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機械のためではなく人のためにコードが書けるかーーGitHub CEOのクリス・ワンストラス氏にインタビュー

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オンライン視聴者を含む延べ人数約15,000人が参加した「GitHub Universe」。そのほとんどがエンジニアなのかと思いきや、登壇者のリストを見てもわかるように、今ではNPOや自動車メーカー、NASAなど様々な企業やプロジェクトがGitHubをコラボレーションツールとして活用しています。これまでにGitHubが使われたプロジェクトの総数は、2,700万件に及びます。 2012年、世界有数の…

1,000人の参加者が集まった「GitHub Universe」
会場に1,000人が集まった「GitHub Universe」

オンライン視聴者を含む延べ人数約15,000人が参加した「GitHub Universe」。そのほとんどがエンジニアなのかと思いきや、登壇者のリストを見てもわかるように、今ではNPOや自動車メーカー、NASAなど様々な企業やプロジェクトがGitHubをコラボレーションツールとして活用しています。これまでにGitHubが使われたプロジェクトの総数は、2,700万件に及びます。

2012年、世界有数のベンチャーキャピタル「Andreessen Horowitz」の共同ファウンダーであるマーク・アンドリーセン氏は、“Software is eating the world”と予見しました。それが今まさに、GitHubのような立役者のもとで現実のものになりつつあります。ソフトウェアが世界を食い尽くしていく。

「これからは、全ての企業がソフトウェア企業になり、誰もがエンジニアになる時代が来る」と話すGitHub CEOのChris Wanstrath(クリス・ワンストラス)さん。ご自身もエンジニアであるクリスさんに、彼が考える優れたエンジニアの条件、キャリアへのアプローチなどについて聞いてみました。

(※この取材は、クリスさんによる基調講演後、日本のメディアや記者が彼を囲んで行ったものです)

エンジニアとして大事なのは、常に生徒であり続けること

GitHub CEOのChris Wanstrathさん
GitHub CEOのChris Wanstrathさん

Q. 今でも自分でコードを書くことはありますか?

A. GitHubは大切過ぎて自分ではもう手を動かせない。

YESとNOだね。最近この話をちょこちょこしているけれど、プロダクションに使われるコードは一切書かない。コーディングすることの一番の難しさは、メンテナンスだと思ってる。常にサービスのスピードを保って、バグがない状態にしてセキュリティにも対処する。僕自身はもうそれが得意だとは言えないし、それを本業にする優秀なチームに任せている。

僕は、Atomのパッケージの一部をコーディングしたり、ワークフロー改善のために自分で何かを作ったり、Herokuのウェブサイトもあるけれど、基本は自分のためのコーディングしかしない。重要過ぎて、もうGitHubのコーディングはできないよ。

Q.優れたエンジニアの定義は?

A. コードを機械のためではなく人のために書けるかどうか。

何を優秀とするかは、そのエンジニアの仕事内容に寄る部分が大きい。でも、根幹にあるのは、優秀なエンジニアはコードは機械のためではなく人のために書くものだと理解していること。自分が書いたコードは、他の誰かが読むものなんだ。その事実を常に頭の中に入れて動けるかどうか。エンジニアに成り立ての若い頃は、最速のアルゴリズムを書いたり、超コンパクトなコードを書きたいと思ったりする。でも、2日後にそのコードを見返しても、それが何を意味しているのか理解ができなかったりする。それはコストでしかない。

優秀なエンジニアは、人と一緒に上手く仕事ができる人だと思う。僕たちが尊敬する、例えばFacebookのような企業を見てみても、彼らには素晴らしいエンジニアリング文化がある。その文化とその中にいる人をすごく大切にしている。エンジニアのソフトウェア開発への情熱を理解しているからこそ、それを守るための時間やお金をかけている。大切なのは、自分がチームの一員であることを理解し、コードは人のために書くものだというヒューマンタッチだと思う。

また、デザインこそ重要という考え方が広まって来た今、デザイナーとデベロッパーの境界線がどんどん薄れている。昔はデザインなんて後回しというのが常だった。中身を開発してから、外側を適当につけてもらって。この変化が人に与えているインパクトは大きい。何を作るのか、誰がそれを使うのかという全体像を見ることができるエンジニアは素晴らしいね。

Q.エンジニアは、そのキャリアに対してどんな風にアプローチするべきでしょう?

