択肢ももちろんあった。しかも2人はまだ30代周辺と年齢的にもまだまだこれから無理がきく年代だ。私は単純に仕事として受ける道もあったのでは?と尋ねると、山本氏はこんな言葉を返してくれた。

「単純にそういうことがあっても面白いんじゃないかなって」。

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山本氏や石橋氏との話で感じたのは、デザイナーやエンジニアというプロフェッショナルの新しいキャリア・イメージだ。会社に所属して未来永劫、同じ職に携われる人材というのは稀有だろう。生き残るためには自身もある種の経営課題に向き合わなければならない。

「そういう(経営課題に向き合う)デザイナーが増えてもいいじゃないですか。(買収後も)会社を残すってことでそれが伝わるんじゃないかなって。一種のイグジットみたいなものです」(山本氏)。

一方で取締役会にかける側の高松氏はなかなか難儀したようだ。当然の考え方ではあるが、彼らに仕事を依頼したいのであれば単純に発注すればいいからだ。

「当然役員決議ですから大変でしたよ。発注すればいいじゃんって。そうじゃないっていうのを理解してもらうための時間が必要でしたし、彼ら(山本氏と石橋氏)にもそういう過程があることを分かってもらう時間も必要でした」(高松氏)。

今、日本ではスタートアップを中心に新しいキャリアイメージや働き方を考える人たち、雰囲気が広がっているように思う。クラウドソーシングしかり、スタートアップしかり、こういう買収しかり、である。

小さくプロフェッショナルとして仕事を続けながら、このような大きなチャンスがあれば参加して、またその時代が終われば次に進む。

オープンエイトを創業している高松氏だって、元はと言えばアイスタイルの経営陣として一時代を仲間と共に築いてきた人物なのだ。同じ仕事、同じ成長が未来永劫続くなんてことはありえない。

若い力がスタートアップする道は、別に自分でリスクマネーを抱えてアプリを作ることだけではない。そういう意味で、今回の買収は金額のような物差しではなく、新しい働き方、仕事のあり方として眺めてみると大変示唆に富んだ事例に見えてくるのではないだろうか。

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