サブスク銀行からパッション・エコノミー、注目あつまる「世界の250社」まとめ(2/4)

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Photo by Lukas Kloeppel on Pexels.com

1編ではエンタープライズ、フード領域を見てきました。2編では銀行業界を中心に起きている欧米市場の動きや、教育市場で起きている金銭ハードルをなくす動向を見ていきます。

  • エンタープライズ(1編)
  • フード(1編)
  • フィンテック(本編)
  • 教育(本編)
  • ギグ経済(本編)
  • ヘルスケア(3編)
  • メディア(3編)
  • トラベル(3編)
  • 不動産(4編)
  • 小売(4編)
  • モビリティ(4編)

新興“バンク”の立ち上がり

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Image Credit: MoneyLion
  • Atom Bank」はモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2014年にイギリスで創業し、7月に5,000万ユーロの資金調達を非公開ラウンドで実施。Woodford Patient Capital Trust、BBVA、Toscafund、Perscitus LLPらがラウンドに参加。
  • Current」は若者向けモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2015年にニューヨークで創業し、10月に2,000万ユーロの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Wellington Management、Galaxy Digital EOSらがラウンドに参加。
  • Chime」はモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2013年にサンフランシスコで創業し、12月に5億ドルの資金調達をシリーズEラウンドで実施。DST Globalがリード投資を務めた。
  • Koho」はモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2014年にトロントで創業し、11月に2,500万ドルの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Portag3 Venturesがリードを務め、Greyhound Capitalらが参加。
  • Mercury」はスタートアップ向けのモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。サンフランシスコで創業し、9月に2,000万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Andreessen Horowitz、Naval Ravikantらがラウンドに参加。
  • MoneyLion」は会員制モバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2013年にニューヨークで創業し、7月に1億ドルの資金調達をシリーズCラウンドで実施。Edison PartnersとGreenspring Associatesが共同でリード投資を務めた。
  • Monzo」はモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2015年にロンドンで創業し、6月に1.13億ユーロの資金調達をシリーズFラウンドで実施。YC’s Continuity fundがリード投資を務めた。
  • Nubank」はラテンアメリカ地域にてモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2013年にブラジルで創業し、7月に4億ドルの資金調達を実施。TCVがリード投資を務めた。
  • N26」はモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2013年にベルリンで創業し、7月に1.7億ドルの資金調達をシリーズDラウンドで実施。 Insight Venture Partnersがリードを務め、GICがラウンドに参加。
  • Point」はモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2018年にサンフランシスコで創業し、1月に120万ドルの資金調達をプレシードラウンドで実施。
  • Rho Business」はスタートアップ向けのモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2018年にニューヨークで創業し、10月に490万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。Inspired Capitalがリード投資を務めた。
  • Starling Bank」はモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2014年にロンドンで創業し、10月に3,000万ユーロの資金調達を実施。Merian Chrysalisがリードを務め、 JTCらがラウンドに参加。
  • Step」は若者向けモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2018年にパロアルトで創業し、7月に2,250万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Stripeがリード投資を務めた。
  • Uala」はラテンアメリカ地域にてモバイル・バンキングサービス(チャレンジャーバンク)を提供。2017年にアルゼンチンで創業し、11月に1.5億ドルの資金調達を実施。TencentとSoftBank’s Innovation Fundが共同でリード投資を務めた。
  • Joust Labs」は個人事業主向けのオンライン・バンキングサービス(ネオバンク)を提供。2017年にオースティンで創業し、8月に260万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。PTB Venturesがリードを務め、Accion Venture Lab、Financial Venture Studio、Techstarsがラウンドに参加。
  • Open」はインドにてモバイル・バンキングサービス(ネオバンク)を提供。2017年にバンガロールで創業し、6月に3,000万ドルの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Tiger Global Managementがリードを務め、Tanglin Venture Partners Advisors、3one4 Capital、Speedinvest、BetterCapital AngelList Syndicateがラウンドに参加。
  • Oxygen」は個人事業主向けのオンライン・バンキングサービス(ネオバンク)を提供。2018年にサンフランシスコで創業し、1月に550万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。Y Combinator、Base Ventures、The House Fundらがラウンドに参加。
  • Starship」はモバイル・バンキングサービス(ネオバンク)を提供。2016年にニューヨークで創業し、12月に700万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Valar Venturesがリード投資を務めた。

新興バンクの調達案件が多数登場してきました。2015年前後に登場した銀行スタートアップたちは、ほぼ同じコンセプトで事業展開を始め、市場はすでにレッドオーシャン化。欧米は規制も比較的緩く、銀行ライセンスを取得し、自社で当座・普通預金口座やローン事業を展開する「チャレンジャーバンク」が急速に増えています。

