「人事不在」のスタートアップが、4ヶ月で4名も採用できた理由

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

独自の無人決済システムをもとに、“無人コンビニ”などを日本で唯一実現しているスタートアップ、株式会社TOUCH TO GO(TTG)。事業の成長にあわせて採用活動をしていましたが、人事専任者がいなかったこともあり、1年ほど成果が出せない状況が続いていました。

これを受け、グローバル・ブレイン(GB)の子会社で、採用支援を行っているGBHRと連携することに。その結果、約4カ月で4名の採用に成功しました。また内定承諾率も約70%とスタートアップとしては高い結果が出ています。

このように短期間で採用成果を出せた背景や施策のポイントなどについて、TOUCH TO GOの代表取締役副社長 波川敏也さん、GBHRの並木佑弥、國分一生に話を聞きました。(太字の質問はすべてUniverse編集部)

執筆:Universe編集部

「優秀な人」を探すだけではダメ

──GBHRと取り組む前の状況を教えてください。

波川:専任の人事担当者がおらず、私1人で中途採用をやっていました。スカウトサービスでスカウトメールを送ったり、候補者のレジュメを1つ1つチェックしたりというのを1年くらい続けていたんですが、なかなか上手くいかず。気持ち的にもくじけそうだった時にGBHRさんにご協力いただきました。

どういうメンバーを求めているかという、各部署へのヒアリングや面接は弊社が行いましたが、GBHRさんにはそれ以外のほとんどの面でサポートいただきましたね。

たとえば、人材要件の叩きを作っていただいたり、スカウトメールの改善点を考えていただいたりなどです。スカウトサービスの画面を一緒に見て候補者検索をしたこともありましたし、選考が進んだ候補者の意欲を落とさないようなフォローの仕方も教えていただきました。おふたりにはまさにTTGの採用チームの一員として関わっていただいたといっても過言ではないと思います。

波川敏也:株式会社TOUCH TO GO 代表取締役副社長。大手SierにSEとして新卒入社後、サインポスト(株)に転職しITコンサルや新規事業構築を担当。その中のひとつである無人決済システムの事業立上げから経験。2019年7月に事業をカーブアウトしTTGを設立。製品開発、営業、人事採用、知財などに従事。

──採用では人材要件があらゆる活動の軸になってくるかと思います。TTGさんではどのように人材要件を作られましたか。

波川:営業担当者を求めていたので、まずは社内の営業メンバーやマネージャーにポジションの内容や年齢層、どういうスキルが必須なのかをヒアリングしました。

ただ、どこのスタートアップさんもそうだと思うんですが、常に人手不足なので何でもできるスーパーマンを求めてしまうんですね(笑)。そこで必須だといわれた条件の中から本当に必要なものを絞り込んでもらったり、「あったらいいな」程度のスキルは分けてもらったりしました。

弊社の商材にはSaaSのような要素もありつつ、 ハードウェアの側面もあります。そのためスキル面ではメーカーで物を売っていた方や、SIerでシステムを売っていた方をメインで探すことにしました。そこからGBHRさんとディスカッションし、より詳細な人材要件を作りこんでいった形です。

並木:採用市場では、営業として優秀な方という条件であれば比較的すぐ探せるんです。ですが実際に入社まで繋がる方を探すとなると、どういうキャリアを描いていきたい人なのか、どういう営業スキルを伸ばしたい人なのかを明確にし、そことのマッチ度を確認する必要があります。

Sler業界でのセールス職といっても自社プロダクトを持ってハイタッチセールスを行っているところもあれば、 パートナーセールスメインのところもあります。自社製品に特化して売りたい営業の方もいれば、どんな商材でも柔軟に対応して売りたい方もいるわけです。一口にSIerの営業といってもいろんな職業観を持った方がいるので、人材要件作りではそこの定義をより詳細にさせていただきました。

並木佑弥:2022年にGBへ参画。投資先企業に対して採用支援を行うGBHRのリードを担当。

──なるほど。スキルだけではなく、価値観がフィットするかは確かに大切ですよね。

並木:はい。また、募集ポジションの業務をきちんと把握しておくことも大切です。当たり前のことではありますが、いち人事担当者が全部署のことを理解するのはかなり難しい。私たちもサービスのシステム構成を聞かせていただいたり、営業の方が使っている提案書を見せていただいたりと、かなり詳細にTTGさんの営業を教えていただきました。

國分細かな業務がわかるとそのポジションの魅力がわかってきます。私たちが候補者を探してくるところでも「TTGの営業ではこういう動き方を求められるから、このような経験をお持ちの方マッチするのではないか」と母集団を増やすことができます。業務への理解が深まった分、私たちの動きもシャープになったと思うので、あらゆる情報をオープンにしていただけてとても助かりましたね。

波川:本当に必要な人材を考えるには、事業課題からブレイクダウンして「いまどのチームに、どのような業務ができる人が必要なのか」を考えなければならない。これにはかなりの社内理解が求められるんです。同じ会社でも事業の状況によって要件は変わってくるので、経営レイヤーで広く深く会社の情報を得られる人が採用に関わるべきですね。

自社ならではの魅力を見つけるには?

