自動車業界で広がるリメイクの波ーーFordが旧車種をIoT化させる端末「SmartLink」を発表

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自動車製造メーカーのFordが、2010年〜2017年に販売した自社モデル車にスマート機能を追加するOBD(自己故障診断)端末「SmartLink」を発表しました。

TechCrunchの記事によれば、同端末は、大手通信企業Verizonの4Gネットワークを利用。旧型モデル車種をIoT化させることができます。たとえば、スマートフォンを通じたリモート解錠、盗難の際に便利な自動車の位置情報記録、各部品の稼働状況を把握することが可能になります。

2018年中期にはSmartLinkを公式発売し、ディーラーを通じて顧客は端末を設置することができます。2年契約で毎月16.99ドルの利用料金になる予定です。設置から30日間、もしくは利用データ量が1GBに達するまでは無料で提供されます。

車内エンタメの充実化とデータ獲得

FordがOBD端末SmartLinkを発表した背景には、競合であるGMの存在があります。同社は2017年に車内コマースプラットフォーム「Marketplace」を発表しています。

ドライバーは車内に搭載されたタッチパネルを通じて、最寄りの提携ドーナツ店舗Dunkin’ Donutsの注文や、ガソリンスタンドShellでの給油予約を行うことができます。決済は自動で完了しているため、現地に到着すれば商品・サービスを受けるだけ。シームレスな購買体験を実現しています。

ここでGMは車内購買データを収集しているのです。以前紹介した車内コンビニ「Cargo」の記事にある通り、各ドライバーの購買データを獲得できれば、新たなマーケティングデータとして2次活用が可能となります。

今回のSmartLinkの発表は、自動車業界で起きている、新たな顧客データ獲得と活用のトレンドに乗じた証左であるといえます。

Fordより半歩先を進むカーラジオ放送局「SiriusXM」の存在

今後どのようにしてFordがSmartLinkを活用していくかを考察するにあたり、参考事例となる企業としてカーラジオ放送局「SiriusXM」が挙げられます。

同社は2017年に、車体データを収集するOBD端末を開発する「Automatic」を1億ドル以上の企業価値で買収しています。Automaticの利用価値は、SiriusXMが提供するサブスクリプション放送コンテンツの拡大にあると考えられます。

カーラジオコンテンツを月額サブスクリプションで提供している同局にとって、Automaticの車体診断機能をサブスクリプションコンテンツに追加すれば、車内エンタメから車体運用効率化まで、一貫した自動車サービスを提供できるようになります。

AutomaticとSmartLinkは直接競合の立場にあり、顧客は車内体験をより充実させてくれるプランを提案できる方へとなびくでしょう。この点、Fordが車内エンタメコンテンツを準備できていないことから、すでにカーラジオ放送局として市場ポジションを確立できているSiriusXMの方が優位な立場にあると考えられます。

しかし、仮にFordが大手メディア企業と連携をすることで、前述したような、車内エンタメから車体診断までを行えるサービスを展開した場合、SiriusXMを上回る顧客囲い込みが期待できるかもしれません。

自動運転社会に向けて

車内エンタメ分野はすでに先行企業がいることをお伝えしました。それではエンタメ以外の分野でFordはSmartLinkをどのように活用できるのでしょうか。

筆者は、Fordのお家芸である自動車製造の分野で最も価値が発揮されると考えています。特に自動運転車製造における基礎データ収集として活用出来るでしょう。

車体部品の消耗データと、ドライバーの運転技術や天候・路面情報を紐付けることで、どのようなシチェーションであれば効率的に燃費を抑えて、車体に負荷をかけずに運転できるのかを推測することが可能となります。

Fordは2017年9月に配車サービス「Lyft」と自動運転車普及に向けた事業提携を行っています。たとえばLyftのドライバーに無料でSmartLinkを配布することで、自動運転技術確立のための大規模データ収集を容易に集める施策展開も考えられるでしょう。

2021年までに自動運転車ネットワークを立ち上げると発表していることから、SmartLinkを通じた自動運転技術確立をスピートアップさせる可能性は十分に考えられます。

SmartLinkの活用戦略として車内エンタメと自動運転技術の向上の2つを説明してきました。Fordがどちらに重きを置くのか、もしくは全く違う方向性を示すのか不透明な部分もありますが、自動車業界では旧型モデルのIoT化を通じて自動運転時代を見据えた各社の動きが活発になっているのは事実です。

2017年から各社が自動運転社会を見据えたサービスを立ち上げている動向を考慮すると、2018年〜2020年にかけて、いかにデータ収集を行い、活用事例を増やせるかが鍵となりそうです。

via Business Insider

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