台湾で開催のスタートアップ・カンファレンス「InnoVEX」ピッチ決勝、薬剤耐性菌の高速検出・特定技術開発の「MedFluid」が最優秀賞を獲得

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2019.5.31

本稿は、InnoVEX 2019 の取材の一部。

5月29日〜31日の3日間、台湾最大のスタートアップカンファレンス「InnoVEX 2019」が開催された。会場でのピッチには台湾・韓国・シンガポールなどから31チームが参加。審査の結果、台湾のスタートアップで、薬剤耐性菌検出技術を開発する「MedFluid」が最優秀賞に相当する Taiwan Tech Award が贈られた。

MedFluid には副賞として、現金3万米ドル、台湾科技部(日本の科学技術庁に相当)が運営するスタートアップハブ「Taiwan Tech Arena」への1年間入居権、Taiwan Tecch Arena および Taiwan Innovation and Entrepreneurship Center(台湾創新創業中心)プログラム参加権が贈られる。総額は10万米ドル相当。

決勝に参加したファイナリスト10チーム、および、入賞したチームを紹介する。

ピッチコンペティションの決勝の審査員を勤めたのは次の方々。

  • Jerry Yang/楊建銘 氏(Hardware Club ジェネラルパートナー)
  • Aymerik Renard 氏(Hardware Club ジェネラルパートナー)
  • Ravi Belani 氏(Alchemist Accelerator マネージングディレクター)
  • 中野慎三 氏(伊藤忠テクノロジーベンチャーズ 代表取締役社長)
  • David Weng/翁嘉盛 氏(Taiwania Capital/台杉投資 総経理)
  • Pranesh Sinha 氏(Qualcomm Technology & Product Management 担当シニアディレクター)
  • Lewis Chen/陳立偉 氏(Taiwan Tech Arena 管理主任)

【最優秀賞/Taiwan Tech Award】MedFluid/医流体(台湾)

副賞:現金3万米ドル、「Taiwan Tech Arena」への1年間入居権などを含む、総額10万米ドル相当

MedFluid は、薬剤耐性菌の検出を高速化し、菌特定の正確性を控除させる技術を開発するスタートアップだ。薬剤耐性菌は検出や特定が難しいため、年間70万人がこの種の菌への感染で命を落としており、また菌を特定できて治療・快方に向かう場合でも平均で13日間の入院を余儀なくされている。

MedFluid が開発した fAST(仮訳:高速薬剤耐性菌感受性試験)を使えば、主要耐性菌4種の検出を1時間半以内で、最大3種までの主要耐性菌混合検出を5時間以内に完了できる。その結果、一連の薬剤耐性菌検出のプロセスを、32〜40時間削減できるという。fAST は検出に要するチップと制御システムで構成され、台北の台湾大学付属病院、高雄の長庚紀念醫院とパートナーシップを結んでいる。

【Startup Terrace-AWS Joint Innovation Center Award/林口新創園-亜馬遜AWS聯合創新中心奨】OmniEyes/動見科技(台湾)

副賞:現金6万米ドル

OmniEyes は、台湾大学の電機資訊学院の教授ら構成される OmniEyes は、都市におけるさまざまな交通システムのトラッキング記録や街・道路を撮影した映像情報を取集、それらを分析することでスマートシティソリューションを提供するスタートアップだ。エッジコンピューティングにより、ネットワーク帯域が確保できない環境でも動作可能。台北市当局と民間会社ですでに利用されており、将来は北米と東南アジアにも進出する計画。

ナビゲーション、車両管理、スマート物流、ダイナミックマップ、自動運転用地図などへの応用を想定。車載カメラの「OmniCam」リアルタイムで取得した情報に基づいて告知してくれる「OmniAlert」、一般ユーザが情報や映像を取得できるアプリ「OmniEyes」などのプロダクトを提供している。

【Startup Terrace Award/林口新創園奨】Mind & Idea Fly/米菲多媒体(台湾)

副賞:現金6万米ドル

Mind & Idea Fly は、誰もが自分で AR を開発できるプラットフォーム「MAKAR」を提供している。通常、高いコストと長い時間がかかる AR 開発だが、MAKAR を使えばユーザはドラッグ&ドロップだけで簡単に10分程度で作成することができる。コーディングを必要としないことから AR アプリ開発の裾野が広がり、台湾全土で100以上の無料の夜間講義を提供し、6歳から75歳まで幅広のユーザが集まったという。