──人材要件を決めた後、スカウトメールなどではどのように訴求をされたのでしょうか。

波川:TTGの営業だからこそ感じられる定性的な魅力を訴求しました。具体的には、営業として関わるステークホルダーの多さやそれによる影響力の大きさなどです。

弊社の営業は実店舗を作り上げるPMのような役目も担います。また、お客様も経営層の方から課長クラスの方までさまざまなので、幅広く影響を与えられることを打ち出しました。営業の方には、自分が対応するお客様がどのような業界のどのような方なのかを気にされる方も多いので、その点ではかなりバリエーション広く経験できますと伝えたんです。

國分:もともとスカウトメールには会社やプロダクトの魅力を記載していたんですが、このような形に変えて反応もよくなりましたね

國分一生:2022年にGB参画。GBでは投資先企業に対して、採用を中心としたHR領域の支援を担当。

──自社の仕事の独自性は、内部からだとなかなか気付きづらい気もしますが、こうした魅力を人事担当者が見つけるためにできることはありますか?

並木:多くの候補者さんに会って、どういうキャリアを歩んでいきたいのか、仕事にどのような課題を感じているのかをヒアリングすることですかね。

私は前職でエージェントをやっていたときに数多く面談した経験がありますし、國分さんはスタートアップに特化したヘッドハンターをしていました。そのため各社さんがどんな組織体制でどんな営業をしているのか、そこで働くとどんな職業観になるのか、どういう時に転職を考え始め、どんな働き方に魅力を感じるのかをよく知っています。そのベースがあったのでTTGさんの魅力付けにもお力添えできたのかもしれません。

波川:私はもともと人事畑ではないですし1人でやっていたので、スカウト媒体の特性やエージェントとの関わり方なども全然わからなかったんです。そういった現場レベルでのTipsについても、ざっくばらんに相談できたので助かりました。

國分:私たちはいま30〜40社のスタートアップをサポートさせていただいているので、日々いろんな情報が入ってきます。「このスカウト媒体はこういう傾向がある」や「エンジニア採用でこういう成功例がでた」など、有意義な情報があれば共有させていただいていましたね。

面接では「どんな人生を送ってきたか」を聞く

──TTG様は内定承諾率の高さも特徴的ですが、この要因は何だと思われますか?

波川:1つ考えられるのは、カジュアル面談や一次面接で、経営層である私が直接お話しさせていただいているからかなと思うんですが、どうでしょうか?

並木:それは大きいと思います。

波川:どのポジションであっても、カジュアル面談や一次面接は私が担当しています。30〜40分くらい時間をかけて詳細に会社説明をさせていただくので、この段階で会社についての疑問はある程度解けるのではないかと思います。

そこからさらに1時間ほど質疑応答の時間を設けて、しっかりお話しさせていただきます。多くの時間をかけたぶん、自然と意向が上がっているというのは考えられますね。

──候補者の意向を上げる伝え方の工夫などもされているのでしょうか?

波川:どの候補者の方にもほぼ共通の説明をするのですが、来ていただいてる方のポジションや、その方の人柄、人間性を見て伝え方を変えていますね

並木:波川さんに面接の感想を伺うと、候補者のスキルはもちろん、細かな人柄やどういう人生を生きてきたかをすごくヒアリングされています。面接ではその人自体を見るというのがすごく大事なんですよね。「この方が自社に来た時にどういうキャリアを歩んでもらえそうか」を考えた上でオファーを出すことができるので、そこが承諾率の高さもつながっているのかなと。

波川:面接では人間性のほうを確認したいなと思っています。スキルは後からでもついてきますが、人柄はなかなか変えられませんよね。そこでギャップがあるとお互いに困ってしまうので、面接では人柄や価値観を確認させていただいています。

余談ですが、カジュアル面談では自分のキャリアの軸に悩まれてる方と話すことも多いのですが、そういった方に「コーチングありがとうございました」と言われたこともあります(笑)

國分:エージェントがやるようなキャリア面談並みに候補者の方を深堀りされているんですよね。そうした過程を経ているからこそ、承諾率も高くミスマッチも少ない採用ができているのだなと感じます。

結局、地道なPDCAをやるしかない

──様々な採用の工夫をされてきたTTGさんですが、採用で成果を出すための1番のポイントは何だと感じますか?

波川「常にPDCAを回し続けること」ですかね。 採用はやればやるほど成果が出ますが、 当然やらなければ成果は全く出ません。事業の状況がめまぐるしく変化するので、採用施策にも柔軟性が求められる。毎月毎月施策を考えて振り返って、というのをやり続けるのが肝かなと思います。細かいPDCAでいうと、同じ職種でも募集要項の書き方をわけて、どちらが応募が多いかのABテストなどもやっていますね。

並木:私たちもPDCAは大事だと思っています。これをやれば絶対上手くいくみたいなものは本当にないので、とにかく地道にやるしかありません

波川:あと、GBHRさんのようなパートナーとご一緒するときに大事なのは、丸投げしないことですね。

人材要件を相談させていただいたこともありますが、あくまでも私たちが困っていることに一緒に動いてもらっているという形でアウトソーシングではない。TTGの採用チームの一員というスタンスだからこそ、PDCAや各種施策も一緒にうまく回せたのかなと。

並木:TTGさんには情報もかなりオープンにしていただいたので、まさに2人3脚でご一緒できました。TTGさんのほうでも採用の仕組みができてきていらっしゃいます。いい意味で私たちを活用いただけたと思いますね。

波川:ありがとうございます。最近、専任の人事担当者の方にもジョインいただけたのでこれからは一層採用を頑張っていきます。

弊社はバリューに「大企業並みの待遇とスタートアップの裁量」と掲げています。JR東日本スタートアップとの合弁会社として立ち上がったので、ある程度の安心できる環境で働きながら、大きなチャレンジをしてみたい方にはまさにベストな環境です。そういった方との出会いが作れるよう

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