【Web3起業家インタビュー】Gaudiy 代表・石川裕也氏に聞いた Web3 の現在地と、日本での社会実装のゆくえ(前編)

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

MUGENLABO MAGAZINE では、ブロックチェーン技術をもとにした NFT や 仮想通貨をはじめとする、いわゆるWeb3ビジネスの起業家にシリーズで話を伺います。Web3についてはまだバズワードな要素も含んでいるため、人によってはその定義や理解も微妙に異なりますが、敢えていろいろな方々の話を伺うことで、その輪郭を明らかにしていこうと考えました。

2回目は、NFTをはじめブロックチェーンでエンターテインメント業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む Gaudiy の創業者兼代表取締役の石川裕也さんです。業界を代表する企業と手を組んだサービスの提供を通じて、テクノロジーに明るくないユーザにも、Web3を日常の身近なものにする取り組みをしておられます。


Web3 が今ホットな理由、Web3 によって実現可能なビジネスとは?

Image credit: Wikimedia Commons
Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported

石川:Web3 の思想である decentralization(非中央集権化)は、これまで GAFA をはじめプラットフォーマーに依存していたものを民主化していこうという流れです。富や情報の再分配といった人類として必要だったことが Web2 の時代にはできなかったが、ブロックチェーンの登場で、民主的なプラットフォームを実現できるようになった、という背景があります。

リアルの世界にあった不動産、ショッピング、コミュニケーションが、ネットで住む場所を探せたり、e コマースやチャットツールに代わっていったように、これまで Web2 で提供されていたサービスが Web3 に対応していくのだと思います。今なされている活動の多くがブロックチェーン上で行われるようになっていくでしょう。

Web3 で大きく構造が変わる産業がどこかと言えば、まず、エンタメ業界は大きく変わると思います。エンタメ業界はこれまで Web2 にすごく締め付けられていた環境にあったからです。特定のプラットフォームを通さないと楽曲が聞けない、ゲームがプレイできないという環境に抑圧されていたエンタメ業界は、Web3 の登場で大きく変わるのではないかと思います。

もう一つは金融です。ブロックチェーンを使えば、特定のセキュリティや権威がなくても、何かを発行したり担保したりできるようになるので、既得権益性の高かった金融システムや ID 管理の事業体については、全てブロックチェーンによって置き換えられると思います。Web3 によって、エンタメは拡張され、既存金融はディスラプトされる、というのは自明だと思います。

さらに言えば、Web3 のコミュニティや DAO(分散型自律組織)のような分散型エコノミーを効率的に運用できるモジュールを提供するサービスは、今後、どんどん出てくるだろうと思います。いろんなライブラリツールを使ってプログラミング作業を効率化できるように、モジュールを組み合わせることで、効率的に DAO に必要な機能を揃えられるようになります。

Web3 の対極として、GAFA に代表されるビッグテック企業はどうなっていくのでしょうか?

石川:まず、全体的な収益の面から、縮小されるだろうなとは思います。でも、無くなりはしないでしょう。企業の目線から見れば「GAFA は儲けすぎだ」という評価はあるかもしれませんが、ユーザは使いやすいから Google を使い、面白いから YouTube を観ているので、それより使いやすいもの、面白いものが出ない限りは、淘汰されることはないでしょう。

ただ、面白さの Minimal Value Proposition(最小の価値提案)は、動画サイトなどの再現性が高いインフラ系サービスにおいてはコモディティ化されて、比較的早い段階で超えられるんですよね。それを超えた上で、ブロックチェーンでしかできないことをやると、そちらに取って代わられていくので、従来のものは徐々に縮小されていって、ブロックチェーンを使ったものが増えていく、そんな流れになっていくと思います。

金融では DeFi(分散型金融)、ゲームでは GameFi みたいな言葉が出てきていますが、エンタメ業界ではまだそのような言葉は出てきていません。Web3 は、国や場所を問わずサービスが浸透していく傾向がありますが、Gaudiy は日本のエンタメ業界のみならず、ハリウッドなどにも広げようという構想をお持ちですか?

Image credit: Gaudiy

石川:すでにグローバルへの挑戦は進めていて、実際にグローバル企業との事業にも着手しています。ポイントとしては、(特定の管理者がおらず完全自由な)パブリックチェーンを使ってやっていくということですね。仮想通貨を使ったエンタメの DeFi みたいなことはしませんが、NFTFi やGameFi は必ずやっていく領域ですね。

Gaudiy では、有名人の関連商品の転売問題とか、コピー問題とかも解決できますし、また、手数料の分配などについてもブロックチェーン上に刻むことができます。また、「こういうことはやっちゃいけないですよ」というルールは、コミュニティがガバナンス的に機能しているので、そこで制御することも可能です。

以前、二次創作の権利を NFT で売っていたのですが、二次創作権は与えつつ、その二次創作物を出す直前に、コミュニティがガバナンスとして機能し本当に出していいかどうかを制御するやり方をとりました。二次流通を活発化させたり転売問題を解決したりするだけでなく、コミュニティという定性的エコシステムによって制御をすることも Gaudiy ではできるんです。

我々も普段よく使っているものの中に、クリエイティブ・コモンズというライセンスの考え方があります。画像・映像・音声など一つ一つに対して、ライセンスをどう持つかを定義したものですが、Gaudiy もゆくゆくは、コンテンツ一つ一つにクリエイティブ・コモンズのような属性を付与していくのでしょうか?

