ARR1,000億円「Snowflake」CEOの経営論──すべてを異次元成長へ導くプロ経営者・Frank Slootmanに聞く

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本稿はベンチャーキャピタル、ALL STAR SAAS FUNDが運営するサイトに掲載された記事からの一部を転載したもの。全文はこちらから読める。同社のメルマガ「ALL STAR SAAS NEWSLETTER」出資先のスタートアップ転職に関するキャリア相談も受付中

1社目のData Domainは数千億円規模でイグジット。2社目のServiceNowは10兆円の評価。そして今、CEOを務めるSnowflakeが圧倒的な成長率を実現──Frank SlootmanさんがCEOとして参画する事業は、いずれも「異次元」と呼べる成長を見せています。彼は、シリコンバレーにおけるプロ経営者の筆頭候補、と言っても過言ではないでしょう。

Frankさんは現在、Snowflakeの会長と最高経営責任者(CEO)を兼務しています。これまでもエンタープライズソフトウェア業界で25年以上にわたって、起業家やエグゼクティブとして活躍してきました。

2022年11月17日に開催した「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2022」に、Frankさんが登壇。ALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナーである前田ヒロが、その経営スタイルを直接インタビューしました。

(※この記事は講演内容をテキスト化し、抜粋・再構成したものです)

Snowflakeによって、データ分析は「新しい時代を迎えた」

前田:まずは、Snowflakeについて教えてください。手掛けていらっしゃる「データクラウド」とはどんなサービスなのか。お客さまにとって、どんなメリットがあるのか。ぜひご紹介いただけますか。

Frank:Snowflakeは、Oracleに長年在籍していた2人の技術者が創業した会社です。彼らは、データベースにおける最先端技術の中心にいましたが、プラットフォームがマシンとクラスター中心の状態からクラウドコンピューティングへ変化するにつれて、データベースのアーキテクチャについても徹底的に見直すべきだと考えました。

このクラウドプラットフォームによる再考で、パフォーマンス、経済合理性、ビジネスモデルにおいて驚くべきブレークスルーを起こしたのです。それまでのデータベーステクノロジーは、とても高価で、使い方も非常に難しく、最大規模の企業や機関だけが使えるものでした。

しかし、Snowflakeは使った分の利用料しか発生しない仕組みを採用しました。データベースに関するテクノロジーのハードルを大幅に下げることに成功し、世界中の最大規模の企業のみならず、小規模企業でも扱えるようになったわけです。

それだけでなく、イノベーションという点ではいくつかの重要なことを実現しました。たとえば、コンピューティングとストレージの関係を完全に断ち切り、それぞれ購入できるようになったのです。Snowflakeを使っていても、コンピューティングやデータベースを使っていない場合は、クラウドストレージの最低料金だけを支払えばよくなりました。以前までは不可能だったことです。

あとは、ワークロードのプロビジョニングを希望通りに扱えるようにしました。それぞれのデータのワークロードを、個別にプロビジョニングすることもできるのです。これにより、物事を非常に高速に実行したり、ニーズによっては低速で実行したりすることも可能です。

つまり、コンピューティングの時代がはじまってからずっと存在していた障害を打ち破ったのです。このような大規模な分析プロセスは約24時間、または週単位、月単位、四半期単位で実行されていたものですが、それでも完了させられなかったり、何日もかけて実行されているのが実態でした。でも、Snowflakeなら桁違いのパフォーマンスの変化を目の当たりにすることができます。20分かかっていたものが、20秒で動くようになるのですから。

もう1つ、同じデータに対して同時かつ無制限にワークロードを実行できるようになりました。こういった並行処理も以前まで不可能だったんです。膨大な数のバックログが発生し、デマンドが高くなってニーズに合ったプロセスを実行できませんから。処理に膨大な時間がかかってしまいますし、デマンドに対応するための容量が十分に足りていなかったのでね。

こうした制約が、完全になくなりました。分析の世界は、まさに一変しました。これらの変化は漸進的なものではなく、完全に「新しい時代を迎えた」と言っていいほど、大きな一歩となる機能です。

物事に制限をかけたり、限界を見たりするのは、テクノロジーではないのです。むしろ、私たちの想像力と予算なのだと思います。予算はもちろん大切ですが、テクノロジーがあなたを妨げることはないんです。Snowflakeは、すべての制限を取り払うための巨大なイノベーションだと感じます。それらがすべてクラウドで行なわれているわけですからね。

数あるCEOオファーから、Snowflakeを選んだ決め手は?

前田:Frankさんはこれまで、複数の企業でCEOとして就任し、素晴らしい実績を残されてきました。Data Domain、ServiceNow、そしてSnowflake。きっと多くの企業からCEOのオファーがあったのではないかと思います。Snowflakeを選ばれた決め手は何でしたか?

