Fortnite(フォートナイト)はAppleに勝てるのか(2/2)

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Epic GamesのCEO、Tim Sweeney氏は「Dice Summit 2020」にて今後10年でゲーム業界をよりオープンにすることを主張した。
画像クレジット:Dean Takahashi

前回からの続き

Reback氏はこれまでSweeney氏が挑んできた聖戦を知らない。

この戦いのため、彼はたとえ株主が不安定になっても会社を支配できるよう、資金を調達してオーナーシップを確保している。そして業界がいかに正しいことをする必要があるか、明確に意思表示したのだ。Sweeney氏のビジョンは小さな独立系の開発者であっても容易に生計を立てることのできる、そんな業界を作ることだ。

AppleとGoogleーーそして彼らこそ、まさにモバイルデバイス上のアプリストアで巨大なモバイルゲーム業界を作り上げた張本人なのだがーーもはや彼らは30%の手数料を取ることはできないと考えている(ちなみに通信キャリアが70%の手数料を取っていた時に、Appleは30%しか請求しないという、かつてのヒーローだった)。

Sweeney氏はこの「30%の手数料」に挑戦するため、Epic Games Storeを開設して開発者との取引を開始し、今のところ12%の手数料のみで運営を続けている。

これまでEpicはハイエンドPCとコンソールゲームに注力してきたため、同様に30%の手数料を取っているValveが運営するゲームプラットフォーム「Steam」にダメージを与えている。いつかはEpic Games StoreがiOSストアとAndroidストアの両方を直接手に入れたいと考えているのかもしれない。

この聖戦で金銭的な利益は期待できない。

実際、Epic Gamesは2019年ーーそしてその年に彼らはEpic Games Storeを構築していたのだが、ーー2018年より収益を減らしている。Epic Gamesが収益より業界での地位を優先させているのは明らかなことだ。これは、よりオープンで公正なゲーム業界を構築するという、Epicの活動の中で最も称賛に値する部分であるとも言える。

そして当然、リスクもある。

独占禁止法の強敵「複占(duopoly)」とは

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Appleが1984年に発表したMacintoshの伝説の広告「1984」

Epic Gamesは訴訟の中で、Appleが10億人のiPhoneユーザーを独り占めしていると主張した。Consumer Intelligence Research Partners によると、GoogleがAndroidで56%のシェアを持っているのに対し、Appleは米国ではiOSで44%の市場シェアしか持っていない。世界的に見ると、Appleの市場シェアは14.6%であるのに対し、Androidは85.4%だ。

Epic Gamesは、GoogleもGoogle PlayからFortnite(フォートナイト)を削除すると発表した後、午後遅くにGoogleを訴えている。これによってAppleは、関連市場で圧倒的なシェアを持っていないことを主張することが可能になるので、独占禁止法違反の疑惑から逃れようとするだろう。一方のEpic GamesはAppleがモバイルゲームの利益の3分の2を確保していることを持ち出すことで、この訴訟に勝ち筋を見出そうとするかもしれない。

しかし、消費者に選択の余地がないという議論に本当に勝つためには、Epic Games は、消費者により高い価格を支払わせ、かつ、開発者を悪い取引に導くという「複占(※duopoly:2社による寡占状態)」が問題であると示さなければならない。

これは、AppleとGoogleが熾烈な競争相手というよりも、寡占主義者のように振る舞わなければならないことを意味しており、それを証明するのは実は難しい。Epic Gamesは、AppleとGoogleが同じ日にアプリストアからFortniteを削除するように行動したことや、スマートフォンの黎明期から続く30%の手数料を維持し続けていることを指摘して、AppleとGoogleの癒着を告発する可能性がある。

一方、その告発は実際に何か証拠があって初めて成立するものであり、このような独占禁止法に精通した企業がそのような証拠を転がったままにしておくとは思えないのだ。

ーーということで結局のところEpic Gamesは勝てない、これが私の見立てだ。両社は価格設定の面で似たような振る舞いをしているので、勝つことは不可能ではない。その一方で、AppleとGoogleが「猛烈な競争相手である」という、本件における強力な防衛策を打ち出すのではと考えている。取材に応じてくれたReback氏は考察の最後にこう付け加えてくれた。

「米国の独占禁止法の要件のほとんどは「独占力」に基づいている。今回のように独占権の問題を提起する経済モデルもあるが、私の知る限りではそのような事例はない。彼らは「独占の陰謀」理論で訴えるかもしれないし、それは有効かもしれないが、私の研究対象外だ」。

アップルとグーグルは非常に慎重に踏まなければならない

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Appleは世界で14.6%の市場シェアを持っているに過ぎないが、派手な店舗を持っている(Photo by zhang kaiyv on Pexels.com

Epic Games の訴訟は微妙な時期に勃発した。

最近では Facebook, Apple, Google, Amazon の CEO が証言したことで、停滞気味だった 議会がテック系巨人に目を向ける事態が起きている 。議員の質問内容を考えると、民主党と共和党の両方共にあまりにも大きくなりすぎた企業を分割することが、消費者のためになると考えているように感じられる。

