Creators × Publishingは「テクノロジーから見える編集のミライ」をテーマにした勉強会をお送りします。雑誌の定期購読サービスを展開する富士山マガジンサービスと連携し、旬のテクノロジーと雑誌社を組み合わせた話題を提供いたします。本稿は9月1日に開催した出版ハックデイのレポートの一部。
出版ハックデイ、アイデアプレゼンテーションの最後を飾ったのはNishika代表の山下達朗氏だ。
Nishikaは2019年5月に創業のスタートアップで、AI開発をコンペ形式で促進させる「データサイエンスコンペティション」を特徴とした、AI開発者たちのコミュニティを運営している。コンペでは企業があるテーマを出し、参加するデータサイエンティストたちが精度を競うことでよりよいAIモデルを生み出そうという取り組みになる。コンサルティングや研修などのエンタープライズ向け事業を手掛けており、2021年からはデータサイエンティストを企業へと繋ぐマッチングサービスも提供している。
そんな山下氏が持ち込んだアイデアも、先のApollo社が提案した「雰囲気検索」に近いものだった。彼は身近な課題を次のように語る。
「次の3連休に子供をどこか連れて行かなければならないけれど、どこに行くか考えるのが難しい」(山下氏)。
子供を持つ親であれば誰もが考えるであろう「小さな悩み」だ。行きたい場所は誰もが思いつく場所になり混雑していたり、考えようと思い腰を上げたタイミングではもう予定が詰まってしまっている、なんてことはザラだろう。
この「旅行計画を立てる」という課題を出版社の持つデータと生成型AI技術によって解決しようというのが彼の考えになる。

ここでひとつの問題にあたる。それは「自分が本当に行きたい・行くべき場所は、自分が知らない場所」というパラドックスだ。ここで役に立つのが出版社の持つデータ、今回の場合ではことりっぷマガジンがかつて掲載した膨大な量のマガジンデータになる。
「出版物のデータには機能的な情報だけでなく、場所に関する情報を様々な表現で記載しています。このデータを活用することで、ユーザーの気分に合った場所を検索し、それを提案できるようにしています」(山下氏)。
例えば今回、テーマとなったことりっぷマガジンのデータは、場所に対してメタ情報が豊富に付けられているという強みがある。これにより「お花畑でも見に行きたいな」という気分検索が可能になる。これをさらに生成型のAIによって出力することで「ことりっぷマガジン風」の言い回しで提案することが可能になる。山下氏が示した実際のデモでは、気分検索で出てきた結果を元に、旅行の工程表が会話形式で提示されていた。
「このサービスの最も重要な要素は、一般的なインターネット検索で得られる情報とは異なる点です。例えば「天橋立」といった場所について検索すると、一般的な情報では京都からのアクセスや世界遺産登録など、機能的な情報に偏りがちです。一方、ことりっぷマガジンのデータには情景描写や体験の描写、おすすめスポットなど、メタ情報が豊富に含まれています。これが最も価値のある部分であり、ユーザーを魅了し行動させる要因になるのです」(山下氏)。
生成型AIは時として誤った情報を出力することもあるが、山下氏はより精度高く回答をするために、プログラムには一部、ルールベースを採用することで回避できるのではないかとした。
出版データを活用する上で、記事の表現は出版物のブランドを支える重要なファクターになる。この言い回しが的確に出力されることで「ことりっぷマガジンらしさ」が生まれる。出版物にはファンが存在しており、こうした購読ユーザーと共につくる世界観は一般的なインターネット検索エンジンから得られる結果とは異なる味わいになるはずであり、ここを選ぶ理由になる。
考えられるビジネスモデルのひとつにOTA(オンライントラベルエージェンシー)との接続がある。出てきた旅程に対して予約ができる、というものだ。もし、価格だけが比較対象になるのであれば、どうしてもそこに最適化した検索エンジン、価格比較サイトには太刀打ちできないだろう。しかし「ことりっぷマガジンらしさ」が欲しいユーザーは当然、こちらのアイデアを選ぶのではないだろうか。
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