シード投資家3人が考える、バーニングニーズの見つけかた(2)——初期製品の完成度とお金をかけない検証方法

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載

前回に続いて、シード投資家によるバーニングニーズについての鼎談をお届けします。

さて、バーニングニーズの見つけ方においては、まず、ユーザになりそうな人々へのヒアリングをするという方法があります。しかし、一見簡単そうに見えるヒアリングにおいても、気をつけなければ大きな間違いに繋がってしまうことがあるそうです。

スタートアップがプロダクトを生み出すプロセスはクリエイティブであり、ユーザになってくれるかもしれない企業や個人が、プロダクトの生みの親に期待しているのもクリエイティブです。ヒアリングからクリエイティブにどう繋げるか。3人の話に耳を傾けてみましょう。

北尾:バーニングニーズの見つけ方は投資先に普段面談するときにも聞かれます。1つはヒアリングが有効な手段かなと思いますが、ヒアリング で工夫するポイントがあれば聞いてみたいです。またヒアリング以外で見つけ方があればディスカッションしたいです。

木暮:課題とプロダクトに愛を持ちすぎない。

起業家の方でプロダクトに対して自信を持つこと、課題に対して熱量を持つことは良いのですが、ことユーザヒアリングで特に最初のタイミングにおいては、やはり愛があると恣意的な質問をしてしまう。「これ絶対こうじゃないですか?」と聞いてしまい、相手が思っていないんだけど、無理やりYesって言わせてるとか、自分のベストの選択肢を言わせているケースがあります。僕もたまにユーザヒアリングに同席しますが、たまに感じることがあります。

人間は熱量を持って語っているところに対して「センスが無いよ」とは関係値が無いと言いにくいものです。初めてお会いした時には否定しづらい。本当はAなんだけど、濁してBと言っとくかみたいになる。ここは注意しなければいけません。

バーニングニーズを探す、課題を探すというところでいうと、絶対に解決策の話をしないと言うのは強く言っています。「解決策がこうです!使いますか?」というと否定しづらい。「いくらで使いますか?」と聞いても自分の財布から出すわけではないので「何円です」と言っても、プロダクトを出してみたら全然お金払ってくれないケースは多いなと思っています。

初期の頃は、いかにバーニングニーズの課題を見つけるかに注目した方が良いと思います。ソリューションはこちらでなるべく考えて、課題に沿うべきものを提案する。それはユーザには言わない方がいいですかねえ。実際出した後にチューニングするときはプロダクトの説明はしいても良いかもしれません。

北尾:愛を持ちすぎないでいうと、投資先で一緒にお客さんにインタビューをしに行ったことがあって、「なんで困ってるんですか」と聞いてる内に論破し始めちゃって、向こうもヒアリング協力してるのに引いちゃうことがありました。

木暮:ニッチなマーケットとか業界の経験が長い方であればあるほど、課題を解決したいと自分の原体験から入られてる方が多いなと思っていて、そこに合わせすぎちゃう。これは難しいところです。業界が長いから見つかる課題ももちろんありますし、長いからこそ自分の固定概念が凝り固まってしまっているケースもある。どっちが良い悪いではないですけど。

海外とか日本でもそうですけど、成功しているニッチだったり課題が見つけづらいスタートアップだったりすると、多分フラットに見ている起業家が多いのかなと。フラットにユーザヒアリングするからこそ、バーニングニーズが見つかりやすい点もあるのかなと思います。

北尾:「解決策の話をしない」みたいなので1 個思い出したのは、テルマさんと一緒に投資しているアメリカの起業家で Poppy AI という会社の「Waffle」というグループジャーナルアプリがあるんですけど、友達とか本当に優しい人たちだけとの交換日記サービスで、Snapchat の Snap のアクセラレータに採択されて、今 US で頑張ってる投資先なのですが、彼は実際に Evan Spiegel 氏(Snap CEO)からメンタリングを受ける機会時に、口すっぱく「お客さんに解決策ソリューションを聞くな」と言われるそうです。

課題は聞いてもいいけど 、ToC でお客さんにソリューションを聞いても絶対に提供しても使わないからと。むしろ解決策の部分はクリエイティビティが求められる部分なので、そこを考えるのが起業家をやっている人達の仕事だと…。

「Waffle」

木暮:身も蓋もない話なんですけど、とある上場企業の先輩と話したときに、「俺はユーザヒアリングしない」と言って全然しない人もいる。彼はすごいセンスのある方だと認識してるんですけど、ヒアリングしすぎちゃうと、ユーザが思うぐらいのソリューションしか提供できない。

本当にユーザをサプライズで驚かせるためには、それくらいまあしなきゃいけないんだって(思いました)。確かにそれはそれで一理あるなと。実際に実績を出されているので素晴らしいなと。