Photo credit: Marco Verch / Flickr under Creative Commons license CC BY 2.0

石川:クリエイティブ・コモンズは NFT が最も得意としているので、いろんなところで活用されていますが、実はここにも課題があって、どこまでやっても、結局、違法性のあるコンテンツを公開してしまう人というのはいるわけです。だから、何かしらガバナンスを制御しなければいけないところは人間がやる必要がある。

YouTube のように AI に音源を学習させて自動検知するみたいな技術的な回避策は、(違法なコンテンツを公開する人との)いたちごっこなので、完全な形でやるのはほぼ無理。従って、コミュニティインセンティブを使って、それを人間が監視するモチベーションを作ることが大事かなと思います。

「ブロックチェーンでシステム的に全部やれるんじゃないのか」みたいな話がよく言われますが、そもそもイーサリアムも全て、人間のモチベーションによって制御される仕組みだと思います。だから、Proof of Stake では、トークンをたくさん持っている人は持っている人ほど、将来のトークン価値が下がるような誤った判断はしない、という考え方がベースにあります。

つまり、全然コンピューティングされている仕組みじゃなくて、インセンティブで回っているわけですよね。これは、マイニングもそうですが。コンピューティング制御できる NFTと、インセンティブを活用して制御できるブロックチェーンは両方が重要で、両方活用して制御していくことで、そのガバナンスを作るコミュニティの役割を持つのが Gaudiy です。

Gaudiy の中では、コミュニティで自治するような仕組みをいろいろ提供されていると以前伺ったのですが、例えばリアルな世界においては、社会的な通念や法律の制約が邪魔をして理想的な方向に向かわせることが難しいものを、バーチャルの世界ではより理想的なものにすることができるだろう、ということでしょうか?

石川:それはできますね。メタバースなども近いなと思っています。リアルで制御するよりデジタルで制御した方が早いわけですよね。リアルな世界だと、BAN する(禁止・排除する)とかって難しいじゃ無いですか。でも、すごい発言量が多い人をミュートするとかいう制御をネット環境だとすぐできます。

デジタル空間での世界観が多い社会においては、そういう整理がしやすいなとは思います。それをしやすくするために、デジタルツインという、リアルとデジタルをどういう風に組み合わせるかということをやっているわけです。先日の DNP との提携は、メタバースがリアルとデジタルをどううまく組み合わせられるかということをテーマとした業務提携でした。

◼︎DNPとGaudiy、ブロックチェーン活用のコンテンツビジネス創出で業務提携

ガバナンスを効かせるコミュニティですが、そのコミュニティの性格は誰が決めるのでしょうか?

石川:Web3 の世界観では、ユーザが完全に民主的に方向性を決めていくことになるでしょう。ただこれにはすごく課題があります。我々の顧問になっていただいている坂井先生(慶応大学経済学部の坂井豊貴教授)が著書「多数決を疑う――社会的選択理論とは何か」(岩波新書刊)に書いていますが、多数決が常に正しい選択をするわけではないということが前提にあります。

具体的な事例をあげると、NEM (New Economy Movement)というトークンがあるのですが、NEM のユーザの人たちが「こういう風にした方がいい」ということをどんどん突き詰めていった結果、どれも近視眼的なんですよね。すぐ儲かるものばかり取り掛かろうとして、長期的な展望ができない。それで、NEM を開発する部隊がハードフォークして分裂したんですよね(編注:2021年11月)。

この話を聞いて、すごく本質的なことだなと思っていて、学校に例えると、インフルエンザが出て、学校を休校にするか休校にしないかを小学生から多数決をとったら、絶対に休校にする方に多数決が集まると思うんです。だって、誰だって小学生は休みたいじゃないですか。でも、先生が長期的に見ることによって、ダメだよねって小学生たちを諭すわけです。

「確かに今休みたいよね。その気持ちはわかるけど、休んでしまったら、その休んだ期間にやらない授業を後の日程で詰めてこなさないといけないから大変になる。長期的にみたらダメだよね。」

多数決は基本的には近視眼的な判断に偏ってしまいます。なぜなら、人間の本質は近視眼的だからです。だからこそ、長期的な視野で見ることができる、俯瞰して見る人たちの票数が少なくなってしまうことは、何かの正しい意思決定をする状況においては大変です。そのバランスがすごく大事だと思っています。

Web3 の前に Web2.5 の時代が長くなるんじゃないかというのが僕の考えです。Web2.5 というのは、ユーザが意思決定できる範囲と企業が意思決定できる範囲を完全に分けた世界のことです。ユーザにとっては、自分達でそのサービスを動かしていると思える UX(ユーザ体験)が重要であって、実態がそうだという訳ではありません。

Web2.5 は、企業はある程度、自分たちのものは自分でコントロールできる世界。この Web2 と Web3 の間がすごく大事になってきます。最も合っているのが Web2.5 なのか、Web2.8 なのか、Web2.3 なのかは、その時代によっても、そのサービスによっても違ってくると思います。

還元されるインセンティブに関して言えば、企業にもユーザにもトークンがもたらされる量は一律。しかし、意思決定の仕方だけ双方で違う。例えば、政府で言えば、国をよくするために作業しているという大きな方向性では同じだけれど、文部科学省と国土交通省では予算が違うし、ミッションも違いますね。それに似ていると思います。

完全に全てをユーザに委ねる、というよりは、餅屋は餅屋がやる、というのが、現在の日本的な流れかなと思いますね。

後編に続く)

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