一方、銀行ライセンスを持たずに、既存銀行のサービスを統合して新たなサービスとして昇華させる「ネオバンク」はやや下火な印象です。なお、ネオバンクは1編で紹介したAPIを通じて銀行サービスを引き出しています。

レッドオーシャン市場では、攻め方が2つ挙げられます。1つは地域特化。米国では先行者利益を積みつつある「Chime」が市場をリードしています。同社のような先行者利益を得るために、南米やアフリカ地域での市場シェアをいち早く獲得する動きが目立ちます。

もう1つはデモグラフィック特化。主に銀行サービスへのアクセス権を持たなかった中高生に向けた銀行サービスが成長を遂げています。こうした銀行に共通することは、1編の冒頭で触れたアクセシビリティに焦点を当てている点です。

Z世代の若者はクレジットヒストリーを持たないことから、クレジットカードを発行できなかったり、適切な年齢になるまで気軽に銀行サービスにアクセスできない課題意識を持っていました。Z世代ユーザーのユニークな課題意識は、大学を卒業したミレニアル世代以上のペインを持ちます。

この課題を解決するために動いているのが、若者向け新興バンク「Current」に代表される企業です。また、スタートアップや個人事業主向けに特化することで、利用シチュエーションを限定させて人気を得ている、「Mercury」や「Oxygen」などの銀行も登場しています。こうしたデモグラフィック特化の事業アイデアでニッチ領域を独占する銀行サービスに商機が生まれています。

リストの中で興味深い事例が、「MoneyLion」の推し進める“Netflix for banking”に関する事業コンセプト。同社は「Core」「Plus」「Instacash」の3つのプランを元に会員制度を敷き、月額9.99 – 19.99の範囲でユーザーから収益化します。

銀行サービスは一般的にレンディングビジネスで収益化をしていると考えられますが、サブスクリプションモデルを導入することで、安定した収益構造を作り上げていると想像できます。銀行サービスはスイッチコストが多くかかるため、競合へ逃げることはあまりないはずです。

そのため、事業ベースをサブスクリプションにすることで、高いLTVを収益に直結させられる算段です。ユーザーにとっては必要なサービスだけ引き出せるため、多量なサービスをどう選べば良いのかわからなくなる複雑性や、サービスの過剰供給を防げるメリットを選べます。日本でも“サブスク銀行”の業態は登場しても不思議ではなさそうです。

カードの普及

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Image Credit: Deserve
  • Deserve」は若者向けにクレジットカードを提供。2013年にメンローパークで創業し、11月に5,000万ドルの資金調達をシリーズCラウンドで実施。Goldman Sachsがリード投資を務めた。
  • Mitto」はZ世代向けにプリペイド・デビットカードを提供。バルセロナで創業し、9月に200万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。InnoCells、Athos Capitalらがラウンドに参加。
  • Petal」はクレジットヒストリーの無い人向けにクレジットカードを提供。。2016年にニューヨークで創業し、1月に3,000万ドルの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Valar Venturesがリード投資を務めた。
  • Ramp Financial」は法人向けカードを提供。ニューヨークで創業し、8月に700万ドルの資金調達を実施。Founders Fund、BoxGroup、Coatue Managementがラウンドに参加。
  • Tribal」は法人向けカードを提供。2016年にサンノゼで創業し、12月に550万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。BECO CapitalとGlobal Venturesが共同でリードを務め、Endure Capital、500 Startups、Valve VC、AR Ventures、Off The Grid Ventures、Rising Tide Fund、RiseUp、Tribe Capitalがラウンドに参加。

先述した銀行サービスにはカードが必ず付いてきますが、この項ではカード発行だけに特化したスタートアップを紹介します。なかでも「Deserve」の動きは注目です。同社はZ世代向けに決済カードを発行する特化型ビジネスから始まりました。若者向けという金融市場の“ラストマイル”へ参入したことから事業を急拡大させてきたのです。

なお、ユーザーの親御さんが手軽に取引を管理できるようにモバイル体験を最適化させています。カードと口座ダッシュボードをモバイル時代に適応させたのがDeserveでした。

現在は全世代向けにカードを発行し、“Credit Card as a Service”をコンセプトに掲げ、あらゆるブランドが手軽にカードとダッシュボードを利用できるオープンプラットフォームになろうとしているのです。しかし、この事業方針は1編で紹介した決済カード発行APIを提供する「Galileo」と競合になります。ユーザー基盤を着実に増やしてブランド力を上げてきたDeserveと、API事業に特化したGalileoのどちらが市場覇権を握るのかに注目が集まります。

Deserveと同じ事業コンセプトを法人向けに展開するのが「Ramp Financial」や「Tribal」です。費用立て替えなどの厄介なプロセスを省くため、各従業員にカードを発行して、マネージャーが利用状況を管理できるUXを提供します。

