日本の再エネ普及に「DX(デジタル化)」はどう貢献する/オクトパスエナジー × ACV 芦田ゆきの・松田脩平【ACVポッドキャスト】

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

今回は可愛らしいタコのキャラクターが特徴的なオクトパスエナジーの日本法人の代表である中村肇さんをゲストにお送りします。オクトパスエナジーは、再生可能エネルギー100%の電力提供と独自開発のITシステムを武器に、英国で急成長を遂げ、現在世界9か国に展開するエネルギー小売会社です。

日本では2021年に東京ガスとの合弁会社「TGオクトパスエナジー」を設立し、日本の電力自由化と再エネ普及の流れに革新をもたらそうとしています。インタビューでは同社の事業内容や特徴、日本市場への展開、今後のビジョンなどについてお聞きしました。(記事ではポッドキャストでお話された内容を一部要約してお届けいたします)

オクトパスエナジーが成功したワケ

オクトパスエナジーは英国で急成長を遂げ、現在世界9か国に展開するエネルギー小売会社

オクトパスエナジーは、2015年に英国で設立された新興のエネルギー小売会社です。再生可能エネルギー由来の電力を主力商品とし、独自開発のITシステム「クラーケン」を活用した優れた顧客対応力が特徴です。創業からわずか7年で、英国の電力シェアトップクラスに躍り出ました。2021年には東京ガスとの合弁で日本法人を設立し、日本市場への参入を果たしています。中村さんは、「エネルギー業界のAmazonになる」というビジョンを掲げる同社の特長を、次のように説明しています。

――オクトパスエナジーの特徴について教えてください。

「特徴は大きく二つあります。ひとつは、再生可能エネルギー100%の電力を提供する『グリーンプラン』を主力商品としていることです。もう一つは、お客様対応に必要な基盤を『クラーケン』という独自のITシステムで一元管理している点です。このシステムを武器に、お客様のニーズに合わせて柔軟にサービスを進化させていくことができます。この二つの特徴でオクトパスエナジーは他社との差別化を図っています」。

英国の電力小売市場は自由化が進んでおり、50社を超える事業者が競争を繰り広げているそうです。後発であるオクトパスエナジーがそのような環境で急成長を遂げられたのは、どのような要因があったのでしょうか。中村さんは、なかでも独自システム「クラーケン」の存在が大きいと分析しています。

というのも、そもそもオクトパスエナジーは英国のケンブリッジ大学で同窓だったテクノロジーに強い3名が立ち上げた企業ですが、3名ともエネルギー事業に精通していたわけではなかったとのことです。金融ならフィンテック、他にも教育テックとかアグリテックなど、テクノロジーでディスラプティブに業界を変えていく流れを受け、自分たちが参入すべき業界を模索していた際にエネルギー業界に改革の余地を見出したという背景があるそうです。

実際に、従来の電力会社は部門ごとにシステムが分断されており、顧客対応にも非効率が生じていました。そこでオクトパスエナジーは顧客データ、電気使用量、料金計算、請求金額、電力供給などを一元管理できるフルスタックプラットフォームである「クラーケン」を開発。これにより、担当者が迅速かつ的確に顧客ニーズに応えられる体制やエンジニアが圧倒的スピード感で開発を進められる体制を構築。こうした強みについて、中村さんは次のように語ります。

――「クラーケン」は、どのような点で他社のシステムと異なるのでしょうか。

「『クラーケン』の最大の特徴は、顧客対応に必要なあらゆる機能をひとつのプラットフォームに集約している点です。これにより、オペレーターはその場ですぐにお客様の要望に回答できるんですね。問い合わせに対する回答までの時間の予測をお客様へ共有したり、オペレーターを最適配置する推奨案を出したりと機械学習や人工知能(AI)の力も大いに活用しています。

また、お客様からのフィードバックを基に、機能やアプリを柔軟にアップデート・開発していくことも可能で、これもシステムが一つに集約されているため、メンテナンスコストも低く抑えられるのです。更にシステムはクラウドベースで開発しているので、横展開しやすいことや開発効率が良く、このスケーラビリティはグローバル展開していく上でも重要な利点です。このシステムの仕組みをライセンスという形で他のエネルギー企業に提供できる点も革新的で、これによりエネルギー業界全体の効率性を上げることにも繋がっていくと考えています」。

