「パワポ」の次を狙えーー1日3000万人の”生産性革命”を目指すスライド作成スタートアップ3選

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<ピックアップ : Beautiful.ai helps non-designers create more polished presentations>

毎日3000万人がパワーポイントを使うといわれ、そのスライドを完成させる平均時間は4時間が相場なんだそうです。

朝9時から午後5時まで働くとした場合、半分もの時間をパワーポイントに奪われている計算です。仮に各ユーザーが、毎日1つのスライドプロジェクトに取り組んでいるとすれば、世界規模で1200万時間の生産性を、パワーポイントに費やしていることになります。

こうした非効率的なスライド作成のプロセスを変えようとするスタートアップが登場しています。

AIを使ってスライド作成の自動化を目指す「Beautiful.ai」

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2018年5月、AIを使ったクラウドベースのスライド作成ツールBeautiful.aiが1100万ドルの資金調達を実施しました。ユーザー数は公開されていませんが、現在のラウンドがシリーズBということもあり、順調な成長率を遂げていると思われます。2015年に創業された同社の累計調達額は1600万ドルにのぼります。

Beautiful.aiは50以上のスライドテンプレートを用意しており、ユーザーは利用用途に応じて最適なものを選択。テキストや画像情報を入力するだけで済み、スライドのフォントサイズやアニメーションは、各スライドのレイアウト設定に応じて自動でAIが調整してくれます。現在のところ有料プランは設定されておらず、収益化はこれから目指す予定のようです。

同社がターゲットユーザーとするのは“ノンデザイナー”。スライドのデザインに変にこだわり過ぎて時間を浪費してしまったり、パワーポイントの多すぎる機能を使いきれていないビジネスマンを狙います。

実際、PRNewsWireが紹介する調査データによると、73%のプレゼンターが自信が作成したスライドデザインに不安を持っており、62%が時間が足りないことから、自分の納得いくスライドを作成できていないと感じているそう。筆者を含め、このデータに共感される方は多くいるでしょう。

欠点はカスタマイズ性を残してしまったこと

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“ノンデザイナー”が手軽に使え、かつAIのサポート機能がついたBeautiful.aiに大きな期待を持ちつつ筆者も利用してみました。しかし期待値を下回る残念な点が目立ちました。

1つは、中途半端に機能を残してしまった点。パワーポイントで頻繁に利用する機能に絞って実装されていますが、カスタマイズ性が残されているため、ユーザーがデザインを考えなければいけない余地を感じさせます。

たとえば、各スライドのテキスト位置を変更できるレイアウト機能が挙げられます。10個ほどのレイアウトを選択できるのですが、結局ユーザーが納得するものを選ばなくてはいけないため、デザインを考える時間が必要になります。この点は冒頭で説明した、パワーポイント作成に膨大な時間が費やされている市場課題と反するUXです。

もう1つはAI機能の弱さです。たとえば、グラフを作成する際に自動でテキストや画像の位置が変わったりする点にAIが使われているようですが、スライドの内容に沿ってデザインが最適化されているというより、事前に設定された通りに動いている印象を受けました。結局、各スライドのデザインに満足できなかったために筆者が微調整を加える羽目になりました。

この体験から高いデザイン性を求められない、チーム内での短いプレゼンや、簡単なミーティングでは大きく価値を発揮すると感じました。スライドなどには時間をかけず、さっさと作ってしまおうと考える、生産性を極端に優先する方にも最適でしょう。

一方、30人を超えるようなイベントでのプレゼン用スライドを作成する際や、少しでもデザイン性を気にするユーザーには不向きかもしれません。

“Simple is best”なサービスが求められる

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市場が求めているのは、ほとんどデザインプロセスに関わることなく高いデザイン性を誇るスライドを作成してくれるツールです。この点、Beautiful.aiはユーザーがデザインを決めなければいけないUXを残してしまっているため、デザインプロセスを全てお任せしたい“ノンデザイナー”のニーズに100%応えきれていないと感じます。

ここでBeautiful.aiに代わる、“ノンデザイナー”を対象にした利用価値の高いデザインサービスを2つほど紹介したいと思います。

1つはSketchDeck。顧客はプレゼン内容をまとめたノートを同社のデザインチームに渡すだけで、デザイン性の高いスライドを2〜3日以内に納品してくれます。プレゼン内容やアジェンダ作りに特化することができ、一切デザインプロセスに顧客が携わる必要のない、まさに“ノンデザイナー”が持つニーズを的確に捉えたサービスです。

オンデマンド・デザインをコンセプトにしたSketchDeckは、マッキンゼー出身の創業者によって立ち上がったサービスです。実際に筆者は創業者に取材したことがあり、彼曰く、マッキンゼーはインドにスライド作成専門の外注チームを抱えており、コンサルタントが考えるプロセスに集中できる労働環境が出来上がっていたとのこと。こうした大企業の巨額なリソースがあるからこそ構築できていたスライド作成プロセスを一般企業の利用出来るレベルにまで落とし込んだのがSketchDeckです。

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2つ目は、SlideBean。起業家が投資家向けのプレゼン資料デックを作るためのスライド作成サービスとして立ち上がりました。

機能も十分な内容となっています。たとえば、自社ロゴデータをアップロードした際、自動でロゴ色を識別し、全てのスライドに自動で反映してくれます。色の統一感を一瞬で整えられるため、わざわざユーザーがデザイン設定をいじる必要がありません。

また、デックに記載する内容やスライドの順番の相場は大体決まっているため、テンプレートを一度選んでしまえば、各スライドに例文として記載されているユーザー数やチームの写真を、自社のデータにすり替えるだけで完成します。加えてデックを作成する際はなるべくシンプルなデザインが求められるため、カスタマイズして要素を付け足すような作業は必要とされません。むしろ内容を極限まで削ぎ落としたものが評価される傾向にあります。

こうして、スライドに盛り込む最低限の内容さえ揃っていれば、あとはテンプレートに入れ込むだけのUXを構築できているのです。

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今回は筆者の体験から否定的な内容を中心に語ってしまいましたが、Beautiful.aiは大型資金調達をしていることから、ユーザー数が増えている点は否めませんし、読者の方の中でも気にいる方が多く出てくることでしょう。ぜひ一度体験してみることをお勧めします。

いずれにせよ、パワーポイントの再発明を狙うスタートアップにとって必要不可欠な要素は、ユーザーに選択肢を与えないという点になるかもしれません。

SketchDeckは顧客がデザイナーチームへ外注することで、スライドデザインを考える時間を一切省いています。SlideBeanは投資家向けのピッチという、スライド内容の相場感が決まっている分野に特化していることからこそ提供できるシンプルなUXを実現しました。

日本市場では、あまりスライド作成の自動化サービスを提供するスタートアップが見受けられません。本記事で紹介した企業を参考に、日本語に合ったデザイン性の高いスライドをほぼ自動で作成できるサービスの立ち上げを考えてみてはいかがでしょうか。

via VentureBeat

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