AI×IoTで作り上げる自動収穫ロボットで、サステナブルな農業を実現ーー世界を変える8つのテクノロジー/AGRIST テックリード・清水秀樹氏 #ms4su

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本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

世界はコロナ禍を経て VUCA と呼ばれる不安定な時代に入ったと言われています。スタートアップにとって、これをチャレンジと捉えるべきでしょうか、それとも、チャンスと捉えるべきでしょうか。世界では、社会インフラが整っていない地域ほど、リープフロッグ現象を起こすスタートアップやユニコーンが多数生まれています。

日本の産業構造や社会は成熟しているものの、高齢化、労働者不足、中央集権的な仕組み、硬直化したシステムといった課題があります。こうした課題は、タイミングこそ違えど、いずれ世界各国や地域や社会が経験する可能性があり、日本のスタートアップが自由な発想で解決策を提示できれば、世界の救世主的存在になるかもしれません。

本稿では、自由な発想で産業や社会のペインを解決しようとするスタートアップにインタビューし、彼らの思い、軌跡、将来展望などについて、読者の皆さんと共有したいと思います。

<参考文献>

2回目となる今回は、ピーマンやきゅうりなど、茎や葉と実が同じ色をした農作物で AI を使って収穫適期を判断しながら自動収穫を行うロボットを開発するAGRISTで、AIエンジニア兼プロジェクトマネージャーとしてチームを牽引する清水秀樹氏に話を伺いました。

ピーマン自動収穫ロボット「L」
Image credit: Agrist

AGRIST は2019年10月、農業スタートアップの集積地を標榜する、宮崎県児湯郡新富町で設立されました。農業従事者の高齢化などから労働力を補う施策が求められる中、IoTやAIを駆使した日本のスタートアップらしいアプローチで、J-Startupをはじめ多くの評価を得ています。

AGRIST は設立直後にシード、2021年3月にシリーズA、2022年10月にプレシリーズBで、ENEOS の CVC や複数の VC から資金調達しています。調達額は開示されていませんが、スタートアップデータベースINITIALの推定では、時価総額は20億円を超えました。

AGRIST と解決しようとするペイン

AGRISTは「100年先も持続可能な農業」の実現を目標に掲げ、テクノロジーを活用した農業課題の解決を行うスタートアップです。2017年から宮崎県新富町の農家らと勉強会を開催し、農家らからロボットの必要性について話を聞きながら、2019年に試作機の開発に着手しました。

ロボットスタートアップにとっては、ハードウェアやそれを操作するソフトウェアの開発も重要になりますが、一方、収穫作業の自動化のためにはデータの蓄積と解析も重要で、そのためにマイクロソフトのAzureが提供する機能がふんだんに活用されています。

ロボットからのデータを収集するためにAzure IoT HubやCosmosDB、Blob storageを活用したデータ分析基盤の構築、収集したデータを参照するためのAzureADを活用したログイン認証システムの構築、Azure Functionsを活用したシームレスなデータ基盤の構築を行っています。(清水氏)

AGRISTはシステムの開発を始める当初、少ないチームメンバーでコア技術の開発に注力するため、当初からクラウドの活用を想定していました。マイクロソフト担当者との出会いをきっかけに「Microsoft for Startups」に応募、そして、採択されました。

技術責任者にとって、どのクラウドを使うかを決めるのは最初の試練でもあります。システム開発後にクラウドを乗り換えることもできますが、大きなマイグレーションの手間が生じるからです。開発当初にクラウド基盤が定まったことは、AGRISTの事業加速に寄与しました。

ピーマンを検出するAI
Image credit: Agrist

他社のクラウドはそれまでにも触っていたんですが、Azureの知見は正直、無かったんです。AGRISTがMicrosoft for Startupsに採択されたのは昨年7月くらいでしたが、金光さん(後述するマイクロソフト担当者)に「こういうサービスを展開していきたいんだ」と話したところ、(昨年の)9月〜12月、2週間おきに1〜2時間くらいの枠をとって、技術相談の機会を儲けてくれたんです。(清水氏)

AGRISTがAzure上にシステムを構築を決めた後、この積極的な支援体制は開発実装段階においても大きなポイントとなりました。当初、AGRIST はロボットのハードウェア開発が主だったため、クラウドに精通しているエンジニアは、清水氏を除いて社内にいませんでした。

今年に入って基幹システムの開発を進めてきました。9月までにここまで実装したいというマイルストーンがあったんですが、自分一人だけではキャパシティ的に厳しい。でも、私もエンジニアだし、開発するのは基幹システムなので、外注するつもりはありませんでした。

その問題をマイクロソフトさんに紹介したところ、自分が手を動かしながら、開発の一部を支援してくれる協力会社を紹介してもらいました。そうして、基幹システムを一気に作り上げることができました。それまで断片的に理解していたAzureのことが全部繋がった感じです。(清水氏)

Azureの便利さは運用面でも効果を発揮しました。AGRISTは収穫作業の効率を上げるためにAIを使っていますが、貯めたデータからAIが学習するには、アノテーション(データに意味付けする作業)が必要になります。データは機密ですが、煩雑なアノテーション作業を外部の力を借りずに行うことは現実的ではありません。

Azureには「Azure Machine Learning Studio」というアノテーションのための機能がクラウド上に備わっていて、これが柔軟な運用を可能にしました。データをサードパーティの環境に移したりせず、アノテーション担当者に必要な閲覧権限だけを与えて作業してもらうことができたので、セキュリティ面でのリスクを考慮する必要も最小限で済んだわけです。

これまでAGRIST は農家向けのロボット開発スタートアップという位置付けでしたが、農業の経営方針や進め方は農家によって多種多様であるため、最近では農業生産法人を立ち上げ、そこにテクノロジーを適用し製品化していく、というアプローチにシフトしつつあるそうです。

これによって、農家の声に頼るだけでなく自ら農業することで、発見した課題を迅速にシステムに反映するという好循環を高速に回せるようになります。また自ら農業をするスタートアップのロボットであれば、農家の人々が心理的に受け入れやすくなる効果も期待できそうです。

超高齢化社会に向かう日本、アグリテックは重要領域の一つ

Microsoft for Startups カスタマープログラムマネージャー 金光大樹氏

先進国では高齢化が顕著ですが、その波が最も早く訪れるのが日本です。世界市場でサービスを提供するマイクロソフトにとって、日本で生まれるスタートアップは今後、世界でどのようなサービスが求められるかを占う重要なテストケースとしての意味を持つことにもなります。

ミッションについては、AGRIST様もマイクロソフトも 見ている方向が同じなので、その観点でも、AGRIST様を支援できることは魅力的です。そのミッションに集まる人材も素敵で、そこから生まれるアイデアやビジネスモデルも、すべての人々が幸せになるようなモデルになっています。

社会課題に対して意義があることには積極的に取り組んでいます。いろいろな人に参画してもらえるような、人が幸せになるような事業はぜひ支援していきたいですし、具体的なシステムはまだで、コンセプトの段階という起業家の方々にも、ぜひご相談いただきたいと考えています。(Microsoft for Startups カスタマープログラムマネージャー 金光大樹氏)

高齢化社会に対峙する「エイジテック」としての側面に加え、AGRISTは中国やアフリカをはじめ、食糧問題を抱える世界の農業を変えていきたい、という展望を持っています。世界に顧客を抱えるマイクロソフトの存在は、AGRISTの世界展開にも追い風となって働くでしょう。

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