4日間で応募者300名が殺到、Sakana AI CEOに聞いた東京でAIスタートアップを始める理由

Sakana AI 共同創業者兼CEO David Ha氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

サンフランシスコ市内は、今やAIスタートアップの巣窟になっていると聞きます。トップティアのAI人材を求めて世界中からAIスタートアップがこの街に集まったため家賃が高騰、その結果、AI以外のスタートアップは他の街へと追いやられてしまったようです。では、サンフランシスコ以外のスタートアップハブは、AI分野では後塵を拝することになるのでしょうか。

昨年、東京でSakana AIというスタートアップが産声を上げ、それから半年と経たないうちに、有名VCのほか、KDDIを含む日本の大企業から総額3,000万米ドルを調達し世間を驚かせました。創業まもないスタートアップが多額を調達したことに加え、外国人起業家がAI分野での創業の地に東京を選んだことが注目を集めた理由の一つです。

Sakana AIのCEO David Ha氏の話からは、日本人が考える以上に、東京が持つスタートアップハブとしての可能性を感じ取ることができました。まだ詳細が明らかになっていない、Sakana AIが目指す今後の展開について、人材の採用や日本企業との協業の可能性などを中心にお伺いすることができました。

最近3,000万米ドルを調達されましたが、資金の使い道など今後数ヶ月の計画について教えてください。

David Ha:KDDIを含む日本の大企業からの出資はとても心強いです。また、Lux CapitalやKhosla VenturesといったシリコンバレーのトップVCからシードステージで3,000万米ドルを調達したスタートアップは、おそらく私たちが初めてだと思いますので、とてもエキサイティングなことです。

私たちの計画は、日本で世界トップクラスのAI研究開発会社を作ることです。一部の大企業を除けば、日本には世界トップクラスのAIラボはほとんどないと思いますが、私たちはここ東京にラボを作りたいと考えています。

AIラボにとって重要な要素のひとつは、計算能力だけでなく「人材」だと思います。そのため、世界からも日本からもトップクラスの人材を集めたいと考えています。資金的なリソースと、私たちのこれまでのプロフィールや経験があれば、優秀な人材を集めることができると思っています。

今回の資金調達によって私たちは何年にも渡って前進することができますが、今後1年から1年半は、研究開発に専念することになると思います。つまり、市場投入やサービスの構築、商業化には注力しません。メディアにとってはとても興味深いことだと思いますが、人材募集をwebサイトに掲載してからわずか4日間で、約300人もの応募がありました。30%が日本からの応募で、70%がアメリカ、イギリス、オーストラリアなど海外からの応募で、今後厳しい選考を行うつもりです。

現在は社員10名のうち4名が日本人、6名が日本で働いていた経験がある海外出身者と聞いています。今後、人材採用に力を入れることでこの社員構成はより多様化しますか?

David Ha:どのような社員構成になるかは実際に採用してみないと分かりませんが、私の予想では、将来的には日本人と、日本に住んでいる外国人と、国外から日本に来る人たちがほぼ同数ずつになると思います。

現在のSakana AIはアーリー期で研究開発に専念されるとのことですが、プロダクトなどのローンチはいつ頃になりそうですか?

David Ha:まだ、研究開発段階なので、将来どうなるか確たることは言えません。ただ、私たちが考えているアイデアは、「いつ」ではなく「どのように」ローンチするかも大事だと考えています。グローバルなトレンドと日本のニーズを見ながら、どの程度の完成度で我々のモデルをリリースしていくかを決めることになります。

また、モデルではなくプロダクトという意味では、それが企業向け、政府向け、あるいは、コンシューマ向けのどんなものにしていくかこれからパートナーとも相談して答えを出していきます。特に日本では、コンシューマー向けだけでなく、エンタープライズ向けや政府関連のビジネスチャンスもあります。アーリーステージの調達ラウンドで、NTT、KDDI、ソニーからも投資を受けました。

Sakana AIロゴ

今後さらに多くの会社からの資金調達を行う場合、どんな会社が出資者として考えられるでしょうか?

David Ha:今回3,000万米ドルを調達したばかりで、今のところ追加の資金調達は考えていません。というのも、私たちは100%、研究開発の体制構築に集中したいからです。しかし将来的には、日本を拠点とするトップAIラボを目指し、次のラウンドを行う可能性はあります。

今回のラウンドはグローバルな投資家からしっかりと認めてもらうという意味で米国主導でしたが、今後、投資家の割合も日本に比重を移していくということもあり得ると思います。理由は、私たちの会社の目的のひとつは、日本におけるAIエコシステムの構築に貢献することだからです。

また、これはチャンスでもあると思います。というのも、シリコンバレーでこの会社を立ち上げたのであれば、優秀な人材を擁するAI企業は数多く存在するからです。しかし、日本にはまだ成熟したAIエコシステムが存在していないため、これを構築する大きなチャンスがあると思います。

エコシステムを構築する方法のひとつは、日本に拠点を置くだけではなく、日本を拠点とする投資家やパートナーとの連携が必要です。例を挙げると、クラウドサービスでは、AWSやGoogle Cloudに加えて、ABCI(産総研の「AI橋渡しクラウド」)、さくらインターネットのような、日本を拠点とするコンピュートプロバイダーとも連携しています。私たちは、投資家だけでなく、パートナーとも協力したいと考えています。

Sakana AIは日本で登記された会社ですか?日本で登記された会社でも、世界のトップティアVCから資金調達することが可能なのでしょうか?

