世界のアーティストやファンを魅了する音楽メタバースの世界

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Image credit: AmazeVR

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

メタバースによって音楽業界も変わろうとしている。コロナ禍で、ライブイベントが制限される中、その代替手段としての可能性から着目され始めた音楽メタバースだったが、レーベルやアーティストたちは、今までのリアルイベント以上の商機を生み出せることに気づき始めた。ストリーミング・サブスクと共に、音楽メタバースはインターネットがもたらす音楽業界への革新の一つになるだろう。

1980年代、MTV が現れてからの音楽業界のマーケティング手法は大きく変わった。商品である楽曲を MTV で映像と重ねて配信することで、そのアーティストが持つ世界観や特徴を克明にファンに伝えられるようになった。音楽メタバース時代の到来を、この MTV の時の産業変化に準える専門家もいる。欧米、そして韓国では、音楽や芸能大手が次々とメタバースに参入している。

2024年、自宅で毎週新たな VR コンサートが観賞できる?

ロサンゼルスに本拠を置き、ソウルにオフィスを構える AmazeVR は、Kakao 出身の韓国人起業家4人によって2015年に設立されたスタートアップだ。これまでに累計3,080万米ドルを調達しており、今年にもシリーズ B ラウンドでの調達が期待されている。創業当初は VR 技術を開発するスタートアップだったが、2019年末くらいから VR コンサートの事業に本格的にピボットした。

AmazeVR の特徴は、ユーザにただコンサートを視聴する機会を与えるだけでなく、あたかもそこにいるような没入感以上のものを提供するということだ。AmazeVR を使ってファンはアーティストと擬似的に対面することができ、アーティストとパフォーマンスを楽しむだけでなく、一緒になって歌ったり踊ったりすることもできるのだ。

Megan Thee Stallion の VR コンサートの様子

AmazeVR は、3Xグラミー賞受賞者の Megan Thee Stallion と共に、アメリカ国内の一部の AMC シアターを巡る初の商用 VR コンサートを展開している。実写と CG の背景を組み合わせた30分間の VR コンサート映像は、Megan と AmazeVR が共同制作し、全国を巡るツアーのチケットはすでに売り切れたそうだ。

この VR コンサートツアーは、独自の 9K カメラと Unreal を使った VR コンサート VFX モジュールを自動制御し、一度に100台超のヘッドセットを稼働できるソフトウェアが誕生したことで実現した。この仕組みを使ったコンサートは3人目までのアーティストが決定していて、同社は2024年までに、毎週新たな VR コンサートを劇場用と自宅鑑賞用に提供できるようにする予定だ。

大手レーベルは続々とメタバースプラットフォームと提携

新型コロナウイルスの感染拡大は、確実に音楽イベントのバーチャル化に拍車をかけた。2020年4月には、Epic Games のビデオゲーム「Fortnite」は、Travis Scott のアバターが登場したバーチャルイベント「Astronomical」でプレイヤー2,770万人を集め、音楽業界の注目を集めた。また、Roblox はラッパー Lil Nas X をデジタルライブに起用し、3,300万人を動員した。

メタバースにおける音楽の用途も、多様になっている。2月のスーパーボウルの後に行われた Foo Fighters のVRライブ配信は、事前に録画されたものだったが、技術的な不具合で大きな批判を浴びた。一方、ABBA は、生バンドとスウェーデンのポップスターのデジタル処理されたアバターを組み合わせたバーチャルツアーのチケットを30万枚以上売り上げた。

プレイヤー2,770万人が参加した、Travis Scott のアバター登場のイベント「Astronomical」

Warner Music Group は The Sandbox と提携している。 Snoop Dogg は The Sandbox 上のデジタル不動産に夢中で、そのことを歌にしたほどだ。他の2大レーベルでは、ソニーが Roblox と提携し、ユニバーサルはデジタルアバターメーカーの Genies と提携している。

