タイミー異例の「130億円調達」支えた源泉は「現場」/カムスタ!キーマンのワケ:八木智昭さん

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載。毎月第2水曜日に開催される Monthly Pitch へのピッチ登壇をご希望の起業家の方、オーディエンス参加をご希望の起業家の方の応募はこちらから

カムスタ!キーマンのワケは、スタートアップの成長を支えるキーマンをご紹介いたします。創業者に注目が集まりがちなスタートアップもチーム戦です。その成長のウラにはかならず「鍵」を握るキーマンが存在しています。そんなスタートアップの縁の下の力持ちをピックアップいたします。

初回は人々のスキマ時間と労働力不足の社会課題を見事にテクノロジーでマッチさせた「タイミー」取締役CFO、八木智昭さんです。9月に発表した130億円の融資枠獲得は、これまでのスタートアップで常識とされてきたエクイティ(株式)による資金調達手法を広げる話題として大きな注目を浴びています。

ご自身も三菱UFJ銀行という「銀行」出身でありながら、三菱UFJモルガンスタンレー証券などでエクイティを手掛け、その後、事業会社で現場に触れるマルチな経験をされてきています。スタートアップへの経営陣の転身といえば、劇的なストーリーを期待してしまいますが、八木さんは至って「普通の転職」でタイミーを選ばれました。彼はなぜタイミーを選び、どのようにして成長の鍵を握ることになったのでしょうか?

工事現場みたいなオフィス

はじめまして、今日はお話を伺うのを楽しみにしてきました。ところで八木さんって他のインタビューでも回答されてましたが最初はタイミーに入るつもりなかったんですよね?

八木:そうなんです。エージェントの方からぜひとタイミー代表の小川をご紹介いただいて会うことになったんです。最初はオンラインだったんですが、その時からミッションやビジョンについて熱弁してくれて。彼の良いところは、ミッションに対する情熱やビジョンに向かってのコミットメントというか、こういう世界を作りたいという思いに自信を持っているところなんですよね。

自分がやりたいこととか、作りたい世界とか、大人から見ると馬鹿げているように思えたり、子供や学生が何かノリでやっているような、現実は違うんだよと思われるようなことも、彼なりに本当に疑いなく、ピュアに自信を持って言ってくれて。ああ、タイミーってこんな志を持ってる会社なんだ、というのが最初の印象でした。

実際に会ってみていかがでしたか

八木:当時、池袋にあったオフィスに行ったんですけど、300坪くらいある3分の1くらいに荷物が置かれていて、残りの3分の2がガランとしている状態でした。何かゴミ箱みたいなのだけ真ん中にポツンと置いてあって『ヤバいなこの会社』と思いました(笑。

描いてる未来とか世界っていうのは壮大なので、そのギャップがすごかったですね。小川も含めて、タイミーという会社が伸びる可能性とかインフラになるなという期待で入社を決めましたが、そこの世界観と自分が今いるオフィスとのギャップがあまりにも大きくて(笑。

でも入社したんですよね・・・

八木:普通だったらさすがにやめようって思うじゃないですか。会社を見たらオフィスがもうなんか、工事現場みたいな感じで、何もなくて。応接室もなかったりして、普通なら辞めると思いますよね。理解し難いかもしれませんが、今もう入社しているということは、やはりその間に何かがあったということなんでしょうね。

私も以前、小川さんにお会いしたことがあるんですが、とても自信を持って堂々と話をされるのが印象に残ってます。惹きつけるものがあるんですよね

八木:結構間違っていることも多いんですけど、自信たっぷりに話しますね。そこが彼の良いところで、何かを自分で全部一人でできるというよりは、人を引き寄せる力が強いんですよ。経営陣を引き寄せて自分の仲間に加えたり、いわゆるワンピースでいうところの「海賊王になる!」というビジョンを共有して、船で一緒に旅をする仲間をどんどん引き寄せていく。

ルフィがこうやりたいんだという思いに対する共感の部分で集まっている。ミッションドリブンなアプローチによって築かれたというよりも、本当に彼自信が考えていることをそのまま素で表現しているということに、周りが影響を受けているのだと思います。

ただ、そうは言っても結構大手からの転身ですから不安がゼロかというと・・・

若い会社でかつ業歴もまだ2年だったので、もちろん大丈夫かなという不安もありましたよ。当時は資金不足とコロナ禍で飲食店の売り上げが下がっていたという状況もありましたし。業績も下降線をたどっていて、資金繰りが難しい状況で、入社しても相当な困難に立ち向かうことになるだろうなと。

