企業経営にAIは欠かせない存在にーーChatGPTでエクセル財務情報分析「ジュリエット」開発のウラ側を聞く【CACテックインサイト】

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AI財務分析ジュリエットを開発したジュリオチーム(左から藤原祥雄さん、姥貝賢次さん、當銘大河さん)

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載。毎月第2水曜日に開催される Monthly Pitch へのピッチ登壇をご希望の起業家の方、オーディエンス参加をご希望の起業家の方の応募はこちらから

CACテックインサイトはサイバーエージェント・キャピタルのテクニカル・マネージャー、速水陸生がスタートアップのテックインサイトをお聞きするシリーズです。ChatGPTをはじめ、テクノロジーが大きく動く今、各社の技術的な取り組みをお伝えします。

ChatGPTを搭載した財務AI「ジュリエット」を7月4日にリリースしたのがサイバーエージェント・キャピタルも支援するジュリオです。ジュリエットはエクセルなどの表データを取り込み、一つのクリックでAI分析が可能な財務AIアシスタントになります。

財務というセンシティブな情報を扱うことから万が一にも誤ってこれらの財務情報が機械学習のトレーニングに使われることがあってはいけません。開発を進めるジュリオ代表取締役の姥貝賢次さんは、公認会計士とエンジニアの「二つの顔」をお持ちで、このような会計業務における不安点や課題を熟知しているのも大きな特徴になっています。

将来的には大量なデータの処理、最新の開示情報や改正された法令などへの素早い対応、会計や経理に特化したAIモデルの開発なども計画されているそうです。すでに利用にあたっている会計事務所やコンサルタントなどの専門家からは時間短縮やセキュリティ設計など、財務知識を備えたAIとして高い評価を受けています。

サイバーエージェント・キャピタルのインサイトでは、開発にあたったジュリオ代表の姥貝さんと藤原祥雄さん、當銘大河さんにその開発の裏側をお聞きしました。

まず最初にジュリオが提供するサービスについて教えてください

姥貝:OpenAI社のネーミングルールの影響でいくつかの変更がありましたが、私たちは財務AIジュリエットというサービス名に落ち着いています。当社では、以下の3つのサービスを提供しています。1つ目は主力となる財務AIアシスタントのジュリエットです。2つ目は、このサービスを十分に活用するには一定のテクニックや知識が必要なため、それに関するコンサルティングも行っています。

3つ目のサービスはAI開発に関する技術提供や開発支援です。というのも大手企業のみなさまからは、実際にAIを利用したいという要望が多く寄せられていて、例えば、オーダーメイドのAIを開発したいという場合には、ノウハウの提供を行っています。

大手企業が社内GPTの活用を進めているのを見て、自社でも同様の取り組みをしたいけれど、具体的な進め方が分からないという場合には、当社の財務AIジュリエットのパーツを提供し、お客様のセキュリティポリシーに基づいて組み立てていただくというような形での技術提供も行っています。

まさにプラモデルのパーツを提供し、お客様に組み立てていただくというイメージです。これらの技術提供によりさまざまなニーズに対応し、ChatGPT活用のサポートを行いたいと考えています。

特に注目はやはりChatGPTのインテグレートですよね。組み込みにあたってどのような工夫をされましたか

當銘:本家OpenAI社のChatGPTでは、AIの性格を創発的なチューニングにしており、人間らしい振る舞いを可能にしています。しかし、財務の場合は少し堅い方が好ましいんです。というのも財務分析を指示するたびに異なる出力が得られるというのはまずいからです。

当社では財務に合った性格といいましょうか、「真面目くん」のAIチューニングを行っています。これが本家OpenAI社のChatGPTとの主な違いです。また、表の入力も可能になっていて、「表の入力ボタン」を押すと、表をそのまま貼り付けることができます。みなさんはエクセルで財務情報を管理していることが一般的ですので、それをコピー&ペーストして読み込むと、1クリックで自動的に分析指示が出せる仕様としています。

面白いですね

姥貝:今後はGoogleのBardなどの他のAIも導入するマルチAI仕様を進める予定です。実際に試してみたところ、GoogleのBardも非常に優れていると感じました。私たちはユーザーが分析結果を得るために、適切な切り替えやオプションを提供することを考えています。例えば「分析しろ」と指示されても、具体的にどのような分析をすれば、どのような結果が返ってくるかは分かりづらいですよね。そんなときには、プロンプトを選択するだけで当社が用意した分析のテンプレートを基に財務分析を始めることができます。

また、分析結果が出た後は「さらに深いレベルの分析を行ってください」といった質問をすることで、ユーザーにとって使いやすい財務AIシステムを提供できればと思っています。

