投資家たちが東南アジアに熱い視線を注ぐ理由

今回は、2月末~3月にかけて開催される DEMO Asia の主催者でもある、シンガポールの起業家コミュニティ「SG Entrepreneurs」の寄稿の邦訳をお送りします。This Japanese translation was reproduced under the approval from SG Entrepreneurs who holds the copyright of the original article.


【原文】

活況に沸く中国やインドで起業家が注目を浴び、東南アジアで何かが生まれていることは忘れがちだ。

静かだが着実に、東南アジアのギーク文化は成熟しつつあり、次世代のテック起業家を養成する環境が作られつつある。この流れを顕著に表しているのは、起業家やギーク達が自分のアイデアを試したり開発したりできるスペースの増加だ。

その先がけとなったのが Hackerspace.SG で、2009年に有志ベースで資金が集められ、起業家の活動をサポートしている。

写真:Bessemer Venture Partners の Sheel(中央左)と Abhijeet(中央右)と歓談するゲストたち

Hackerspace.SG はシンガポールのアラブ・ストリート地区にある。通りには、さまざまな形をした水タバコを吸うためのシーシャが置かれ、インド料理レストラン、カーペット屋、ヒップ・バーなどがあふれる。Hackerspace の表札は、訪問者をドアから階段を通じて、多くのギークが「家」と呼ぶ居心地のよいスペースへと誘う。

2009年の Hackerspace.SG の設立に端を発し、東南アジアではインドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンにハッカースペースが作られた。ハッカースペースから生まれたイベントや人々は、投資家たちの注意を引く新しい話題を作り続けている。

11月末の火曜日の夜、50人の野心的な起業家たちが Hackerspace.SG に集まり、世界で最も古いベンチャーキャピタル、Bessemer Ventures Partners(BVP)から来た2人の特別ゲストに感動を与えたことだろう。

このイベントは Chilling’ With(敢えて訳せば、「誰かと楽しく過ごす」程度の意)と呼ばれ、SG Entrepreneurs がシンガポールの起業家、投資家、テックコミュニティの親交を深めるために定期的に開いているものだ。Chillin’ With は、現在のシンガポール大統領 Dr. Tony Tanが始めた。

BVP のニューヨークオフィスに勤務するアナリスト Sheel Tyle と、BVPインドのシニアアソシエイト Abhijeet Muzumdar は、起業家に混じって親交を深めた。2人は投資対象を模索して東南アジアを訪問中であり、シンガポールに降り立つ前に、マレーシアやインドネシアを訪れている。

BVP は100年以上前に設立され、Skype、LinkedIn、Yelp、VeriSign、Staples、Hunch(後に eBay によって買収)などに投資してきた。失敗を受け入れることは彼らの文化であり、彼らはそれを「アンチ・ポートフォリオ」と呼んで、これまで長くに渡って投資を怠った事例を公開している。(Google の話は有名だろうか?)

2人によれば、新興市場の中でも、アジアはエンジェル投資家やベンチャーキャピタルにとっては金鉱なのだそうだ。欧米諸国は市場が成熟し、所得が高額になり、競争も激しい。他方、アジアではEコマースやモバイル業界に、以前として多くのギャップが存在する。

起業の成長に足かせとなるインフラや人材不足の問題はあるにせよ、発展途上国の市場は大きく上向いているのだ。

「アジアの多くの地域では、インターネットの普及が高い成長を見せている。ネット企業にとっては、大きな可能性となるだろう」。Abhijeet は自らの専門分野について、そのように語る。例えば、インドネシア人はインターネットをよく使うユーザとして知られている。これは、低価格のスマートフォンの普及で実現した結果だ。Eコマースやソーシャルネットワークは、彼らに人気が高い。

「インフラの問題は現在の課題だが、皆さん起業家の役割はその解決策を見出すことだ」。Abhijeet は、シンガポールの内外から Hackerspace に集まった人たちに呼びかけた。

Sheel は、東南アジアは全く異種の市場がバラバラに集まったものと考えられがちだが、一つの市場として考えるべきだと話した。

この「多国一市場」的な考え方は、昔ながらの「ブリック・アンド・モルタル」的な企業よりも、ネット企業に受け入れられやすいだろう。東南アジアの国々では、それぞれ大きな文化の違いが存在するが、異なる国に商品を提供するのに変化を加える必要はないかもしれない(言葉を除けば)。

