次の「10年パラダイムシフト」を探る旅、投資家たちが語るスタートアップ・2030(2:DX・デジタルトランスフォーメーション)

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Photo by Oliver Sjöström on Pexels.com

次のパラダイムシフトはどこに起こるのか。

オンラインやオフライン、リアルやバーチャルといった境界線は曖昧となり、より「体験」が重視される時代。ブロックチェーンによる自律分散型の情報管理は「個人」という考え方を強調する、という世界観について識者と共にお伝えした。

では、新しい世界を探る旅の続きを始めよう。

DX全盛の時代

「これまでの発明上位100件と同じだけの発明が登場する可能性は小さくなるばかり。イノベーションはもはや、限りある資源、だ」(イーロン・マスク未来を創る男/アシュリー・バンス著/2015年、講談社)

現代のイノベーター、イーロン・マスク氏を記した著作の中でアシュリー・バンス氏が引用した一節だ。米国防総省で物理学者だったジョナサン・ヒューブナー氏は2005年の論文で未来をこう予想し、ドットコム・バブル崩壊後のイノベーションを「名ばかり」と一蹴している。

それから約15年。実際はどうなったのだろうか?

「ConstructionTechの出現で、100年変化がないと言われてきた建設現場でのイノベーションが起きつつあるように、未だにデジタル対応できていない領域がどんどんなくなり、リアルで発生する情報が全てデジタル化され、ネットに繋がっていく世界が拡大すると考えています」。

世界的な情勢をこのように俯瞰するのはサイバーエージェント・キャピタルの面々だ。日本、中国、北米の市場で活動する彼らが目にしているのは、見栄えのよい「イノベーション」ではなく、じわじわと広がる破壊的創造の環境なのだという。代表の近藤裕文、中国の北川伸明、北米の南出 大介が連名で送ってくれたコメントには、各国で現在進行する「アナログからデジタル」への、こまやかな変化が記されていた。

5GやAIチップなどのインフラの発展、Edge computingやBlockchainによるコンピューティングアーキテクチャの転換、小型・長時間稼働のバッテリー・常時無線給電など、アナログからデジタル変換の基盤を支える技術が進化します。そして、AIはより精度・適応範囲を求めさらに競争が激化していきます。

その中で、人間の果たす役割がよりクリエイティブな活動にシフトし、コラボレーションの重要性が増すと考えています。例えば今年上場したzoomなどは、オンラインでのコミュニケーションに変化をもたらしました。

米国の投資先であるInsiteVRはVR空間でコラボレーションが可能となるプラットフォームを提供しています。特に建築・建設分野において顧客・設計士・現場などの関係者が仮想の建物の中にいながら議論ができるような仕組みですね。

また、中国の投資先であるiTutorGroupは、オンライン教育サービスを提供していて、学習する場所や時間を問わないというシンプルなオンラインサービスの特徴に加え、個々のユーザの能力、習熟度や学習目的に応じた、最適な講座内容、テキストを自動でシステム側で選択するなど、教育産業のデジタル化を推進しています。

最後に日本の投資先であるCinnamonは、事務作業におけるペイパーワークをOCR/AIのアプローチで代替できるレベルに達しています。例えば、保険契約の複雑な書類を正確に読み込み、データ化する、といった作業です。単純作業を代替することで、ヒトがよりクリエイティブな活動に集中できる世界がもう到来しているのです【アナログからデジタル変換の適応領域の拡大と人の役割のシフト】

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InsiteVRはVR空間でのコラボレーションを可能にする

デジタルトランスフォーメーション(DX)。

今、まさに発生しているこのトレンドを「ひとつの側面」で語ることは難しい。既存業界の変化は、まるでアゲハ蝶が羽化するかのようにゆっくりと、しかし確実に進行している。アプリコット・ベンチャーズの白川智樹氏もその進行の鍵として「5G×AI」を挙げる。

2010年代においては、4G×スマートフォンでメディア・広告・ECに大きな変化があったように、2030年に向けた10年という中長期でみると、5G×AIが基盤となる企業や社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)に注目しています。

インフラ・交通・行政・防犯・工場・建設・介護施設・医療・小売現場などの都市にデバイスやロボット(協働ロボットやテレイグジスタンス)が浸透し、サービス型のビジネスモデルに転換、社会の生産性向上や労働力不足の解決に貢献していくと思います。そういった点では、通信事業者や各産業の大手企業が中心となり、PKSHAさんなどをはじめとしたスタートアップとの連携により上記のイノベーションが多数生まれるのではないでしょうか【5G×AIが基盤となるデジタルトランスフォーメーション】