確かに、どのように質問すれば良いかわからないというニーズはChatGPTを使用しているユーザーには多いかもしれませんね

姥貝:将来的には、税法や通達、判例、会計基準など、財務に関する情報を会計専門家の方々が活用できるようにすること想定しています。また、最近のアポイントメントでいくつかアイデアをいただいていて、例えば株価や最新の有価証券報告書などを取り込むすることで、財務AIの強化が図れるのではないかと考えています。

こういったデータはジュリオ側でもっているのですか?それとも一般的にインターネット上で公開されている情報を組み込んでいるのでしょうか

當銘:最初は公開されている法律などを包括的に利用することから始めました。というのも、法律には著作権の制約がないんですよね。さらに行政が提供している情報などは読みづらく分散しているため、通常だと利用がしにくい状況です。これらの情報を活用することから始めることで、当社の技術力を向上させること計画しています。

オーダーメイド型の場合は、企業固有のドキュメンテーションなどとも結びつけることも可能ですよね。なので、プロンプトエンジニアリング、ファインチューニング、エンベディングという技術を活用しながら各企業に汎用的なソリューションを提供し、同時にオーダーメイドの要件にも対応していきたいです。

OpenAI社のChatGPTを利用するにあたって、会社の情報が学習に使われるのではないかとの懸念や、チャットの履歴が他者が見れてしまう情報漏洩の発表などがありました。財務といった大切な情報を取り扱うにあたり、何か工夫などされていますか?

姥貝:財務情報は、上場会社の開示情報以外はトップレベルの機密情報となります。財務を取り扱う場合には情報露営やセキュリティに関して特別な配慮が必要となります。

ChatGPT等のLLMには特有の情報漏洩リスクがあります。それは「LLMが世界共通の頭脳であること、入力したデータをLLMが学習してしまう可能性があること、学習された情報は他社に漏洩する可能性があること」です。そのため、Web版のChatGPTなど、個人が手軽にアクセスできるLLMは情報漏えいリスクが伴いますので、基本的には業務利用は避けたほうが良いといえます。

一方で、ChatGPTを業務利用して業務効率化したい、生産性向上させたいというニーズも日に日に高まっています。そこで、財務AIジュリエットでは「情報漏洩を防止するため、入力したデータはLLMが学習しない」設計で作っています。このため、当社の財務AIジュリエットを利用する限り業務で利用することが可能なものにしています。

最近のニュースを見ていると、プロンプトデザインやファインチューニングから、エンベディングまでをカバーしたスタートアップはそれほど多くないように感じます。参考になるような概算や情報源は存在するのでしょうか

當銘:これは当社のCTO藤原さんさんと相談しながら、状況によってファインチューニングとエンベディングのどちらがよいのかについて、何度も議論を積み重ねています。

藤原:いろいろな話し合いの中で、財務情報をChatGPTに提供する際には、トークン数の制約があることが分かってきたんです。そこを克服し、企業が満足できる答えを導き出すために、エンベディングは重要な要素の一つではないかと考えています。

他の製品でChatPDFというサービスがあります。これはPDFを読み込ませると、内部でエンべディング処理を行い、そのPDFに関する質問を自然言語で行うことができるものです。このようなサービスを参考にしたりはしています。

自社で言語モデルを作り上げることは想定内でしょうか、それとも範囲外でしょうか

藤原:雑談の範疇でお答えしますが、現状では費用面の負担が大きいと考えています。最近、サイバーエージェントさんも言語モデルの開発に取り組んでおり、GPUなどの調達に多額の資金を投入しているとの話も聞かれます。まともに開発しようと思うと、資金面での負担は避けられないかもしれません。

ただし、近い将来はオープンソースなど、より手軽に開発できる環境が整のうのではないかと予想しています。そうなれば、我々も含めて多くの人が言語モデルを作りやすい状況になるでしょう。次の段階に進むために我々も小規模な部分から進んでいきたいと思っています。

基盤モデルの開発にチャレンジするよりも、財務という特定の領域に特化したアプリケーション層で戦っていくことを考えているのですね。最近では、ChatGPTの登場からこのような動きが市場で非常に早いスピードで進んでいるように感じられるのですが、その速さの秘訣や要因はどこにありますか

當銘:やはり開発のコアメンバーの全員が、過去に同じチームで一緒に事業開発をしたことのある構成ということが大きいですね。長い付き合いと、それぞれの豊富な経験値があるからこそ、フルリモートの作業環境でも意思疎通を可能にしています。このチームでの開発は、僕にとって非常にやりやすいです。

私自身もそうですし、みなさんエンジニアリングをある程度理解しているというのはこのプロジェクトにおいてスピード感ある進行を可能にしたと思っています。ただし、藤原さんがおっしゃっていることを完全に理解できるまで時間がかかる場合もあるので、都度、意思疎通を図っています。