これは親子向けのカード利用シーンとほぼ同じ関係と言えるでしょう。Deserveに通じる業態は、課題解決ポイントを上手く突いていることから、Ramp FinancialやTribalのように他領域でも活用できますし、日本でも十分に通用するユースケースだと感じます。

金回りの改善

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Image Credit: Otis
  • Capital」は500万ドルからのデットファイナンスサービスを提供。ニューヨークで創業し、10月に500万ドルの資金調達を実施。Greycroft, Future Ventures、Wavemaker Ventures、 Disruptiveがラウンドに参加。
  • CoinList」は投資家と仮想通貨プロジェクトを繋ぐマッチングサービスを展開。2017年にサンフランシスコで創業し、10月に1,000万ドルの資金調達を非公開ラウンドで実施。Polychain Capitalがリードを務め、Jack Dorsey氏がラウンドに参加。
  • Happy Money」はクレジット債務返済サポートサービスを提供。2009年にカリフォルニア州で創業し、9月に7000万ドルの資金調達をシリーズDラウンドで実施。CMFG Venturesがリード投資を務めた。
  • Otis」は若者向けにアート作品の所有権投資プラットフォームを提供。2018年にニューヨークで創業し、12月に1,100万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Maveronがリード投資を務めた。
  • PayJoy」は途上国のモバイルユーザー向けにクレジットヒストリー構築サービスを提供。2015年にサンフランシスコで創業し、5月に2,000万ドルの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Greylock Partnersがリードを務め、Union Square Ventures、EchoVC、Core Innovation Capitalがラウンドに参加。
  • PTO Exchange」 は従業員の未消化有給休暇分を換金するサービスを提供。2013年にワシントン州で創業し、8月に300万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。WestRiver Groupがラウンドに参加。
  • Salaryo」はコワーキングスペースの利用者向けにオフィス敷金のレンディングサービスを提供。2017年にニューヨークで創業し、8月に550万ドルの資金調達を実施。Ruby Ventures とMichael Ullmann’s investment groupがラウンドに参加。
  • SeedLegals」はスタートアップの資金調達および資本管理向けリーガルプラットフォームを提供。2016年にロンドンで創業し、3月に400万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Index Venturesがリードを務め、Kima Ventures、The Family、Seedcampがランドに参加。
  • Uncapped」はスタートアップ向けに収益ベースの資金提供サービスを提供。2019年にロンドンで創業し、12月に1,000万ユーロをシードラウンドで実施。Global Founders Capital、White Star Capitalらがラウンドに参加。
  • Uplift」は後払い/分轄払い旅行サービスを提供。2014年にメンローパークで創業し、12月に2.5億ドルの資金調達をデッドファイナンスで実施。Madrone Capital Partnersがリードを務め、Draper Nexus、Ridge Ventures、Highgate Ventures、Barton Asset Management、PAR Capitalがラウンドに参加。
  • Zestful」はカスタマイズ可能な従業員福利厚生プログラムを提供。2016年にデンバーで創業し、9月に500万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。Thrive Capitalがリードを務め、Box Group、Y Combinator、Matchstick Ventures、Third Kind Capital、Shrug Capitalがラウンドに参加。

本項ではお金との新しい接点を作り、流動性を向上させているスタートアップをまとめています。特に興味深いスタートアップは3つほど。1つはZ世代向けアート作品の投資プラットフォーム「Otis」。SNS時代に評価されるストリームグッズや、現代アート作品への投資を可能としています。若者に人気が出るであろうアート作品を、高い流動性を持つ少額投資商材として提供。

Z世代が持つ価値観に合わせて、投資商材を最適化させているのがOtisです。モバイル投資プラットフォーム「Robinhood」や「Stash」にも通じるUXを持っている点は、日本でも通用するかもしれません。

2つ目は使わなかった有給休暇期間を換金できるサービス「PTO Exchange」。日本と同様に未消化分の有給休暇が溜まれば、転職が決まったのちに消化をして、出勤しない期間が長く発生します。これは企業にとって、新規採用サイクルが滞ってしまうデメリットを背負います。そこでPTO Exchangeが登場しました。

同社は消化しきれない有給休暇を換金して、企業採用の新陳代謝を促進させるソリューションを提供。日本では無理やりにでも有給を使わされる文化が根付いていると思います。ただ、効率的に有給消化をして休みを取るマインドセットも大切ですが、現実はそうはいかないはず。“生産性革命”が叫ばれている今、PTOと同じ仕組みを日本のベンチャーが取り組んでみると面白いかもしれません。

