熟成ウイスキーと交換できるNFTで、時と共に価値が高まる世界観を実現ーー世界を変える8つのテクノロジー/UniCask CEO クリス・ダイ氏 #ms4su

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本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

世界はコロナ禍を経て VUCA と呼ばれる不安定な時代に入ったと言われています。スタートアップにとって、これをチャレンジと捉えるべきでしょうか、それとも、チャンスと捉えるべきでしょうか。世界では、社会インフラが整っていない地域ほど、リープフロッグ現象を起こすスタートアップやユニコーンが多数生まれています。

日本の産業構造や社会は成熟しているものの、高齢化、労働者不足、中央集権的な仕組み、硬直化したシステムといった課題があります。こうした課題は、タイミングこそ違えど、いずれ世界各国や地域や社会が経験する可能性があり、日本のスタートアップが自由な発想で解決策を提示できれば、世界の救世主的存在になるかもしれません。

本稿では、自由な発想で産業や社会のペインを解決しようとするスタートアップにインタビューし、彼らの思い、軌跡、将来展望などについて、読者の皆さんと共有したいと思います。

Web3のアプリケーションの一つであるNFT(Non-fingible Token、非代替トークン)のメリットの一つは、コピーが無尽蔵に行えるデジタルでありながら、希少性を作り出せることにあります。アート作品のレプリカに通し番号が振られて販売されるのと同様、生み出した数を限定し、その情報をブロックチェーン上に書き込んで証跡を作ることで、一つのNFTは唯一無二の存在になります。

ただ、さまざまなNFTを発行するプロジェクトが生まれる中、そうしてNFTの価値が時の経過と共に下がっていってしまうことが問題になっています。前回お話を伺ったCryptoGamesは、NFTのユーティリティ(用途)を増やす(拡げる)ことでNFTの価値創造を行おうとしていました。一方、今回紹介するUniCaskは、また違ったアプローチでNFTの課題に取り組んでいます。

複数のスタートアップの立ち上げや経営に携わってきた連続起業家のChris Dai氏は、2019年にブロックチェーンスタートアップのレシカを設立した。ウイスキーNFTを発行するUniCaskは、レシカのプロジェクトがスピンオフして設立されたスタートアップです。

UniCask と解決しようとするペイン

「UniCask」
Image credit: UniCask

ブロックチェーンを活用したアプリケーションの一つに仮想通貨があります。これはNFTと対照的に、FT(代替可能トークン)と呼ばれることもあります。仮想通貨は事実上の通貨という性質上、金融当局による規制対象で、なんでも自由に仮想通貨を使ったビジネスができるわけではありません。仮想通貨はボラティリティも高く、消費者に対して提供できる価値も変動してしまうことから、金融以外の分野でブロックチェーンの社会実装を試みようとしたのが、Dai氏がNFTと関わり始めたきっかけです。

しかし、NFTとて、価値が下がってしまうリスクはあります。仮想通貨の世界でも、法定通貨と価値をペッグさせたり(ステーブルコイン)、兌換紙幣が使われていた金本位制のような、価値の安定した実物とリンクさせることでボラティリティを下げようとする努力はあります。NFTでそれはできないか、そして、価値を安定させるだけでなく、むしろ、時の経過と共に上げることはできないか。

Dai氏は、酒の輸入業を営むジャパンインポートシステムの田中克彦氏からヒントをもらい、ウイスキーとリンクするNFTの考案を始めます。ウイスキーは持っているだけで価値がある特性があり、熟成することでさらに価値が増す。ただ、仕込み段階からの樽まるご購入は、よほどのウイスキー好きじゃないと手は出せない。ならば、ウイスキーとNFTを繋げられないかと考えたわけです。

UniCask CEO Chris Daiさん

ワインだと、温度管理が結構大変ですし、品質を担保するのが結構難しかったりするんですよね。なので、一番最初にやるにはチャレンジング過ぎるなと、スピリッツですっと、取り扱いやすさは同じなので他の酒でも行けたんですが、ウイスキーの方が最近ブームになって、高値で取引されるようになってきたんですよね。

しかも、ジャパンウイスキーが海外で非常に人気ということもあって、市場規模も大きくなっていっているところに我々は注目しました。我々のNFTでは、購入したウイスキーの樽を100分割して、その100分の1を所有することが出来るんです。購入した樽は熟成するまで蒸溜所で保管されています。

こういうビジネスモデルは、我々がやる以前に全く同じようなものがなかったわけでは無いのですが、問題は、購入した後に所有者が自由に転売できないということですね。そして、もっと大事なのが「その蒸溜所に、本当に樽を持っている」ということをどうやって第三者に証明するかというところです。それが証明できないと、買ったり売ったりすることもできません。(Dai 氏)