ALL STAR SAAS FUNDの前田ヒロ氏もそれに続く意見を持った一人だ。彼の視点では、DXによって生まれた時間が人を更に進化させるとしている。

ここ数年、AIを取り入れたSaaSスタートアップが多数出現しています。日本企業のSaaS普及率が50%超えて、もはやSaaSを活用しない企業の方がマイノリティーになってきていると同時に、AIを取り入れたSaaSの普及率も上がってきています。

これによってAIの力を使った生産性が異常に高い従業員や職種が実現されると予想しています。例えば1人の従業員がAIのサポートによって3人分の生産性が発揮できるようになる、といった例です。

具体的な事例では、カスタマーサポートやコールセンターの世界でKARAKURIがAIを使った生産性アップのサービスを提供していたり、MiiTelはより効果的なインサイドセールスを生み出すSaaSを提供しています。今後も経理、税務、監査、人事でAIは強化されていくでしょう【AIに強化されたハイパー生産性職種の出現】

ところで、シンプルなデジタルシフトにおける効率化自体はこれまでにも語られてきた文脈だ。エンタープライズの使者としてSansanを皮切りに、SmartHRやfreeeなど数多くのスタートアップが貢献してきた。ではここで彼らが語る「次に期待されるDX」とはどういうものなのか?iSGSインベストメントワークスの五嶋一人氏は、領域の拡大に注目する。

製造業をはじめとする様々な企業活動における作業の効率化において、急速な浸透を見せている「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」は、第一次産業〜第三次産業、第四次産業まで浸透し、この結果人々の生活や体験に大きな変革が起きると考えています。

明確に成長が可視化される市場となっていますが、これに続くのは「衣・食・住」の領域におけるDXであり、スタートアップとベンチャーキャピタルにとっての「次の10年」の主戦場の一つになると考えています。

最終消費者の購入体験はもとより、「衣」であれば各種材料の生産・仕入れからデザイン・製造・流通・小売、さらにリサイクルまで、「食」であれば、生産者にはじまり、流通・小売・飲食店・廃棄の削減まで、「住」であれば不動産の開発から販売、運用、売却まで、あらゆる場面でテクノロジーを活用してビジネスモデルを変革できる機会があるのです【「衣・食・住」に関わるあらゆる領域のデジタル・トランスフォーメーションとライブ・エンターテイメントには、スタートアップに大きなチャンス】

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化粧品EC「NOIN」開始1年で累計流通額8億円を突破ーー夜はメイクよりスキンケア、行動データでマッチング精度高める

前回のテーマでもある体験(UX)とDXの関係性について語ってくれたのがSTRIVEの根岸奈津美さんだ。

中国で先進しているOMO(Online Merges Offline)をテーマとしたサービスが日本でも拡大すると思います。小売りやメーカー主導の売り切りのモデルや単純なECモデルに代わり、オンラインとオフラインの顧客接点を多く持つ企業による、購入前後も価値提供するリカーリングモデルや、オンラインの行動データを基にしたリアルサービスをエンパワーするサービスなどが台頭してくると思います。

先進企業として中国の保険会社である平安保険や、Alipay(支付宝)やWechat上に載るデリバリーや交通サービス、Alibaba(阿里巴巴)の提供するB2BプラットフォームLST、などに注目しています。日本においては、コスメの購買に関してOMOデータを提供する「ノイン」に注目しています。ノインではオンライン上の購入者データに、オフライン店舗のデータを統合することで、より実態に即した効果の高いデータソリューションを提供しています【DX(デジタル・トランスフォーメーション)の台頭によるUX】

デジタル化した社会では、ノインの事例のように人が「どこで買うか」という感覚を曖昧にする。だからこそ、企業は「データ」に着目し、それを足がかりに選んでもらうための「体験」を創造しなければならない。商品での差別化が難しくなった今だからこその戦略だ。

世代による体験も重要なキーワードになる。五島氏もこのように言及する。

また、ミレニアル世代・Z世代が完全に消費の中心となることもあり、「体験」を商品とするライブ・エンターテイメント産業は「次の10年」も一層の拡大を続けていくでしょう。これはリアルなイベントはもとより、インターネット上での繋がりにより発生するイベントや、AR・VRを活用したものも当然含まれます。また広義には美容やDoスポーツ領域といった個人に素晴らしい体験を提供する事業を含んでもよいのではないでしょうか。