A. 常に生徒であり続けること。

僕が大切にしているのは、常に生徒であり続けること。エンジニアになって何かすごいものを作ると、それに興奮して学ぶことをやめてしまう人がいる。僕もかつてはそうだった時期があったからわかる。でも、就職してエンジニアリングの仕事を始めることは終着点じゃなく出発点。だから、作っては学ぶことを続けなきゃいけない。

企業もまた、それができる環境を用意すべきだと思う。大手企業にGitHubを使ったソフトウェア開発のワークフローを見せてもらうことがあるけれど、何かを見直したり新しいものを修得する時間を設けていないことが多い。本来、「学習」はすべてのプロセスに組み込まれているべきものだ。

エンジニアは、コーディングしている時間の一部を必ず新しいことを学んで吸収する時間に確保すべきだよ。新米だろうがベテランだろうが関係なく。毎日Eメールを読むように、バグ修正をするように、コーヒーを飲むように新しいことを学ぶ。学ぶことは、そもそも人間であることの醍醐味だと思ってる。

ソフトウェア業界の変化は本当にめまぐるしくて、僕が10年前にやっていたことなんてとっくに時代遅れ。1年前のことすら既に時代遅れかもしれない。だからこそ、自分で意志を強く持って取り組まなきゃいけないし、常に自分で自分を奮い立たせなきゃいけない。優れたソフトウェアエンジニアは、学び続けることができる人だと思う。

オクトキャットも大事、でも当事者であることがもっと大事

GitHubのキャラクター「Octocat 」(オクトキャット)
GitHubのキャラクター「Octocat 」(オクトキャット)

Q.GitHubと言えば、その濃いコミュニティが特徴です。それを作る上で大切だったことは?

A.自分たちが当事者であること。

僕たちも、GitHubの一部であることだね。僕たちもそこに参加している。認知を高めてユーザーを増やすために広告を打ったり、カンファレンスをスポンサーしたりした。でも、濃いコミュニティができた最大の理由は、僕たちがその一部であることだったと思う。カンファレンスの場にも足を運ぶし、時には講演をするし、オープンソースのプロジェクトにも一緒に取り組む。

GitHubが特別なのは、それがGitHubを心から愛する人たちによって作られているからだと思う。これ自体は別に珍しいことではないかもしれないけれど、作り手もみんなGitHubを使っているし、そのコミュニティを愛しているし、GitHubをより良くすることに貢献したいと思っている。自分の居場所や、今やっている大好きなことが、コミュニティの役にも立つなんて最高だよ。オクトキャットのTシャツを作って配布するのもいいけれど、何より、自分も当事者としてそこにいること。これに尽きると思う。

Q.GitHubというコミュニティを作る上でオクトキャットは欠かせないものですか?

A. もちろん、すごく大事。

今はあちこちに登場するオクトキャットだけれど、初期の頃は404のエラーページにしか登場しないキャラクターだった。オクトキャットを取り入れた理由はシンプル。新米エンジニアでもベテランでも、新しいことを学ぶのは常に怖い。でも、仮に何かを壊してしまっても、笑顔のネコのキャラクターが迎えてくれる。仕事に対して僕たちは真剣だし本気だけれど、だからといっていつも真面目でなきゃいけないわけじゃない。それってすごく大事なこと。

基調講演のステージでも言ったように、エンジニアの大半は毎日コンピューターに向かって、GitHubを使ってコーディングをしている。そんな毎日の中でも遊びたいし、笑いたいし、仕事を楽しみたい。オクトキャットは、それを上手く体現してくれていると思う。それに、オクトキャットって別に誰にも似ていないでしょ?だから逆に言うと、誰にでも似ることができる。みんながオクトキャットにちょっとでも自分を重ねられるといいなと思う。

オクトキャットは、GitHubのブランドにとってすごく大きな存在だし、GitHubを楽しくて他とは違う特別なものにしてくれている。ミスをしたっていいんだ、そこからちゃんと立ち上がれば。オクトキャットがそういうメンタリティにさせてくれているところがあるんじゃないかな。

誰でもエンジニアになれる世界を目指す

GitHub CEOのChris Wanstrathさん
GitHub CEOのChris Wanstrathさん

Q.エンジニアとして、周りに目指したいロールモデルはいましたか?

