売上が5倍に成長…OKANが実践した「エンプラ営業」の改善策

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

執筆: Universe編集部

BtoBスタートアップでよく課題として挙げられるのが、法人向けのいわゆる「エンタープライズ(エンプラ)営業」。エンプラ企業は大口顧客になる可能性が高く、また導入が決まれば自社製品の信頼性向上にもつながるため、ぜひとも成約に繋げたい相手です。しかし、リードタイムが長く、担当者異動なども発生しがちなことから営業がしづらい顧客層とも言われています。

こだわりの惣菜をオフィスに届ける置き型社食「オフィスおかん」を中心に事業展開する株式会社OKANも、エンプラ営業に悩みを抱えていました。そこでグローバル・ブレイン(GB)の支援チームとともに改善へと取り組むことに。結果として売上(※)を9ヵ月で5倍へと成長させました。この成功の背景には綿密な分析やチームの仮説検証力の向上があったようです。

これらの施策について、取締役COOの佐々木勇介さん、エンタープライズセールスチーム マネージャーの休場由佳さん、また改善支援を行ったGBのValue Up Teamの千田拓治に話を伺いました。(太字の質問はすべてUniverse編集部)

※新規MRR(月次経常収益)および営業1人当たりの新規MRR

ザ・モデル型では上手くいかなかった

──エンプラ営業の売上向上に成功されたOKANさんですが、かつては苦心されていたと伺っています。その際の状況を教えていただけますか。

休場:前提として、OKANのエンタープライズチームは一般に「ミドル」といわれる顧客も対象にしており、100名〜数万名規模のお客様を同じチームで対応しています。

幅広いお客様に接するチームなのですが、GBの千田さんに来ていただく前はメンバーが2〜3名しかいませんでした。少人数だったこともあって業務が属人化しており、営業データの管理や分析、仕組み化などはほとんどできていなかったですね。またSMB(中小企業)向け営業で上手くいっていたザ・モデル型の営業をエンプラのお客様にも行っていたのですが、それ以外の手法の知見が浅かったため、なかなか成果につながらず…という状態でしたね。

休場由佳:(株)リクルート、外食系スタートアップを経て、2019年OKAN入社。インサイドセールス、営業企画に従事し、2020年2月にBDRのPJT立ち上げ。2022年6月、エンタ―プライズセールスチームmgrに着任。

佐々木:オフィスおかんはSMB向けサービスというわけではないんですが、SMBのお客様にも創業時から多くご利用いただいています。より大きい会社さんとの取引を増やさないといけないというのは常にあったのですが、やはりエンプラのお客様へとSMBのお客様へのコミュニケーションには違いがあります。

たとえば、SMB向けの営業はリードタイムが短いためROIが見えやすいですが、エンプラのお客様はリードタイムが長くROIも見えづらい。こうした違いもあって、エンプラのお客様への営業スタイルを掴めない状態が続いていました。

休場:そのためにもデータ分析や仕組み化は取り組まなければと思っており、営業データ自体は取っていましたが、しっかりと営業をデザインするレベルまでの分析はできていない状態でした。きちんとやっていきたい気持ちはあったものの、私自身がデータ分析に長けているわけではなく…会社でも「麃公(ひょうこう)将軍」というあだ名を付けられてしまうくらいで。

──麃公将軍…?

休場:『キングダム』にそういう将軍がいるらしくて。私はあまりキングダムを知らないのでわからないのですが、全力で突撃していく本能型の人みたいです(笑)。

ただ、エンプラチームもメンバーを追加することが決まっていたことと、私がマネージャーになった時にちょうど千田さんの支援が始まったこともあって、ようやく着手ができるタイミングが来たぞとポジティブに捉えていましたね。

フェーズやヨミを再定義し、商談を“見える化”

──そこから改善に取り組まれたわけですが、具体的にどのような施策を行われたのでしょうか。

千田:まず支援をご一緒させていただく前に、OKANさんの営業に同席させていただきました。営業自体はすごくしっかりとされていらっしゃったので、トークの仕方や提案内容などをお伝えする必要はないなと感じました。

その後、休場さんを中心にお話を伺う中で、取り組んだほうがよさそうなことが2つ見えてきました。1つは、目標に対する見込売上・商談受注確度の精度向上です。具体的には、営業フェーズやヨミをより精緻にしていきました。月ごとの目標と照らし合わせて、現段階で商談数をどのくらい増やすべきか、どのくらいの受注率が必要かなどですね。目標達成につながるアクションを明確にするためにも当たり前のことではありますが、実際にきちんとできている企業は少ないと感じます。