音楽・スポーツの他、多人数が同時参加する各種イベント等の事業も、DXの浸透によりデータの利活用が一層進み、インターネット上のサービスやコミュニティとの連携をより一層深化させていきます。結果、エンターテイメントに対する嗜好性の細分化も一層進み、細分化されたファンとその嗜好性に応えるべく、新たなオンラインコンテンツの開発、新たな課金モデルや物販モデルが生まれ続けると期待しています【「衣・食・住」に関わるあらゆる領域のデジタル・トランスフォーメーションとライブ・エンターテイメントには、スタートアップに大きなチャンス】

※動画:BizteXの提供するRPAサービス

一方でエンタープライズ方面の変革には「既存システム」という巨大なハードルが立ちはだかる。ここでいうシステムとはテクノロジー的なシステムはもちろん、業界や人的なカルチャー、意思決定メカニズムなども含める総合的な「仕組み」のことだ。

この点についてジェネシア・ベンチャーズの田島聡一氏は、だからこそ業界でも汎用的に使うことのできるインフラにチャンスが芽生えると指摘していた。

産業構造の進化については、SaaSなどのソフトウェアやIoTデバイスの導入によってサプライ/バリューチェーンのデジタル化や多層取引構造の破壊プロセスがより一層進行するでしょう。同時に、これらのプロセスを通じて得られる多次元なデジタルデータを、様々な産業における生産性の最大化に充分に活かすべく、企業の内外を繋ぐデータマネジメント環境の整備や構築が進むと考えています。

そういった動きと並行して基幹システムやオンプレ、SaaSの垣根が融解し、これらを繋ぎ込む手段としてのiPaaS(integration Platform-as-a-service)の普及がより一層進むと思っています。支援先で言えば、建設業界のDXを目指す助太刀やフォトラクション、企業の内外を繋ぐデジタルアセット管理サービスAPIを提供しているZerobillbank、RPAやiPaaSの展開を推し進めるBizteXなどがあります【産業のDXと並行して、基幹システムやオンプレ、SaaSの垣根が融解し、iPaaSの普及が進む】

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食べチョクは一次産業のデジタル化を推進する

iPaaSのようにある程度汎用的に利用が可能なシステム・インフラが躍進するのはある意味、技術が普及期に入っている証拠とも言える。五島氏はそれに加え、効率化を進める業界のテーマとしても、産業全体を覆うような物流や移動といったダイナミックな視点が必要と語る。

技術的な観点では、ブロックチェーン・IoT・AI・ビッグデータ・ロボットといったテクノロジーが本格普及段階に入り、より安価より簡単に利用できる「枯れた」技術になり、いい意味でただの「道具」としてこれらのテクノロジーを使いこなし、新たな価値を提供できるスタートアップに大きなチャンスがやってくると考えています。

iSGSは「Be a LifeStyle Changer(生活の革新者であれ)」を投資ポリシーの中心に据えて投資活動をしていますが、上記の文脈からの投資先の例として、あらゆる産業の根幹となる物流(倉庫)の最適化を担うsouco、一次産業の生産者と消費者を直接繋ぎ、生産者が生み出す付加価値を可視化して消費者に届ける「食べチョク」、バスを活用して人々の移動を最適化するワンダートランスポートテクノロジーズなどがあります。

同じく飲食店の業務を効率化し飲食店と顧客の関係に革新をもたらすサービスとして、モバイルオーダー&ペイサービス「PICKS」、飲食店予約において全く新しい収益モデルに挑戦しているBespoがあり、エンターテイメント領域ではVRゲーム「東京クロノス」に期待しています。さらに、あらゆる新産業の根幹となるAI技術の開発のみならず自らAI を活用した新産業の創造に挑み続けるエクサウィザーズも挙げたいと思います。

これら例示した投資先は、いずれも「次の10年」を担う事業の中では相対的に立ち上がりが早いと考えられる領域をターゲットとし、更にすべて現業に留まらない大きなビジョンを有するスタートアップとして期待を寄せています【「衣・食・住」に関わるあらゆる領域のデジタル・トランスフォーメーションとライブ・エンターテイメントには、スタートアップに大きなチャンス】

長くなってしまったので、少子高齢化とダイバーシティは次回にまわし、ポスト資本主義の輪郭と合わせてお届けする。