次なるシリコンバレーを目指す世界のエコシステムに捧げる物語:第2話「シリコンバレーのコピー」【ゲスト寄稿】

mark-bivens_portrait本稿は、パリと東京を拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。英語によるオリジナル原稿は、THE BRIDGE 英語版に掲載している。(過去の寄稿

This guest post is authored by Paris- / Tokyo-based venture capitalist Mark Bivens. The original English article is available here on The Bridge English edition.


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連日、起業家やノマドワーカーでにぎわう、Mountain View 駅前の Red Rock Coffee。ここからも多くのスタートアップが生まれた。(撮影:池田将)

この連載のパート1では、シリコンバレーの物語を簡単に取り上げた。シリコンバレーについて、より詳しく振り返るなら、Piero Scaruffi と Arun Rao が書いた「A History of Silicon Valley」が最もよく包括しているかもしれないし、Robert Cringely の「Accidental Empires(邦題:コンピュータ帝国の興亡)」は、今日のウェブ時代の前にパソコン産業が築き上げられていった様子にフォーカスしている。ヨーロッパからアジアまで、あらゆる国々の政府が努力しているように、地元のコミュニティにシリコンバレーのモデルをコピーを試みる人にとって、シリコンバレーの物語を理解することは重要だ。

これらの政府が長年にわたり、そのような努力を押してみたり、または引いてみたりするのを見てきたが、ここで考えるべき2つの質問を提起したい。

  • 各国政府は、シリコンバレーをコピーしようとすべきなのか?
  • シリコンバレーを、アントレプレナーシップやイノベーションの礎にせしめているのは何か?

Silicon-valley最初の質問については、私の意見では、その答えは概してノーだ。今日のシリコンバレーは、いくつかの要素が独特に組み合わさることで成立している。その要素の中には、計画的なものもあれば、偶発的なものもあり、多くはそれを確かめることすらできない。シリコンバレーのコピーを地元市場に作ろうとする各国政府の試みは、無駄な努力に終わるだろう。

シリコンバレーのモデルは、長年にわたって進化してきた。オープンな市場経済の世界において、30年間にも及ぶプロジェクトを進める力を持った政府はいないだろう。さらに言えることは、シリコンバレーは、政府による国策の結果ではないということである。政府、より詳しく述べれば、カリフォルニア州はシリコンバレーの勃興を促す環境を作ったが、その多くは悪あがきに終わった。今日のシリコンバレーの基礎を作ったのは、民間と多くの武骨の人たちだ。

私が尊敬する経験豊かなヨーロッパのベンチャーキャピタリストは、1997年にシリコンバレーをコピーしようとしたオランダ政府の過ちについて、次のように言っていたのを思い出す。

1997年、オランダ政府は、Twinning という政府支援ファンドを組成し、ITアントレプレナーシップを刺激しようと考えた。意気盛んな時代だった。ともあれ、政府による他の多くのイニシアティブ同様、このアイデアは大失敗に終わった。私の意見では、シリコンバレーのやり方をコピーしても仕方がない。なぜなら、シリコンバレーはユニークな状況・環境・インフラ・知識・経験だからだ。それと同時に、他にはない遺産・長年の経験・歴史でもある。そのコピーに5年かけても仕方が無い。とにかく、コピーすることは意味が無い。

ここでオランダの話を引用したのは、何もオランダのことを悪く言おうという意図ではない。それとは対照的に、オランダはこのレッスンから学習し、今日では、輸出型アントレプレナーシップとイノベーションを振興するロールモデル的な存在となっていると言えるだろう(この点については、次回パート3で詳しく述べたいと思う)。

コピーしようとするな、違う視点で考えろ(Don’t try to copy. Think different.)

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イスラエルのスタートアップ・マップ(出典:Mapped in Israel

「コピーしようとするな、違う視点で考えろ」−−この言葉が多くの地域の挑戦を未然に防いだ事例は存在しない。Silicon Valley(ニューヨーク)、Silicon Prairie(テキサス)、Silicon Roundabout(ロンドン)、Silicon Gulf(フィリピン・ダバオ)、Silicon Welly(ニュージーランド)、Silicon Beach(ロサンゼルス)、Silicon Border(サンディエゴ)、Silicon Desert(アメリカ・アリゾナ州フェニックス)、Silicon Glen(イギリス・スコットランド)など、これらはシリコンの名前で始まる地名の一部に過ぎない。そのリストたるや、シリコン名の多さは実に馬鹿げたものだ。

イノベーション・クラスターを創造する上で成功した地域では、人々は自分たちのやり方と独自の強みを貫いてきた。そのような地域では、政府は失敗を罰しない環境を整え、邪魔をしない。

ニューヨーク市は、この地域のファッションやメディア業界の恩恵に預かり、VC が支援するデジタルメディアスタートアップの、世界で2つ目に大きな市場として頭角を現した(皮肉なことに、シリコンバレー流はファッションでは通用しない)。前ニューヨーク市長の Bloomberg 氏の政策は、ライフスタイルやデザインの活気あるエコシステムを〝招き入れる〟というものだった。

ロサンゼルスは、ゲームのスタートアップにとって、その格好の場所としてのステータスを向上させつつある。言うまでもなく、ハリウッドの映画スタジオに近接していることが重要な役割を担っている。

イスラエルは人口当たりのハイテク企業の数では世界で最も集中している地域であり、世界に輸出する最先端の通信技術やセキュリティ技術を開発する企業がひしめきあっている。

私は、各国政府がシリコンバレーをコピーするのではなく、むしろシリコンバレーを成功に導いた事実要素からインスピレーションを得るべきだと言いたい。この連載の最後となるパート3では、イノベーションを起こしたい日本にインスピレーションとなるかもしれない、シリコンバレーの役に立つ事例を紹介したい。

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