卸業者との価格交渉から広告写真の撮影まで、小売業界の各所に普及するAIアシスタントの数々【ゲスト寄稿】

本稿は、Cherubic Ventures(心元資本)によるものだ。2014年に設立された同社は、アメリカとアジアの両方で活動するアーリーステージ・ベンチャーキャピタルであり、運用総資産(AUM)は4億米ドルだ。シードステージ投資を中心に、次の象徴的な企業の最初の機関投資家になることを目指し、大きな夢と世界を変える勇気を持つ創業者を支援している。同社は、サンフランシスコ、シンガポール、台北に拠点を置いている。

英語によるオリジナル原稿は Cherubic Ventures の Web サイトで読める。(過去の寄稿

This guest post is authored by Cherubic Ventures. Founded in 2014, they are an early-stage venture capital firm that’s active in both the US and Asia, with a total AUM of 400 million USD. Focusing on seed stage investments, Cherubic aims to be the first institutional investor of the next iconic company and back founders who dare to dream big and change the world. Their team sits across San Francisco, Singapore, and Taipei.

The original English article is available here on the Cherubic Ventures website.


Image by Mahamed Hassan via Pixabay

Bill Gates 氏は今年3月、AI パーソナルアシスタント(ウェブ検索、生産性ツールの管理、オンラインショッピングなど、ユーザのタスクを代行する AI ツール)の分野に秀でた者が次世代をリードするだろうと述べた。現在、小売業界が Gates 氏の予言を最初に実現することになりそうだ。

「ChatGPT」のローンチから1年も経たないうちに、Cherubic Ventures(心元資本)の投資先で小売 SaaS スタートアップの 91APP は、アジア初のネイティブ小売 AI モデル「Jooii」をローンチした。Jooii をパーソナルショッピングアシスタントと考えるとよいだろう。ユーザは、欲しい商品の種類や対象者、具体的な条件を入力するだけで、Jooii がおすすめの商品を直接教えてくれる。

「Jooii」
Image credit: 91App

これは、フロントエンドの顧客対応からバックエンドのワークフローに至るまで、AI が小売業界を変革し、不可欠なツールになりつつあることを示す一例に過ぎない。

Walmart は、会話型 AI ボットを、人間のサプライヤーとの購買契約の交渉という、異なるタイプのインタラクションに使用している。AI を使用する目的は、Walmart により柔軟な契約とマーケティング露出を提供し、より多くの支払割引や支払期間延長を提供するようサプライヤーを動機付けることだ。

契約交渉 AI スタートアップ Pactum との提携により、Walmart はアメリカ、カナダ、チリ、南アフリカのサプライヤーにこの交渉ボットを導入している。70%近いサプライヤーとの取引に成功し、平均3%のコスト削減に成功している。Walmart は、このシステムをサプライヤー交渉から物流コスト交渉に拡大する計画を示している。

Image credit: Pactum

小売企業もマーケティング費用を削減するためにジェネレーティブ AI を導入している。

ファッション E コマースプラットフォーム「WeShop」は、今年上半期に AI による広告写真撮影ツールを発表した。小売業者は基本的な商品写真をアップロードし、プレゼンテーションのスタイルやシーン、AI モデルの国籍などの条件を選択するだけで、ツールが自動的に高品質の商品画像を生成する。

これにより、小売業者は売上高の約2%を占める撮影費用を節約することができ、限られた予算で海外市場への進出を目指す企業にとって、AI は強力なツールとなる。

AI はまた、顧客の身元確認にも革命をもたらしている。Amazon が最近開始した手のひらスキャン決済システム「Amazon One」は、Amazon のアカウントやクレジットカードにリンクされた顧客の手のひらの指紋や静脈などの生体情報をスキャンすることで、本人確認を行うことができる。これにより、簡単な決済、会員認証、年齢認証が可能になり、実質的に顔認証に取って代わる。

しかし、Amazon はこのシステムを開発する際に、限られた手のひらのデータでいかにスキャン精度を向上させるかという大きな課題に直面した。そこで Amazon は、AI モデルを訓練するために、照明、ポーズ、手のひらの形が異なる何百万もの画像を生成するジェネレーティブ AI に着目した。Amazon は、この本人確認の精度は、両眼の虹彩をスキャンするよりも100倍正確だと主張している。

しかし、私たちは AI アシスタントを完全に受け入れる前に一旦立ち止まり、私たちが提供する必要がある、より大量の個人データについて考えるべきである。

現実世界では、アイアンマンのジャーヴィス(J.A.R.V.I.S)のような全知全能の能力を持つ AI アシスタントはまだ登場しないかもしれない。しかし、より多くの消費者データや市場調査データを連携し続ける限り、この種のアシスタントが現実になるのはそう遠いことではない。問題は、私たちがその日を迎える準備ができているかどうかだ。

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