#35 自己表現と共感を最大化するポートフォリオ型SNS 〜PortFolder CTO長塩 × ACV唐澤・村上〜

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容の一部をテキストとして掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を組み、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャストでは旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

ソーシャルネットワークサービス(SNS)のユーザ離れが言われるようになって久しいです。情報を共有するツールとしては便利なものの、仕事とプライベートの情報が混じってしまうなどの懸念から、積極的に投稿する一部のユーザと閲覧しかしない多くのユーザに分かれる傾向が強まり、「SNSのメディア化(双方向ではない、情報の一方通行化)」の流れが顕著です。伝統的な大手SNSがこの課題の克服に手を焼く中、スタートアップ各社はこれを商機を捉え、新しいサービスを提案し始めています。

今回のPortFolderもそんなスタートアップの一つです。今年4月にサービスを正式ローンチ、6月にはSkyland Venturesからの資金調達を発表しました。また、NFTアートのクリエイターが自分の作品を公開できるようにしたことで、web3に詳しくない人々をweb3の世界へ誘うサービスとしても注目を集めています。Accenture、コロプラ、USENなど多様な企業でリードエンジニアを務め、現在はPortFolderでのCTOの立場だけでなく、web3エンジニアの育成にも注力されている長塩征幸さんをお招きしました。

ポッドキャストで語られたこと

  • 仕事の話題も、趣味の話題も、まとめて扱えるSNS誕生の背景
  • ユーザのアイデンティティ要素をニュアンスで抽出、レコメンドが変わる?!
  • 自分が作ったNFTを売れるようにする計画も

長塩:PortFolderの長塩と申します。よろしくお願いします。PortFolderでCTOとして働いています。簡単にPortFolderを紹介すると、ポートフォリオ型SNSの「PortFolder」というサービスを運営しています。PortFolderは投稿をフォルダに分けて管理することができるSNSです。

今までのTwitterやInstagramは、一つのアカウントに対して投稿を紐付けることしかできませんでしたが、PortFolderはアカウントと投稿の間にフォルダーという概念があって、そのフォルダに対していろんな投稿ができます。

例えば、自分だったらHIPHOPが趣味なのでHIPHOPフォルダーがあったり、それとは別に日常フォルダがあったり、お勧めユーザの投稿が並ぶお勧めフォルダがあったり、という風に自分で色々なフォルダを作って、そこに投稿できる機能があります。

加えて、そのフォルダに対して、フォローやアンフォローができる。だから僕のことは好きなんだけどHIPHOPが好きじゃないよっていう人は、そのフォルダーは外してもらったりすることができて、さらにそのフォルダー単位のレコメンドができるので、今までのSNSではできなかった体験で今まで以上に自由な自己表現ができるというのがサービスの特徴です。

今後さらにやりたいのはweb3ですね。直近で作っているのが、NFTギャラリーフォルダです。自分がウォレットに持っているNFTを表示したりとか、自分が行った国で発行されたPOAP(参加証明機能のついたNFT)を集める「NFTパスポートフォルダ」とかあっても面白いよねとか、フォルダを軸に自分のアイデンティティを強める機能を追加していこうとしているサービスです。

唐澤:リンクを出して、TwitterとかFacebookありきではなくて、あくまでそのフォルダのオーナーのキュレーターみたいな感じですよね。

長塩:それにも使えますね。なぜ、そんな仕組みになっているかというと、「人の自己表現と共感を最大化する」というサービスのコンセプトに由来します。これは会社のミッションでもあるんですが、他のサービス、例えば、今までFacebookやYouTube上で書いたり話したりしているものも、自己表現の一部だと思っています。なので、どこかで表現したものを全部集めるというのをまず一つやるべきとの考えから、LinkTree みたいな要素を取り入れています。

村上:拝見すると、クリエイターさんのイラストとかが結構上がってるんですが、実際ユーザさんもその辺の層をターゲットにされているんですか?

長塩:おっしゃる通りでして、いらっしゃるユーザのほとんどがクリエイターの方なんですね。クリエイターもいろんな方がいるんですが、特にイラストレーターの方と漫画家の方が多いです。直近はこういった方々が一番定期的に投稿してくださるものですから、マーケティングとしてはそこを狙ってるんですが、遠い将来は、本当に全人類が自己表現のツールとして使っていただくのを目指しています。

村上:そうですよね。イラストは私もたまに描くんですが、定期的に必ず描くので、Twitterとかピクシブとかいろんなところで投稿はしますが、やっぱりフラグメント(分散)してしまいます。それをこのサービスを使えばまとめて管理できるし、フォルダというコンテンツやユーザではないもう一つの概念で、柔軟な繋がりが作れるので皆さん使われてそうですね。

唐澤:そもそも長塩さんがこの事業を始められたきっかけは何ですか?