再エネ普及を推進する英国のエネルギー政策にうまく呼応できたことも、オクトパスエナジーの成功に貢献したようです。

――英国政府のエネルギー政策も追い風になったのでしょうか。

「英国では北海油田の枯渇を受けて、エネルギー政策の大きな転換が進んでいました。ガス頼みから脱却し、風力などの再生可能エネルギーにシフトする流れが加速したのが背景なのですが、オクトパスエナジーは、再エネ電力の普及という国の方針にマッチした事業モデルを展開できた。これも追い風になったと考えています」。

日本市場への展開

オクトパスエナジーウェブサイト

日本の電力小売市場も2016年に全面自由化されましたが、新電力のシェアはまだ約18%程度にとどまっています。再エネ普及も、英国と比べると10年近く遅れているのが現状です。

そのような日本市場に、オクトパスエナジーは2021年に参入しました。合弁相手の東京ガスは言わずと知れた大手エネルギー企業。しかし、その大手とタッグを組んだ狙いはどこにあったのでしょうか。中村さんは次のように語ります。

――日本進出の狙いと、東京ガスとの協業の意義を教えてください。

「日本はこれから再生可能エネルギーの普及が本格化する市場だと捉えています。脱炭素の必要性も国際社会に向けて明確に打ち出しています。加えて、人口規模は英国の2倍近くあります。そういった意味で、日本は非常に魅力的な市場に映ったのです。しかし、電力会社のデジタル化という点では英国より遅れている。その溝を埋めるには、日本のエネルギー業界をよく知る強力なパートナーが必要でした。長年ガス事業で培ったノウハウとブランド力を持つ東京ガスは、最適の相手だったのです」。

一方で、日本市場の開拓には課題も多いと中村さんは指摘します。再エネへの理解が英国ほど浸透していない点や、電力会社の企業体質など、様々なハードルがあるのです。また、中村さんは、今後のオクトパスエナジーの展望についても語ってくれました。同社は単なる電力小売会社にとどまるつもりはないようです。むしろ、再エネ普及を軸にしながら、需要と供給の最適化に資する新たなサービスの開発にも乗り出そうとしています。

――日本でのビジネス展開における課題をどうご覧になっていますか。

「まず、日本では再エネの普及率がまだ低く、再エネ電力の安定供給に対する懸念も残っています。電力会社の多くは、デジタル化という点で出遅れている印象も受けます。こうした状況を変えるには、我々自身が『トランスフォーメーション』を実践し、業界の殻を突き崩していく必要があります。例えば、新しい発想を持つ若手人材の登用などを積極的に進め、従来の慣習にとらわれないイノベーションを起こしていく。その過程は決して平坦ではありませんが、アクセンチュアのような先進的な企業とも協業しながら、一歩ずつ前進していきたいと考えています」。

――今後、オクトパスエナジーはどのような方向性を目指すのでしょうか。

「我々の使命は、再生可能エネルギーの普及を通じて持続可能な社会の実現に貢献することです。電力の小売りはその手段の一つに過ぎません。再エネは天候に左右されるため、安定供給のためには需要と供給のギャップをうまく調整していく必要があります。

そこで、我々は電力使用のピークをシフトさせるダイナミックプライシングの導入など、ITの力を活用した新たなソリューション開発にも力を入れていきます。将来的にはユーティリティ分野全般に事業領域を広げ、グローバルに通用するプラットフォームを目指したいと考えています」。

同社は、従来の電力会社の枠を超えた変革を志向しているようです。それは、CEO自らが「エネルギー業界のAmazonになる」と語る通り、既存の産業構造をも塗り替えかねない野心的なビジョンと言えるでしょう。その実現のためには、志を同じくする企業とのコラボレーションが欠かせません。

――パートナー企業に期待することを教えてください。

「オクトパスエナジーが目指すのは、エネルギー産業におけるイノベーションです。その実現のためには、志を共にする多様なパートナーとの協業が不可欠だと考えています。例えば、再エネ普及という観点から、発電事業者や蓄電池メーカーなどとの連携を深めていきたい。

ITソリューションの分野では、アクセンチュアのようなデジタル先進企業の知見に大いに期待しているところです。私たちのプラットフォーム構想の実現に向けて、戦略的な協業を模索していければと考えています」。

日本の電力自由化とデジタル化はまだ道半ばと言えますが、オクトパスエナジーの挑戦は、業界の変革を加速させる起爆剤になるかもしれません。ぜひ詳細はポッドキャストで中村さんの生の声をお聞きください。

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