開いた中国とインドの窓、加速するグローバル投資戦略ーーグローバル・ブレイン百合本氏 Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は昨年12月に年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2020(GBAF 2020)」で新たな投資戦略を公表したグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さんにお話を伺います。

グローバル・ブレインとKDDIは2012年に設立された「KDDI Open Innovation Fund」を皮切りに、これまで300億円のファンド活動を通じて国内のオープンイノベーションを牽引し、85企業へ出資を実施しています。また、2019年には持続可能な社会づくりを目指し、地域課題をITで解決することを目的とした30億円の地方創生ファンド「KDDI Regional Initiatives Fund」も共同で立ち上げています。

さて、昨年発表されたグローバル・ブレインの新たな投資戦略では、特に米中間摩擦をきっかけとする中国やインドでの投資状況の変化が語られていました。

コロナ禍によって次の10年に起こるであろう産業デジタル化・パラダイムシフトが加速したと言われる中、企業にはより幅広い視野で新たな事業成長のアイデアを追求する姿勢が求められそうです。その具体的な視点について、先日発表された戦略を元に百合本氏に語っていただきました。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さん。文中敬称略)

GBAF 2020での新戦略発表を興味深く拝聴したのですが、特に中国・インドへのフォーカスが強かった印象です

百合本:そうですね、中国の全体のトレンドは2018年ぐらいから実はダウントレンドだったのですが、これに関わる投資件数・金額とも回復をしています。投資トレンドは規制緩和とイグジットが判断の材料としては絶対なものでして、特に規制緩和についてはネガティブリストというものがあるのですが、2018年には48項目あった(外資系資金の)制限事項が現在33項目まで削減されております。

領域としてはエンタープライズソリューションであるとかインダストリー4.0、ヘルスケアなどで、金額的にはフィンティックやモビリティなどが大成長しているんです。ちなみに今、中国はユニコーン(輩出国ランキング)では第2位ですね。インドは3位でイギリスが4位なんですけども、日本は10位以下です。

中国はこれまで外資の参入には障壁が高かったですよね

百合本:確かに中国に投資したけど(資金を)持ち出すことができないよねっていう話があったのですが、2020年に緩和されまして、中国元でも外資でも外に持ち出せるようになっています。手続きも非常に緩和されておりまして、私たちとしては安心して中国に投資できる状況になったと判断しています。

グローバル・ブレイン(以下、GB)も中国に進出するわけなんですけども、原則シリーズAで対象としてはモビリティーやエネルギー、フィンティックなどに絞り込んで投資をする予定です。おかげさまで第一号の案件も決まっておりまして、基本的には上海に出る予定で、北京や深圳なども展開を考えています。

もう一つの話題、インドも大きく投資状況が変化していると聞きました

百合本:GBAFでもお話した通り、特筆すべきは中国との間の軋轢で、インドのスタートアップに対する投資は中国が大体30パーセントくらい占めていたのですが、それが今、全くないという状況なんです。またスマホアプリのTikTokなども使えない状況で禁止されていたりします。

ここに着目したのがGAFAだったと

百合本:そうなんです。インド三大財閥のリライアンス・インダストリーズにデジタルサービスを提供するReliance Jio Platformsという企業があるのですが、Facebookが約6,000億円、Googleが約4,800億円、つまり1兆円くらいの資金でこの会社の株式を買い取っている状況です。Amazonも8,000億円ぐらいインドへの投資を決めるなどレッドオーシャンな状況ですね。

インドのスタートアップのシーンとしては大体4万社ぐらいのアクティブな企業がありまして、エドテックやフィンティック、オートモーティブ、モビリティ、ヘルスケアなどが成長を遂げております。そのうち大体20パーセントがディープテックでありまして、AI、IoT、ブロックチェーン、ビックデータみたいなところが成長を遂げております。

中国に続いてインドにも進出する

百合本:はい、インドについてはシリーズAで、対象としてはヘルスケア、モビリティそれからロジスティクスといった領域に投資をしていきたいですね。すでに2件投資をしており、今年中にはバンガロールにオフィスを構える予定です。

