グリー新卒から新会社代表へ、インフルエンサーマーケ「QUANT」はどう生まれた?【キーマンインタビュー#1】

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

グリーは1月4日、企業のデジタル化支援事業を手掛けるGlossomのソーシャルコマース事業を承継させる形で新たな100%子会社、QUANT(クアント)を2023年1月1日付で設立したと発表しています。同社は個人のインフルエンサーやクリエイターが活躍する「クリエイターエコノミー」を基盤とするデジタルマーケティング事業を柱としており、グリーに新卒入社し、デジタル広告や新規事業の責任者を務めた山﨑陽平氏が代表取締役社長に就任しています。

山﨑氏は2021年4月からこのQUANT事業の責任者となり、インフルエンサーマーケティング事業をゼロから立ち上げ、事業成長に貢献した人物です。企業が次の成長を模索する中、社内から新たな事業を創造できる次世代の経営人材を生み出すことは、あらゆる企業経営者にとって大きな課題になっています。グリーは今回の発表と共に、新たな若手経営人材の育成にも注力するとしています。

MUGENLABO Magazine編集部では、QUANTでの新たな事業がどのように生まれ、グリーがどのように意思決定したのか、山﨑氏にお話を伺ってきました。前編では事業の立ち上げ経緯、後編では子会社化の経緯をお伝えします。(質問は全てMUGENLABO Magazine編集部、回答は山﨑陽平氏)

代表取締役社長 山﨑陽平氏

まず、この事業を立ち上げた経緯からお話を始めたいと思います。元々、山﨑さんはこの領域の事業をされていたのでしょうか?

山﨑:まず私がインフルエンサーマーケティングそのものに興味を持っていた時期は2018年あたりです。当時はインフルエンサーがいて、商品を手に持って写真を撮って、これを例えばInstagramの投稿に出して、その投稿に対して1投稿が当時だと1フォロワー大体10円とか、そういうお金を取っていました。

100万人のフォロワー数がいるインフルエンサーだったら、1回の写真で1,000万円を広報費でもらう。こういうビジネスを2014年あたりから結構いろんな会社さんが取り組んでいて、デジタルマーケティングの広告業界でいうと主流でした。

そこに対して、費用対効果は合うのかというの点をずっと疑問に思っていました。例えば「いいね」がついたりコメントがついたものにブランディングPRの効果はあるとは思っていたのですが、他方でなかなか定量化、最終的に売り上げが上がったか下がったか、下がらないとしても上がったかどうかというところまでの確認はなかなかしづらいだろうなと思っていたんです。

なるほど。ソーシャルメディアを中心としたインフルエンサーマーケティングの立ち上がりの時期ですね。

山﨑:その中で、2019年にインフルエンサーマーケティングの新しい仕組み、新しい実践にチャレンジしてる会社さんがあると聞いて、少し興味があったので話を聞きに行って何回か議論をしたり会食したりしていました。

内容としてはインフルエンサーのみなさんに投稿をしてもらい、その投稿経由で実際の購入まで追いかけて成果報酬形式でクライアント様からお金を頂戴するというものです。つまり、従来、古くからインターネットの広告であったアフィリエイトとインフルエンサーマーケティングを掛け合わせたモデルにチャレンジする会社が2019年当時に出てきたんです。ただ、まだまだ市場はすごく小さいというタイミングでした。

しかし、そのロジックを聞いて『これはやれそう』だなと。かつ、グリーグループであれば、システムの軸を掛け合わせて、アフィリエイト×インフルエンサー×システムのような掛け算ができたりするとより付加価値が高められるので、攻めることができると思っていたんです。しかし当時、私は全然違う事業をやっていたので、頭の片隅でそんなことを思いながらも日々の目の前の事業を粛々とこなしていました。

QUANT

アイデアの元になる気付きですね。どういうきっかけで事業化に進んだのでしょうか?

