渋谷と副業、人材で官民ギブアンドテイクの仕組みをつくるーー渋谷区とYOUTRUSTがタッグ

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。

行政による起業支援の取り組みは中央・地方それぞれに大小様々な施策がありますが、ここ10年ほどで大きく変化したのはやはりベンチャー支援の枠組みではないでしょうか。いわゆるテクノロジー系の「スタートアップ」と呼ばれる、外部資本を注入することで一気に成長を促し、企業評価を押し上げる方法です。

東京以外の地方都市では大阪の「大阪イノベーションハブ」や福岡の「Fukuoka Growth Next」といった拠点活動、中央行政では経済産業省が中心となって外郭団体など含め、規制緩和やオープンイノベーション税制などのインセンティブ整備が進められています。

一方でこれらを行政サイドで担う人材は大変です。スタートアップは手法自体が非常に複雑で、ビジネスアイデアはもちろん、テクノロジーなど先端情報への理解、特殊な資本政策に見られるスタートアップそのもののフレームワークを理解していなければ的確なアドバイスはできません。実際、長年に渡ってスタートアップ支援に取り組んできた福岡市の高島宗一郎市長も民間からの出身で、元アナウンサーというアンテナの高さがこれら施策の強い牽引要素のひとつになっています。

では、行政がスタートアップのようなアイデアに溢れる取り組みを柔軟に取り入れるにはどのようにすればよいでしょうか。渋谷区が今回、新たに発表した取り組みはその一つの答えになるかもしれません。

渋谷の新たな施策を牽引する「副業」人材

渋谷区とキャリアSNS「YOUTRUST」は4月26日に新たな副業人材の活用を目指し、採用された11名を公表しました。国内外から応募した692名から選出されたもので、これらの方々には渋谷区が推進する「渋谷区スタートアップ支援事業」でコミュニティマネージャーやスタートアップ招へい施策推進、海外プロモート支援、実証実験推進などの業務に取り組むそうです。

渋谷区の副業に採用された11名

この渋谷区スタートアップ支援事業は渋谷区が2020年1月から開始したもので、渋谷区をベルリンやサンフランシスコのようなスタートアップ・フレンドリーな都市にすべく様々な支援活動を実施しています。渋谷の街で実証実験をし、官民連携しながら社会実装を進めるプロジェクト「Innovation for New Normal from Shibuya」では、協業するスタートアップを公募し、12社が採択されました。

そのほかにもオープンイノベーション拠点「Shibuya Inclusion Base jinnan」の開設や、起業を目指す外国人に対し最長で1年間、起業準備活動のための入国・在留が可能となるスタートアップビザの発給の開始など、スタートアップ拠点「渋谷」を行政の側面からサポートしています。

渋谷区でこのプロジェクトをリードする田坂克郎さんは、自身も海外や大手、スタートアップでの経験を持つ人物で、昨年1月からこの渋谷で行政側としてスタートアップエコシステムの構築を手がけています。彼はこれらの活動を支えるためにも幅広い人材の参加が必要不可欠とお話しされていました。

実際に自治体に入って『スタートアップ的な』立ち上げを推進するのは大変です。(特に海外との連携を模索しているため)これまでは海外とのコミュニケーションも私が中心になって対応してきましたが、やはり限界があります。こういった幅広いスキルを有するスペシャリストに参加してもらう、というのがYOUTRUSTに入ってもらった理由です。

語学や事業プロデュースなど、様々な能力をお持ちの方にお集まりいただきましたが、共通していたのがキャリアというよりも『渋谷区のために何かをしたい』という意志の部分でした。スタートアップエコシステムや社会に対して寄与したいという方に対し仕組みを提供し、適切な方に適切なタイミングで相談ができればと考えています。(渋谷区 グローバル拠点都市推進室長 田坂さん)

行政だけではどうしても不足する能力を一つの企業に依頼するのではなく、複数の個人に対して求めるという取り組みはこれまでにもありました。例えば神戸市では同様に副業人材を市外含めて募集し、PRやデザインといった特殊な技術をあくまで市のチームとして迎え入れています。

渋谷区で今回採用となった副業人材には、大手企業の一線で働く方々も多数含まれています。有効なアイデアや解決策を限られた時間に提供できるのかといった運用面の具体策はまだこれからというお話ですが、ここがブレイクスルーすれば他の地方自治体にとっても新たなケーススタディになることは間違いありません。

知を共有する「SHIBUYA Growth Guild」構想

地域にはその場所に根ざしたファンがいます。こういった方々は前述の通り、単なる報酬だけでなく別のモチベーションで地域と関わりを持ってくれます。そのビジョンを示したのが、今回の副業人材採用と同時に公表された「SHIBUYA Growth Guild(以下、SGG)」構想です。

これはまだ構想段階ですが、今回の取り組みの延長として民間企業に在籍している方々の知恵をもらって共創するコミュニティの考え方です。渋谷区専用の人材データベースとして活用し、(キャリアSNSの)YOUTRUSTからSGGに入り、渋谷区からあがってくる街の困りごとを相談させてもらう、という仕組みを検討しています。(YOUTRUST 大前 宏輔さん)

街には社会課題の発見装置のような側面があります。今回のコロナ禍が顕著ですが「もし、街から人がいなくなったらどうする」といったこれまでに経験したことのないような問題が発生した場合、行政の知見だけで対応するには限界があります。

そういった場合、SGGのようなナレッジベースの役割を果たす人材プールがあれば、街は限られた予算と時間において有効に人々(特に地域のファン)の知恵を借りることができる、というわけです。渋谷区長の長谷部健さんも「課題をしっかりと解決していく区にしたい」と、この構想への期待を伝えていました。

想定を大きく上回る700名近くのすごい方にお集まりいただきました。渋谷区への想いと同時に語学堪能な方やコミュニティ、マーケティングなどに長けた方がいらっしゃって非常にわくわくしています。そしてこれをスタートアップの分野だけに留まらせるのはもったいないので、新たにギルド構想を作らせていただきました。

外部の知見はとどのつまり、人材です。優秀な方々に集まっていただくことでスタートアップ以外の課題、例えば町会や商店街にも活用できる。渋谷区としてのシナジー、アウトプットに期待していただければと思います。(渋谷区 長谷部区長)

こういった活動は転職や業務委託の仕事とはまた異なる、曖昧な境界線にあります。自身のキャリアにおいて、街と関わる機会が積極的に開放されれば、単なる請負仕事とは異なる、違った視点で参加する人たちも出てくるでしょう。

行政と企業・スタートアップの関わりは、新しい産業・サービスを生み出すためにも重要な要素ですが、一方で税金を使う側面もあることから、企業間での協業やオープンイノベーションとはまた異なるスキームが必要となるのも事実です。地域への貢献と副業人材という新しい『アイデア』が今後の渋谷区にどのような影響を与えてくれるのか、今後への期待が持てる取り組みではないでしょうか。

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