普通は逃げますよね

八木:躊躇がなかったといえば嘘になりますけど、小川をはじめ若いメンバーたちも、何か新しいことを成し遂げたいという情熱があったんですよね。あと、お客さんやユーザーに本当に真摯に向き合っていて、彼らが喜ぶことを大切にしていたんです。自分たちのサービスがお客さんの笑顔を生み出しているということに、みんなで喜ぶことができるカルチャーや姿勢があって。

ちょうど私が入ったときもコロナ禍で、離職や辞めさせられてしまった人がたくさんいました。そういった方々がタイミーで働くことによって、物流の仕事や他の仕事で生活費を稼げたり、普通に仕事を続けられたりしたというお声を聞いたんです。本当にいいサービスだなと。ハードシングスなり、ちょっとやばい会社だなと思いつつも、社会のためになる、お客さんのためになっていることを実感できたんです。

転職で役に立ったもの

社会的意義もある、チームもいい、将来性も見込める。リスクはあるかもしれないけど、一回の人生なんだからとスタートアップに飛び込む人が増えていると思うんですが、これは持っておいた方がいい、役に立ったというスキルとか考え方とかって何かありましたか

八木:金融出身なのでその観点で言うと、金融マンはアドバイザーの役割が大きいんですよね。銀行も証券もいわゆるパターンを10個出して、この10個のメリット・デメリットをしっかりロジック立てて説明をして、あとは決めてくださいっていう感じです。ところが、このアドバイザーの感覚で会社に入っちゃうと、知識がすごく豊富であれもこれもできますが『あとは社長が決めてください』ということになってしまいがちなんです。

いや、それってあなたの意見は何なんですかって話ですよね。

金融出身から事業会社に入るときは、まさに自分が何をしたいのか、自分が社長だったらどう行動し、どういう決断をするのか、それをしっかりコミットメントすることが大切だと思います。それがないと、結局はその社長のカバン持ちじゃないですけど、社長の下でイエスマンのようになってしまうのかなと思っています。

私は入社当初も結構、小川に『僕が代表だったらこうしたいし、こういう決断をする』と言っていました。今も、小川が代表だからということは一切関係なく、小川の言っていることが間違っていたら普通に真正面から否定しますし、自分ならこうすべきだと思っていることを、結構フラットに伝えたりします。そういう覚悟が事業会社に入るときには必要かなと思います。

八木さんってCFOという役割ですが、働く上での信条みたいなものって何かありますか?

八木:私はやっぱり一番大切なのは現場なんですよ。現場が好きで、タイミーに入ってバイトもしてますし、結局現場を見ないと事業や経営について話すことはできないと思っています。なぜかというと、現場にはお客さんがいるからです。

ですので、実際に現場にいて、現場でどんな問題が発生しているのか、お客さんが何を考えているのかについて常に興味を持って取材をしたり、観察したりといった活動をしています。現場を見ることが問題解決の一番の方法だと考えているので、それが結構役に立っています。

現場大切ですよね・・・。経営と執行を分離すべきというのは理解しつつ、現場を知ることのメリットってどこにあると思いますか

八木:実際に自分自身が経験し理解していると、同じ言葉でもその意味や情熱が全然違ってくるんですよ。なので商談に同席したり営業の勉強会にも参加したりしてます。これはお客様の立場や求人企業様がどのように考えているのか、どのような視点でタイミーを選んでいただいているのかを知りたいからです。売上に貢献することももちろんですが、やはり生の声をバックオフィスやファイナンスだけでなく、さまざまな部門に反映させることができるんですよね。

逆にいえば、現場大好きでさらに金融知識と経験がある、という見方もできるわけですけど、そこが役に立った部分ってどこにありましたか

八木:数字に対する苦手意識がないことですかね。タイミーが過去数年で急成長していて、先日発表した通り、多額の資金調達を短い期間でやってきました。そしてそれに伴う投資をしていく中、財務面の判断が非常に重要になったのは事実です。

この投資が売上にどのように影響するか、良い投資とは何か、他に良い投資先がないか、投資戦略については本当に詳細に検討しています。そういった面で、ファイナンスや数字の理解は過去の経験があったからこそできることかなと思っています。また、マーケティングや人員増強などについてもそうですが、成長に向けた投資とは何か、その投資先や手法までセットで、全体的な視点で考えることができるという点で非常に役に立っています。

若さからの脱却

立ち上げの頃のタイミーはやはり小川さんの若さと力強さで牽引したイメージが強かったですが、八木さんが入ることで、そこにより解像度の高いロジックが組み込まれたんじゃないでしょうか

