クリエイティブなサービスにAIを活用する方法

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Image by Scott Webb via Attribution Engine. Licensed under CC0.

著者のPeter Zhegin氏はコグニティブテック(認知技術)関連のファンド、Flint Capitalのアソシエイト。 Luba Elliott氏は芸術家、クリエイティブプロデューサー、リサーチャーでクリエイティブ関連の業界における人工知能の役割を探し求めている人物。

最近の最大のテクノロジー的トレンドの1つである人工知能(AI)へのベンチャー投資が活況だ。2016年は一年間で2012年度の10倍以上資金が投資されたし、バーチャル及び拡張現実(AR・VR)は時折AIのクリエイティブ面に関連づけられるが、こちらも注目された。AR・VRには18億ドル以上が投資されたが、2012年にはわずか8600万米ドルだった。

AIで普段はクリエイティブとみなされるタスクを解決することは、歴史的にみると前例がある。例えばプロシージャル生成はテクスチャの描画や3Dモデルの生成、および1980年代以降のビデオゲームでの大量のコンテンツの自動生成に使用されている。さらにゲームはAIに大きく貢献している。ゲーム開発者が生み出した収益によって、NVIDIAのようなチップメーカーがハードウェアの改善を実現し、古典的なアタリ・ゲームスの研究は、DeepMindの強化学習におけるブレークスルーの基礎の一つとなった。

ここで新たな疑問が生じる。ゲームはAIと創造性が融合する唯一の業界なのだろうか?

幸いなことに、文化的クリエイティブ産業(CCI)はゲーム以上のものになりそうだ。CCIは、「最終的な形があらかじめ完全に指定されていない、新しいあるいは改善された製品を生産する」ために必要なクリエイティブな技術を労働力が有する産業として定義され、英国だけで2014年に付加価値として841億ポンドを生み出した。広告やマーケティング、建築、IT、ソフトウェア、コンピュータサービスを含む9つの部門は、1997年から2014年の間にイギリス経済の1.4倍の成長を遂げた。

また、テクノロジー大手企業はクリエイティブ分野のさまざまな分野にAIの影響力を応用する方法も紹介している。Amazon、Etsy、Netflix、およびSpotifyといった企業は、AIを多用して多様なコンテンツを発見する可能性を向上させている。一方、Microsoft、IBM、Alphabet、DeepMind、Adobeといった企業は、既成概念の枠をさらに超えている。音楽制作、グラフィックデザイン、そして料理法でさえAIの関与がみられる。

文化がAIの恩恵を受ける

テクノロジー分野のリーダー達がAIとCCIを組み合わせたいと熱望していることは驚くことではない。歴史的にも文化やクリエイティブ産業が技術の受益者であることを示唆している。例えば電化や工場と並んで、過去の産業革命では映画館、アミューズメントパーク、音楽ホールなど、数多くの新しい文化的現象がもたらされた。同様にAI革命は、文化的生産や普及、新たな楽しみ方を可能にし、オンデマンドかつパーソナライズされたアートワークを普遍的なものにし、あるいはプロシージャルに生成された経験を通して私たち自身の過去と未来に足を踏み入れることができる。

一般の人々は、文化と創造性に共鳴するAIのアプリケーションを好む。AIへの人々の関心は徐々に増加しているが、AIがクリエイティブな芸術関連の問題に関わっているときにこういったものが急増する。例えばAIに関するサイエンスフィクションの心理的スリラー写真を編集するアプリ、または大昔のゲームに勝利するAIすべてが人々を魅了する、といった具合だ。

技術的および科学的見地から、創造性は「AIの最後の最前線の1つ」であるとコロンビア大学工学部のHod Lipson教授は述べている。機械学習、コンピュータビジョン、自然言語処理、その他の分野の進歩によって、クリエイティブなかつ芸術的効果を得るための技術的ツールが使用できるようになる。

畳み込みニューラルネットワークは、GoogleのDeepDreamアルゴリズムを強化し、画像のパターンを改善し、何もない所に犬や顔を見つけサイケデリックなイメージを作成する。Tübingenの研究者達は、類似の技術を使ってスタイルの転送アルゴリズムを開発し、イメージをモネやピカソのスタイルに変え、Prismaなどの消費者向けアプリケーションに影響を与えてきた。

一方、AI研究コミュニティの多くは、敵対的生成ネットワーク(GANs)に注目している。この技術を改善し安定させるために、研究者達は時にはシュルレアリスムのようなイメージを生成するアルゴリズムを作成し、アーティストは作品作りに採用しはじめているので、コンシューマー向けのアプリはまもなく開発されることになるだろう。

テキストや音楽に関しては、リカレントニューラルネットワークのオープンソース実装により、ラップミュージック料理レシピ、ショートフィルムフォークソングの作成が容易になっている。

