シリコンバレーの歴史、スーパー・エンジェルの誕生、日本企業との懸け橋を目指すNSVについて[後編]

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シリコンバレーの歴史、40年間続くモデルの“Disrupt”、スタートアップの資金調達にみえる課題などについてお伝えした前編に続いて、後編をお届けします。

ネットサービス・ベンチャーズ(NSV)の役割と日本企業

NSV加藤雅己さんがベンチャーキャピタルやシリコンバレーの投資について調べてみたところ、2010年は全米の投資の3分の1強がシリコンバレーで行われていたそう。2007年くらいとの比較するとVC投資金額に縮小はみられるものの、シリコンバレーに流れる比率は当時も今も3分の1で変わらない。それだけシリコンバレーは重要なエリアだといえる。

ここには当然日本の企業も目をつけるし、シリコンバレーにオフィスを構えたりVCにお金を入れたりということをしてきた。でも日本企業特有の、競争より管理・秩序の重視、失敗を許さない文化、人や情報の流れに閉鎖的といった性質もあって、これまでの取り組みは成功しているとはいえない。また、日本企業はリターン以上に情報や将来の事業の種になるものを求める一方で、VCは結局金融機関なのでリターンを出してなんぼ。もちろんお金はほしいけれど、主たるゴールはその元金を何倍にもして返すことだからそれに集中したい。情報提供やミーティングなんかに時間を使いたくないのが本音。それぞれの需要に根本的なジレンマが生じている。

このジレンマへの解決策がNSVの新サービス「戦略的ファンド・オブ・ファンド」。NSVはもともとRich Melmon氏と校條(めんじょう)浩氏が2002年に立ち上げたもので、日本企業に向けて未来事業のコンサルティングを展開してきた。日本の事業会社からお金を集めプールして、それをシリコンバレーで投資する。投資することで、NSVは強い立場に立ち必要な情報が入ってくるようになる。そういった情報を日本の各事業会社のやりたいことに合わせてフィードバックし、提携や買収などの提案をする。NSVが出資した案件でリターンがでれば、事業会社へのコンサルティング費用は実質無料になる。

また、コンサルティングは3ヶ月ほどの短い期間にいっきに調べて終わる案件も少なくない。でもシリコンバレーは3カ月、半年でガラッと変わる生態系。それをたった一回のプロジェクトで把握しようとするのは無理だし、常にイケてる分野が変化したり新しく生まれたりする。

ファンドの仕組みはだいたい10年が一般的で、VCも運用期間は10年ほど。最初の3年で様々なスタートアップに会って投資を行い、残り7年は育成したり捨てたりといったドラマが繰り広げられる。「戦略的ファンド・オブ・ファンド」は、シリコンバレーの歴史と日本企業の歴史を組み合わせてつくった苦肉のモデル。Bullpen Capitalがスーパーエンジェルという時代の申し子のニーズから生まれたように。

時代の流れがこういった機能を必要としていたし、3年間のあいだに日本企業にもシリコンバレーの肌感覚がついていくことが期待できる。mixiを始めとする日本企業に対してサービスを提供していく。

日本におけるスタートアップエコシステムの課題

サブプライムローン問題前後のIPO件数を見てみると、年間86件からリーマンショック翌年には6件にまで下がった。IPOの数は明らかに景気に左右されることがわかる。ところが、M&Aに関しては金額や件数に多少の変化はあるものの、その件数は大きくは変わっていない。つまり、米国ではIPOまでの成功をしなくても、売り逃げ、勝ち逃げができる受け皿がある。日本は完全にIPOにだけ依存しているから、景気の波に大きく影響されてしまう。
米国におけるベンチャー企業エグジット件数
もうひとつシリコンバレーと日本にある大きな違いは「失敗」に対する考え方。シリコンバレーではチャレンジした上で失敗することはいいこと。他の人と同じことで失敗をするのは意味がないけれど、新しいことにチャレンジして失敗するならそれはクールとされる文化がある。反対に日本は一度失敗すると、失敗した人というラベルがつき受け皿がなく、そもそも失敗を恐れてチャレンジしにくい環境がある。スタートアップはPivot(方向転換)というある種の失敗を繰り返して継続可能なモデルにたどり着くのに、日本ではそもそも失敗が許されない。日本には成功した起業家しかいないように見えるのはそのため。

シリコンバレーだって何十年の試行錯誤を経てやっと今の形になっている。そこには世界中の優秀なタレントが集まる。最近シリコンバレーを訪問する日本人が増えているけれど、そんな彼らに向けて加藤さんからのメッセージ。

「大きな失敗をすると次が難しくなる。大損してもう嫌になってしまうとか。失敗しても立ち直れるくらいの額を、絶対失敗するという心持ちでシリコンバレーのドアを開いてほしい。」

「ソリューションではなく、問題と結婚しろ」

NSVがインキュベーションしている“Shortform”のファウンダーの話。Shortformといえば、先日mixiによる投資と提携がTechCrunchでも報道されたばかり。

サービスがいかに良いかも重要だけれど、サービスによって解決される問題が大きいかどうかが重要だと。この技術が素晴らしい、このサービスが素晴らしいということだけでなく、それが何の問題を解決するためのものなのか。小さい問題を解決しても大きいビジネスは生まれない。

