信託型SOの次は“ファントムストック”ーー南青山アドバイザリーグループが新報酬制度「エンゲージメントストック」発表 #IVSPRWeek #IVS2023

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#IVSPRWeek はスタートアップカンファレンス「#IVS2023」とプレスリリース配信サービスのPR TIMESが企画する「Startup!PR Week」参加企業による新製品情報をお伝えします。同社のプレスリリースはこちらこちらから

ニュースサマリー:会計支援などを手掛ける南青山アドバイザリーグループは6月27日、新たな報酬制度「エンゲージメントストック」を発表した。エンゲージメントストックは仮想の株式を従業員に付与し、仮想の株価により業績連動型報酬を従業員に現金で支給する制度。従業員の採用や退職抑制(リテンション)に効果を見込める中長期的な利益還元制度の設計が可能で、賞与や退職金制度の代替手段となる。

また仮想株式であるため、上場企業だけでなく、中小企業や医療法人等でも活用可能。同社ではSaaS型のストックオプション(SO)の管理ができる「ストックオプションクラウド」を提供している。SOを従業員の経済的リターン中心に「見える化」するもので、導入企業は同様にエンゲージメントストックの管理も可能となる。

https://youtu.be/v6pn9dykbFY

話題のポイント:今月、スタートアップに関わる方々の間で大きな話題になったのが「信託型SO」の問題でした。筆者も当事者(詳細は言えないですが)であったこともあり、その動向を注視していましたが、改めてその仕組みの複雑さ、ストックオプションそのものの理解しづらさを再認識しています。株価というものに普段から慣れ親しんでいる人であれば理解できるものの「今、手元にないものの権利だけもらう」「将来価値を想像する」「報酬ではなくステークホルダーになれる」など、並んでいる字面だけ見ると「がんばったから賞与でいいのでください」となるのも頷けます。

この「事業の成長に合わせた報酬制度」としてのSOをもっとシンプルにしたのが欧米などで採用されているファントムストックの仕組みです。

ファントムストックとは、架空の株式を従業員に付与する報酬制度のことです。架空の株式というと難しいですが、企業で任意に決めたポイントみたいなもので、実際のSOのように株式を付与するものではありません。これを実際の株価の上昇などに合わせ、利益差分を報酬として従業員に支払う仕組みです。新株発行などを伴わないため希釈化などの課題もなく、権利行使時の手間(実際の株式の売買等)もかからないのが特徴です。一方で、これは給与や賞与にあたるので、通常の所得税がかかります。

このファントムストックを日本版にアレンジしたのがエンゲージメントストックです。

同社代表の仙石実さんにお話を伺ったのですがこのエンゲージメントストック、ファントムストックよりさらにシンプルな仕組みにしてありました。まず、この原資となる部分ですが、これは「利益剰余金」だそうです。利益剰余金は一年の企業経営で粗利から税金など全てを引いた上で残る現金であり、企業活動における「真水」みたいなお金です。家計簿で言えば月末に残ったお金です。真水です。これをみんなでがんばった証として分配しよう、という非常にストレートな仕組みになっています。

例えばチームみんなで事業成長がんばろうぜと3年計画を立てたとします。それぞれ仮想の株式を付与してもらい、仕事を頑張り、3年後の利益剰余金の額に応じて分配額が決まります。会計的には利益確定したタイミングで賞与などで渡すので、一般的な所得税を差し引いて渡せば終わりです。この辺りの管理は同社が提供するストックオプションクラウドの方でも管理ができるそうです。

ボーナスと何が違うの?という声も聞こえてきそうですが、賞与は1年に一回、決められたルールがあり、制度上いじるのが難しいケースがあります。また不定期に出す特別賞与などの場合、分配比率をどうするかなど不透明になりがちで、そもそもそれをもらったタイミングで辞めてしまうという問題もあります。仮想株式のよい点はみんなで先にルールを決めておける点にあるのではないでしょうか。

さらに使えない場合ももちろんあります。そもそも企業には利益剰余金が出ないケースがあります。赤字の場合です。これはスタートアップにあるケースですが、赤字を掘って成長を優先させる戦略もあります。この場合、株価は上がるけれど、この仮想株式の原資となる資金は増えないので、この仕組みは相性が悪いことになります。

ただ、今回、信託型SOの問題でよく分かったのは、企業はさまざまであり、報酬やモチベーション維持にはもっと多様な手段があって然るべきだということです。国内でもファントムストックのような仕組みが広がるのはよいことではないでしょうか。

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