残すべき日本の伝統産業を後世につなぐために生まれた、ベビー・キッズ商品を提供する「和える」の矢島里佳さん【前編】

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Rika-Yajima渋谷のカフェでお話を伺った「和える」代表の矢島里佳さん

「全ての伝統産業を守り、残さなければならないとは思っていません。生物の進化論と同じで、残るものもあれば消え行くものもある。それが自然淘汰というもの。環境や時代の変化に対応できないものは自然と消えて、そこに対応できたものが生き残って行く。

伝統産業は、今ふるいにかけられていると思います。本当は素晴らしいのに、人々が知らないというだけで、今この時代で朽ちていこうとしているものを残したいんです」

渋谷のカフェでお会いしたのは、株式会社和える(aeru)の代表取締役の矢島里佳さん。日本の伝統工芸職人の技を生かした0〜6歳向けのベビー・キッズ商品を提供するために、2011年3月、大学4年生で「和える」を立ち上げました。山中漆器のこぼしにくい器本藍染の産着など、使う子どもの視点に立った商品開発を手掛けています。

今回の取材には、和えるの初めての社員となる柴田智奈美さんも同席してくれました。ただでさえ人手が足りず、教育に時間をかける余力もないベンチャー企業では、即戦力となる中途採用が主流。でも、矢島さんは、敢えて社会人経験のない学生さんを採り、一緒に育てて行く方針にこだわります。

「20世紀から21世紀へと時代が変わり、少し前の常識がもはや通用しなくなっています。和えるでは、常識でも非常識でもなく、無常識を作っていきたい。知恵や経験は、ときに新しい仕組みを創ることを邪魔してしまうこともあります。近代社会が生み出してきた常識と言われるものに対して素直に疑問を持ち、自ら動いてより良い方法を見出そうとする子たちと、和えるを一緒に育てていきたいと思っています」

TVや雑誌にも頻繁に登場し、よく「社会起業家」という文脈で紹介される矢島さん。でも、ご本人には、自身が社会起業家であるという意識は全くなく、あくまでドライ。お会いした時、そのギャップにちょっぴり驚きました。

「伝統産業が廃れてしまうことを可哀想、助けたい」と思ったことは一度もないと言います。ただ純粋に、自分の目で見て、手で触れた日本の良いものを後世に残して行きたい。そんな想いに駆られて走り続けています。

つなぎ、伝えるために誕生した「和える」

矢島さんが伝統産業に携わる仕事を始めるようになったのは、中学高校時代の茶華道部での経験が一つのきっかけでした。その後、2009年からの約3年間、日本各地の伝統を次世代につなぐ若手職人を取材する連載をJTBの会報誌にて執筆。後に、週刊朝日でコラムでも連載を手掛けることに。日本全国に足を運び、職人さんに直接会い、伝統産業品に触れていくことで、和えるの構想が生まれました。地道に続けた取材活動で培った職人さんとの人間関係が、現在の和えるにも活きています。

大学3年生になって一度は就職先を探してみたものの、矢島さんが思い描く「ベビー・キッズ×伝統産業」という市場に取り組む企業に出会うことはできませんでした。でも、やりたいことは明確。それなら自分で事業を立ち上げようと、ビジネスコンテスト「学生起業家選手権」に参加して見事優勝。その賞金が、和える立ち上げの資本金となりました。

伝統産業が衰退する理由はいたってシンプルなのだと矢島さんは話します。

「それは、私のような伝統産業の存在を知らない大人が増えたから。知らなければ興味を持たないし、興味がないものを欲しいと思わない。という負の連鎖が伝統産業界の様々な問題の要因だと感じました。それなら、幼少期に知る機会を作ればいいんだ、と思いました」

日本が誇るべき、そして後世に残すべき素晴らしい技術が途絶えてしまう理由は、ただ、新しい世代にそれが伝わっていないから。それをつなぐ一つの形が和えるなのです。

「職人さんの技術の一つひとつが、私にとっては目から鱗でした。日本で生まれ育ったのに、こんなに魅力的なものをなぜ今まで知らなかったんだろう?なぜ、それを教えてもらう教育的機会を得られなかったんだろう?と不思議に感じました。その素晴らしい伝統を、私たちの生活に活かしたい、その想いが始まりでした」

パパやママの便利さよりも、子ども目線で学びの多いものづくり

和えるの利用者ターゲットである0〜6歳の子どもたちにどれだけ役立つのか。バリエーションを含むと70〜80種類を超える、和えるの商品の絶対的基準。

商品開発は、矢島さんが持つ「ベビー・キッズ市場の既存商品に対する疑問のストック」と、「伝統産業市場における技術のストック」を掛け合わせることから始まります。親でも子どもでもない第三者であることで、これまでにない発想が生まれるのです。

例えば、「徳島県の本藍染の産着」は、「なぜ赤ちゃんの産着には白色しかないんだろう?」という一つの疑問から生まれました。そもそも産着が白色である必要があるのか。その疑問に対して、本藍染が持つ抗菌作用や防虫防臭効果を和えてみることで、子どものための商品に落とし込んでいます。

商品開発に際して、それを購入することになるママやパパに話を聞くことはしません。それは、和えるの商品がママやパパのためのものではないから。あくまで、子どもに最大限の学びや気づきを提供することを大切にしています。

「食器は割れないほうがいい、割れたら危ないし、片付けるのも大変だから。これはあくまで大人の理屈ですよね。子どもにとっては割れるものの方がいいんです。乱暴に扱うと物が壊れてしまうということを学ぶ大切な機会になります」

このように全く別の市場同士を和えることで、本物に触れた子どもたちが育っていく。

「魅力的な職人さんの技術を、子どものために最大限にどう活かすのか。幼少期に、本当にいいものに触れられる環境を作りたいんです。いいものがわかる子どもが増えれば、自分でいいものをしっかりと選択できる大人になるはずです。

20年後、自分でモノを買う年齢になったとき、きちんと自分の価値基準で選びぬき、物を買う。そうなれば、次世代のことを考えられた物づくりを支持し、購入するという投票行為ができる人が増えるのではないでしょうか」

後編につづく。

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