同社は、日本やカナダでも展示会に出展して AR 体験を広めるとともに、スマートグラスのデベロッパのエコシステムらとも協力関係を深めている。2016年に創業した Mind & Idea Fly は、2017年に台湾のスタートアップカンファレンス「IDEAS Show」のピッチイベントで優勝。Fenox Venture Capital(当時)が同年開いた Startup World Cup で台湾代表に選出された。

【Startup Terrace Award/林口新創園奨】Onesoftdigm(韓国)

副賞:現金6万米ドル

全人口の66%が肥満とされる中で、ダイエットに励む人は多い。一方、体調管理のアプリは、体重、BMI、歩いた歩数などで計測するものが多く、例えば、BMI では、脂肪の重さと筋肉の重さを区別して計測することはできないので、同じ BMI 値であっても肥満の場合もあれば、そうでない場合もあるなど正確性には問題がある。正確な計測をするためには、スポーツジムなど専用の計測機器を備えてある場所に出向く必要があるが、これでは日常的な体調管理には向かない。

そこで Onesoftdigm は、携帯可能で十分な体調管理ができるデバイス「Fitrus」を開発。Bluetooth 接続によりスマートフォンから操作可能で、計測したデータはクラウド上にアップロードし管理・分析が可能。これまでにアメリカ、日本、韓国でクラウドファンディングを実施し、これまでに300台分に相当する30万米ドルを集めた。12カ国で日常的に使えるデバイスとして、学校や高齢者でのヘルスケアにも有用だという。シードラウンドで300万米ドルを調達中。

【Startup Terrace Award/林口新創園奨】MedFluid/医流体(台湾)

副賞:現金6万米ドル

前出のため省略。

【Startup Terrace Award/林口新創園奨】PurCity(デンマーク)

副賞:現金6万米ドル

PurCity は、高効率の光触媒技術により空気浄化パネル「GapS」を開発。空気浄化に加え、断熱や防音効果、さらには雨水を集めることも可能。雨で汚れも落ちるために清掃やメンテナンスも不要だ。高速道路の防音壁や、ビル建物のファサード(正面壁)への応用が期待される。リサイクル可能な材料で作られているため、環境にも優しいという。

ボストンに拠点を置くスマートシティソリューション特化アクセラレータ AcceliCITY から資金を調達している。PurCity はデンマークのスタートアップだが、創業者はイランのテヘラン出身であり、テヘランが世界的に大気汚染が最悪な状態を記録しており、彼の友人がそれを原因として肺がんを患っていたことから、PurCity の創業に至ったのだという。

【Qualcomm Innovation Award】Ganzin Technology/見臻科技(台湾)

副賞:現金1万米ドル

Ganzin Technology は、VR、MR、XR に活用できるアイトラッキング技術「Aurora」を開発している。Aurora は眼の動きを捕捉する IC 1つと、特別に設計された3つのカメラレンズで構成され、ユーザインターフェイス、市場調査、エンターテイメント、医療研究、トレーニングや教育目的に活用できるという。

小型であり電力消費量が小さいため、さまざまなデバイスに実装しやすいのが特徴。将来的には、ヘルスケアアプリを使って、外科医が視点を動かすだけで手術中に患者の医療記録やバイタルサインにアクセスできるようになるとしている。

【Taiwania Capital Innovation Award】MTAMTech/綿天科技(台湾)

副賞:現金1万米ドル

MTAMTech は、抗がん剤スクリーニングに特化したスタートアップ。開発に10年を要し成功率8%という、抗がん剤の創薬に MTAM(Microtube Array Membrane)を活用した仕組みを提供する。創薬プロセスにおいて、がん細胞を入れた MTAM を作成し、これを動物実験や臨床試験を経て実用につなげるのが目標。Champions Oncology や CrownBio らみよる従来の創薬モデル「ゼノグラフトモデル(マウスを活用し創薬を進め、ヒトの治療に応用するモデル)」と比べ、かかる時間を80%、費用を60%圧縮することができる。

これまでに創薬事業者20社と協業しており、この分野のオピニオンリーダー5人を確保している。すでに5回の臨床試験で240人の患者でテストしており30万米ドルの収入を確保。今後、アメリカ法人である OncoMT Biomedical を通じて、北米での事業開発に注力する。