八木:入社した当初は小川筆頭に、みんなで何かやろう、スピード重視でまず頑張ろうという雰囲気がありました。確かに大切ですが、成長の段階で壁にぶつかることもあります。その時に冷静になって、数字をしっかり見て、本当にこの方向に進むべきかどうかを見つめ直す必要がありました。

まずはチャレンジ。そしてその過程で、何がうまくいかなかったのかを振り返り、ロジカルに基盤を築くことが重要です。そういう意味で、経営において見るべき数字や、経営会議での意思決定プロセスについてもフォーマット化を続けました。

特にテレビCMは大規模な費用がかかりますので本当にやるのか、どのくらいやるのか、短期的ではなく中長期的に収益を回収できるのか、それら含めて検討しました。それまでは『これだけ調達できたんだから』という判断もあったようですが、そこから中長期的な視点で『本当に回るのかどうか』という投資判断の軸を確立していった、という感じですね。

今後の成長計画において、新たにこの船に乗る仲間たちを見つける必要があると思います。どのような人が今後のキーパーソンになっていくと考えていますか?

八木:今後入社する人々が1〜2年で退職するというよりも、5年または10年といった長期間、会社にコミットして成長に貢献できる人ですかね。仮に5年だとすると、5年先までの成長を見越して責任を持って行動できる人です。

現時点でのスキルだけでなく、将来の大きな成長にも対応できる能力を持つことが必要になってくると思っています。とにかくタイミーは成長スピードが非常に速いので、1年ぐらいだったら回りそうだなと思っている人だと、それよりも早く1年弱くらいで、予想を通り過ぎてしまったということになってしまう。

ジェットコースターみたい(笑

八木:でも、このスピード感が止まってしまうと、タイミーが掲げているビジョンやミッションの実現が遅れ、世の中の時間が豊かにならないし、かつ人手不足の問題も解決できなくなってしまいます。そのため、これらの要因を逆算して早めに行動することが必要だと思ってますよ。

タイミーを利用している業種も増えているから、これまでのようなテック領域だけでなく、各業界からの経験者も必要になりますよね

八木:そうですね、既存の物流や飲食、小売りの業種以外にも、ホテル、旅館、レンタカー、クリーニングなど、さまざまな業界でタイミーが人手不足の解消に役立つようになってきました。ただ、各業界にはそれぞれ異なる課題やハードルが存在し、それを克服して浸透させることは簡単な仕事ではないです。それぞれの業界の理解が不可欠ですし、例えば飲食店をやったことない人があそこの場所でこういう人が欲しいみたいなことを言えるかといったらなかなか難しい。その実体験を持った人が、今度はリソース不足という問題を解決するためにこの場所に入ってきてくれると嬉しいですね。

最後に、タイミーって現在の800人以上の規模に至るまで、八木さんのような人たちが集まってきたわけですが、参加されているみなさんってカルチャーというか、どういう人たちなんですかね

八木:その意味で言うと採用の基準にもなっているんですが『いいやつ』なんです。いいやつって誰だろうって話なんですけど、本当にいいやつが多いんですよ(笑。何かっていうのを私の中でもうちょっと言語化すると、自分を主語にしない人ですかね。自分のためにとかじゃなく、誰かチームのメンバーが困ってたら、無心で自分のことをやりつつも、助けるんですよね。

自分の目標の達成率が150いけそうだったけど140になったとしても、チーム全体で達成できたら、めちゃくちゃ喜ぶことができる。もしくは他の人がめちゃくちゃできなくて、その人が成長してできるようになったら、めちゃくちゃ喜ぶっていう、本当にいいやつ。仲間・チームのため、会社のためにっていうところと、お客さんのために、っていうところですね。

お客さんがどう思っているか、タイミーを使って何か人生の可能性が広がったのかどうかとか、笑顔が一つでも増えたのかっていうところを、やっぱりすごく真摯に思っていて。売り上げが上がってるイコールその裏にあるお客さんの笑顔がその分増えているということを、ピュアに追い求めてる人。

これが上がったら給料が上がるみたいな感じではなく、本当にタイミーを日本全国に広めたいっていう、本当に馬鹿かもしれないけど、なんか泥臭く思ってるいいやつ。そんな人がたくさんいて、そこは多分今も800人超えましたけど、ほとんどいいやつ。そこは結構根本にあるカルチャーかなと思います。

いい話でした。ぜひこれからもがんばってください。

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