長塩:実は自分がファウンダーではないんです。設立日にはジョインしているのでニアリーイコールではあるんですが、ファウンダーは山岸(共同代表の山岸健人氏)と(CEOの五十嵐健太氏)の2名です。山岸の友人にネイリストの方がいらっしゃって、その方は(ソーシャルメディアに)仕事関係の投稿をしていて、趣味のネイルアートの手の写真を投稿したいと思っているけども、趣味を入れちゃうとフォロワーが減ってしまう。これどうしたらいいんだ、という相談を受けたそうなんですね。

そこで考えた結果、概念としてフォルダーを1個挟めばいけるんじゃないか、という発想に至ったのが彼の原体験です。自分自身もこのサービスに共感して今やっているのですが、何に共感したかというと、自分はエンジニアでありながらも、僕のHIPHOPのYouTubeチャンネルがあるんです。曲を作ったりしています。あと料理も好きで、イタリアンが好きなんですよ。でも、(それぞれが好きな人は)交わらないんですよね。

唐澤:技術的にも結構チャレンジがあるのですね。例えば、ユーザから見た時にどういうレコメンドがされるんですか?

長塩:今はまだ(完全なレコメンドに)行き着いてないです。でも向かってる先は、ニュアンスを届けることができるものです。

例えば、ヒカキンさんはHIPHOP好きなんですよね。その中でも、Nujabesというアーティストがいらっしゃって、日本っぽいメロディアスな優しい感じのHIPHOPが好きなんです。そういうニュアンスは、彼の至るところ、動画だったりにいろいろ出ていると感じています。でも、そこを拾うことは、今のTwitterやYouTube などでは、アルゴリズム上出来ていません。

これは感覚の世界の話になってしまうんですが、(PortFolderの場合は)フォルダーでカテゴライズされた状態でいろんな特徴量を拾っているので、ニュアンスを抽出しやすい。さらにフォルダごとにフォロー・リフォローができるから、本当に自分に合ったニュアンスだけを抽出して届けることができると思っています。

これはまだこれから実験していく必要がありますけども、仮説としては、今までとは全然違うレコメンドができるんじゃないかと思っています。これができないと、本当に好きなものにはたどり着かないんじゃないかなと思っています。

唐澤:ニュアンスみたいなものって、言語化できるというか、客観的に評価できるようになると色々なことが変わってきそうですよね。その情報を多分、いろんな企業が欲しがるでしょうね。ニュアンス×自分のサービスとか、自分のプロダクトとか。

長塩:ニュアンスはそうなんですよね。僕は自分で、「VeryLongAnimals(ベリロン)」の二次創作の「VeryEmoVibesAnimals」というNFTを作っています。ベリロン自体は可愛いキャラクターじゃないですか。とてもかわいいんですけど、僕のニュアンスが入ると、EmoVibesってちょっと後で見ていただければと思うんですが、明らかにちょっとHIPHOP要素入ってるんすよね。そういうニュアンスは絶対あると思ってて、そこがこのサービスで行きつけるといいなと思います。

まずマーケティングの段階としては、クリエイターの方をまずは押さえに行って、クリエイターのファンを連れてきてもらう。ファンの方がそのクリエイターの方の使い方を見て、自分も日常投稿してみようという行動を起こしてもらうには、設計をもっともっと考えないといけないと思うんですが、まずはそういう日常の投稿をしてもらって、そこから集団で使い始めて、みんなが使ってるから使い始めようという発想のマーケティングですね。

唐澤:今、どれぐらいのクリエイターが使われているんですか?

長塩:まずインストールしているユーザが2万人いて、そのうち35%ぐらいがクリエイターです。誰をクリエイターと呼ぶかは難しいんですが、今言った35%というのは、以前つけていた(プロフィールの)職業タグを元にしています。今は消してしまったんですが、職業タグで「イラストレーター」や「書道家」と書いてくれてる方が30%ぐらいでした。

唐澤:PortFolder上で、自分が作ったNFTを売れるようにするような構想も考えられているんですか?

長塩:そうです。その売り方もいろいろあると思っていて、例えば最初は値がついてない状態で、でもその人(NFTの作者)のファンだから何か投げ銭をしたいんだけど、何か見返りが欲しいということは、フリーマーケットとかではよくあると思うんですよね。

「すごいセンスいいけど結構高いな」とか「お金ついてないけどちょっとお金あげたい」って言ったときに、例えばPortFolder上にかっこいい絵があって「これは0.01ethだったら買います!」って逆オファーして購入させるとかが考えられます。購入した結果はブロックチェーン上に残るので、その当時からファンだったという意思表明にもなる。そんなアイデアもあります。単純に売ることもできるけど、そうじゃないこともちょっと構想しています。

唐澤:なるほど。今後そういうケースが増えていくんでしょうね。今までは機能性とか利便さを求めて買い物していましたが、買い物の意味やお金を払う意味が変わってきていますよね。

長塩:そうですね、それは強くあると思います。それはブロックチェーンじゃない領域でも一緒ですよね。共同でモノを買う「KAUCHE(カウシェ)」というサービスはいい例です。人を集めてみんなで購入するとディスカウントが利きます。でも目指しているのは多分、みんなで募って購入したときの新しい体験だと思うんです。そういう購入などの文脈は、まだまだ広げる余地があると思います。

次回へ続く)

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