昨年は、Ariana Grande のバーチャルアバターが Fortnite を駆け巡り、twenty one pilots のアバターが Roblox を訪れ、Justin Bieber は自身が出資する The Weeknd でバーチャルコンサートを開催した。今年は4月、Flume のライブで Coachella のメインステージがシュールな AR(拡張現実)の鳥や花に包まれ、このシーンを世界中の YouTube 視聴者数百人が目撃した。

「Snoop Dogg on The Sandbox」
Image credit: The Sandbox

音楽メタバースの世界で、ファンはアーティストを自由に操れるのか

アーティストのアバターを、ファン視聴者が自分だけのものとして、思い思いに操るような操作も可能だろう。「Volumetric Capture(実在の人物を 3D デジタルデータに変換し、それを高画質に再現する技術)」の映像制作・編集ツールを開発する Arcturus が、Billboard Music Awards で5人の Madonna を AR で同時にステージに上げてから3年になる。

今年初めには、BTS のホログラムが Coldplay と一緒に、アメリカ NBC の音楽番組「The Voice」で同様のパフォーマンスを行った。Pixar 出身で Arcturus を率いる CEO Kamal Mistry 氏は、バーチャルチャットボットの実現も可能だと言う。好きな歌手にどんな曲でも歌ってもらえるとしたら、どうだろうかと Mistry 氏は提案している。

米 NBC の番組「The Voice」では、BTS のホログラムが Coldplay とパフォーマンスした

一方、Frank Ocean や Taylor Swiftを無限のジュークボックスにすることは、ライセンスの観点から難しいかもしれない。特に、スターが自分のパブリックイメージやストーリーをこれまで以上にコントロールできる時代には、そうとも言える。しかし、そこにも方法は残されているかもしれない。

音楽ベースの VR ゲーム「Beat Saber」は最近、Meta(旧 Facebook)に買収された。Beat Saber では、本当に有名なアーティストとユーザが手を組んで、ゲーム内で彼らとのマルチプレイのライブイベントを開催し、リアルタイムにアバター同士の対話できるようにすると、 Digital Domain の VFX スーパーバイザー Aruna Inversin 氏は提案している。

映像だけでなく音を操る技術が実現する、音楽メタバースのリアルさ

VR ヘッドセットはまだ比較的ニッチな技術だ。ロサンゼルスに拠点を置くスタートアップ CYBR の CEO 兼共同設立者 Monica Hyacinth 氏は、シンプルな Web ブラウザ向けの音楽バーチャル体験の開発に取り組んできた。CYBR は昨年11月、Netflix のウェスタン映画「The Harder They Fall」のサウンドトラックのバーチャルリスニングパーティーをローンチした。

ノートパソコンから、カウボーイやカウガールのアバターが映画の舞台である架空の街 Redwood City を散策し、酒場を訪れ、Jay-Z がデザインした早引きゲームに興じることができるのだ。パーティーには、監督やキャスト、サウンドトラックのアーティスト Koffee や Barrington Levy がデジタルアバターとして登場した。Levy が歌い始め、宴は朝4時まで続いたという。

「The Harder They Fall」のサウンドトラックのバーチャルリスニングパーティー
Image credit: CYBR

この試聴会では、「空間オーディオ(spatial audio)」と呼ばれる技術によって、リアルの音源の位置に応じて音声のレベルを変化させることで、360度映像に匹敵するようなプライベートな会話をすることができた。VR と同様、空間オーディオは何年も前から開発されており、Dolby や Apple などの大手企業だけでなく、小規模な新興企業もこの機能を推進している。

ロンドンに拠点を置く MagicBeans は、仮想空間を横切ることでカルテット内の異なるミュージシャンに焦点を合わせることができるデモを提供している。MagicBeans の共同設立者である Gareth Llewellyn 氏と Jon Olive 氏は、今年の後半には、ヘッドフォンをつけた数十人の人々がオーディオ空間の中を歩き回って交流できる対面式の環境を作りたいと話している。

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