グローバル・ブレインとしての海外投資について勝ち筋が見えてきたとお話されていましたが、改めてケーススタディについて教えていただけますか

百合本:海外投資についてはイスラエルのLoom SystemsのM&Aが確かに大きな成果だったと考えています。海外投資先のエグジット成功モデルと見てまして、ServiceNowという会社に売却を成功させました。ServiceNowはワークロー全般を自動化するSaaSプラットフォームを提供している企業で、NY市場の上場企業で今の時価総額が10兆円という企業です。

我々の海外投資戦略のプリンシパルは現地、もしくはグローバル・トップティアと一緒に投資を実施するというのが第一です。第二は日本やアジアの戦略パートナーとしてのポジショニングで、三番目は共同投資の関係を構築するためにボードを確実に取る、四番目はシリーズA、Bぐらいのステージをターゲットにしてるというものになります。

これらのプリンシパルに基づいて一昨年にAspectivaというイスラエルの企業に投資をしていまして、これはJVPというイスラエルナンバーワンのVCさんと共同投資でした。こちらの企業は15カ月でWalmartさんに売却することができまして、Loom Systemsについても同じくJVPさんとの共同投資案件です。このような形で海外にも随分投資をしておりまして、今までは日本のイグジットが結構多かったんですけども、海外の案件もどんどん増えてくると考えています。

国内もエグジットがIPO含めて多かったですね。2020年はIPO全体でも100件を超えていました

百合本:2020年の実績は投資件数、投資金額ともほぼ例年と同水準で終えることができました。コロナ禍ではあったのですが、年間で約150億円ほどの投資と追加投資を入れまして100件ほどの投資結果となっています。これは日本で最高のレベル水準と考えています。

2020年のエグジットは7件ということで、IPOが4件、M&Aが3件という結果です。ハンドメイドECのクリーマ、ロボアドバイザーのウェルスナビ、クリングルファーマが12月に東証マザーズに公開をし、NBT Partnersも韓国KOSDAQに上場しました。M&Aはスマートキャンプがマネーフォワードに買収されています。

話をグローバルに戻します。百合本さんはテクノロジーやイノベーションについて、地政学的な視点で取り組む必要性をお話されていました

百合本:領域と地域、さらに投資や支援、ソーシングみたいなところを同時進行的に三軸かつ加速度的に回す戦略を今年から来年に向けて取っています。これを「GBの三次元戦略加速度モデル」としているのですが、地政学については私も随分と本を読みました。この新戦略の構築にあたってはこの地政学の知見がだいぶ生きているんじゃないかなと。

GBとしては日本をはじめとして韓国・ソウル、インドネシア、シンガポール、それからロンドン、サンフランシスコに拠点を持っているのですが、更にグローバル化を進めたいと考えております。グローバル化の地政学的な背景としては、アメリカの国際政治学者であるイアン・ブレマー氏が提唱している「Gゼロ」です。いわゆるアメリカというのが世界のリーダー的な地位を完全に放棄してしまい、カオス的な状況になりました。完全に冷戦の時代に入っているという状況の中、こういう時期というのは我々のグローバル戦略にとって非常にチャンスなのです。

具体的に言うと米中間のデカップリングによって米中間の投資活動は弱まります。それによって、今まで全然開いていなかった中国のスタートアップへの窓が開きました。中国とアメリカの戦争によって、日本の際立った技術を持つ大企業やスタートアップに対して非常に中国が関心を寄せています。これにより中国の大企業やスタートアップには関係を構築する大きなチャンスが到来しているのです。

なるほど、中国のテクノロジーは規制のあり方や深圳を中心とするハードウェアサプライチェーンなど独特の進化を遂げていて魅力的ですよね

百合本:それから先の話にもあった通り、インドと中国の争いによってGAFAが進出してくるなどインドのスタートアップシーンというのはレッドオーシャン化しつつありますが、逆に今、(日本にとっては)少し窓が開いている状況かなと。

こういった地政学的なものを考慮に入れて、どこが空いてるのかを的確に判断して機動的にかつコストを最小化に動くことが重要になると考えています。(後半につづく)