「Takeoff Tokyo 2024」のピッチコンペティション、決勝に残った新進気鋭6社の顔ぶれをご紹介

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Image credit: Masaru Ikeda

4月10日と11日の2日間、東京ビッグサイトで2回目となるスタートアップカンファレンス「Takeoff Tokyo」が開催された。参加人数についての正式発表はまだだが、Takeoff Tokyo を率いる Antti Sonninen 氏は開催前のインタビューで、昨年の参加者は800名で、今年はそれよりも多いことが予想されると語っていた。

Revere や Born Global といった、アメリカの小型アーリーファンドらが日本を訪れ、日本の CVC 関係者らとのミートアップを行なっていたこともあり(日本の CVC にこれらのアーリーファンドの LP になってもらい、間接的に日本からアメリカのスタートアップに投資を促す動き)、東京には海外投資家が多数滞在していて、彼らの多くも Takeoff Tokyo に参加していた。

筆者の担当したセッションでは、アプリ型 NFT プラットフォームを運営する HARTi の吉田勇也氏にインタビューさせていただいた。
Photo Courtesy: Kozue Lee

Takeoff Tokyo 2024 は、主にパネルディスカッションとピッチ(予選、準決勝、決勝)、ブース出展などで構成されたが、その中のコンテンツの一つであるピッチの決勝の模様をお届けする。ピッチには100チームがエントリし、予選通過した50チームが登壇。最終的に決勝には6チームが選ばれた。優勝は、HTML5 ゲーム開発プラットフォームの Digital Will にもたらされた。

決勝で審査を務めたのは、Headline Asia パートナーの岡本彰彦氏、UB Ventures マネージングディレクターの Chiamin Lai(頼嘉満)氏、Global Hands-on VC の Shri Dobani 氏。優勝した Digital Will には、Global Hands-on VC から投資を受ける相談ができる権利が与えられた。本稿では、決勝に残ったファイナリスト6チームを紹介する。

Digital Will(東京)

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従来のゲーム開発では、プラットフォームごとに個別に対応する必要があった。例えば Android と iOS では要件が全く異なり、新しいプラットフォームに対応するためには2ヶ月以上の工数が必要だった。Digital Will の「WORTAL」を使えば、開発者は HTML5でゲームを一度作るだけで、web、Facebook、iOS、Android 等のさまざまなプラットフォームに展開することができる。

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WORTAL のビジネスモデルは、ゲームの収入からプラットフォーム利用料としてある程度の手数料を徴収するというものだ。既に多くのユーザを抱えるプラットフォームに展開できるため、開発者側でユーザ獲得の手間が大幅に省ける。結果として開発者のコスト負担が軽減され、収益性が大きく向上するメリットがある。

Digital Will では、HTML5ゲーム市場で今後3年間で3,000万米ドルの収益を見込んでいる。その後はHTML5市場の20%のシェアを獲得し、ゲーム市場全体にも進出する計画を持っている。Apple が HTML5ゲームにアプリ内課金を認可したことで、この分野のさらなる成長が期待できる。CEO は15年の経験を持つゲーム業界のベテランで、HTML5分野での先駆者的な役割を果たしてきた。

Krip(香港)

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Krip は香港のフィンテック・スタートアップで、決済手段の特典・割引情報プラットフォームを提供、クレジットカードやデジタルウォレットで支払うと得られる割引やキャッシュバックなどの特典情報を一ヶ所に集約している。香港では6,000以上のカード特典があるものの、95%以上が消費者に知られていない。特典の可視性を高めることで、消費を41%増やすことができると分かっている。

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Krip はクロールとスクレイピング技術を使い、銀行から直接データを収集して、特典データベースを構築している。このデータベースには6,000以上の特典情報が格納され、API で一元的にアクセスできる。個人の支払方法に合わせてパーソナライズされた特典情報を提供できる。

同社では、この API を活用して、消費者向けアプリ、小売アプリ向けの特典情報の配信、決済会社向けの分析ソリューションの3つの製品を展開している。サービスとしては、香港市民7万人が利用する消費者アプリと、200万人の消費者にリーチする小売アプリ連携がある。2024年は東南アジア各国への展開を計画しており、日本市場への参入も検討中だ。

Bonsai Collectors(東京)

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盆栽は2000年以上の歴史があり、直近の100年間は日本人がその技術を磨き上げ、精緻な芸術作品として文化資産になっている。世界の盆栽市場は現在約100億米ドル規模で年率2桁の成長を遂げているが、日本国内では取引が不透明で紙ベースのものが多く、参入障壁が高いのが課題となっている。

