デジタルクローン作成のDelphi、270万米ドルをシード調達——電話やSlackと連携、故人をメンターにすることも可能に

大ヒットしたSF／ホラー TV シリーズ「ブラック・ミラー（Black Mirror）」の中で私が一番好きなエピソードは、今から10年前に初放送された「第1話ずっと側にいて（Be Right Back）」で、死んだ元カレの SNS 投稿やメールを分析して人格を再現するサービスを利用した女性の疎外感を捉えたものだ。（→ 日本の Netflix 鑑賞ページ）

2013年当時、私たちの多くはすでにスマートフォンやパソコンで膨大なデジタル通信の痕跡を残していた。

今日、それは実際に、少なくともデジタル空間では可能だ。アメリカで設立され、古代ギリシャの占い師であり知識の伝授者であった Delphi にちなんで命名されたスタートアップ Delphi は、270万米ドルの資金調達と新しい AI デジタルクローニングサービスを発表した。

Delphi は、ボイスクローニングスタートアップ ElevenLabs との提携により、あなたの性格や書き方、話し方、音声をできるだけ忠実に模倣した AI チャットボットを作成する。

そして、AI クローンを Web サイトや Slack に配備したり、電話番号につないで、あなたの代わりに電話に出たり、電話の相手と話し合ったりすることができる。

Delphi はまた、与えられたプロンプトに対するあなたの反応をできる限り、クローンの中にあなた独自の思考プロセスを再現しようとする。

Delphi の創業者兼 CEO Dara Ladjevardian 氏は、VentureBeat のインタビューに次のように答えた。

私たちは、確かに「ブラック・ミラー」よりも楽観的でありたいと思っています。私たちは、この技術の恐怖の側面ではなく、楽観的な側面を見たいと願っています。

新たな資金調達ラウンドは OpenStore の CEOで、Founders Fund （インテリジェンスソフトウェア会社 Palantir の創業者であり、Gawkerを破滅させた訴訟の支援者で、老化を逆行させる若い血液移植の有望性を論じ話題になり、物議を醸した VC の Peter Thiel 氏が設立した有名なベンチャーファンド）のジェネラルパートナー Keith Rabois 氏がリードし、Lux Capital、Xfund、MVP Ventures、SaxeCap が参加した。Delphi を支援した他のエンジェル投資家には、AngelList、EightSleep、Soylent の創業者がいる。

下のスクリーンショットにあるように、Rabois 氏はすでに自分のクローンを作っている。

Keith Rabois 氏が Delphi で作成した AI デジタルクローンのスクリーンショット
Image credit: Delphi

有名人から愛する人まで、誰でもクローンにできる

自分のクローンを作ることに興味はない人もいるだろう。Delphi は他の人々にも機能する。今のところ、同社はユーザの許可なしに、生きている人であれ死んでいる人であれ、好きな人のクローンを作ることを制限していない。

元恋人のクローンを作って、少なくともコミュニケーションの部分だけでも関係を再開したいのであれば、その人の文章や会話のサンプルを入手してアップロードすれば、それは可能だ。

故 Steve Jobs 氏やまだ生きている Elon Musk 氏のクローンを作りたいのであれば、Delphi では、ニュースのインタビューや YouTube の動画など、公共のインターネットからデータを抽出すれば、それも可能だ。Delphi はすでに、オマハの予言者であり伝説の投資家である Warren Buffett 氏のクローンを社内用に作成したこともある。

もし Buffett 氏が私に「Dara、これを消せ」と言ってきたら、私はそれを消すつもりだ。

実際、Delphi はすでにその AI ソフトウェアを使って、Steve Jobs 氏、Jeff Bezos 氏、Robert Oppenheimer氏、Estée Lauder氏、Socrates 氏、Lao-Tzu 氏、Aristotle 氏などの哲学者、生死を問わずすべてのアメリカ大統領など、数多くの有名人のクローンを作っている（Delphi の Web サイトには、雑誌界の大物 Anna Wintour 氏や元 Chicago Bulls のバスケットボール選手 Michael Jordan 氏などの写真のコラージュが掲載されている）。

