
今月初め、各種クラウド上でアプリケーションのインテグレーションを提供するフレクトが、セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォースと略す)の投資部門であるセールスフォース・ベンチャーズと資本提携した。今回の提携にかかわる調達額など詳細については明らかになっていないが、フレクトはかねてから、セールスフォースが運営する「Salesforce1 IoT ジャンプスタートプログラム」に参加しており、今夏には、コネクティッド・カーを実現するための、クルマのデータを取り込むクラウドサービス「Cariot(キャリオット)」を開始するなど、セールスフォースのクラウドを使った IoT クラウドサービスを複数立ち上げていく見込みだ。
同社のこれまでの歩みと今後の戦略について、フレクト代表取締役の黒川幸治氏に聞くことができた。
業界ヒエラルキーと無縁のSIビジネス
フレクトの創業は10年前の2005年。当初はリクルートグループのコンシューマ向けウェブサイトの構築などを請け負っていた。クライアントの変化するニーズを迅速にアプリに開発するアジャイル開発の徹底が受け、リクルートグループ傘下のシステム開発会社リクルートテクノロジーズからコアパートナーの指定を受ける。SI(システムインテグレータ)業界にありがちな、元請けから始まる商流上のヒエラルキーの影響は受けることなく、クラウドを活用することで柔軟なアプリ開発を実現してきたと言えるだろう。
フレクトでは、複数のクラウドを組み合わせてアプリやサービスを開発している。例えば、業務向けやバックエンドなど、比較的安定性や信頼性が求められる環境は、セールスフォースの Sales Cloud や Force.com、トラフィックの急激な変化など柔軟性が求められるコンシューマ向けのサービスやフロントエンドは、Microsoft Azure や Amazon Web Services(AWS)を使う、といった具合だ。クラウドは提供事業者によって料金メニューもさまざまであるため、クライアントが許容できるコストを考慮しながら、最適な組み合わせを見つけるのだという。
当社は開発エンジニアやプログラマが、クライアント先に常駐しているケースはあまりない。受けたオーダーに対して、クラウド上でアプリを開発し、例えば半月とか1ヶ月とかでリリースをしている。エンジニアやプログラマは社内にいるので、(客先常駐の SI と比べ)技術的な知見は社内に蓄積し社員同士で共有・継承しやすい。(黒川氏)

エンタープライズ向けIoTビジネスの開拓
SI としての差別化を図るべく、フレクトは2014年から「Salesforce1 IoT ジャンプスタートプログラム」参加し、従来のアプリの受託開発から、エンタープライズ向けの IoT サービスというビジネス分野の開拓に乗り出した。一般的に IoT と言えば、我々が日常的に目にするのはコンシューマ向けのビジネスモデルで、その多くはハードウェアの売り切りモデルだったり、SORACOM のようなしくみと組み合わせてサブスクリプション・ペースのサービスが開発がなされていたりするのが現状だ。エンタープライズ向けの IoT とは、どのようなサービスだろうか。
我々が東急建設様向けに開発した建機 IoT のサービスがあります。建機のユーザであるゼネコンさんは、建機の稼働率を高めたいと考えています。例えば、現状の稼働率にある程度の感覚値は持っておられましたが、正確なデータが無い。建機メーカーが提供する稼働管理のための IoT はありますが、複数のメーカーの建機を扱い、レンタルで一時的に借りてくる建機も含めてとなると、一元的に稼働率を管理できるしくみはありませんでした。
そこでデータ通信SIMの入ったセンサー機器を建機につけるだけで、クラウド上にデータをアップロードができ、稼働状況を管理できるしくみを開発しました。ハードウェアはサードパーティーのもの、回線は MVNO のコネクシオのものを使っており、我々はクラウド部分の開発を担当しています。(黒川氏)

POC ではじめて、ビジネス機会があれば横展開
前出の建機 IoT の事例も、クライアントからのオーダーをもとに POC(概念実証)モデルとしてサービスを開発しており、フレクトでは、そこに需要が見出せれば、サービスを一般化して横展開するという手法を取っている。そうして生まれたサービスの一つが、クルマからのデータ取り込みに最適化された IoT クラウドサービス「Cariot(キャリオット)」だ。

我々も自分のクルマにつけて、データをとったりしています。クライアントのユースケースとしては、営業車の稼働管理だったり、東京近郊のお客さんでは、駅から自社工場までの社員送迎に使うシャトルバスにつけて、あと何分でバスが来るのか、社員にわかるようにしたりしています。(黒川氏)

日本では、新型車は2008年、販売継続車は2010年から OBD-II の搭載が義務付けられているので、デジタルタコメーターや特別な通信機器・設営工事がなくても、容易に Cariot との連携ができる。
Cariot では API が公開されているので、ユーザは自身のニーズに応じて、クルマの動きに連携する多様なアプリやサービスを開発することが可能だ。
クルマ以外にも、バイタルデータを扱う IoT サービスを POC で構築したりしています。今後この分野では、小売業の会社がビッグデータの会社を作ったりとか、異業種間のジョイントビジネスのようなのが増えてくるんじゃないでしょうか。フレクトでは、POC で SI をやって、そこにニーズが見出せればサービス化するということを繰り返し、IoT クラウドサービスのバリエーションを広げていきたい。(黒川氏)
クラウドファンディングなどでユーザの関心度を測り、資金を得た上でプロトタイピングや量産体制に着手するコンシューマ向けの IoT と比べると、POC を通じてサービスのブラッシュアップと潜在ユーザを獲得してから本サービスに踏み切れるという点で、エンタープライズ向けの IoT はビジネス上のリスクを抑制できるのかもしれない。技術検証に時間をかけられる点でも、高い信頼性が求められるエンタープライズ向けのサービスに、この手法は親和性が高いと言えるのではないだろうか。
今後、同社が展開する多分野の IoT クラウドサービスに期待したい。
<参考文献>
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