その好例となるのが Facebook であり、同じものが各国で使われていて、言葉が翻訳されているだけだ。

また、ネットビジネスは伝統的なビジネスに比べると、各国の規制や法律と戦う必要が徐々に少なくなってきている。

しかし、異市場に商品を投入するにあたり、ビジネスモデルをローカライズするケースがあるのも事実であり、文化の違いが無くなることはない。Abhijeet は、ある地域共同購入サイトが、シンガポールよりもインドネシアやマレーシアで、イスラム教徒同士の取引を増やす戦略をとっている事例を紹介した。

技術革新のセンターとして、シンガポール隆盛の勢いは著しい。5年前なら、このような集まりは不可能だった。スタートアップ・エコシステム、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタル投資、すべてはそこに存在しなかった。シンガポール政府は、この国を輝かせ経済を活性化するために、起業家精神が必要と考え、すべてを一から作る必要があったのだろう。

スタートアップに対する公的機関による多面的な投資、緩和された移民政策、規制の少ない環境などにより、シンガポールは東南アジアで最も若く躍動感がある国に成長した。

Abhijeet と Sheel の二人はシンガポール政府の過去の業績を賞賛しつつも、スタートアップがもっと優秀な人材を魅了できるようになるには、多くのイグジットの選択肢を用意する必要があるだろうと述べた。

「今はまだ、優秀な人材は Google や Facebook のような大企業の、魅力的な仕事に行ってしまう」と Abhijet は述べる。

従業員に大きなストックオプションを与えるのは、人材を引き留める上で良策の一つだが、シンガポールのテック業界では、この方法が効果を出すにはまだ事例が不足している。

「スタートアップに関わることは適切なキャリア形成につながると思ってもらうには、人々に大規模なイグジットやIPOを見せなければならない。そうすると、ストックオプションも意味をなしてくる」 Abhijeet は続けた。

いうまでもなく、シンガポールは、その優れた人材、最高のインフラ、規制の少ない社会といった点から、東南アジア市場を狙う会社を設立するには、この上ない場所である。

BVPの2人からアジアの話を聞こうとする聴衆で満員

シンガポールの起業家たちは、そんな地域に今いることの可能性を認識しているようだ。Abhijeet は会社を設立するために、シンガポールに移住した起業家を多く知っている。

好例として、SG Entreprepneurs が以前取り上げた mig33 の Steven Goh は、オーストラリアで生まれ、シリコンバレーに移住し、そして、シンガポールに本社を移した。

Viki はシンガポールの国際チームが設立したスタートアップだ。Razmig Hovaghimian はエジプト出身、ホ・チャンソン(호창성) と ムン・ジウォン(문지원)は韓国人だ。彼らはシリーズAで430万ドルをVCや個人から調達しシリーズBでは2千万ドルを調達した。

シンガポール生まれの起業家たちも、その翼を世界へと広げている。以前はテクノロジー系の弁護士をしていた Tan Min-Liang はカリフォルニアに移り、1998年、Razer というゲームハード機器メーカーを設立した。最近、中国市場への進出を図るべく、5千万ドルの資金調達に成功している。

Teo Jia-En は、ブルームバーグで働いた後、ニューヨークで Roomorama という短期賃貸住宅サイトを立ち上げた。最近彼女はシンガポールに戻り、東南アジアでのプレゼンスを拡大すべく、オフィスを構えた。

Chalkboard の共同創業者である、Saumil Nanvati と Bernard Leong にも、同じことが言える。彼らのウェブとモバイルの位置情報サービスは、企業や商店を近くに居るお客と結び付けてくれる。シンガポールからマレーシア、米国へとサービスを拡大し、現在の契約企業は5000社に近づきつつある。

こういった先駆者たちは、この小さな閉ざされた島国から出ようという野心にあふれている。それは、シンガポールの出来てまもないスタートアップ・エコシステムには良い兆候であり、投資家の目には、この国から優秀でやる気にあふれた起業家が育っていると映るようだ。

Sheel は最後にこう言った。「これからの数年間、この国で何が起きるかが楽しみだ」

【via SG Entrepreneurs 】 @SGEntrepreneurs


著者紹介:テレンス・リー(SG Entrepreneurs アシスタント・エディター)

テレンス・リーは、インターネットで文筆をふるうオンラインメディアの申し子だ。最近、彼は写真を始め、近いうちにビデオも習い始めるらしい。The Straits Times、Today、Mind Your Body、The Online Citizen、Funkygrad などのオンラインメディア、印刷物などに寄稿している。2010年には、気の合う仲間と共に、若年層向けの現代問題を扱うオンラインマガジン「New Nation」を立ち上げた。LinkedInTwitter で連絡がとれる。

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