日本型キュレーションに欠けていたものーー北米製品レビューメディア「BestReviews」から考える、読者が本当に求めている情報とは

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<ピックアップ : Tronc starts its new digital strategy with a majority stake in product review site BestReviews>

米国シカゴを拠点とする老舗メディア企業Troncが、2018年2月に製品レビューメディアBestReviewsの60%に相当する株式を取得しました。同株式価値が6,600万ドルであることから、企業価値は1.1億ドルと想定されます。

BestReviewsは、2014年にカリフォルニア州サンフランシスコで創業されたメディア企業です。各分野の中から複数の商品を選択しレビューした上でランキングを発表しています。サイトの月間ユニーク訪問者数は500万人を超えているそうです。

専門家や、実際に同社が独自で囲い込んでいる顧客候補からヒアリングして得た意見を集約し、市場調査の名目も兼ねて各製品のレビュー情報を記事として発表。最も重きを置いている点として、自社施設で各製品の耐久性や機能を1つ1つ丁寧に検証していることが挙げられます。

企業が発表している機能性や製品情報の真偽を確かめるべく、第三者機関として検証を行い、メディア企業として発表している仕組みです。収益源は主にAmazonアフィリエイトからとなっています。

日本型キュレーションメディアの課題

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日本のメディア市場で、”キュレーションメディア”を思い浮かべた際、真っ先に思い付く企業がディー・エヌ・エー(以下、DeNA)でしょう。

同社が、買収したWELQ、iemo、MERYなどのメディア企業を束ねて構築したキュレーションメディアプラットフォームの手法は一時期勇名を馳せました。その後、リテラシーの低さから没落してしまった一件は、読者の皆さまもご存じのことかと思います。日本ではこうしたキュレーションやまとめサイトが乱立しました。

日本型のキュレーションメディアが抱えていた大きな課題点は、KPIの設定だと考えられます。

KPIに月間読者数やバイラル数を置き、読者数の増加のみに特化した場合、なるべく多くの記事を量産する必要が出てきます。安価で記事を量産する体制を作り、毎月一定量の配信を行えるまでには多額の先行投資が伴います。

先行投資型のメディアビジネスは必ずチキンレースの様相を呈します。競合他社にとって、資金力さえあれば参入障壁は低いため、同じ分野に多数のメディアが乱立するのです。

一度ピボットしてしまえば、これまで投資をして制作してきた過去記事の価値が薄れてしまいますし、記事の訴求力や差別化ができていない規模の勝負であるため、競争から降りる決断を鈍らせます。仮にレースから降りる決断をしたとしても、その時点で資金力を失ったリビングデッドになってしまっているのです。

投資家も数字が増加することだけを期待するようになり、起業家は本当に正しい道筋でメディアを成長できているのか、思考が盲目的になりがちになるでしょう。

このように、数値だけを追い求める癖がついてしまうビジネス思考が先行していしまい、メディアリテラシーの思考を停止させてしまうのが、日本型キュレーションメディアの行き着いた先でした。

読者が求めたのは「誰がなぜ選んだか」

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Image by With Associates

日本型キュレーションメディアモデルは、北米ではすでに過去のものになりつつあります。

DeNAが多数のキュレーションメディアを買収した2014年頃から、すでに単なる記事の量産では勝てないという市場情勢が出来上がりつつありました。今回紹介したBestReviewsの登場もその証左といえるでしょう。事実、BestReviewsや、The New York Timesに買収された競合メディアThe WireCutterは、月に10〜20記事程度のリリース数で大きく成長しています。

読者が求めているのは押し売りではなく、「誰がなぜ選んだか」という吟味された意見です。大手北米メディアはこの吟味された情報に注目しているのです。

具体的に北米の製品レビューメディアが解決しようとている課題は2点。

レビューの手法が明確でない点と、投稿者情報(レビュワー)が読者に開示されていない点です。ちなみにこの2点の課題は、日本型キュレーションメディアにおいても同様のことがいえるでしょう。

Amazonを筆頭とするEコマースサイトの製品レビュー欄には多くの人の意見が並びます。しかし、正しく批評できているものから、製品には直接関係のない配達の遅延に対する愚痴など、レビューのやり方に一貫性がありません。加えて匿名性が強く、レビュー内容をどこまで信頼できるのかわかりません。そして最終的には、製品名の横に表示される星の数で評価するようになったのです。

確かにぱっと見で製品の良さがわかる点は効率的ですが、ステマも横行します。ここに、情報の透明度を担保するという新たな価値観で市場を開拓したのがBestReviewsなのです。

まだ開拓できていない10〜20代層へのリーチ

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BestReviewsのような製品レビューメディアは大半が台所用品や工具などのハードウェアばかりで、読者層が10〜20代向けではないのは明らかです。ミレニアル世代やZ世代を見据えた製品レビューメディアの解は未だに見つかっていません。筆者はここに大きな商機があると考えます。

若者が商品を購入する際に参考とするのは、YouTuberやInstagramで情報発信を積極的に行うインフルエンサーが主でしょう。しかし情報が散乱しすぎていますし、ステマである場合もあって信頼性に乏しいともいえます。

こうした10〜20代読者が参考にする製品レビュー情報の課題は、まさにBestReviewsが解決したAmazonレビューの構図と似ています。異なっている点は、媒体とリーチ方法の2点にあります。

BestReviewsの読者を基本的にAmazonのレビューを参考にし、ウェブサイトを閲覧する30〜40代以上であると仮定します。一方で若者読者層はSNSを通じて発信されたレビューを参考にし、モバイルアプリを閲覧します。両者は全く違う閲覧媒体と情報の受け取り手段を持つのです。

仮にBestReviewsと同じく、信頼性と透明性の高い製品レビュー情報を発信するメディアコンセプトを軸に、現代の若者向けに発信手段をカスタマイズしたメディアを作れば、北米メディアも追いつけていない、新たな市場が開けるかもしれません。

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たとえば、DeNAの買収メディアの中で唯一生き残ったMERYは、すでに若者向けの媒体とリーチ方法を獲得しています。読者層と同世代の女の子が、自ら好きな商品を選んでキュレート記事を作成するモデルを採用していることから、今もなおコアファンの心も掴めています。

あとは、従来のような記事編集・構成ではなく、「誰がなぜ選んだか」というBestReviewsを参考にした編集手法へと切り替えることで、日本でも北米でも普及していない、若者向け製品レビュー市場の商機を獲得できるのではないでしょうか。

いずれにせよ記事の量産では戦わない、北米から始まった製品レビューメディア市場は未だ日本では日の目を見ていません。読者が求める専門家の意見を集約して届けるメディアが誕生すれば、大きく成長できる可能性は未だ残されていると感じますし、特にMERYのように、キュレーションの波が去った後でも愛されるメディアがレビュー分野へと参入すれば、メディアとしてさらなる飛躍が期待できるはずです。

via TechCrunch

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