音楽出版社大手、歌詞をめぐる著作権侵害でAnthropicを提訴——生き残りを賭け、生成AI各社は戦々恐々

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Child Singer via Stockvault

音楽パブリッシャー大手各社は今週、AI 企業 Anthropic が同社の人気チャットボットの大規模言語モデル(LLM)「Claude(今年初め、「Claude 2」に引き継がれた)」をトレーニングするために「著作権で保護された大量のコンテンツを許可なく不法に持ち出し、使用している」と主張する爆弾訴訟を起こした。

業界大手 Concord、Universal、ABKCO ら原告は、Anthropic が「パブリッシャーの権利を侵害し、広範な損害を与えている」と主張している。

テネシー州中部地区ナッシュビル支部の裁判所に提出された訴状によると、Anthropic が AI モデルに楽曲を提供するために歌詞を大量にコピーし、ユーザが楽曲をリクエストした際に歌詞を再生させたとしている。訴訟の場所にテネシー州が選ばれたのは偶然ではない。この地はアメリカの「ミュージックシティ」として知られ、100年以上にわたって主要なレコーディングスタジオ、レーベル、アーティスト、特にカントリー・ミュージックの本拠地となっている(Taylor Swift 氏がデビューしたのもここだ)。そのため、アーティストやレーベルが訴訟を起こすのに有利な地盤である可能性が高い。

今回の訴訟は、Amazon が Anthropic に40億米ドルという巨額の投資を行ったことに続くもので、両社が共同で提供するソフトウェアと AI をさらに商業化し、より多くの企業が利用できるようにしようとしているなか、明らかに不利な展開だ。

パブリッシャー各社は、次のように訴状で主張している。

Anthropicは、複製、二次的著作物の作成、頒布、および公開の権利を含む、著作権所有者としてのパブリッシャーの排他的権利を直接侵害している。また、Anthropic がその技術によって、ユーザによる「大規模な著作権侵害」を可能にしている。

炎上するデータスクレイピング

訴状では、Anthropic のビジネスモデルを正面から狙い撃ちしている。

Anthropic は、商業パートナーシップと数十億米ドルの資金を通じて「侵害行為から豊かな利益を得ている。Anthropic がインターネットからかき集めた膨大な数の著作権で保護された素材がなければ、このようなことは不可能だ。(訴状)

2022年11月に Anthropic の競合 OpenAI のチャットボット「ChatGPT」が発表され、ジェネレーティブ AI 技術が主流になって以来、データスクレイピングに関するより大きな懸念が浮上しているとしている。

Anthropic に対する訴状には、Claude が Katy Perry 氏の「Roar」、Gloria Gaynor 氏が歌ったディスコヒット曲「I Will Survive」、その他のヒット曲の歌詞をほぼ一語一句コピーして提供する例が含まれている。パブリッシャー側は、Anthropic は著作権で保護されたコンテンツをブロックするフィルタを簡単に導入できるにもかかわらず、その代わりに自社のカタログを不法に利用し続けていると主張している。

VentureBeat が「Claude Instant LLM」のインスタンスに「(シンガーソングライター)Hardin Holley 氏の死についての歌」を書くように依頼したところ、アウトプットには確かに歌詞を少し修正した Don McLean 氏の「American Pie」への言及が含まれていた。VentureBeat は Anthropic にコメントを求めたが、まだ返答はない。

この訴訟には、著作権の直接侵害、寄与侵害、代理侵害、著作権管理情報の削除という4つの訴因が含まれている。また、侵害された作品1点につき15万米ドルを上限とする損害賠償を裁判所に求めている(パブリッシャー側は証拠として「非網羅的、例示的なリスト」500例を挙げており、少なくとも7,500万米ドルの賠償が必要ということになる)。パブリッシャーはまた、Claude が今後許可なく歌詞を配布することを禁止するよう求めている。

この大規模な訴訟は、著作権で保護されたデータでモデルをトレーニングすることで利益を得ている Anthropic やその他の AI 企業に重大な試練を突きつけるものだ。クリエイターが反撃に出るにつれ、裁判所は知的財産権と AI イノベーションのバランスを取る上で、ますます大きな役割を果たすことになるだろう。AI は長年の著作権法とフェアユースの例外を遵守しているのだろうか? それとも、ビッグミュージックはこの注目のスタートアップに、その代償を払わせるのだろうか?戦線が引かれた。

ジェネレーティブ AI 普及で高まる著作権への懸念

Anthropic は、トレーニングデータをめぐる法的問題に直面した最新の AI 企業である。コメディアンの Sarah Silverman 氏は7月、ChatGPTや「LLaMA」などのチャットボットに彼女の手記が同意なく提供されたとして、OpenAI と Meta を訴えた。他の作家も先月、OpenAI に対して同様の訴えを起こしている。

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これらのケースは、膨大な量のテキストや画像を取り込むことで力を発揮するジェネレーティブ AI が人気を博し、クリエイターの間で警戒が高まっていることを浮き彫りにしている。

法律専門家によれば、AI のトレーニングが著作権の「フェアユース」にあたるかどうかという核心的な問題が、最高裁で争われる可能性があるという。ビッグテックは、フェアユースによって著作権で保護されたデータをマイニングし、革新的な新技術を実現することができると主張する。しかし、アーティストたちは、彼らの作品を自動化することによって、既存および将来の市場を荒廃させると主張している。

今のところ、企業は法的援護を求めており、AI ベンダーが著作権クレームに対する補償を顧客に提供するよう促している。Google Cloud は、自社技術の商業利用を促進するためにこのような誓約を行っている。

利害関係が高まるにつれ、監督機関も注目している。議会と FTC(連邦取引委員会)は違法な AI 慣行を抑制するための公聴会を開催し、規制当局は著作権などの法律の遵守を強調した。音楽パブリッシャーと Anthropic の間のこの法的な小競り合いがどう転ぶかは、業界全体の AI の進展を左右するかもしれない。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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