「UniCask」のアプリ
Image credit: UniCask

樽を所有しているという証明をどうやってするのか。従来のやり方なら、蒸溜所に連絡して「今のオーナーが主張している樽は、本当にそこにあるのか」ということを確認してから権利を転売してもらうことになりますが、こうした煩雑な連絡に蒸留所が全て対応することは難しいでしょうし、なにより、一般の消費者ユーザが利用するにはハードルが高すぎます。

UniCaskのNFTであれば、UniCaskが蒸溜所と契約して樽を購入しており、偽物の樽の所有権が勝手に出回るというリスクもありません。蒸溜所にとっても、価格が高騰した時に1日に何度も樽のタイトルチェンジ(所有者変更)を行うといった作業が避けられ、ウイスキーのオーナーも、蒸溜所も、UniCaskも、三方よしというエコシステムが形成できるというわけです。

(NFT発行の)一回目には、イギリス・スコットランドのSpringbankという蒸溜所の樽を扱いました。1991年の樽なので、すでに30年モノで、あと20年間保管・熟成して、樽詰めから50年後にボトリングするという契約で販売しました。熟成の間に蒸発する分もありますが、NFT1つはボトルではなく樽の100分の1量として販売しています。価値は高まるので、結構、夢があるんです。(Dai 氏)

UniCask NFTホルダーの多くは言うまでもなくお酒好きですが、アルコール飲料を口にしない人も増える中、お酒は飲まないNFTホルダーも一定数いるそうです。例えば、ウイスキーのNFTコレクションをメタバース上で披露したり、ウォレットで繋がれば相手のNFTコレクションがわかったり、といった施策も、お酒を飲まないUniCask NFTホルダーを意識して考えていきたいということでした。

NFTでなければ実現できない世界観に着目

Microsoft for Startups カスタマープログラムマネージャー 南澤拓法さん

マイクロソフトがブロックチェーンに取り組み始めたのは2015年のこと。自社のブロックチェーン関連サービスの開発のほか、ブロックチェーンエンジニア向けの開発ツールの提供などにも注力してきました。マイクロソフトの基盤を使ったブロックチェーンのソリューション構築事例は少なくありませんが、プロジェクトに関わったステイクホルダーの事情から、公表されていない事例は少なくありません。

Microsoft for Startups でUniCaskを担当する南澤拓法氏は、UniCask がプログラムに採択された背景を次のように語ります。

私がUniCask様に感じている大きな魅力は〝NFTである意味を体現されていること〟です。画像や音声など様々なモノをNFTとして展開することは簡単ですが、本質的に ”そのモノが本当にNFTとして扱われるべきか?”について議論をしなければ、ビジネスとしては成り立ちません。

以前、Chrisさん(Chris Dai氏)から 〝ウィスキーはNFTに適しているが、日本酒はNFTには適していない〟というお話を伺いました。ウイスキーは時間が経つにつれて味に変化があり価値が生まれるが、日本酒にはそのような特性がないからというのが理由の一つです。

このように、モノ本来の特性を理解した上で、それをデジタルの世界に落とし込んだ時にどのような価値を生むか まで踏み込むことで、顧客に新しい体験を提供できます。そのようなビジネスをされているUniCask様に我々は大変魅力を感じています。(南澤氏)

UniCaskでは、UniCask NFTの購入、メタバースでのNFT閲覧、OpenSeaでの販売まで、一連の機能を全てAzureサーバ上で実現しています。UniCaskにとっては、小さくないサーバの運用費用が軽減できることも大きなメリットですが、マイクロソフトへのイベント参加を通じてマーケティング機会が得られるのもうれしいこと、とDai氏は言います。

クリプト業界も課題を抱える中で、我々は引き続き、Web3を使ったデジタル化で、どんなメリットがあるかということを、具体的な価値で表現することが重要だと思っています。そのために、我々はWeb3以外の業界とのコラボレーションを重視しています。例えば、デパートの外商さんや、お酒好きな顧客を多く持つメンバーシップを展開しているところとコラボレーションしたいですね。

また、直近では、コロナの感染拡大も落ち着いてきたので、海外展開にも力を入れます。日本のウイスキーは海外で人気がありますが、実物は関税もあって高くなってしまう。NFTとして持っている間は税金はかからないので(熟成完了後に、ボトリングされたものを輸入した段階で発生)、ウイスキーを身近に感じてもらえるツールとして、重宝されると思っています。(Dai氏)

南澤さんはMicrosoft Azure技術営業職として大手法人を担当していた経験があり、技術支援のみならず、ビジネス支援も広くカバーできることが強みだと自負します。すでにマイクロソフト社内では、法人顧客を抱える部署などにUniCaskの紹介が進んでいるとのことですが、今後はワールドワイドな活動の支援も受け、UniCaskが海外で注目を集めることを期待せずにはいられません。

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