Frank:Data Domainはストレージの会社で、ServiceNowはアプリケーションレベルの会社です。Snowflakeは、ソフトウェアイネーブルメントとインフラストラクチャーの中間に位置しています。

私は、コンピューティングとテックの世界で自分のキャリアをスタートさせましたが、1980年代後半は「データ分析」がはじまったばかりだったのです。メインフレームのトランザクションシステムを使って、トランザクションレコードからデータ分析のような処理を実行していました。その頃のことはよく覚えていますよ。

何年か経って少しは改善されましたが、あの頃は単純なことですら実行するのがとても難しかった。長い間、何度も、何度も何度も、限界に直面してきました。そんな中、Snowflakeが現れたんです。そして突然、すべての障害や制限、限界が消えたのです。

クラウドコンピューティングとデータベース・アーキテクチャを組み合わせてスケールさせることを実現した。多くの人が、マシンアーキテクチャをクラウドに持ち込んで、マシン中心のアーキテクチャをホストしようとしますが、それでは何も解決できないわけです。でも、ホストするプラットフォームがクラウドに変わっただけで、大きなチャンスの扉が開かれた。

今までは、前日のニュースを24時間以内に伝えることもチャレンジングでした。ダッシュボードを更新し、新しいデータを提供したいだけなのに難しい。けれど、Snowflakeが現れた途端に、クラウド上でデータを学習できるようになり、データセット間の関連性を認識して予測までできるようになったんです。私たちは、これを「データをモビライズする」と呼んでいます。

それまで、ブロッキングやタックリングのような最も基本的なタスクさえ実行できなかったのですから、夢にも思わなかったような秘めていた価値を解き放ったのです。私たちは今、急速に前進していて、とてもエキサイティングな状況にあります。

特にヘルスケア領域は、予測しやすい分野になってきていますね。人々が特定の病気のリスクにさらされるタイミングを膨大な量のデータに基づいて、予測できるようにもなりました。医学は、人々が病気になるのを待って症状を治療するよりも、予測して事前に対処する流れに移行しています。これも、すべてがデータ分析によって実現されるのです。金融業界でも、保険業界でも、メディア業界でも、信じられないようなイノベーションが起きています。まさに革命と言えるでしょう。

そして、誰もが気付きはじめたのです。企業は、もはや仲介業者を通じた販売はせず、直販モデルに移行しているということにね。私たちは、プロダクトやサービスを利用しているお客さまと直接的な関係を築いています。これはデータを通して繋がっているからこそ実現できる。何千、何万、何百万人と、個人的な関係を持つことはできませんからね。データは、現実を分析してオペレーションを推進し、意思決定するための手段となっているのです。

私がSnowflakeを選んだ理由は、これまでできなかった単純なこと、少し前までは想像もつかなかったことを、実現可能にした技術を持っていたからです。とてもエキサイティングな時代ですよ。私のキャリアは、完全に一周したようなものです。私自身はキャリアの後半に差し掛かっていると感じますが、Snowflakeのソフトウェアとテクノロジーは並外れた力を持っていると思います。

SnowflakeのCEOになって「最初の100日間」は何をしたか

前田:Frankさんが、SnowflakeのCEOになられてからの「最初の100日間」について教えてください。先ほどのお話から、プロダクトは非常に良くできているのだと改めて感じました。何から着手されたのでしょうか?

Frank:まずは観察すること。これは本当に重要です。状況を観察して、判断するんです。

私は、プレイブックもアルゴリズムも持っていません。また、他の会社で実践したことを

繰り返すこともしません。どんな状況に遭遇するかで、その都度、判断をしています。自分の役割をどう定義するのか、何をするのか、何を優先するのか。それらは完全にどんな状況に遭遇するかによって変わってきます。

でも、いくつかのテーマはあります。たとえば、何が機能していて、何が機能していないのかは、新しい状況に置かれたとき論理的に考えれば判断ができます。機能していることは、そのままにしておきます。機能してないことは、拡大鏡で見て、何が起きているのかを理解しようとします。

最初の90日間、または30日間のうちにやることは、人員の整理です。「間違った人をバスから降ろして、正しい人をバスに乗せる」というアメリカでよく使われるフレーズがあります。でも、ほとんどの人はそうしません。誰もいなくなることを恐れるから、新しい人を先に見つけようとするんです。私の場合は、適していないと確信したらすぐにアクションをとります。機能していないことに対しては、すぐにでも状況を変えるべきだと考えているからです。

その後に、重要なポジションなどを変えていきます。組織のストラクチャーも変更します。たとえば、カスタマーサポートはエンジニアチームの所属にします。カスタマーサポートの受け手になるのはエンジニアチームですからね。どこの会社でもそうしてきました。論理的な方法なのですが、多くの企業ではそうしないですよね。あるいは、プロフェッショナルサービスはセールスチームに所属します。これも多くの場合、そうはしませんよね。

BRIDGE編集部註:この後の『‍クリーンでメリハリのある組織をつくれ』の続きはこちらから

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