微生物を工場化、発酵生産で薬のコスト削減・大量生産を可能にするファーラメンタ/KDDI ∞ Labo5月全体会レポ

増田直之さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

石川県立大学発のスタートアップ、ファーメランタの増田氏は、同社の合成生物学を用いた事業について発表しました。ファーメランタは、植物由来の有用物質を微生物による発酵生産で製造することを目指しています。

古くから人類は植物から多くの恩恵を受けてきました。特に医薬品の分野では、天然物に起源を持つさまざまな医薬品が開発され、植物由来の物質の多くが世界中で重要な医薬品として使われています。しかし、植物由来物質の生産には多くの課題があります。

1つ目は植物由来のため年単位で栽培する必要があり、生産量も天候などにより不安定になりがちなことです。2つ目は農地で栽培するにあたって大量の水を必要としたり、さまざまな廃棄物を排出したりすること。3つ目は植物における有用成分の含有量が少ないため、抽出が困難でコストもかかることです。

これらの課題を解決するために、ファーメランタでは微生物を工場として利用することにチャレンジしています。具体的には、グルコースやグリセロールなどの安価な原料を用い、微生物内に生合成経路を導入することで、微生物を有用化合物の生産工場とする技術を開発しています。

これによりタイムリーな発酵生産が可能となり、年単位の生産が日単位や1週間以内で完了します。さらに生産コストの大幅削減や95%以上の土地削減、廃棄物の大幅削減などのサステナビリティーも実現できます。

ファーメランタは多様な有用物資の生産にチャレンジしています。例えば、鎮痛薬の原料に用いられる化学物質、テバインです。テバインは化学合成することが難しいため、その生産はケシからの抽出に頼っています。こうした物質の生産をファーメランタの発酵生産で代替することで、製造コストの削減や大量生産が可能になることが期待されています。(増田さん)

ファーメランタの技術基盤は5つあります。新規の代謝経路の設計、多段階の遺伝子導入、適切な遺伝子の機能発現、多段階の酵素発現バランスの制御、タンパク質の過剰発現耐性菌の保有です。これらの技術を生かして、同社はライセンスモデルと自社生産モデルの2つのビジネスを展開しています。

ライセンスモデルでは、ファーメランタで菌株を構築し、商用化前までのフェーズを担います。パートナー企業には商用生産と販売をお願いします。一方、自社生産モデルでは、製造から販売まで一気通貫でおこなうことで、より高い付加価値を提供していきます。(増田さん)

協業ニーズとしては、ファーメランタの生産技術を導入して石油化学品で生産している物質をカーボンニュートラルな物質に置き換えたい企業やライセンスモデルにおける販売パートナーなどを挙げました。増田さんは、ファーメランタは世界のすべての物質を微生物を使って作れるようにすることで、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと語り、ピッチを締めくくりました。

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