千田拓治:2021年にGBに参画。Value Up Teamとして、投資先の事業成長をハンズオンで支援。事業戦略、事業計画、営業、マーケティング、人材採用、オペレーション改善など幅広い領域を担当。

休場:営業フェーズやヨミの定義は以前からあったんですが、すごく考え込まれて設定できていたかというとそうではなくて。従来の定義から変えずにずっとやってきていた状態だったので、改めて細かく商談を見える化することに取り組みました。

千田:具体的には「商談実施」「検討中」「価値合意」「稟議申請中」「受注」という形だった営業フェーズの、「商談実施」と「稟議申請中」の間に「部門長提案」「部門長合意」を追加しました。

エンプラの場合、商談相手に稟議申請の権限がないことも多いので、その方と導入価値を合意しても、受注に寄与しないケースはよくあります。そのため、きちんとお客様が部門長に提案や合意をされたのかどうかをウォッチできるよう設計し直し、さらに「受注」の前にも「申込書入力中(稟議承認)」をいれて、お客様の稟議状況も追えるようにしました。

改善前・改善後の営業フェーズ

営業フェーズを設計するポイントは、OKANさん側のアクションではなく、お客様側のアクションで定めること。また、お客様がそのアクションさえすれば受注確度が高確率で上がるものを定めるのが重要です。

OKANさんにおける各商談のフェーズとヨミの相関性を分析したところ、「部門長合意」に進めばCヨミからBヨミ(3か月以内の受注率50%)に一気に上がることがわかってきました。各営業メンバーが「部門長との商談機会のセット」に営業アクションを集中するようになり、結果として受注率を短期間で向上することができましたね。

なお、提供するサービスによって受注と相関が高いお客様のアクションは変わってくるので、すべてのBtoB企業にこの営業フェーズが当てはめられるわけではありません。自社サービスにとって何が受注に影響するのかを見極めながら、営業フェーズを設計する必要があります。

失注した200件の商談を1つずつ分析

──もう1つの施策についても教えてください。

休場値引きキャンペーンです。営業フェーズやヨミの精度を高めて営業成果を向上させていた中で、このまま積み重ねても目標に到達しないという状況がやってきました。何度計算しても「受注率を2倍にしないと達成できない」というような。

千田:営業の方々の能力をいきなり2倍にするのは不可能ですよね。そこで、ある程度の飛び道具がないとだめだという結論になり、キャンペーンに力を入れることに。結果として受注率は倍増し、売上も2〜3倍に急上昇しました。

休場:実は値引き以外にも施策案はあったのですが、ここに行き着いた背景には千田さんにやっていただいた「失注分析」があります。弊社の営業がセールスフォースに記録していた失注理由のテキストを1つ1つ事細かに見てくださって。

千田失注した商談の記録を200件ほどみて、失注理由を分類していきました。セールスフォース上ではすでに失注理由のタグ(「失注理由:予算が取れない」のようなもの)をつけられるのですが、そこに添えられているテキストをよく読むと、タグの内容と違う場合があることに気づきました。たとえば、実際は予算が取れないのではなく価格が高いという理由で失注していた、というような。

そういう部分を細かく見ながら、値引きキャンペーンをやったときにどれくらいの数の顧客が反応しそうなのか、売上を加味してマイナスにならない値引き率はどれくらいか、などを検討していきました。

セールスフォース上のテキストを1件ずつ確認し、失注理由を分析

休場:この分析があったので、キャンペーンをやったときに得られる効果がはっきりとしました。なので営業の年間スケジュールへのキャンペーンの落とし込みや、関係部署との調整などもすぐに動き出すことができましたね。

──OKANさんのデータが充実していたからこそ実行できたキャンペーンだとも言えますね。

千田:はい。OKANの営業の皆さんは本当に綿密に入力してくださっていたのでとても助かりました。それをすべて共有いただけたのもありがたかったですね。もともと営業フェーズの精緻化やキャンペーンなどは、すでにOKANさんの社内でもアイデアとしては考えられていたんです。それに対して私たちが分析をして、やはりやったほうがいいねと“同意しにいった”感じでした。