David Ha:100%日本で登記された株式会社です。もちろん、私たちはシリコンバレーのトップティアVCからアドバイスを得たり、(アメリカのスタートアップに多い)デラウェア登記の会社で働いたりすることに慣れていますが、私たちの目的は、日本企業として世界に通用するAI企業となることです。

ですから、100%日本ベースの会社を持つことは、私にとって非常に重要だと思います。共同創業者の一人には伊藤錬 (COO)という日本人もいます。私たちは多様な人材を受け入れたいと考えていますが、会社の精神と魂は日本に根ざすべきだと思います。これは、何が達成できるかを示す歴史的な例だと思います。

そして、日本の他のスタートアップに対して、世界のトップクラスの投資家から資金調達することが可能であることを示すことができるかもしれません。簡単ではありませんが可能だと考えます。

Sakana AI の共同創業者の3人。伊藤錬氏(COO)、Llion Jones氏(CTO)、David Ha氏(CEO)
Khosla Venturesの「X」投稿から

今回はアメリカドルで調達されたわけですが、ドル高円安の状況は、貴社にとって都合が良かったのではないでしょうか?

David Ha:ある意味ではそうですが、ご存知のように、研究開発やAIのコストの多くはコンピュートに関するもので、そのコストは通常米ドルベースです。ですから、NVIDIAのGPUは米ドルで購入することになり、それが円換算でコストに反映されるだけのことです。

日本での報酬はアメリカのベイエリアでの報酬よりも低くなる可能性があると思いますが、そこにはいくつかの利点があります。興味深いことに、ご指摘の通り、私たちは日本の会社ですが、米ドルで資金調達をしています。外国人投資家から見れば、私たちは米ドル企業として評価されるわけです。そのため、基本的には資金管理のルールを追加し、適切な為替リスク管理を行わなければなりません。

日本で優秀な人材、特にAI業界ではそのような人材を多く集めることは難しいと言われます。なぜ東京を活動拠点に選んだのでしょうか?

David Ha:先程言った通りですが、人材募集をスタートしてからわずか4日で300人の応募がありましたので、私たちにとっては外国人の応募者を採用することはそれほど難しいことではありません。実際、優秀な人材を獲得するために、非常に厳しい選考手順を踏むつもりです。

これは、色々なことが重なっている結果だと思います。ひとつは、みんな日本を訪れたいと思っているということ。日本は訪問したい国のトップです。多くの研究者が日本に来る機会を望んでいます。しかし、それに加えて、私たち個人の持つブランド力もあると思います。

私やLlion(共同創業者のLlion Jones氏)は有名なAI研究者です。Transformer アーキテクチャーの共同発明者と一緒に仕事をしたり、新しいタイプのアプローチに取り組んだりする機会を得たいという人もいます。もちろん、日本の一般的な企業は、優秀な人材を獲得するためにイメージを向上させる必要があるかもしれませんが、それは可能だと思います。

例えば、スタンフォード大学の卒業生を日本の企業でサラリーマンとして働かせようとしても、彼らは興味を示さないでしょう。ですが、もし彼らに日本で急成長する企業で働く機会を与えようとするのであれば、彼らはきっと興味を持つでしょう。これはよく聞かれることですが、他の企業も、優秀な人材を惹きつけるためにイメージを改善するためのヒントになるかもしれませんね。

Transformer アーキテクチャを提案した論文「Attention Is All You Need」の共著者には、Sakana AI の共同創業者Llion Jones氏が名を連ねている

LLM(大規模言語モデル)をはじめ、AIモデルを元にした技術の開発には非常に多額の資金を要するため、テック大手が優位だと言われます。その中で、どのように競争に勝とうと考えていますか?

David Ha:いい質問ですね。私たちの戦略は他のテック大手と同じ土俵でゲームをしないことです。例えば、OpenAIやGoogleのようなLLMを開発しない、ということです。OpenAIやGoogleに挑戦するつもりなら、LLMをトレーニングするために、何十億米ドルもの資金を集めて独自のクラウドサービスに投資しなければならないでしょう。

しかし、私たちの目的はOpenAIやGoogleと直接競合することではありません。ゼロサムゲーム(どちらかが勝って、どちらかが負ける)ではないと考えています。彼らが目を向けていない分野でイノベーションを起こしたいのです。ですから、言語モデルという表現も少し限定的です。

というのも、将来、おそらく5年から10年後には、人々は言語モデルという言葉を使わなくなり、マルチモーダルモデルや集団モデル(collective model)といった他のものに焦点を当てるようになるでしょう。一方では、新しい競争相手が犯しかねない過ちや失策のひとつは、OpenAIやGoogleとまったく同じ足跡をたどることだと思います。

ゲームを有利に進める唯一の方法は、既存のプレーヤーが競争していない分野を開拓することです。アメリカには多くの新興企業があり、イギリスには、10億ドルとは言わないまでも、何億ドルもかけて言語モデルのようなものを構築しようとする新興企業がたくさんあります。

私にとっては、日本でテック大手と同じことするのは、それほどエキサイティングでも興味深いものでもありません。それは、R&Dというよりは、エンジニアリングの仕事に近いと感じています。ですから、私たちは新しいタイプのアプローチに集中したいのです。

KDDI ∞ Laboには約90社の大企業が加盟しており、協業機会創出、技術展開の加速、事業成長の支援などスタートアップにとって重要なメリットを提供しています。日本企業と協業機会を模索することに興味はありますか?

David Ha:外部のカウンターパーティーとのコラボレーションは、おそらく1年半後に実現すると思います。しかし、現段階で、私たちが他の企業とのコラボレーションに注力することは、本来やるべき研究開発から目をそらすことになるかもしれないと思っています。そのため、私たちは100%研究開発に集中しています。そして、技術を展開する時が来たら、KDDIのネットワークを活用して、外部のカウンターパーティーと協力できれば、これほど嬉しいことはありません。

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