A. ビル・ゲイツが雑誌の表紙を飾っているのを見て、僕にもできるかもと思えた。

僕は、世界がビル・ゲイツのような人物について盛り上がっている時代に育った。彼のようなエンジニアが雑誌の表紙を飾って、90年代に誕生した巨大企業が常に話題になる時代だった。だから、ロールモデルは沢山いたよ。

世界で一番のお金持ちがエンジニアだと知った子どもがいたとして、その人が自分と同じ髪の色や目の色をしているのを見たら、「ってことは、僕にもできる?」と思えるかもしれない。今ある大きな課題の一つは、今の若い人にとってそういう存在がいないことだと思う。でも、認知されていないだけで、実際には目指したくなるようなエンジニアは大勢いる。だから、みんなにとってそういう存在が見つかるようにしていきたい。

Q.プログラミングを学ぼうとする人たちに対して、GitHubは今後どう貢献していきますか?

A. 学び方は人それぞれ、できるだけ多くの選択肢を提供したい。

次世代のエンジニアは、きっと今のエンジニアとは全く違うものになる。きっと使うツールも違う。GitHubがまさにそうで、2008年にGitHubが登場するまで、GitのワークフローはEメールベースだった。でも、僕を含む新たな世代にとっては、Facebookみたいなメッセージボードが当たり前だった。だから、Gitのワークフローを、メールからみんなが慣れ親しんだFacebookやTwitterのやり方に変えたんだ。

例えば、学生に対して最高の開発ツールを無償提供する「Student Developer Pack」や、先生が授業の履修コースやシラバスをGitHubを使って管理できるオープンソースプロジェクト「Classroom」などを始めてる。学生に教える立場にある先生にも、GitHubを使えるようになってもらう。その他にも、「Black Girls Code」や「Code Academy」などとパートナーシップを組んで、コーディングを学ぶことをより身近なものにするための活動をしている。

僕自身がコーディングを学ぶことに何度か挑戦して挫折したから。本を買ってみたけれどダメだと諦めて、次にビデオで学ぼうとしたけれど、つまらなくて続かなかった。結局、オープンソースで人と一緒にコーディングすることで、コーディングに目覚めたんだ。人にはそれぞれに合った学び方があるから、なるべく多くの選択肢を提供したい。プログラマーという職種は、世界にインパクトを与えられる素晴らしい仕事だし、もっと多くの人が挑戦できるようにしていきたい。

Q.GitHubのCEOとして目指す究極のゴールは?

A.誰でもエンジニアになれるようにすること。

人間が発明したものの中で、ソフトウェアは一番最強のツールだと思う。僕たちにはまだその可能性の全貌が見えていない。でもそれには、世界中の誰もがアクセスできるようにするべきなんだ。その人がどこに住んでいて、どんな人生を歩んで来て、子どもの時に高性能なコンピューターを持っていたかどうかなんて関係ない。誰もが自分の人生の舵取りができるようにするべきで、これからの時代、それを可能にするのがソフトウェアだと思う。

だから、僕にとっての長期的ゴールは、誰もがそのエコシステムに参加できるようにすること。そしてそのエコシステムをサポートすること。ソフトウェア業界には沢山のお金が集まっているし、人が雇用を生んだり、コーディングを学んだりすることを後押しできる。ソフトウェア開発を誰もが選べる選択肢にすること。

テクノロジーが増える分だけ、人間らしくなれる

基調講演に登場したChris Wanstrathさん
基調講演に登場したChris Wanstrathさん

GitHub Universeの幕開けとなった基調講演の中で、クリスさんが話していたことが印象的でした。世間では、テクノロジーの普及によって人の居場所が奪われることを懸念する声があります。でも、それは違うと。

「20世紀は、ハードウェアが主役だった。21世紀の主役は、人だと思う。人類は、テクノロジーを取り入れれば取り入れるほど、人間らしくなることができる。なぜなら、そのテクノロジーやソフトウェアは、どれも人が作るものだから」

より多くの人にとって、プログラミングという手段を習得する機会を提供する。GitHubが掲げるこの長期的ゴールが現実のものになれば、そう遠くない将来、1億人のエンジニアがいる世界が誕生するのかもしれない。そして、その一人一人が1行ずつ、また別の誰かのためにコードを書いていくことで、人とテクノロジーが上手く共存する世界が実現するのかもしれません。

