着古したメリノウールTシャツがワイン農場の肥料に——NFT会員権で衣料の循環型経済を後押しする「PIZZA DAY」

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Image credit: Spicelink

サーキュラーエコノミー(循環型経済)に対する関心が高まるにつれ、廃棄衣料を回収し、それらを再生する事業が各所で見られるようになった。その中心的存在はスタートアップで、回収した衣料を溶解し、不純物を取り除き、ペレットにして繊維にしたり、燃料として利用したり、アップサイクルされる形態はさまざまだ。ただ、再生された繊維や燃料がアップサイクルのコストを吸収できる価格で売れればよいのだが、消費者に動機付けになるほどの経済的還元は難しく、環境課題へのアウェアネスに頼っているのが現状だ。

江戸時代であれば、人々の排泄した糞尿さえ、汚穢屋(おわいや)や下肥買い(しもごえがい)が買ってくれたのに、現代では役所に下水処理の費用を支払わなければならない。でも、経済メカニズムがうまく働ければ、良心に頼らなくても、人々はこぞって廃棄衣料をサーキュラーエコノミーのネットワークに持ち込んでくれるはずだ。いずれは社会がそちらへ進んでいくことに期待したいが、先ごろ、NFT によるゲーミフィケーションの要素を取り入れた、衣料回収のサーキュラーエコノミースタートアップが事業を開始した。

Image credit: Spicelink

名古屋に拠点を置くスタートアップ Spicelink は、サーキュラーエコノミーの概念を盛り込んだアパレルブランド「PIZZA DAY」を正式ローンチした。このブランドでは、毛織物製造最大手の日本毛織(ニッケ、東証:3201)と協業、将来的に着潰した暁には回収し、肥料に変え土に還すことを前提としたメリノウール T シャツを販売する。T シャツは予約注文の形で生産されるので、余剰在庫も生じにくい。年内は、T シャツの製造工程で出る余った生地や糸くずなどで肥料化を始める。

Spicelink は、電通や GINKAN(今年2月、ミンカブ・ジ・インフォノイドが買収)などに勤務経験のある高田基以氏により2018年11月に創業。世界的生産地でもある地元・尾州名産の毛織物/ウールに着目し、「店主の羊が営むピザ屋」というコンセプトのもと、PIZZA DAY をローンチした。環境問題に関心があって、何かしらアクションをしたいがどうしていいかわからないといった層に対して、Web3 を使った新しい体験を提供する。半年前に立ち上げた Discord のコミュニティは200名規模にまで成長した。

高田基以氏

ウールの端材を肥料にする仕組みは、前出のニッケが取引関係のある奈良の工場が技術を持っているとのことで詳細は不明だが、化学合成繊維と違い有機物であり、元がタンパク質(人間の髪などと同じケラチンが主成分)であるから、処理されて生成される肥料にアミノ酸が含まれることが特徴的だ。Spicelink では、この肥料を神戸ワイナリーに提供し、ワインのためのぶどう栽培に利用してもらう計画だ。PIZZA DAY の NFT を持つ会員に対しては、こうした体験に参加してもらうことも計画している。

サーキュラーエコノミーにおいては、循環器系になぞらえ、モノを製造する側を「動脈」、それを回収する側を「静脈」と呼ぶらしい。高田氏によれば、動脈については PIZZA DAY のファンが増えることでボリューム/トラフィックの増大も期待できるが、静脈についてはまだ神戸ワイナリーしかないため、今後、貸農園や樹木を整備する企業などに需要開拓を図るとしている。同社はこれまでブートストラップモードで運営してきたが、来年以降、CVC やソーシャルインパクト投資からの調達を目指す計画だ。

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