油圧から電動へ、Boston Dynamicsが「Atlas」で描く次世代ロボット像

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Credit: Boston Dynamics/Hyundai

Boston Dynamics は、32年の歴史を持つ企業で、Atlas(人型ロボット)Spot(犬のような四足歩行ロボット)をはじめとする先進的なロボットがアクロバティックな動きやダンスを披露するバイラル動画を何年も放映していることで有名だ。同社は製品ラインナップの大幅な進化を発表した。11年続いた油圧式ロボット Atlas のラインナップを引退させ、完全電動式の新型を発表したのだ。

油圧と電気モーターの違いは、もちろん些細なことではなく、コスト、設計要件、性能の面で非常に大きな意味を持つ。一言で言えば、油圧が流体とピストンに頼って機械や貨物を操作し動かすのに対し、電気モーターは電気エネルギーに頼って部品を直接回転させ動かす。電気モーターは油圧よりも安価で、静かで、軽量で、複雑でない傾向があるが、摩耗が早くなりやすく、耐荷重や強度が劣る可能性がある。

ロボットの場合、油圧式が好ましいと思われるかもしれないが、騒音が大きすぎたり、流体の取り扱いが難しすぎたり(例えば、漏れやすい、補充が必要など)すると、実用的な商業展開の妨げになるかもしれない。それゆえ、Boston Dynamics は電気設計の後継機を追求しているのだろう。

この開発は、Boston Dynamics が商業用ロボットアプリケーションの強力な製品群を拡大し続ける中で、極めて重要な転換を意味する。Boston Dynamics はまた、新型 Atlas が地面に横たわった後に立ち上がり、自信を持って歩くデモビデオを公開している。

私の同僚の一人はとても感心して、Sam Raimi(映画『死霊のはらわた』や『スパイダーマン』の監督)の作品みたいだと言っていた。特に、新型 Atlas は脚を上や骨盤の周りに動かして、ほとんどの一般人の人体構造の限界を無視するような立ち方をするのだから(曲芸師にとっては簡単なのかもしれないが)。

なぜ今、新型 Atlas なのか?

Boston Dynamics は、新しい電動 Atlas について、ヒューマノイドロボットの領域における飛躍的な進歩であり、従来のロボットの能力を満たすだけでなく、それを上回るように設計されていると説明している。

強化された強度と幅広い可動域を持つ電動 Atlas は、様々な産業における様々な複雑なタスクに対応できるよう装備されている。

これには、新たに開発されたグリッパー技術による重く不規則な物体の操作の可能性も含まれ、ロボット設計における Boston Dynamics の多用途性と革新性へのコミットメントが示されている。

新型電動 Atlas の最初の用途としては、Boston Dynamics の親会社である Hyundai の自動車製造が挙げられる。

Boston Dynamics のチームは17日のブログ投稿で、自動車メーカーのヒョンデが Atlas にふさわしい企業であるという考えを示している。

ヒョンデのチームは次世代の自動車製造能力を構築しており、Atlas の新しいアプリケーションの完璧な実験場となるでしょう。今後数カ月、数年のうちに、世界で最もダイナミックなヒューマノイドロボットである Atlas が、研究室や工場、そして私たちの生活の中で、実際にどのようなことができるのかをお見せできることを楽しみにしています。

Research and Markets の最近の調査レポートによると、世界のロボット投資の30%は自動車用ロボットへのものだという。

同レポートは、自動車用ロボット分野だけで昨年80億4,000万米ドルの取引があり、ロボット市場全体は2030年までに価値が倍増すると予測されていると指摘している。

Atlas と Boston Dynamics の長く険しい道のり

Boston Dynamics の長い歴史をよく知る学生やオブザーバーは、Boston Dynamics がビジネス面で困難な道を歩んできたことを思い出すかもしれない。Boston Dynamics は、元マサチューセッツ工科大学(MIT)電気工学・コンピュータサイエンス教授の Marc Raibert 氏と、MITの「レッグラボ」を去った後に Boston Dynamics の CEOとなった博士課程の学生 Robert Playter 氏が商業プロジェクトとして設立した、研究に特化した有望なスタートアップとしてスタートした。

しかし、Boston Dynamics は、初期に実用的な商用ロボットを開発し、商用アプリケーションを見つけるのに苦労し、最終的には2013年に Google に買収され2017年にソフトバンクに売却され、最終的には2021年に Hyundai に10億米ドル近い価格で買収された報じられている

最初の Atlas ロボットは2013年に発表されたが、商業化されることはなかった。一方、犬のような Spot ロボットは2020年に販売されるようになり、世界中の警察軍隊、その他の用途に使われるようになった(ただし、Boston Dynamics 自体は過去に自社製品のあからさまな兵器化を支持したことはない)。

しかし現在、Boston Dynamics はより商業的な方向に向かっているようだ。ヒューマノイドロボットのフォームファクターでは、Optimus の計画を持つ Tesla や、OpenAI などが支援する資金力のあるスタートアップ Figure、Amazon のパートナーである Agility Robotics、そしてヒューマノイド以外では、元 Amazon が率いる Collaborative Robotics(別名 Cobot)などとの競争が激化している。

これらのライバルはすべて、商業利用を念頭に置いている。

加えて、VentureBeat の同僚である Ben Dickinson 氏は16日、技術分野の大きなトレンドである AI 大規模言語モデル(LLM)が、ロボット開発と商業化における全く新しい研究の加速につながっているという素晴らしいまとめ記事を発表したばかりだ。

Boston Dynamics は最近、ロボットのフリート全体、サイトマップ、デジタルトランスフォーメーションデータを管理するプラットフォーム「Orbit」を発表した。

機械学習と人工知能におけるこのような進歩は、同社の戦略の中心であり、ロボットが多様で複雑なシナリオに効率的に適応できることを保証している。

Atlas とBoston Dynamics の今後は?

競合他社と同様、Boston Dynamics は、人型ロボットが世界中の企業のデジタルトランスフォーメーション戦略に不可欠な存在となる未来を描いている。

Boston Dynamics は、日常的なビジネスプロセスにおけるロボティクスの運用とデータ中心のアプリケーションに関する貴重な洞察を提供することで、このビジョンを現実のものにするリーダーとなることを期待している。

つまり、Boston Dynamics が電動 Atlas を発表したことは、単なるロボット工学の次のステップというだけではないのだ。

同社が技術革新と視野の拡大を続ける中、電動 Atlas はこの変革の旅の最前線に立つ準備が整っている。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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