ファウンダー曰く、

「ソリューションと結婚しちゃダメだ。問題と結婚しろ。ソリューションがダメでも、問題が正しければ違う手法でチャレンジできる。」

と。サービスをつくる前に、それが解決する問題は何なのか、そしてその問題がどれほど大きな問題なのかを考える。色々なサービスを見てみると、Pivotしてソリューションが変わっても問題は変わらないケースが多い。マーケットポテンシャルに直接つながる話。

NSVのファウンダーでもあるシリコンバレーの重鎮にインタビュー

帝国ホテルのビジネスラウンジで行ったNSVのRichard Melmon氏と、校條浩氏へのインタビュー。お2人ともWit(機転、才覚)に富んでいてとても面白く、それでいて本質をついてる。あったかく、と同時に厳しさを感じた。

2人の今回の日本訪問の目的はTechCrunch Japanへの参加。滞在中、数多くのスタートアップに会った彼らに日本のスタートアップへの感想や起業家に必要な性質などについて聞いてみた。

Q.日本のスタートアップを見てどう思う?

「10年前に比較するとずいぶん良くなった。より賢くテクノロジーを活用し、恐れもない。日本のスタートアップが世界的に成功している事例はまだないが、その理由は優秀な人材や質が欠けているということではない。単純にシリコンバレーのように人が集中して集まっていないため、アイディアをテストしたりスキルを伸ばす場所が欠けている。」

Q.日本のスタートアップに必要なものは?

「日本の問題は、大手企業が起業家のアクションから学ぼうとしないこと。管理や秩序、権力ばかりに目が向き、全体のシステムを滞らせている。起業家の才能を開花させる場所がない。本来、大企業はスタートアップの動きなどから学び、それを事業に反映したりすべきだが、それを日本の大企業はしない。若い人に譲ることもしない。すると、VCもお金を入れるインセンティブがなくなり、システム全体が機能しない現状がある。とはいえ、現場の人間などが起業家的なやり方を学び変わっていくだろう。一部の上層部がつっかえ棒になることで、物事が循環しないという状況が変わるのも時間の問題だと思う。」

これには日本の文化も関係しているという話がすごく興味深かった。これはRichが薦めてくれて、最近読み終わったMalcolm Gladwellの『OUTLIERS』にもつながる話。日本人が持つ、「上の人が言うことは絶対」という文化は高度成長期にはその著しい成長を支えた性質だったかもしれない。ところが、今までとは違うやり方、新しいものを常に取り入れる必要がある現在においては、その同じ日本人の性質が進化を邪魔する要因にもなっているのかも。

「日本の大企業では、上司や経営者などが間違ったことを言ってもそれを否定せず、彼らを常に尊敬する姿勢が求められる。立場の強い人間は、いつも特別扱いをされていると自分たちが正しいことをしているかどうか、もはやわからなくなる。シリコンバレーでは、トップマネージメントがバカな発言をしたら、それは間違っていると部下は堂々と言う。

日本の文化はここ何世紀にもわたって素晴らしく機能的だった。誰もが尊敬する文明を築き上げた。ところが、この常に変化を続ける時代において、その同じ日本の文化が物事のスピードを鈍化させている。日本にはRESPECTがありすぎるし、アメリカには逆に不足しているくらいかもしれないが、今日ではそれがより良く機能している。」

Q.起業家には「Optimism(前向きさ)」が必要よね?

Richのそのままの答えは、“To be an entrepreneur, you need to be almost crazy in terms of optimism, because it’s very tough”だった。前向き程度じゃ足りない、ちょっとイカれてるくらいである必要があると。

Rich:

「Crazinessも大事だけれど、それ以上に大事なのはパッション。パッションで何かこれというものに出会ったなら、賢くなくてもスキルがなくてもチャンスはある。これまでわたしが出会った数少ない素晴らしい起業家に共通してあるものだ。

スティーブ・ジョブスは決してナイスな人ではなかった。丁寧でもなければ誠実でもなかったかもしれない。でも彼は自分がやろうとすることに対して常にパッションを持っていた。ビル・ゲイツだってそうだ。彼らは自分たちが成し遂げようとすることに対してこれでもかというほどに情熱的で、それを仕事だと思っていない。」

校條さん

「起業家に必要な性質は、自分を信じることです。わたしも常に自分の判断を信じるよう説得しています。日本では、あなたは間違っていますと教えられて育つ。先生も親もNOといい、毎日をこれはしていい、これはダメということを学ぶ。それに従うのが当たり前で、それを繰り返すうちに一種のカルトグループのようなものが出来上がる。他の人の話を聞きなさい、目上の人の話を聞きなさい。この人の意見を聞くという、生まれてから教えこまれて取得したスキルが多くの機会損失につながっている。

日本人には人を時にunhappy(不幸せ)にさせる勇気を持ってほしい。自分のパッションを最優先するのであれば、あなたの親友さえも不幸せにするくらいの覚悟が必要です。誰にもやさしくしているのでは革命は起こせない。」

Q.おすすめの書籍は?

『OUTLIERS』-Malcolm Gladwell

『Moneyball』-Michael Lewis

1時間半に及ぶインタビューはあっという間に終わった。あらためて、シリコンバレーの歴史、たどり着いたエコシステムについて伺うことができた。シリコンバレーはひとつの生態系なんだな、と。

長いインタビューにお付き合いくださったNSVの加藤さん、そしてRichと校條さんに感謝です。加藤さんは日本とシリコンバレーを行ったり来たりしているし、他のメンバーも年に1度は日本に来日しています。イベントなどに参加して会いに行ってもいいし、コンタクトをとりたい方はinfo[at]nsv.comまで連絡してみてください。

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