萩谷:C向けとB向けで全然違うかなと思いますよね。ToC は課題が顕在化しているケースが多いですね。潜在化してないことが多かったりしてて、1個1個聞いて正しい、正しいと当てに行くのは相当難しい。なかなか解決策とかユーザの声はあんまり参考にならない。参考になるのは数字しかない感じがありますよね。

だから、C 向けだと初期の継続率と、バイラルみたいなところがどれだけ立ち上がり良いのかで全て決まると思っています。あと本当に課題が強ければプロダクトが荒くても使うと思ってています。

ネクイノというオンライン医療のスタートアップがあるのですが、今は女性向けオンライン診療で PMS(月経前症候群)とか生理痛で悩んでる方にピルを提供しているところなんですけど、 2016年に オンライン診療が解禁されて、最初は AGA とか ED とか男性向けとか花粉症とかアレルギーとかそういうところから始まったんですけど、全然刺さらなくて。

全然伸びない中でピルを出したらめちゃめちゃ伸びてて。プロダクト自体は正直全然イケてないんですよ。それでも勝手に伸びて Twitter でめっちゃいいみたいな口コミが自然に出るようになって。

C向けに関してはテルマさんも言ってましたが、早く出すというところに限っちゃうんですよ。C向けに関しては自分欲しいと思ってるものとか、誰かがめちゃめちゃほしいと思ってるものとか、共感できるものをスピーディーに出すしかないかなと思っています。

ネクイノの「スマルナ」

北尾:なるほどね。ピルの時はプロダクトを作る前に広告とかLPを出してみた感じですか?

萩谷:その時はバーニングニーズの検証とか何にも情報ない時だったので、「スマルナ」というブランドで出してみた感じです。オペレーションフローとかはめちゃめちゃ緩くて、今みたいにイケてる感じではなかったです。だから途中でチャーンするだろうと思ったんですけど、決済までは辛くても行きました。それぐらい強いニーズを見つけられた。

ちなみにその最初検証としては、ネクイノも最初は LINE @ でやってました。お医者さんと患者さんとチャットできて、それでお薬の処方まで行けるというのはミニマムで検証できたのは良かったです。

ネクイノは初期、ANOBAKAとニッセイ・キャピタルさんでファイナンスしたんですけど、最初、AGA(男性型脱毛症)とか全然刺さらなくて。ただ、シードという限られた資金の中で何個打ち手を打てるかという勝負のときで、スピード感はあったので、そこでギリギリピルだったらというのが示せて、MonthlyPitchさんに出てファイナンスが決まりました。

北尾:バーニングニーズはサービスを出さなくても、本当に課題が強かったら使われるというのは資金調達とセットだと思ってて、結局お金が入れば作れるじゃないですか。でも、ニーズがないとお金は出せないじゃないですが、物があったとしても。そこのバランスがすごく難しいと思ってて、資金調達のお金を使わなくてもできる検証の仕方はハックされるべきだなと思ってます。普段アドバイスしている検証方法があれば教えてください。

僕が1 個思い出したのは、結果的にピボットしましたが、ブラックというクラウドゲーミング という領域のゲームサービスで、開発などしようとすると UI とか雰囲気がしっかり伝わらないとゲームなので面白そうと思ってもらえない状況で…。一応既存のIPの漫画とかアニメをかなりカジュアルにゲームとして楽しめるというサービスだったので、簡単なサービス動画をTwitter に投稿したら何万人いいねと何千リツイートされて。ニーズがあるんだったら作りますみたいな感じで出したので、めっちゃバズったからこれやろうと。

僕らはそれを見て投資をしました。エンジェルだとけんすうさんとか。それは1個の調達材料になりました。本人が勝手にやったことですが、説得力がありました。

北尾:ニーズの検証の方法にセンスがあったから投資できたなという事例があれば教えてください。

木暮:投資先はあんまり思い浮かびませんでしたが、例えばこういうことをやると労働力が上がって10倍早くできますというサービスあるじゃないですか? 人力でやってるものをAIを使って早くできますみたいな提供価値があるサービスがあるとすると。例えば投資先には一旦お前がやって来いと。社内で10時間かかっているものを5 分でできます、労働力がかかりませんといったことの再現を、一旦社長とかメンバーの人が10時間かけて手動でやってもらうんですよ。

実際その辺のサービスの流れみたいなところのUI/UXは荒いんですが、LINE@とかGoogle Formとか究極メールとかでも再現ができると思っているので、ある程度のところまで体験できるところまでを細かな色んなサービスをたくさん駆使して再現する。これをやると結構いいのかなっていう感じですね。

たまにみんなサービスを過信しちゃうというか。ユーザが究極どういうロジックで回っているのか、AIでも人間でも知らないケースがあるので、うまく体験価値だけをユーザに提供できるとセンスのいいMVPだと思います。

(次回に続く)

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