GitHubは、今年頭にアメリカ国外で初めてとなるオフィスを東京に開設しました。現地のコミュニティとしっかり向き合い、共にGitHubという最良のコミュニティを作っていくとのこと。既に世界中に社員を抱えていますが、常に人材募集しているそうなので、詳細は募集要項のページをご確認ください。

クリスさんによるオープニング基調講演は以下の動画をどうぞ。日本の国土地理院が登壇したGitHub Universeのセッション「Changing Lives with Open Data」のレポート記事も併せてご覧ください。

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市民生活をオープンデータ活用で改善する政府や地域行政の事例ーー日本からは国土地理院が登壇 [GitHub Universe]

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2008年2月のリリース以降、ソフトウェア開発におけるコラボレーションツールとして数々のエンジニアを魅了してきた「GitHub」。現在のユーザー数は1,100万人に及び、これまでに2,700万を超えるプロジェクトで活用されてきました。 そんなGitHub初の大型カンファレンス「GitHub Universe」が、10月1日・2日にサンフランシスコで開催されました。その場にいて感じた熱気は、カンファ…

GitHubでGovernment Evangelistを勤めるBen Balter氏がホストする「Changing Lives with Open Data」
GitHubでGovernment Evangelistを勤めるBen Balter氏がホストする「Changing Lives with Open Data」

2008年2月のリリース以降、ソフトウェア開発におけるコラボレーションツールとして数々のエンジニアを魅了してきた「GitHub」。現在のユーザー数は1,100万人に及び、これまでに2,700万を超えるプロジェクトで活用されてきました。

そんなGitHub初の大型カンファレンス「GitHub Universe」が、10月1日・2日にサンフランシスコで開催されました。その場にいて感じた熱気は、カンファレンスというよりGitHubを使う熱心なユーザーが集まる合宿のような印象。2日間で会場への参加者数は延べ1,000人、オンライン視聴者数は14,000人超と大盛況に終わりました。会場の様子はフォトレポートにまとめているのでご覧ください。

30人前後のスピーカーが登壇した今回のイベント。本記事では、10月2日午後に行われたセッション「Changing Lives with Open Data」の模様をお届けします。GitHubを活用する政府や地域行政の事例が紹介され、シビックイノベーションの現場を垣間見ることができる内容でした。

(※シビックイノベーションとは、市民の生活や都市の機能性や利便性向上のために新しいアイディアやテクノロジーを用いること)

GitHubを活用して災害情報などを数時間でオープンデータ化

国土地理院 地理空間情報部情報普及課の課長である藤原英範氏
国土地理院 地理空間情報部情報普及課の課長である藤村英範氏

セッションのトップバッターは、国土地理院 地理空間情報部情報普及課 課長の藤村英範氏。国土地理院では、2003年から「GSI maps」と呼ばれるシステムで地形図、主題図、災害情報などを公開してきました。

オープンソースソフトウェアとオープンスタンダードを積極的に取り入れることで、さまざまな地図制作のニーズに応えることができています。GSI mapsには、「slippy map tile names」や「GeoJSON」などのオープンスタンダードを使い、オンラインまたオフラインのシステムに埋め込むことが可能です。

「災害情報の提供は、国土地理院が抱える最大のミッションの一つです。政府や国民がその時々の最新の状況に直接アクセスできるようにし、また関連組織に対して災害復旧に役立つ情報の提供も行っています。災害復旧時には、通常の4倍のtile accessがあり、オープンデータを使うことで迅速な対応が実現しています」

具体的な事例が、2014年9月27日に発生した御岳山の噴火。火山の周囲を飛行する緊急時写真測量飛行機が、現場の様子を写真撮影。噴火状況を懸念する人が多く、GSI mapsシステムには対応処理能力を超えるアクセス数が集まりました。そのため、急遽GitHub Pagesを使って特設サイトを開発。ものの数時間で、傾斜写真や地形の変形を示すInSAR画像などを提供することができました。

常総市の上空をdroneが飛行
常総市の上空をdroneが飛行

2015年9月11日、茨城県常総市で発生した堤防破損による洪水。国土地理院は上空にドローンを飛ばし、動画に収めた濁流被害の様子をGSI mapsに取り入れました。動画はYouTubeにも掲載。また同様にドローンを使い、ステージごとの災害復旧の様子も捉えました。GSI maps内で斜め写真の比較が困難だったため、再びGitHub Pagesを使った特設サイトを開発しました。