以下は、入賞には至らなかったもののファイナリストに選ばれた7チーム。

CHELPIS(台湾)

ICO をはじめとする仮想通貨による資金調達には大きな可能性があるが、一方で、外部アタック、内部アタック、バックアップのしくみが無いなどの課題がある。CHELPIS ではこれらの問題を解決するため、ブロックチェーン上にマルチシグアカウントを作り、後見人を設定する方法、量子暗号の仕組みを取り入れた、セキュリティ耐性の高い暗号通貨の物理ウォレット「Kelvin」を開発。2017年台北で設立。現在、プレシリーズ A ラウンドで資金調達中。

Jowin Biopharma/傑安生技(台湾)

肺がんは、がんによる死亡要因の中で最も多く、治療薬の開発が求められる。この際に治療薬として使われるペメトレキセド(商品名としてはアリムタ)自体は、がん細胞をターゲティングする薬剤では無いため、多くの投与量が求められ、がん細胞に薬を運ぶキャリアとしてペプチドが用いられる。Jowin Biopharma が開発した JBP004 というペメトレキセドのキャリアは、肺がんにおけるがん細胞のターゲティング特性が高く、従来のペプチドに比べ、ペメトレキセドの投与量を20%まで下げられるという。

kikaGo(香港)

kikaGo は、AI スピーカーなどにボイスコマンドで指示を出す際に、AI にとって聞き取りの阻害となる周囲雑音を除去するアルゴリズムとデバイスを開発。静かな場所に移動できない時、別の音源を消音するのが面倒な時、車の運転中で周囲の雑音を除去できないときなどに有用。スマホのバッテリ充電ケーブルに搭載したモデル、ラップトップ用のモデルを開発している。逆位相生成によるプロアクティブノイズキャンセリングではなく、自分の音声の波形を予め登録する方式をとる模様。この方式の方がシンプルで効果的なのだそうだ。

Thermovision Biotek(台湾/アメリカ)

乳がんは女性の死亡要因としては高く、昨年だけで62.7万人、50秒に1人の女性が亡くなっている計算になる。乳がんは早期発見により生存率が高まるため、容易かつ費用の安い方法で乳がん検出を行えることが重要になる。Thrmovision Biotek はセンサーを備えた IoMT(Internet of Medical Things)ブラジャー「Ms-Bra(ミス・ブラ)」を開発。女性がこれを装着することにより、異常な状態を検知すると医師に伝え、装着者に検診を促すことができる。胸部の深部体温を計測、AI で判断し検出している模様。

Bovia/博遠智能(台湾)

Bovia はスマートシティ、スマートセキュリティ用のクラウドおよびモバイルによるビデオソリューションを提供。モバイル環境での監視カメラを実現することで、抗議デモ対策、暴動、テロ防止などに威力を発揮する。クラウドを使わずエッジコンピューティングにより映像認識・判断をするため、レイテンシーが少なく通信環境の良くない状態でも反応パフォーマンスが良い。モバイルであるため、必要な時に即時展開できるのも特徴だという。台湾の警政署、シンガポール警察などで採用されている。

BayPay/湾支付(台湾)

BayPay は、ブロックチェーンを使った決済システムだ。ブロックチェーンを使うことで決済手数料が安くしたり、資金流動性を高めたりすることができるが、一方で、仮想通貨特有のボラティリティ(価値変動性)の高さ、不確実性などの負の側面もある。これらのリスク部分を BayPay が負うことで、ユーザの利便性を高めようというものだ。ユーザが鍵を管理しなくても資産を守れる仮想通貨ウォレットも提供する。オンライン・オフライン決済ができるよう POS 事業者などと提携、シンガポールと台湾で利用できる。

Fin2B(韓国)

Fin2B は、融サービスへのアクセスを十分に持たない中小企業(特にサプライヤー)に対し、売掛金割引により資金融通を提供するプラットフォーム。機関投資家から資金を募り、中小企業が持つ債権を早期現金化を支援し、短期運転資金に活用してもらう。オンラインで完結できるため煩雑な書類が必要ないこと、マーケットプレイスとして存在することから、中小企業は申請後、概ね1分以内に現金化の了解を得られるなどのスピーディーさが強みのようだ。将来はクロスボーダーの信用金融会社を目指したいとしている。

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