休場:なので、弊社としては「やらされている感」はまったくなくて。突拍子もないところから提案をいただく感じではなかったんです。「このあたりに課題がありそうで、こういう風な施策がよさそうだと思っている」と相談をこちらからさせていただいて、千田さんに根拠の部分を引き受けていただいた感じでした。

基本的に千田さんは私たちの話を「なるほど、それすごく良いと思います」と一旦全部引き受けてくれるんです。その後「これと、これと、これを自分の方で調べてみますね」と言ってこの施策がよさそうかどうかを論拠づけできるデータや情報をものすごいスピードで持ってきていただきました。こうした分析の部分にはなかなか手を回せていなかったので、大変頼らせていただきましたね。

千田:懐かしいですね。 その繰り返しだった感じがしますね。

チーム全体にPDCAの思考が浸透

──仮説を論拠づけて施策を行い、それを検証するという流れができたわけですね。このような体制ができて社内で変化したことはありますか? たとえば、休場さんが佐々木さんに施策を上申される際、データをもとに話しやすくなった、のような。

休場:まさにです。

佐々木: 休場から上がってくる提案の質は格段に上がったと感じます。私が「では、それでお願いします」と言う確率が高くなったというか。休場・佐々木間のコミュニケーションがかなり円滑になったと感じます(笑)

休場:(笑)

佐々木:もともと休場は右脳型、私は左脳型のような感じで考え方が対極だったんです。その間を千田さんが埋めてくれることによって、私も施策を理解しやすく、また休場も説明しやすくなったのかなと。さきほど『キングダム』の例で本能型という話も出ましたが、千田さんに“本能を翻訳”していただいた感じなのかもしれません。

佐々木勇介:アクセンチュア株式会社、医療系スタートアップを経て2017年入社。2018年12月より取締役COO。

──休場さんの立場からほかに変化したと感じる部分はありますか?

休場:やはり「目標に対して何がどれだけギャップがあるのか、それに対して何が必要なのか、 やってみた結果どうだったのか」と、PDCAを回すという基本的なことがきちんとできるようになったと思います。以前は結果があるだけでした。やってみて、結果があって、何か思いつくことをやってみて、また結果があるだけ。以前は4ヵ月先の売上がどうなっているか判断することもできていなかったと思います。

ですが今は「3ヶ月前にこのぐらいの売上が溜まってたら大体達成する」とか、「2ヶ月前だとこれくらいだ」とか、そういった目算ができるようになってきました。予実に対する向き合い方が戦略的にできるようになったかなと。

千田:営業チームの皆さんは現在は1ヵ月に1回振り返りを必ずやられているんですが、本当にきちんとPDCAを回していらっしゃいます。休場さんを筆頭に「こういう仮説だったけど、現状はこういう風になっていて、その原因は何で……」ときちんと分析されていて。

休場:千田さんがアウトプットされたことに対して、よく「それはどういう順序で考えたんですか?」とお伺いしていたのも大きいです。千田さんの思考プロセスも踏まえて共有いただけたので、私個人としてもチームとしても、仮説検証をスピーディーに回せる習慣と仕組みができてきたと感じます。

──今回の成果を受けてOKANさんの営業チームはさらにパワーアップされていくことかと思います。今後、チームとして目指していきたい姿や展望があればお伺いさせてください。

佐々木:さきほど戦略的なチームになってきたという言葉がありましたが、私から見てもその通りだと思っています。今後は千田さんの支援なくとも、休場が一層ちゃんとチームの状況を把握できるような体制ができたらなと。それがチームとしての安定感にも繋がっていくと思うので、うまく仕組み化できればと思っています。

休場:私はチームを強くするためには個人がまず営業として強くないといけないと思っています。なのでメンバーの1人1人の力を上げていきたいというのは、結構強く思っていて。これからもチームとして担当する範囲や幅は変化していくと思いますが、目指すべきところは個人としても強い営業チームだと思っています。

千田:それでいうとOKANさんがすごいのは、今年の4月にエンプラセールスチームの単月最高売上を達成したんです。確か去年の5倍くらいになって。しかもその時に一番売り上げたのが、第二新卒で入られた若手の方なんです。熟練のエースの方ひとりが稼いでいるというのではまったくなく、 若い方も成果を出されている。ここ1年の取り組みで、しっかり仕組みができてきている強いエンプラ営業チームになっていらっしゃるんだなと感じますね。

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