独自開発の硝化抑制剤で農業効率化と環境負荷軽減を実現するアグロデザイン・スタジオ/KDDI ∞ Labo5月全体会レポ

西ヶ谷有輝さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

アグロデザイン・スタジオは、環境にやさしい農薬の研究開発に取り組んでいます。同社が注目しているのは、世界で最も栽培されている作物であるトウモロコシです。トウモロコシの一大生産地は、コーンベルトと呼ばれるアメリカ合衆国中西部です。コーンベルトでは大量の窒素肥料が使用されており、環境に大きな負荷をかけているといいます。

そしてコーンベルトで栽培されたトウモロコシの輸入量が最も多いのが日本です。日本ではその大半が家畜の飼料として使用されています。例えば、牛肉1kgの生産に必要なトウモロコシの量は11kgとされています。牛肉を食べること自体の環境負荷を考慮し、牛肉を食べないヴィーガンライクな生活をする人も増えています。

そこでアグロデザイン・スタジオは「硝化抑制剤」の開発に取り組むことにしました。トウモロコシ栽培で使われる肥料の半分のうち作物の栄養になるのは50%です。残りの半分は硝化菌に消費されてしまいます。その硝化菌を抑制することで、窒素肥料の効率的な利用を促すのが「硝化抑制剤」です。さらに硝化菌の代謝物は、水質汚染や温暖化につながる環境汚染物質であり、その抑制にもつながっています。

既存の硝化抑制剤もありますが、効果が弱く大量に散布しなければならないため、作物に薬剤が残留して人体に悪影響を及ぼすリスクがあります。実際にニュージーランドでは一部の硝化抑制剤の使用が禁止された例があります。一方、アグロデザイン・スタジオの硝化抑制剤は、実験室レベルで既存薬の4万分の1の量で同等の効果を発揮できるため、土壌にも人体にも優しいものになると期待されます。

これを実現するのが酵素の3次元構造解析です。硝化菌の酵素の構造を詳細に解析することで、ピンポイントで窒素肥料を代謝する酵素の働きを抑制する分子標的農薬を開発しています。医薬品業界では一般的な分子標的薬と呼ばれるアプローチを、農薬で再現しようと試みているのです。(西ヶ谷さん)

この酵素(タンパク質)の3次元構造解析は、製薬会社がよく用いる技術です。3次元構造解析のためには放射光施設を使用する必要があります。同社はその施設の利用時間が国内でもトップクラスであり、研究実績の豊富さが数字から読み取れます。

現在、硝化抑制剤の市場規模は1,500億円ですが、まだ硝化抑制剤が使用されていない地域もあるため、将来的には1兆5000億円規模まで拡大する可能性があります。そんな中、我々は自社創薬事業と製薬会社などからの受託解析サービスの2軸で事業を展開しています。(西ヶ谷さん)

協業ニーズとしては、農薬を共同開発できる企業や、8月ごろに資金調達先を予定しているため銀行やVCとの連携を挙げました。また今回は学生の聴講者も多かったため、「サステナビリティーに配慮しながら牛肉もたくさん食べたい」という育ち盛りな学生のためにも、この技術の実用化に全力で取り組みたいと意気込みも語りました。

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