一方、普段お話されている会計の領域では、エンジニアリングからはかなり遠い方々が多いという印象がありますが、そのギャップを感じることがありますか

姥貝:おっしゃる通り、会計業界の方々ややITに明るくない側面があると思います。もし会計業界の方が起業して財務AIを開発しようとすると、どうしても、財務知識のないエンジニアの方々に財務の知識を教えながら進めるケースなるので、開発がとても大変になると思います。逆に言えば、ジュリオは財務とITの両方の深い知見を持つチームなので、市場における一定程度の競争優位性を築くことができるかもしれないと思っています。

なるほど。そこは確かに参入障壁となりそうですね。ちなみにお客様との日常的なコミュニケーションや、過去のご経験からニーズや課題を把握されているのでしょうか?

姥貝:実は私、時折監査のお手伝いをしたりしているんです。そもそも今回のプロダクトのきっかけもその中での出来事で、ChatGPTに財務分析をさせれば短時間で結果が出るのに、なぜ自分は何時間もExcelの加工作業に費やしているのかと思い、試しにダミーデータを使ってChatGPTに分析をかけてみたんです。すると驚くような結果が出たため、この技術を活用したプロダクトを作ろうと思ったんですよね。

ITに不慣れな方々にもこのサービスを利用してもらえそうでしょうか。それとも少し難易度が高そうでしょうか

姥貝:主に会計士や税理士、財務関連の専門家の方々がITツールとして利用しているのは、ここ20年ほど本当に変わらずエクセルしかありません。そこに不便を感じている人が多く、今回新たなAIを活用できるという点について、たくさん方々が期待を抱いており、数多くのお問い合わせをいただいています。

例えば税理士の方々は税法のリサーチをするのですが、そもそも税法は非常に難解で読み進めること自体が困難です。こういったケースにChatGPTは中学生でも理解できるレベルの優しい文章で要約してくれる能力が優れており、この機能への期待があります。

また、事業計画作成時に将来予測を行う際にも、関数の組み立てが必要です。自分自身が関数を組んだ場合は理解できますが、他の人が組んだエクセルの関数を理解することが難しく、結局自分で関数を組み直さなければなりません。

このような知識の継承やノウハウの共有が難しいのも、エクセルなどのツールで発生する課題です。しかし、ChatGPTを使用することで、新人でもベテランが行うような分析作業が簡単に行えます。

このように、ChatGPTを活用することで分析作業が迅速に行えるなど、事務の効率化に大きく貢献できる可能性があります。この使い勝手の良さが、多くの関心を引いている理由だと思います。

ChatGPTのようなツールがここまで一気に評価された理由をどのように考えられてますか

藤原:例えば、税理士さんはPythonを利用して1年間の企業の仕訳データを分析するという方法は選ばないですよね。でも当社の財務AIであれば、データをコピペして読み込ませることでPythonを使わずにだれでも簡単に分析が可能です。この手法に対してやはり反響をいただいています。

人の役割も変わりそうですね

藤原:私自身も、ChatGPTの誕生後はスピードの次元が1つ変わったように感じています。生産性について言えば、10倍になったのではないかと感じるほどです。

以前のAI開発は、機械学習や専門的な知識を持ったアカデミックな人々や、博士号を持ったチームだけが活躍できる領域でした。しかし、突然、そういった人々がチームにいなくても、高性能なエンジンが手に入り、誰でも好きなF1マシンを作ることができるようになったかのような世界になったんですよ。

開発について言えば、将来的にコードを書くのはAI、人間の役割は指示やチェックに移行していくのではないかと思っています。自動でシートのチェックなども行うツールが登場するかもしれませんが、基本的には指示を出し、チェックを行い、決断を下すという役割が人間の主な仕事となり、AIがメインの開発作業を担当するイメージになるのかなと考えています。

最後、今後の展望や変化についてどのように考えているか教えてください

姥貝:そうですね、多分全ての企業がAIを使う時代がすぐに来ると思います。AIは業務の効率化に役立ち、ノウハウのレベルも大幅に向上させることができるため、企業経営においてAIは欠かせない存在になってくると思います。

法人向けのAIは様々なコンセプトで展開されていますし、エンタープライズ企業も独自のAIを開発していると思いますが、まだAIの波に乗りきれていない企業や技術力に不安のある企業には、当社のサービスを活用してもらえればと思っています。

また、経営においては財務情報が必ずつきまとうもののため、財務に特化したAIの存在が重要です。最終的にはすべての企業の経営陣に財務AIを導入し、活用しながらマネジメントを進める、そういった世界がやってくると思っています。そしてこれが実現すれば、国の力も向上するでしょうし、当社がそのような世界に貢献できることを願っています。

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