山﨑:少し時が過ぎた2020年です。今でもお付き合いいただいている大手製薬会社さんとお話している時に、その時点では通常のインターネット広告全般をグリーとタッグを組んでやってたのですが、インフルエンサーマーケティングにご興味がある、一方でインフルエンサーマーケティングでただPR目的でやるというよりも、ちゃんと売り上げが上がるというところまで追いかけたいというお話を伺いました。

そのような話を頂戴し、ここで何か突破口を開かなきゃいけないというタイミングで、先程の2019年に聞いた話を思い出したんです。このタイミングだ!ちょっと提案してみよう!という考えで本当に手弁当というか、何にも根拠はなかったのですがインフルエンサーが投稿をして、商品の売り上げを上げたらそのクライアントさんからお金をいただくという座組でやってみることはできませんか?という提案を自分で作って持っていきました。

これにOKが出まして、実際やってみましょうというところで2020年の7月からこのビジネスのテストマーケティングを始めたというのが出発です。

手弁当がきっかけだったのですね!それが上手くいったのでしょうか?

山﨑:一生懸命インフルエンサーをアサインしたのですが、正直、初めは微妙でした。その製薬会社さんのコスメ商材を扱っていたのですが、どういうインフルエンサーに刺さるか分からずに試行錯誤を続けていたところ、とあるインフルエンサーさんが製薬会社さんの商品を1日、もっと言うと1時間で数百本も売り上げたのです。

この通販業界で1時間に、例えばイチSNSアカウントと捉えたときのパワーで数百本は結構大きく、複数のSNSアカウント、これが10個、20個、30個・・・となった時には、商品の売れるスピードでいうとかなりのインパクトになります。そのため、通常の広告を回すよりもより強大なパワーで新規ユーザーの獲得が取れたのです。このインフルエンサーさんには今もお世話になっています。

そこから、これはこういうようなアサインをしていけば、インフルエンサー×クライアントで売り上げが上がるというのが見えまして、一気にそこから売り上げを上げにいきました。その当時は僕1人でやってたのですが、気づいたら売り上げが大きくなっており、そのタイミングで、当時の上司でGlossom社長の足立(代表取締役社長の足立和久氏)の方からも事業部化しましょうというお話をいただきました。そして、2021年4月に事業部化し、2021年7月にはサービスとしてのQUANTをリリースする形でトントン拍子で進んでいきました。


山﨑さんが掴んだチャンスをきっかけに立ち上がったインフルエンサーマーケティングの事業はその後、順調に数字を重ねていったそうです。一方、この領域は差別化が難しくなるのも事実です。山﨑さんはインフルエンサーマーケティングの見える化・定量化だけでなく、グリーグループの持つデジタル化技術を駆使して、サービス自体をよりデータ・ドリブンなものにアップデートしていったそうです。

例えば、QUANTのインフルエンサーマーケティングを利用すると、インフルエンサーの中でも商品を継続的にプロモーションし続けてくれる人が可視化されるそうです。企業もそうですが、インフルエンサーにとっても「相性のよい」パートナーを見つけることができれば、クリエイターエコノミーの持続性にも繋がります。

このようにしてデジタル技術を活用した山﨑さんたちQUANTチームは2022年の1年を通じて売り上げを倍増以上に成長させることに成功。いよいよスピンアウトへの道を進むことになります。インタビュー後半ではその経緯をお伝えします。

後半へつづく:グリースピンアウト「QUANT」が社内を巻き込んだ方法 【キーマンインタビュー#2】

BRIDGE Members

BRIDGEでは会員制度の「Members」を運営しています。登録いただくと会員限定の記事が毎月3本まで読めるほか、Discordの招待リンクをお送りしています。登録は無料で、有料会員の方は会員限定記事が全て読めるようになります(初回登録時1週間無料)。
  • 会員限定記事・毎月3本
  • コミュニティDiscord招待
無料メンバー登録