急激に進化する技術 ー iPhoneの知能が人間を超える日

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Vivek Wadhwa氏は、スタンフォード大学のRock Center for Corporate Governanceのフェロー、デューク大学にあるCenter for Entrepreneurship and Research Commercializationの研究ディレクター、またシンギュラリティーユニバーシティの特別フェローである。過去には、ハーバード大学ロースクール、カリフォルニア大学バークレー校、そしてエモリー大学にも在籍していた。

via Flickr by “A Health Blog“. Licensed under CC BY-SA 2.0.
via Flickr by “A Health Blog“. Licensed under CC BY-SA 2.0.

1999年、Ray Kurzweil氏は「2023年までに1000ドルのノートパソコンが人間の脳と同等の計算能力と記憶容量を持つようになる」という衝撃的な予言をしたが、それが現実のものになろうとしている。彼はまた、「コンピュータの処理能力は18か月ごとに倍増する」と主張するムーアの法則も、発表から60年の2025年までは存続し、その後は技術的変化による新たな枠組みに移行すると予測した。

数日前、著名な未来学者でGoogleの技術部門ディレクターであるKurzweil氏は、人間の脳を模倣するのに必要なハードウェアは以前の予想より早い2020年頃完成しそうだと私に語ってくれた。これには脳を模倣するソフトウェアのアルゴリズムに最適なグラフィックスプロセシングユニット(GPU)などの技術が用いられており、脳ソフトウェアの完成はさらに少し先の2029年頃になると氏は予想する。

これらが意味することは、とにかくすごいことだ。Kurzweil氏の予測通りになれば、14年以内にスマートフォンは私たち人間と同等の知性を持つことになる。実際のところ(感情やその他の知性の形態はさておき)計算知能だけに焦点を当てたとしたら、7年後、iPhone 11がリリースされる頃には携帯電話は人間レベルにまで達するだろう。ただ、そこで終わりというわけではない。これらのデバイスは全人類の知能を合算したものを超えるまで飛躍的な進歩を続けるだろう。すでにコンピュータは私たちより有利な点がある。インターネットに接続し、人間の何十億倍のスピードで情報共有しているのだ。このような進歩によって実現可能となる出来事やそれらの意味することは、もはや想像することすら難しい。

ムーアの法則がいつまで当てはまるのか、またこうした進化が本当に実現可能なのか、疑問を抱くのも無理はない。結局のところ、トランジスタの小型化には限界があるわけで、何物も原子より小さくすることはできない。物理的限界を除いてもまだ技術的なハードルはたくさんある。Intelはこのような限界について認識しているが、ムーアの法則はあと5年から10年は存続するいう。ラップトップパソコンのシリコンベースの半導体は、人間の脳の働きに匹敵するまで今後も製造され続けるであろう。

最近の対談でKurzweil氏は、ムーアの法則がコンピューティングの世界での最重要法則というわけではなく、Intelがシリコンで何を作るかに関わらず、コンピュータの進化は続くだろうと語った。そもそもムーアの法則はコンピューティングにおける5つのパラダイム(電気機械、リレー、真空管、トランジスタ、集積回路)の1つにすぎなかったのだ。Kurzweil氏は1999年に提唱した「収穫加速の法則」の中で、地球上で進化が始まって以来技術も飛躍的に進歩し始め、同様にコンピュータの処理能力も、1890年の米国勢調査に用いた計算機器からナチスのエニグマによる暗号を解読した機器を経て、CBSの真空管コンピュータ、最初の宇宙船打ち上げで用いられたトランジスタベースの機器、そしてより最近では集積回路を用いたパーソナルコンピュータまで、飛躍的に成長しているのだと説明した。

急激に進化する技術では、最初は物事がとてもゆっくり動いているように見えるが、ある時劇的に進化し始める。個々の新技術の進化はS字の曲線を描く。初めは指数関数的な成長を示し、やがて技術が限界に達し曲線は平坦になる。1つの技術が終焉を迎え、次のパラダイムにとって代わられる。これが今までの趨勢であり、ムーアの法則以降にも新たなコンピューティングパラダイムが誕生するといわれる所以である。

グラフィクスのみならず人間の脳の構造を構成するニューラルネットワークの処理能力に大幅な増加をもたらす並列コンピューティングを用いたGPUなど、著しい進化はもう目前まで来ている。回路を層状に並べることができる3Dチップの開発も進んでおり、IBMとアメリカ国防高等研究計画局はコグニティブコンピューティングチップを開発している。ガリウムヒ素、カーボンナノチューブおよびグラフェンなどの新規素材はシリコンの代替として有望である。そして、中でももっとも興味深く、恐ろしくもある技術が量子コンピュータだ。

現在のコンピュータのように0や1で情報処理するのではなく、量子コンピュータは量子現象の重層やもつれを利用することで実現性の全範囲をビットまたは量子ビットでコードするのである。現在のコンピュータでは何千年もの時間がかかる計算が、量子コンピュータでは数分で処理されるのだ。

これらのハードウェアの進歩に人工知能を加えれば、Elon Musk氏、Stephen Hawking氏およびBill Gates氏の「超知能」への懸念が理解できるであろう。Musk氏はこれを「悪魔の招集」と恐れ、Hawking氏は「人類の終焉のまじないとなる」と言い、Gates氏は「憂慮しない人がなぜいるのかわからない」と表現した。

Kurzweil氏は気がかりではないと言う。彼は、私たちが善意の知能を創造し、自らを高めるためにこれを用いると信じている。彼はテクノロジーは諸刃の剣であると考える。つまり、私たちに暖を取らせてくれる一方で村を焼き払う火のような。テクノロジーはこれまで長い間人類文明を悩ませてきた、疾病、飢餓、エネルギー、教育、清潔な水の提供などの問題に取り組む術を与えてくれるもので、私たちはこれを善のために用いることができると信じている。

こうしたテクノロジーの進化はほぼ確実に起こる。問題は、人類がこの機会に上手く対処し、それらを有益な方法で使えるかどうかだ。これまでになく高度なレベルに文明が到達しているスタートレックのような未来を築くことも、マッドマックスのような世界に転落することもできる。それは、私たち次第なのだ。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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