したがってチャンスの大きさや歴史的証拠、国民の自然な関心や技術的進歩により、クリエイティブなAIが、起業家にアプローチするための興味深い分野となっている。地形をマッピングするために、文化的およびクリエイティブ産業におけるAIの既存のアプリケーションをいくつか研究してみよう。

AIの現在のクリエイティブアプリケーション

94社の企業や学術的イニシアチブを分析することで、コンテンツ検索と発見、パーソナライゼーション、インタラクション、クリエイティブなプロセスの増強や自動化といった、クリエイティブな産業に対するAIの少なくとも4つの典型的なアプリケーションを見つけることができる。

クリエイティブなコンテンツを扱うことは、ソーシャルメディアマーケティングマネージャーといった専門家や消費者にとっては難しい作業だ。例えばYouTubeで1分ごとにアップロードされた400本の動画を全て人間が見ることはできない。書籍、映画、芸術作品の発見のためのAIは、AmazonNetflixのような大企業やArtfinderのようなスタートアップによって活発に利用されている。

クリエイティブかつプロフェッショナルのための製品はさらに進化し、AIの力を使ってブラックボックス的な発見のプロセスに人間を巻き込む。FindTheRippleOz Contentのようなスタートアップは、感情、テーマ、またはバイラリティなどのパラメータに基づいてコンテンツの海をナビゲートすることを容易にしている。

パーソナライゼーションの度合を増やすことは、文化的およびクリエイティブ産業におけるAIのもう一つの応用方法である。人間の直接的な産物として、CCIの製品はほとんどカスタマイズできない。芸術家は誰も大規模かつ妥当なコストでパーソナライズされた作品を制作することはできない。これは機械ができる分野である。リスナーの状態をキャプチャする拡張された音楽を作成するか、あるいはいくつかの音楽トラックからオリジナルのマッシュアップを作成することによって、個性が人間の創造性の産物に追加される。

AIは、CCIがより個人的であるだけでなく、よりインタラクティブになり、消費者とアーティストの両方に力を与えるのを助けるかもしれない。例えばPicasso LabsEchoboxは、クリエイターのためのフィードバックループを作成し、一般の人々が見出しや動画の属性にどのように反応しているかについての情報を提供する。他のAIツールは、人間とコンピュータの相互作用のための追加のインタフェースを作成する。WirewaxMogeesは、ビデオの任意の要素にタグを付けたり、楽器のインターフェースを任意に変えることができる。

AI愛好家は人間の芸術家によるものよりもさらに進んでいる。技術を使用してクリエイティブなプロセスを自動化する。音楽、写真、ビデオ、テキストに適用される生成AIはオリジナルの芸術品を作成する。JukedeckMubertはオリジナルでロイヤリティフリーの曲を、PrismaSoloshotは写真の奇跡を演出している。Automated InsightsのWordsmithのようなツールは、データから書かれた物語を構築し、AIを試しに使用して中国の詩を構成し、映画スクリプトを書き、ミュージカルのプロットを生成する。

芸術AIのためのオープンな機会

いくつかのニッチ市場はまだ未知の分野かもしれず、技術的またはビジネス関連の問題によってクリエイティブなAIの普及が減速している。例えば人間とAIとの相互作用を必要とするアプリケーションを開発することは、AI自体を開発するよりも困難である。宇宙工学専門のDavid A. Mindell教授とマサチューセッツ工科大学エンジニアリング及び製造歴史学のDibner教授は、次のように述べている。

「最も進歩した(そして困難な)テクノロジーは人々から離れたものではなく、人とソーシャルネットワークに最も深く組み込まれ、それに反応するものなのだ」。

場合によっては、クリエイティブなAIアプリケーションは、テクノロジーではなく財政上の問題のために不十分なままになるかもしれない。たとえば、博物館や図書館などの公的資金を提供する機関や非営利組織では、革新に必要なリソースが不足している可能性がある。さらに、疑う余地もなくクリエイティブで文化的な本質であるにもかかわらず、一部のCCIは、クリエイティブな強さ(業界内のクリエイティブな仕事の割合)によって測定される限られた数の仕事を実行する。クリエイティブの強度が低い場合、クリエイティブなAIのアプリケーションが制限されることがある。

全体として、文化やクリエイティブな産業にAIを適用する例をいくつか見てみると、ゲーム業界以外にも多くの機会があるのはもっともだと言える。クリエイティブなAIビジネスを開始したり、あるいは既存のクリエイティブなベンチャーにAIを統合しようと考えている起業家は、アクセシビリティと発見可能性、パーソナライゼーション、インタラクティブ性、クリエイティブなプロセスという4つの視点から考えるべきだろう。

選ばれたクリエイティブ産業が1つ以上の方法で混乱する可能性が高い。そして報酬や財務的な収益とは別に、スタートアップは人類の次の大きな文化的なブレークスルーに大きく貢献するかもしれない。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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