オープンコラボレーションは機能すると話す藤村氏。GitHub FlowとGitHub Pagesを活用し、外部のサポーターや大学などの協力を得ることで、オープンコラボレーションが加速しています。

「特設サイトの初期バージョンは、IEをサポートしていませんでした。でも、外部のサポーターがGitHubでIE9に対応するPull Requestをしてくれたことで、今ではIEもサポートできています。こうしたプロジェクトは今も尚、ソーシャルコーディングによって改善が続けられています」

オープンデータを交通システムの設計に活かす

Remix社の共同ファウンダー Danny Whalen氏
Remix社の共同ファウンダー Danny Whalen氏

2人目の登壇者は、サンフランシスコを拠点とするRemix社の共同ファウンダー Danny Whalen氏。Whalen氏からは、政府や地域行政が公開するオープンデータによって、交通システムの設計や改良がアナログからデジタルに移行している事例が共有されました。

Remixは、主に地域行政を顧客に抱え、交通システムの経路調整や運行スケジュール変更などを設計するためのシステムを開発しています。既に、世界で50社を超える公共旅客輸送機関によって使われているのだとか。

原型となるプロジェクトは、後に共同ファウンダーとなる4人が「Code for America」(エンジニアと地域行政が組み、テクノロジーを活用して社会を良くするための活動)に参加したことがきっかけで誕生しました。リリースしてみたところ需要が高く会社化し、2015年冬にはY Combinatorにも参加。現在10名から成るチームの最たる目的は、より良い公共交通機関の仕組みを提供することです。

従来の
紙とペンの上でコラボレーションをしていた従来の交通網の設計

従来の交通網の設計は、驚くほどアナログなものでした。プランナーが大きな地図を印刷し、その上にルートの再編成をペンで描いて行く。当時のコラボレーションは、みんなが同じ部屋にある一枚の紙の上で作業することを意味したのです。そうして完成した地図を今度は一枚のエクセルシートに落とし込む。エクセルは、200を超えるタブで埋め尽くされていました。目的が達成できるとはいえ、より良い方法があるはずだと考えました。

オープンデータの活用で初日から価値を提供

「僕たちは、コラボレーションしながら交通システムを構築できるWebベースのツールを開発しました。既存ルートは自動に取り込まれ、ルートを表す線をドラッグすることで即座にルート変更ができる。このシステムを使えば、サンフランシスコ市内の公共交通機関の全85ルートを把握したり、ピーク時に必要となるバスの台数や年間売上げなどのデータを即座に割り出すことができます」

超アナログだった交通網のプランニングは、Remixのソリューションによって最新で正確、かつ効率的なものへと変わりました。Remixのシステムは、地図上に描く動作にMapzenが開発するオープンソースのマッピングツール、またセンサス・データ(アメリカ合衆国国勢調査局が収集する国勢調査データ)やGTFS(General Transit Feed Specification)といったオープンデータを活用しています。

GTFSとは、GoogleマップやRoutesyなどの乗り換え案内でも使われているもので、膨大な時刻表と地理空間データを紐づけたもの。このオープンデータがあるからこそ、Remixのシステムを含むさまざまなサービスが実現可能になっています。Remixがしていることは、オープンデータを顧客にとって意味のあるデータに置き換えてあげることに他なりません。

「交通システムのプランナーの目的は、その都市で生活し仕事をする人たちにより良い体験を提供することです。政府機関や地域行政という顧客に対して、オープンデータがあることで僕たちは仕事の初日から価値提供をすることができています。そこには、契約書へのサインやトップダウン型の3ヶ年計画もありません。オープンデータがあるからこそ、初日から結果を出せるのです」

ロサンゼルス市:ストーリーを伝えることの大切さ

ロサンゼルス市のCDO(Chief Data Officer)を勤めていたAbhi Nemani氏。
ロサンゼルス市のCDO(Chief Data Officer)を勤めていたAbhi Nemani氏。

