10億ドル規模のSaaS企業をつくる方法ーー「システム・オブ・レコード」を構築する

Ajay Agarwal氏はBain Capital Venturesの執行役員兼Bay Areaオフィス所長であり、同社においてアプリケーションソフトウェアやSaaSへのアーリーステージ投資に注力している。

 via Flickr by “A Health Blog“. Licensed under CC BY-SA 2.0.
via Flickr by “Tomais Ashdene“. Licensed under CC BY-SA 2.0.

SaaS(Software as a Service:ウェブ上でのソフトウェアサービス)業界では数多くの企業が花開き、また散ってきた。テック業界は基本的に、バリュエーション・マルチプル(企業価値対売上の比率)が低下傾向で、レイトステージの資金調達は困難になりつつある。しかし、SaaS業界では大きな高価値の企業を立ち上げるチャンスは今でも数多く存在している。

では、起業家がそれを成し遂げるにはどうすればよいか? それは、「システム・オブ・レコード」を立ち上げることである。

「システム・オブ・レコード」(SOR)は、特定の事業プロセスのためのバックボーンとなるソフトウェアである。その定義ゆえ、SORは顧客に強く定着し、多くの理由から(SOR変更のために)現在のシステムの利用をやめさせることは困難である。SORのシステムソリューションは、購買担当がまず尋ねるような基本的なROI(費用対効果、Return on Investment)といったレベルではなく、ビジネスプロセス遂行のために必要不可欠なソフトウェアというレベルに進化している。

強力なSORを築いた企業:業種、企業名、時価総額(左から)
強力なSORを築いた企業:業種、企業名、時価総額(左から)

多くの企業がSOR製品で大きな成功を収めている。Salesforceはセールス業務、Intuitは会計業務、Workdayは人事、そし特定分野の市場を狙ったGuidewireとVeevaは保険とライフサイエンスのSORを手がけている。これらの企業で特筆すべきは、高い企業価値と、年間の解約率の低さである。

顧客が一度SORを購入・導入すると、(それが宣伝のとおりに動いているのであれば)解約されることはまずない。

SORを構築しようとしている方は、以下の7つの質問について確認していただきたい。

1. そのソフトウェアは、極めて重要な事業プロセスを稼動させているか?

SORは普通、基幹ビジネスプロセスのバックボーンであり、システムがダウンしたりシステムの使用をやめれば、基幹ビジネスが機能しなくなる。システムが顧客企業の利益創出の根幹に近いほど、そのSORの価値は高まる。

2. プロプライエタリな業務データを保持しているか?

SORの力とは、それが究極の情報ソースであり、重要な業務データの「記録」となっていることである。基本台帳データはQuickbooksかOracle Financialsに、セールスパイプライン(見込み顧客まで含めた時系列のセールスデータ)はSalesforceに、給与や従業員の情報はWorkdayに保存されている。

あなたのソフトウェアがこのような重要な業務データを「保持」しているのなら、他のアプリケーションはそのソフトウェアと統合しなければ動作しない。歴史あるSOR企業、例えばSAPなどは、自社ソリューションを開示せず、サードパーティベンダーに大金を投じさせて、顧客がSAPデータにアクセスできるように統合作業をさせている。Salesforceはより現代的なアプローチをとっており、オープンAPIおよびすべてのエコシステムを準備して、サードパーティのアプリケーションプロバイダに開放している。

3. 従業員の大部分が、毎日または毎週のようにアクセスしているか?

ソフトウェアへの依存度と利用状況は、一般従業員のワークフローにそのソリューションがどれだけ浸透しているかのバロメーターである。分析ソリューションが素晴らしいものであっても、それが少数のデータサイエンティストだけに利用されているのであれば、簡単に置き換えられてしまう。

それに対して、多くの従業員が出張精算レポートシステムを毎週のように利用しているのであれば、そのソリューションを入れ替えることは、大人数に対して新システムのトレーニングを強いることになる。

4. そのシステムは「真実のシステム」か? そのソリューションのアウトプット(レポートや考察)が、重要な意思決定の基盤となっているか?

企業価値が最高ランクのSaaS企業は、「システム・オブ・レコード」から、「システム・オブ・トゥルース(真実のシステム)」に進化してきた。

人材リソースの議論のために役員が参照するデータは人材リソースマネジメント(HRM)システムからくるものであり、カスタマーサービス業務の議論のためのデータはCRM(カスタマー・リテンション・マーケティング)システムからくるものである。SOR企業を目指すすべての企業のゴールは、企業の役員や社長が、そのシステムをいつも使っているという状態である。

5. 「人間の頭の中にある」ことを成文化したソリューションになっているか?

システムが何らかの形で人間からの情報を必要とし、それを活用できているほど、別の競合がそのシステムを入れ替えて、やっていることをコピーすることは困難になる。

SORを導入するプロセスというのは、企業内に散在している書類化されていないナレッジを、再現性のあるやり方でソフトウェアソリューションの中に形式化していくことだ。SORは、顧客企業の業務のルールを成文化したものになる。SORの導入に時間がかかることがあるのはこのためである。このような情報はさまざまなグループの人の頭の中にあり、それを引き出して、整理しなければならない。

6. そのソフトウェアは「学習し」、時とともに改善されていくか?

学習は、アルゴリズム的に進めることが可能である。例えばマシンラーニングを活用し、アウトプットを時とともに改善していくソフトウェアなどがそうだ。また、業務プロセスに組み込まれたフィードバックループからも学習は可能である(例:セールス見積もりを、直近のセールス実績により微調整しなければならない。であれば、見積もりソリューションの基本的な動作をそれにしたがって更新しよう)。

このようにすれば、SORは顧客企業の業務やワークフローの中で何年もかけて学習することができる。これが、SORの価値の高さの有力な一因である。

7. そのソリューションの「グロス」解約率は非常に低いか?

SORが正しく導入されていて、正しく動作していれば、顧客企業が倒産するか買収でもされない限りは、解約されるはずがないのが道理である。エンタープライズに注力する企業は、グロス(総計)のリテンション率が90%を超えており、最高は95%超である(上位製品への乗り換えは含んでいない)。私がセールス・マーケティングを率いていた会社Trilogyは、私たちが1995年に販売した顧客と今でも年間メンテナンス契約を保持している!

このリストが必ずしもすべてを網羅しているわけではないが、SORを構築するための指針を与えることができていると望んでいる。

ここで筆者があげた多くの事例はエンタープライズ向けの企業である。しかし、ここであげたコンセプトは、売り込み先が大企業でも中小企業でも、また、ソリューションが一般市場向けでも特定のバーティカル市場向けでも、そしてサポートする業務が広範囲でも限定範囲であっても、すべて適用可能だ。

SORを構築することだけが十億米ドル規模のSaaS企業への道ではないが、そこにたどり着くための最も確実な道であることは間違いない。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】