Delphi は以前、ソフトウェアのベータ版立ち上げ時に、初期のユーザにチャットボット形式でこれらのクローンと会話することを許可していたが、現在ではオンラインで一般公開されていない。

恋人や元恋人のクローンを作ったり、有名人になりすまして人を騙したり犯罪を犯したりする人がいることを、Ladjevardian 氏は VentureBeat に認めた。

私たちにはそれを防ぐガードレールはありません。

Ladjevardian 氏が VentureBeat に語ったところによると、Delphi はすでに著名な医師でポッドキャスト司会者でもあるPeter Attia 氏から削除要請を受けており、それに応じて無許可の彼の AI クローンを削除したという。

Delphi の AI クローンを支える技術

Delphiの創業デザイナー Martin Amiri 氏が作成した Delphi のデジタル AI クローンスタジオのスクリーンショット
Image credit: Matin Amiri/Delphi

Delphi のデジタルクローニングソフトウェアは、1979年のイラン革命で世俗王政から神権政治に激変する以前、イランで起業家として活躍していた亡き祖父と再会したいという、移民2世の Ladjevardian 氏の切実で心からの願いから始まった。

OpenAI が2020年夏に大規模言語モデル（LLM）「GPT-3」をリリースしたとき、Ladjevardian 氏は、政府、石油、ガスを顧客とするエンタープライズ向け AI ソフトウェアアプリケーションプラットフォーム企業 C3 AI でソフトウェアエンジニアとして働いていた。

Ladjevardian 氏は VentureBeat に次のように語った。

だから、私はこれに人生を捧げるべきなんです。ここにはたくさんのチャンスがありそうだと感じています。

Ladjevardian 氏は、C3 AI での仕事を辞め、彼の最初の会社 Friday を設立した。

当時、Ladjevardian 氏は祖父についての本を読んでいた。

しかし彼は、自分の経験について、祖父と実際に会話したり、質問したり、テキサス州ヒューストンでイラン系移民の第二世代として孤独に育った自分にはないものを、師としての祖父に頼りたい、と切に願っていた。

GPT-3を利用し、オープンソースのエンベッディング（AI が意味や関連付けを形成するために利用する情報のクラスター）を使って、祖父の本を使って祖父のクローンを作り、私が Friday を立ち上げる際に、私自身の個人的なメンターとして使いました。（Ladjevardian 氏）

この実験は、少なくとも個人レベルでは成功した。Ladjevardian 氏は Friday を売却して利益を得ると、マイアミに移り住み、Rabois 氏の OpenStore で働くことになった。そこで彼は Rabois 氏をメンターとして頼りにし、デジタル AI クローンのアイデアと技術を開発し続けた。

ユースケースとマネタイズ

AI を使ってクローンを作り、個人的なメンターとすることは、人生においてそのようなガイダンスを求める人々にとってはナイスアイデアだが、ビジネスとしてどのようにスケールアップできるのだろうか。

Ladjevardian 氏と Delphi の従業員たちは、この種のソフトウェア、特にコーチ、インフルエンサー、クリエイター、ビジネスリーダーなど、他人に知識を与えることですでに生計を立てている人たちのための市場があると確信している。

私たちは、コーチ、クリエイター、専門家、政治家、CEO など、知的レバレッジの高い人々が、自分自身をスケールアップさせ、他の人々が利用できるようにする手助けをすることに注力しています。（Ladjevardian 氏）

Delphiは、自社のソフトウェアをマネタイズする最良の方法について、まだ試行錯誤を繰り返している最中であるため、料金体系をまだ公にはしていないが、Ladjevardian 氏によると、同社は、人々のデジタルクローンをホスティングし、そのクローンがどれだけのメッセージを送信するかなど、そのクローンの利用者からどれだけの利用料を得るかについて、月額利用料を徴収することを検討しているとのことだ。このスキームでは、音声機能と専用電話を追加するには追加料金がかかる。

すでに Delphi のプライベートベータ版では、グラミー賞受賞プロデューサーの Illmind 氏を含む100人以上が自分のデジタルクローンを作成している。