セッションの最後に登場したのは、Code for Americaでも活動し、少し前までロサンゼルス市のCDO(Chief Data Officer)を勤めていたAbhi Nemani氏。在職中、ロサンゼルス市のオープンデータ主導の都市を目指す活動に取り組んでいました。オープンデータの活用を促進するには、オープンデータの価値をわかりやすい形で伝え、アクションを起こすことが大切だと話します。

Nemani氏が市のCDOに就任したのは、そのオープンデータプログラムが開始された後のこと。オープンデータのポータルサイトの平均月間ユニークユーザーは、1,000人ほど。全米で2番目に大きな都市にしては物足りない数字でした。そこで周囲にヒヤリング。同じオフィスで働いている秘書からは「データって何?」と逆に質問されるなど、メッセージを伝えきれていない既存サイトの課題が浮き彫りになりました。

data.lacity.org-before data.lacity.org-after

リニューアル後、それまでLA市長の顔写真などが並んでいたポータルのトップに大きく地図を表示。今現在ポータルで表示されている地図には、差し押さえ物件がある地域が色別のドットで示されています。人は、地図がデータであることを理解している。その地図を前面に打ち出すことで、ポータルサイトのメッセージがより明確になりました。

「少し色味をきれいにして、中央に地図を大きく掲載するという小さな改修でした。ところが、その結果、以前は50%だった離脱率が5%にまで劇的に下がりました。オープンデータにまつわるユーザーエクスペリエンスについて考える時、ストーリーをどう伝えるかというのはすごく大切なことだと実感しました」

2,000人がオープンデータを活用する#TECHLA

LAのオープンデータ活用を促進するコミュニティ #TECHLA
LAのオープンデータ活用を促進するコミュニティ #TECHLA

ロサンゼルス市のCDOとしてNemani氏が手掛けたのが、市長や各部署が定期的に閲覧すべき統計をまとめたダッシュボードの開発です。参考にしたのは、10年ほど前にニューヨーク市警察が開発した「COMPstat」と呼ばれる犯罪統計による管理システム。データを管理することでさまざまな意思決定に役立てるもので、当時は革命的な取り組みでした。ロサンゼルス市は、同様のシステムの全部署への導入を試みたものの、使い勝手が悪く、結局データは紙に印刷して配布される羽目に。

今年の1月頭、その紙をデジタルにしてほしいという依頼を受けたNemani氏。オープンソースコードを使うことで、納期だった3日間でデジタル版を完成させました。チャートや地図などは全てGoogle Docsに入力されたデータがもとに。最新の数値を各部署がエクセルに入力するだけで、ダッシュボードが最新の状態に保たれます。

エンジニアやテクノロジー業界の人にとっては当たり前のことも、普通の人にとっては目からうろこだったりする。こうしてロサンゼルス市は、今では独自のGitHub Pagesで7つのアプリを公開。また、400万人が生活する市のオープンデータプロジェクトを加速させるために、#TECHLAというコミュニティを始動。現在では、2,000人の人がオープンデータを活用しています。

「僕らが公開したコードとデータを使って、市民のみんなが面白いことをしてくれている。ないものを作り、あるものをより良くしてくれている。ここにいるテクノロジストの皆さんには、持っているスキルや才能をほんの少し使って都市や政府を良くすることに貢献してほしいと思います」

考えるべきはオープンデータを活用しないリスク

セッションの最後には、「テクノロジストはシビックイノベーションをどう支援し、貢献できるのか?」という質問が投げかけられました。Whalen氏は、政治的リスクやプライバシーのリスクなど政府や行政が懸念するであろう点について、彼らの立場に立って考えることだと回答。リスクを最大限軽減する方法を考えながら進めることで、プロジェクトの進行が早まる。これを繰り返すことで、データをオープンにすることが習慣になっていくはず。

日本の国土地理院、サンフランシスコのスタートアップが手掛ける交通システム、そしてロサンゼルス市による事例が紹介された今回のセッション。オープンデータやオープンソースによるコレボレーションが当たり前になりつつある今、考えるべきは、データをオープンにすることのリスクより、むしろクローズドなままでいることのリスクなのかもしれません。

今回のような事例紹介を参考にし、またオープンデータやGitHubなどソフトウェア開発のコラボレーションツールを上手く活用することで、日本でもシビックイノベーションの動きがより活発になることを期待したいと思います。


