メルカリと鹿島アントラーズが「ピッチコンテスト」をやるワケーー地域づくりを担う「スタジアムラボ」の役割

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鹿島アントラーズウェブサイト

ニュースサマリ:鹿島アントラーズ・エフ・シー(以下、鹿島アントラーズ)は1月27日、ピッチコンテスト「Pitch & Match」の開催を伝えている。プロサッカークラブの経営資源を活用してスタートアップや企業の新たな技術・サービスと協業し、エンターテインメントとテクノロジーの融合した地域づくりを目指すとしている。

このイベントは鹿島アントラーズが実証実験など事業促進の機会を提供し、同クラブや鹿嶋市と共同で事業化、社会実装を目指すプログラム。登壇を希望する企業や団体は2月12日までにこちらのフォームから応募が必要その後、19日まで選考をした上で、最大10社程度が最終のピッチステージに駒を進めることになる。ピッチイベントの開催日は3月5日を予定している。募集するテーマは次の通り。

  • 先端的な技術が実装されたスマートシティ、スマートスタジアムの実現
  • 技術を用いたエンターテインメントの実現
  • ヒト・モノ・コトをつなぐカシマスタジアムという場を活かした取組み
  • プロスポーツクラブを中心としたサステイナブルな地域づくり
  • 地域コミュニティにおけるウェルビーイングの向上
  • その他鹿島アントラーズをハブとした課題解決に向けた取組み

同クラブでは昨年2月に鹿嶋市および親会社であるメルカリと「鹿嶋市における地方創生事業に関する包括連携協定」を締結している。また、昨年10月には他の企業、地方自治体とともにオープンイノベーション・プログラム「SmartCityX」に参画し、「スポー ツ×テクノロジー」をテーマとした地域課題解決の取り組みを実施している。

ホームとなるカシマスタジアムでは、第5世代(5G)移動通信システムが実装されており、昨年9月にはNTTドコモの協力のもと「5G×マルチアングル映像体験」の実証実験を実施した。今回募集するアイデアや技術、サービスはこういった社会実装活動をさらに多数の企業・スタートアップ、団体にまで広げるものとなる。

話題のポイント:鹿島アントラーズがピッチコンテスト!と聞いて「スポーツテック盛り上がってるな〜」と思ったのですが、話はそう単純ではなく、というかもっと広くて楽しいお話でした。メルカリの取締役会長であり、鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役の小泉文明さんにお話伺いましたが、キーワードになるのは「地域創生の実験場(ラボ)」かなと思います。

隔週2万人がやってくる「実験場」

さて、こちらの図ですがメルカリの研究開発プロジェクト「R4D」で扱っている「poimo」の動く様子です。poimoは東京大学・川原研究室・新山研究室と共同で研究している「空気でふくらませることができるパーソナルモビリティ」だそうです。

で、この方がpoimoに乗って走ってるこの場所、これがカシマスタジアムなんですね。通常、こういったモビリティについては(特に動力を使うものであれば)規制などで厳しく制限されているので、勝手に公道を走ったり、ましてや「おいらスタートアップだゼ!」とナイショで営業したりするとすぐに叱られることになります。

一方、鹿島アントラーズのホームスタジアムは彼らの運営ですので、こういう実験も自由にできることになるわけです。スタジアムは広く、コロナ禍の今であれば当然ながら「非接触デリバリ」というのは非常に重要なラストワンマイルソリューションです。もし、何かのフードデリバリをやりたいとなった場合、地域でやることもひとつですが、隔週で2万人がやってくるスタジアムでやることができれば十分な実証結果が得られるはずです。これをさらに鹿嶋エリア、地域で展開すれば段階的にサービスの芽が成長することになります。

 鹿島アントラーズを小泉さんたちは「スタジアムを持ったラボ(実験場)」と表現していましたが、非常に理にかなったインキュベーション、アクセラレーションの仕組みだなと感じるわけです。

スポーツをハブとした地域づくりモデル

資料提供:鹿島アントラーズ

ということで、今回のピッチコンテストはニュースの通り、鹿島アントラーズのアセットをうまく活用して地域を盛り上げる、新しい事業の芽を探し出す・一緒に作ろうという試みです。出資だ!株だ!とかのマネーゲームっぽい話というよりは(資本提携必要だったらケースで応じるというお話ですが)、実直にこの「鹿嶋」という地域を使った壮大な社会実験をとにかく一緒にやろうぜという意気込みが根底にありました。

彼らのホームタウンとなるのはメインの鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市、鹿行(ろっこう)5市で、人口は合計27万6,000人。J1としては最もコンパクトな地域になるそうです。ホームの「カシマスタジアム」にはゲームのある隔週で県外など含め2万人がやってくるそうです。またファンクラブ会員としても2.4万人が参加しており、非常に魅力的なユーザーベースを保有している状況があります。

メルカリが鹿島アントラーズのスポンサーを経て、筆頭株主になったのは2019年です。そこから数年はこういったアセットを整理し、クラブのパートナーやスポンサーなどの企業、鹿嶋市などの行政、そしてメルカリが強みとするテックを巻き込んだ様々な取り組みを地味に仕組んでいったそうです。

例えばカシマスタジアム敷地内にはアントラーズスポーツクリニックが併設されているのですが、ここにパートナー企業となったシーメンスのMRIを導入することで選手ケアだけでなく、地域医療の課題(整形外科)にも貢献できるようになっています。

また、スポーツとはちょっと遠いところで、地域のIT人材を育成するために、鹿嶋市の小学校においてプログラミング教育の提供も実施しています。これは鹿嶋市と締結した「地方創生に関する包括連携協定」のスキームを活用したもので、導入にはパートナー企業ユナイテッドのグループ企業、キラメックスが活躍しています。

クラブではライフスタイルのオリジナルブランドを立ち上げている(画像:鹿島アントラーズ

今、同クラブは「スポーツクラブからライフスタイルを提供するクラブへ」というビジョンを掲げています。スポーツテックと考えるとスタジアムで来場するファンの人たちに楽しい体験を提供することにフォーカスしてしまいますが(もちろんそれも重要でありつつ)、もう少し大きな視点で「鹿嶋」という地域を、どうテクノロジーで変貌させるのか、というアイデアが求められるように感じました。

そしてもしこのスキームで大きく社会実装に成功したスタートアップは他の地域でも大きくスケールする可能性が出てくるはずです。株だ!出資だ!なんて話もこのタイミングで出てくるのではないでしょうか。

スポーツクラブをハブとしたオープンイノベーションの取り組みは非常に理にかなっており、スポーツを中心にファンや地域、そしてテクノロジーが融合した先には、大きな果実が生まれそうな予感がすごくしています。

訂正:記事初出時に誤ってpoimoの別の搭乗写真を掲載しましたが、現在は正しい写真に差し替えてあります。訂正してお詫びいたします。