また、Epic Games にはMicrosoftとFacebookという、訴訟に同情的な仲間が存在している。そう、これらの企業にも独占禁止法上の問題があったのだ。ビル・ゲイツ氏はAppleを笑い飛ばして形成逆転(※)と思ってるかもしれない。というのも数十年の時を経て、MicrosoftはiOSでXBOXのゲームプロジェクト cloud gaming app Project xCloud on iOS を立ち上げようとしたのだが、Appleの反応は冷ややかなものだったのだ。

※注釈:Microsoftはかつて独占禁止法の脅威に晒された際、競合であるAppleを支援して独占状態を回避しようとした過去がある

一方のFacebookも自分たちの Facebookのゲームアプリ にインスタントゲームが楽しめるストアを開設しようとした一社だ。このストアはただ本当に友達が一緒に遊ぶためだけのものだったのかもしれないが、Appleはこれを一部拒否したため、Facebookはこの機能を使わずに立ち上げることを余儀なくされた。ちなみにGoogle Playでは問題なかったので、そちらでは利用できた機能だ。

これらのケースでAppleは、ユーザーのための安全なアプリストアを作っているという主張を首尾一貫している。しかし、Apple がこの主張を続けることは難しくなっているかもしれない。なぜならEpic はGoogle Play上において、アプリストアの何かを毀損するわけでも安全性を損なうわけでもなく、独自の活動を許可されてきたからだ。

Appleはまた、モバイルゲームのマーケティング担当者が自社広告がゲームの新規ユーザーを獲得する際にどれだけ効果を発揮したかを追跡することを非常に困難にしようとしている。これはIDFA(モバイル端末の広告識別子)の廃止を示唆したものでもある。つまり、Appleはプライバシーの名の下に、アプリをダウンロードしたり購入したりする際のユーザーの行動をサードパーティ企業が追跡することを難しくしているのではないか、ということだ。

モバイルゲームとプラットフォーム企業「N3twork」の最高執行責任者であるDan Barnes氏はこの件を気にしていて、先週開催されたGame Developers Conferenceの夏のイベントでIDFAの変更についての講演を実施したほどだ。プライバシーを守ることは良いことのように聞こえるかもしれない。だが、おそらく20%かそれ以下の人しか第三者とデータを共有することをオプトイン(能動的に承諾)しないだろう。このことが意味するのはつまり、広告のデータが効かなくなる、ということだ。

多くのゲーム開発者やパブリッシャーを傷つける可能性があり、反Appleの声に多くの共感を生む可能性を孕んでいる。

Appleがルールをすべての開発者のために公平に保ち、プライバシーを保護するために独自の方法でそれを前進させることは正しい。一方、こういった行動がSweeny氏のような経営幹部やゲーム開発者たちを不幸に陥れるリスクもあり、かつ、政府の目を引くことにも繋がってしまう。

Epic Gamesが勝利したら

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画像クレジット:Epic Games

では、ここで一つ疑問が残る。小さな開発者にとってこれは信頼に関わる問題だ。

果たしてEpicは自身がテック巨人たちに望むような行動を取れるのか、という点だ。

一部のゲーマーは、Epic GamesがEpic Games Storeで市場シェアを獲得するため、多数のタイトルを無料で提供していることに批判的だ。もちろん恩恵を受けているゲーマーもいるが、これによって一部のゲームをSteamプラットフォームでプレイできなくなったことを気に入らないという声もある。彼らは開発者のためにSteam に料金を引き下げてもらう よう反競争的な活動をしていると指摘している。

Epic Gamesは、Epic Games Storeに利益をもたらす独占契約のために開発者にいくら支払っているのかは明らかにしていない。筆者はたまたまセガの『Total War Saga: Troy』をプレイしていたのだが、これはEpic Games Storeの独占タイトルで、最初の24時間は無料になっている。Epic Gamesはユーザーのロイヤリティを期待してゲームにいわば補助を出しているのだ。もちろんそれはよいディールになるに違いない。

またEpic Gamesの他の事業であるUnreal Engineは、別の業界の複占の一部であることも忘れてはならない。Epic Gamesのゲームエンジン(開発者がゲームを作るために使用するツール)の主な競合相手はUnity Technologiesだ。UnityのCEOであるJohn Riccitiello氏は「 不愉快 」と苦言を呈している。Epic Games がUnreal Engineの開発者に多くの資金提供していることについてSweeney氏はこの手法を肯定した上で、資金を受けた開発者に Unreal Engine の使用を強制しているわけではないと主張している。

このような戦略が成功し、Epic がさらに強力になればAppleやGoogleに対して提訴しているのと同じように、独占禁止法に対する批判の対象となる可能性がある。このような戦術はかつて大企業がライバルをビジネスから追い出すために用いてきたものだ。Epicが「1984」を引き合いにAppleを非難したように、Epic 社も同じ罠に陥る可能性がある。これは残念な話だ。

しかし一番最悪なのは、Epic Gamesのゲーマー代理戦争とも言うべきこの聖戦が聞き流されてしまうかもしれない、ということだ。筆者の友人の一人はこう指摘していた。

「払うカネを大きくカットしてくれるなら、どっちの大企業が勝っても関係なくね?」。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】