サーチエンジンをユーザのローカル環境に実装、利便性とプライバシー両立の「Xayn」が日本・アジア進出へ

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「Xayn」
Image credit: Xayn

現在のインターネット人口を考えると、多くの人にとって、物心ついたときにはサーチエンジンの存在は日常のものだったかもしれない。Yahoo がスタンフォード大学の研究室で生まれたのは1994年のこと、ドメインや URL でしか指定できなかった情報リソースへ動的にアクセスできる画期的な発明となった。

しかし、こうして得られた利便性とのトレードオフとして、望むか望まざるかにかかわらず、我々が手放すことにを余儀なくされたものがある。プライバシーだ。リファラーやクッキーなどの技術の登場で、Web サイトやさまざまなアプリ、アドネットワークなどがユーザの行動をつぶさに捕捉するようになった。サーチエンジンはその中心的な存在と言っていいだろう。

サーチエンジンが持つ利便性と、ユーザのプライバシーを両立させようとすることはできないか。そう考えて、スマートフォンや Web ブラウザにサーチエンジンを組み込む独自技術を研究・開発しているスタートアップが、ベルリンに拠点を置く Xayn(ゼイン)だ。同社は今週1,200万米ドルに及ぶシリーズ A ラウンドを発表し、日本やアジア地域に進出する計画を明らかにした。

本ラウンドはグローバル・ブレインと KDDI がリードインベスターを務め、以前ラウンドに参加したヨーロッパの VC である Earlybird らも参加した。同社はこれまでに、仮想通貨「IOTA(アイオタ)」創業者の Dominik Schiener 氏、ドイツ・ライプツィヒの SpinLab らからも出資を受けていて、今回ラウンドで累積調達額は2,300万米ドル超に達した。

もともと学術研究プロジェクトとしてスタートした XayNet をベースとする Xayn は、主に研究者らを中心にメンバー構成されたスタートアップだ。昨年12月にバージョン2.0を Android および iOS 向けの検索エンジンアプリとしてローンチした。このアプリではユーザの挙動を AI が自己学習し、その情報は基本的に外部に送信されないため、プライバシーの秘匿性が保たれる仕組み。

Xayn はこの技術を、さまざまなアプリに導入することを想定したオープンソース SDK による配布と、Google アプリのような独自アプリを自前で開発することで展開する。ユーザは自分が使ったサーチエンジン利用を元にした嗜好に関するデータを、オプトイン的にアドネットワークや広告主に開示するようにする。我々が耳にした概念で言えば、情報銀行に近いかもしれない。

CEO で共同創業者の Leif-Nissen Lundbæk 氏
Image credit: Xayn

CEO で共同創業者の Leif-Nissen Lundbæk 氏は BRIDGE の取材に対し、日本市場への進出を始める理由について次のように語ってくれた。

欧米は確かに大きな市場。ただ、ヨーロッパとアメリカでは、プライバシーに対する考え方に違いがある。ヨーロッパはどちらかというと規制が優位で、アメリカは消費者要望に起因していることが多い。EU の GDPR(一般データ保護規則)、消費者に主眼を置いた CCPA(カリフォルニア州 消費者プライバシー法)の対称からもわかりやすい。

だが、一言でヨーロッパと言っても市場は分散している。言葉は50以上あり、国や地域により求められる条件も異なる。その点において、アメリカは我々にとって最大の単一市場で、全体の30〜40%程度の成長はアメリカからもたらされるだろう。日本はアメリカに次ぐ単一市場でありながら、ヨーロッパの規制とも協調を取ろうとしていて、その点で非常に有望視している。(Lundbæk 氏)

プライバシーに対する人々の認識が高まる中、企業もまたサービスやアプリがより、ユーザにとって(プライバシーを侵害する可能性のない)心地よいものを提供することが求められるようになるだろう。今のところ同社は、C 向けのフリーミアムのサブスクと、B2B2C による企業向け SDK の2つのビジネスモデルを想定しているようだ。

Tiktok など中国アプリが欧米やアジア市場に進出を図り、ユーザ情報の収集機能がボトルネックとなって展開が阻まれるケースが相次いだ。Xayn の技術を使えば、ユーザ情報の収集機能のオーナーシップをユーザ側に取り戻すことが保証できるため、こういったアプリの世界展開に活路をもたらす可能性があるかもしれない。その観点から、中国市場も Xayn のターゲットの一つのようだ。

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