また、国土地理院 藤村氏のスライドは以下をご覧ください。

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オープンソースの開発共有サービス「GitHub」、初の海外支社として日本法人GitHub Japanを設置し、日本向けのサポートを強化する

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ソフトウェア開発共有プラットフォームのGitHubは6月4日、初の海外支社としてGitHub Japan(ギットハブ・ジャパン合同会社)を設置したと発表した。 GitHubは、2008年に設立したソフトウェア・コードのホスティングサービスやソフトウェア共同開発共有ウェブサービスで、プログラマーやデザイナーなどがコラボレーションするツールとして、いまや世界に970万人以上のユーザがいる。 そんなGi…

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GitHub Co-Founder兼CEOのChris Wanstrath氏と、GitHub Japanジェネラル・マネージャーの堀江大輔氏。

ソフトウェア開発共有プラットフォームのGitHubは6月4日、初の海外支社としてGitHub Japan(ギットハブ・ジャパン合同会社)を設置したと発表した。

GitHubは、2008年に設立したソフトウェア・コードのホスティングサービスやソフトウェア共同開発共有ウェブサービスで、プログラマーやデザイナーなどがコラボレーションするツールとして、いまや世界に970万人以上のユーザがいる。

そんなGitHubは、日本との関わりが深い。日本で生まれたオープンソースのRubyで作られたRailsによって開発されたGitHubは、日本のオープンソースコミュニティから生まれたとも言える。

2008年から現在まで、テクニカルサポートなどは英語対応のみだったのにもかかわらず、GitHubを活用するユーザの上位トップ10に日本のユーザが入っているなど、GitHub上においてアクティブなコミュニティを築いていた。「日本はGitHubを積極的に活用するオープンソースコミュニティの国で、GitHubを支えてくれた」とGitHub Co-Founder兼CEOのChris Wanstrath氏は語る。

また、GitHubは2012年には全世界の企業向けに「GitHub Enterprise」をリリースし、GitHubのプロジェクト環境を組織内で構築できるためのサービスを行ってきた。さらに、24時間対応のテクニカルサポートなどを行ってきたが、それも英語対応のみであったにもかかわらず、日本ではYahoo!Japanや日立システムズ、クックパッドなど大手企業が導入を進めてきた。

こうした流れから、GitHubの日本法人を設置し、日本向けのサポートを充実させていくために、今回の日本法人の設置となった。日本法人のジェネラル・マネージャーに就任した堀江大輔氏は、AmazonやYahoo!、シックス・アパート、クックパッドなど、国内外のネット系企業を渡り歩いた人物だ。

GitHub Japanについて発表する堀江氏。
GitHub Japanについて発表する堀江氏。

「ソフトウェア開発は企業の大きなサービス開発の肝であり、さらにワークスタイルの変化やコラボレーション文化を通じてイノベーションを生み出す環境が必要です。いまや、プログラマーやデザイナーだけでなく、社員全員が開発のことをしり、自社サービスをより良いものにしていくマインドを持たなければいけません。オープンソースを思想にもつGitHub日本法人の設置を通じて、日本企業や日本のさまざまな自治体のサービスを後押しし、さらにGitHubのサポートを重点させていきたい」(堀江氏)

日本法人設置にあわせて、言語環境やドル決済、クレジット決済などの決済問題を解消し、日本企業の導入を推し進めるために、GitHub Japanはマクニカネットワークスと代理店契約を提携し、日本語によるGitHub Enterpriseの導入サポートやテクニカルサポートを行っていく。今後は、セールスのローカルスタッフなどを採用しながら、サポート体制の強化を図っていく。

海外では、すでにアメリカ連邦政府やフィラデルフィアなどの自治体がGitHubを導入し、公共サービスを市民とともにコラボレーションしながらつくりあげていく動きがおきている。こうしたオープンデータの潮流に対して、日本もオープンデータを後押ししようと、政府や自治体、民間企業やNPOなども活動が活発化してきている。

自治体においても、自治体のデータなどを公開する動きが起きており、日本では2015年2月に和歌山県が自治体としてGitHubに公式アカウントを独自に取得し、データの公開を進めている。福岡市も、オープンデータを推進するなかで、GitHubとコミュニケーションをとっているという。

こうした日本の自治体のオープンデータの促進も、今後はGitHub Japanは積極的にサポートしてきたいと堀江氏は語る。

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