「わたしは社会起業家ではない」:無常識が生む商品で、ホンモノがわかる子どもを育てる「和える」の矢島里佳さん【後編】

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残すべき日本の伝統産業を後世につなぐために生まれた、ベビー・キッズ商品を提供する「和える」の矢島里佳さん【前編】」の後編をお届けします。

Rika-Yajima-sideway

伝統産業品はオンライン販売にも向いている

今は、20世紀後半から21世紀へのグラデーションの過渡期だと話す矢島さん。お金やモノが優位だった20世紀から、21世紀は個人のアイディアと想いに光が当たる時代。アイディアと想いが、お金やモノを超えられる時代が到来しました。

 10年前、いくら情熱を持っていても、都内の一等地にお店を出すことは不可能だった。それが、インターネットというインフラが確立された今、アイディアとやる気次第で、オンライン上の一等地にお店を出せるようになった。そんな今だから、和えるという事業を実現することができたと矢島さんは言います。

現在、和えるの主な販路はECサイト。今年の夏には、都内に直営店を初出店する予定も。書籍やちょっとした洋服ならまだしも、伝統産業品を、実物に触れることなくオンラインで購入することのハードルはとても高いように思えます。でも、「和えるの商品はオンラインにも向いている」のだそう。

「伝統産業品はオンラインで売りにくいと言われますが、そんなことはないと思っています。今はどんなに素晴らしい小売店でも厳しい運営を迫られ、商品説明を徹底する社員教育を行う余裕はありません。お客さんが、十分な説明を受けることなく商品を買って行く光景も目にします。何も語らないよりは、丁寧に語りかけることができるオンラインショップでしっかりと想いを伝えています」

 和えるの商品ページを見てみると、子どもたちにとってどんな学びや機能性があるのか、また活用された職人の技術の紹介、商品が出来上がるまでのストーリーなどが隈無く紹介されています。中には動画による紹介も。

和えるのアイディアを職人さんに形にしてもらい、その商品を和えるで全て買い取って販売する。自分たちの子どものようなかわいい商品たちを、自らの言葉や表現でしっかり伝えることにあくまでこだわります。

未知にも挑み、無理難題に応える職人さん

和えるの20種類ほどのシリーズ商品が、構想から製品化までにかかる時間は短いもので1年、長いものだと3年。その長い道のりにおける一番のハードルは、商品を思い通りの形状に仕上げること。理想の形状に一歩及ばないものを、何度も試行錯誤して、理想そのものに辿り着くまで繰り返しつくってもらいます。

大学在学中を含む6年間のあいだ、矢島さんが産地を回って築いた基盤。数多くの職人さんの中でも、特に印象的なのが本藍染職人さんの言葉でした。

「自分の仕事は「昭和と平成の点をつないでいるだけ」と言うんです。自分は昭和に生まれて、本藍染の技術を平成につないでいる。これまで長きに渡って伝わってきた伝統や技術を正直に伝えることが大切。正直に伝えなければ何百年、何千年と伝わってきた技術が簡単に途切れてしまう。だからこそ、後ろめたいモノ作りをしない、正直な職人を自分の目で見極めて付き合うように、と教わりました」

生き残りがかかった厳しい状況に、中には多少嘘をついてでも生き延びようという人もいるのが悲しい現実。物の見極め以上に、人を見極めて、和えるのビジョンと物づくりに真剣に付き合ってくれる職人さんと仕事をしています。

 「私は骨董商ではないので、モノを見せられて何年もの?と聞かれてもわかりません。目の前にいるお兄ちゃん、おじちゃんが真っすぐでいい人か、子どものための物作りに正直な人か。今まで多種多様な業界で何千人という人に会ってきて、そこは多少わかるようになってきたかなと思います」

 子どもたちのことを考えて、デザイナーと一緒にアイディアを商品に落とし込む。既存概念を疑うことから始まる商品のアイディアは、まだこの世に存在しない全く新しいもの。これまでにない素材を選定したり、かつてない組み合わせを試したり。

 「子どもたちのことを考えて作ると、職人さんもやったことがない、難しい技術を要求せざるを得ないデザインが生まれてくることも、しばしば。結果として、無理難題をお願いしてしまうことも多いのですが、それを無理だと決めつけずに、面白がって一緒に取り組んでくれる職人さんとご一緒させていただいています。産業が危機にあっても、そこに悲壮感は一切ありません。チャレンジを楽しめる職人さんと共に、和えるの商品は生まれているんです」

私は「社会起業家」ではない

残すべき伝統産業を後世に伝えるという和えるのコンセプトから、社会起業家という文脈で語られることが多い矢島さんの活動。最近は、大学などで講演を行うと、多くの学生が「社会起業家になりたいんです」とアドバイスを求められます。そんな彼らには、もう一度考えてほしいと言います。

「社会起業家になって、何がしたいの?と聞くと、まだわからないけど社会起業家になりたいと答える学生さんが多いのです。一歩踏みとどまって考えたほうがよいのではないかと感じます。

私自身、社会のためになることをしようと思って始めたわけではなく、好きという自分の強い想いが始まりでした。自分が本当にやりたいことでなければ、どこかで軸がブレてしまい続けることが難しいと思います」

一緒に事業に取り組むからには、お互いに相乗効果のある三方良しの関係であるべき。これを実現するために、和える立ち上げ当初、周囲に大反対された在庫を抱えることもしています。職人さんが作った和えるの商品は全て買い取り。そうすることで、職人さんは在庫リスクを心配することなく、子どものための商品を作ることだけに注力できる。完成した商品を利用者に伝えて届けるのは、和えるの仕事です。

「社会のために、という大きなことではなく、ただ自分が惚れ込んだ職人さんたちの技術を、将来の自分たちの子どもたちのために活かしたい、それだけなんです。愛すべき人が生み出したものを愛すべき人に届けたい。それが結果的に社会全体にとってもいいことだと思ってくださる人がいたからこそ、循環しているのだと思います」

「無常識」のまま、時代の半歩先を

和えるを立ち上げて丸3年。特に資金繰りが苦しかった最初の2年間を乗り越え、今年の3月16日で会社は丸3年目を迎えました。周りの起業やビジネスの先輩から言われてきた「3年残る会社が少ない」ということの大変さを、身を以て実感しています。

「生まれたての会社は子どもと一緒。特に3歳くらいまでは、すぐに風邪を引いて、熱が出たりします。資金繰りが苦しくなって、我が子のような“和えるくん”が死んでしまうかもという危機もありました。でも、職人さんや周りの皆さんに支えていただいて、3年という一つの節目を乗り越えることができました」

日本人が、日本ならではの「いいもの」に当たり前に囲まれながら、それを活かして先人の知恵を次につないでいく。そんな文化をもう一度作っていくことが矢島さん、そして和えるが目指すこと。

 将来的には、海外の子どもたちにも日本のいいものを発信していく予定。既に、ECサイトに海外のユーザーから問い合わせが寄せられたり、海外のパートナーシップなどについても模索したりしています。

「幼少期に日本のものに触れた外国の子ども達が、大きくなって、どの国に行く?となった時に、日本に行きたいって言ってくれるような世界を目指したいです」

日本の豊かな伝統を、いい意味で当たり前に日常生活に取り入れ、ホンモノに触れた感性豊かな子どもたちを育む。和えるはきっと、これからも「無常識」のまま、時代の半歩先を進んでいくのでしょう。利き足を軸に、もう片方の足が宙に浮いている「半歩先」くらいが今の時代にはちょうどいい。未来を担う子どもたちが、どんな商品に触れて、どんな価値基準を持つようになるのか。子どもたちがちょっぴりうらやましく思います。