Image credit: Masaru Ikeda

Bonsai Collectors は、茨城にある自社の盆栽園で2,000鉢以上の盆栽を管理し、専門家が入念に選別した上で顧客に提供している。個人投資家向けの厳選盆栽コレクション商品、分散投資できる賃借権付き商品、機関投資家向けのファンド商品などのラインナップがある。AR/VR、NFT などを活用し、ユーザが自宅でバーチャルに自分の盆栽コレクションを鑑賞できるサービスも開発する。

顧客は金融的な意図だけでなく、分散投資によるポートフォリオの多様化、将来の収益性、自然との繋がり、世代を超えた資産承継など、さまざまな目的から盆栽に投資している。さらに、Bonsai Collectors は業界で初めて盆栽のデータベースを構築し、これまで紙の記録だったものをデジタル化している。来年には運用資産を1,000万米ドルまで拡大することを目指している。

The Sea(香港)

Image credit: Masaru Ikeda

多国籍ブランドの美容企業は、世界中での広告のローカライズ化に適した高品質な画像リソースが慢性的に不足しているという課題に直面している。例えば Estee Laurder のように150か国で事業を展開するブランドでは、高品質なキャンペーンビジュアルを全て手作業で制作しようとすると、プロの制作者20人で300年もかかってしまう計算になり、現実的ではない。ローカライズされた適切なビジュアルがなければ、ブランドはグローバル収益を最適化する機会を失ってしまう。

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The Sea はこの課題を解決するため、以下の3つの主要サービス——世界最高品質の画像生成と、企業の要件に合わせた AI アルゴリズムのカスタマイズ、ワークフローを内部で自動化するための企業向けソフトウェアのカスタマイズ、企業向けの視覚モデルのカスタマイズとデプロイ——を提供している。これらのソリューションにより、ブランドは素早くローカライズされた高品質な広告画像を大量に生成し、効率的にグローバルキャンペーンを実行できるようになる。

実際に Estee Lauder や AMARO Pacific などが The Sea のテクノロジーを活用し、2024年のローカライズ広告キャンペーンに使用している。プレゼンテーションでは、製品画像の自動生成の実演が行われ、指定のテクスチャや形状、サイズに合わせて商品画像を正確に3〜6秒で生成できることが示された。他の一般的な AI モデルと比べて、The Sea の技術は商品のテクスチャや光の当て具合を的確に再現できる点で優れているという。

Deepreneur(東京)

Deepreneur は、東京大学松尾研究室出身の AI スタートアップだ。同社は生成 AI を中核技術に据え、企業向け DX を強力に推進している。研究開発と社会実装の2つを中核的な価値として掲げており、研究開発では、データベースの知識を参照し回答を生成する RAG(検索拡張世代)などの高度な AI モジュールが数多く開発してきた。

その中でも最も重要なのが、Deepreneur が独自に開発した大規模言語モデル(LLM)「blue-lizard」だ。blue-lizard には、日本語の自然言語処理能力が国内外のオープンソースモデルの中で最高水準にある、オリジナルデータでファインチューニングが容易に行える、オンプレミス環境にも導入しやすい、といった特徴がある。

blue-lizard をベースに、Deepreneur は企業に対して、ビジネス課題の分析、PoC(概念実証)の実施、本格的な開発とデプロイメントまでを一括で手掛けている。PoC 段階で数千米ドルから1万米ドル程度、その後の本格開発費用については企業の規模やニーズに応じて数万米ドルから10万米ドル超の収益を上げているとのことだ。

amu(宮城)

海洋プラスチックごみの増加が深刻な問題となる中、その主な原因のひとつが廃棄漁網だ。廃棄漁網は海洋生態系に深刻な影響を与えているが、これは漁師だけの責任ではなく、適切なリサイクルシステムが整備されていないことが根本的な原因である。昨年5月に設立された amu は、廃棄漁網を回収し、リサイクルした「amuca」ブランドの素材を開発・販売することで、問題解決を目指す。

amuca の特徴は、100%漁師から回収したリサイクル素材を使用し、どの漁師の網を使ったかトレーサビリティがあることだ。リサイクルプラスチック需要の高まりを受け、環境配慮型素材を求める企業ニーズに amuca で応えられると考えている。amuca の製造プロセスでは、全国の港へ出向いて漁師から網を回収し、化学リサイクルで原料として再生する。

先ごろ、シードラウンドの資金調達を終え、同社ではさらなる事業拡大に向けてパートナーシップやインターン募集を行っている。漁網が自然分解するのには600年もかかると言われているが、amu はその600年を自らの手で0年に近づけていく挑戦をしている。廃漁網を未来の資源へと生まれ変わらせることがミッションだ。

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