最後は「Zestful」。企業が各従業員に支給する福利厚生額の用途を、従業員側で自由に利用できるサービスです。従来、福利厚生サービスは限定パッケージ内のコンテンツでのみ利用可能でした。しかし、マッサージや旅行割引などの型にはまったコンテンツからしか選べず、必ずしも欲しいと思える福利厚生は落ちていません。そこでZestfulは、NetflixやSpotify、Airbnbに代表されるミレニアル世代に人気のコンテンツの中から自由に選べるように、福利厚生の利用用途に柔軟性を与えました。

福利厚生を普段使うサービスに当てられることで、従業員の満足度も向上。企業側も訴求力の強い福利厚生パッケージを提示できるようになりました。

日本の福利厚生サービスは限定的、かつコンテンツが一新されていない印象であるため、日本版Zestfulには大きな商機があるかもしれません。各従業員に渡すデビットカードを発行することで、取引管理サービスとしての価値提供もできるでしょう。

多様な保険サービス

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Image Credit: Avinew
  • Avinew」は自動運転車ドライバー向けに利用量ベースの保険サービスを提供。2016年にカリフォルニア州で創業し、6月に500万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。Crosscut Venturesがリードを務め、American Family Ventures、Draper Frontier、RPM Venturesがラウンドに参加。
  • Route」は配達物トラッキングおよび購入物1%の保険サービスを提供。2018年にユタ州で創業し、11月に1,200万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。Album VCとPeak Venture Capitalがラウンドに参加。
  • SafetyWing」はリモートワーカー向けの医療保険サービスを提供。2017年にサンフランシスコで創業し、8月に350万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。Foundersがリードを務め、Credit Ease Fintech FundとDG Incubationがラウンドに参加。
  • Thimble」は個人事業主向けに短期ビジネス保険サービスを提供。2015年にニューヨークで創業し、10月に2,200万ドルをシリーズAラウンドで実施。IACがリードを務め、Slow Ventures、AXA Venture Partners、Open Oceanがラウンドに参加。
  • Vouch Insurance」はスタートアップ向けのビジネス保険サービスを提供。サンフランシスコで創業し、11月に4,500万ドルの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Y Combinator Continuityがリード投資を務めた。
  • WorldCover」は途上国の農家向けに天候による収穫高を見込んだ安価な農業保険サービスを提供。2015年にニューヨークで創業し、5月に600万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。MS&AD Venturesがリードを務め、EchoVC、Y Combinator、Western Technology Investmentがラウンドに参加。

保険市場ではAI機械学習を使い、保険額を事前予測するケースが増えている印象です。たとえば「Avinew」は、自動運転向けの新たな保険サービスを提供。ドライバーの運転速度やルート、運転地域の天候・犯罪率などのいくつかの指標データを基に保険料を自動算出します。LiDARや車載カメラを通じて得られる運転データを溜まれば、より精度高く保険料を計算できるようになるでしょう。

このように車外環境データを膨大に収集できる時代に最適化した保険サービスが登場していますので、日本の大手保険会社もいずれは同じモデルで事業を仕掛けるのではないでしょうか。また、途上国の農家向け保険サービスの「WorldCover」も、同様にAIを用いてリスクを算出しています。

「出世払い制度」の広がり

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Image Credit: Lambda School
  • Blair Finances」はISA(収入分配契約)に基づいた学費レンディングサービスを提供。2019年にサンフランシスコで創業し、8月に15万ドルの資金調達を実施。YCombinatorがラウンドに参加。
  • Goodly」は学生ローン返済を従業員福利厚生として提供。2018年にサンフランシスコで創業し、3月に1,300万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。Norwest Venture Partnersがリード投資を務めた。
  • FlexClub」はギグワーカー向けに自動車貸し出しプラットフォームを提供。2018年にアムステルダムで創業し、3月に120万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。CRE Venture Capitalがリード投資を務めた。
  • Kenzie Academy」はソフトウェアエンジニア養成プログラムを提供。2017年にインディアナポリスで創業し、11月に1億ドルの資金調達をデッドファイナンスで実施。Community Investment Managementがラウンドに参加。
  • Lambda School」はソフトウェアエンジニア養成プログラムを提供。2017年にサンフランシスコで創業し、1月に3,000万ドルの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Bedrock Capitalがリードを務め、Vy Capital、GGV Capital、Google Ventures、Y Combinator、Sound Venturesがラウンドに参加。

年々膨らみ続ける学生ローン問題を解決するのが“出世払い制度”を持った教育機関です。「Lambda School」に代表される教育機関では、学生はローン返済などに苦しむ必要がなくなり、ソフトウェアエンジニアになって高給な仕事を得るという明確な目的意識を持って授業を受けます。

一方、学校側は学生を就職させ、事前に契約した授業料を回収するまで学生との関係性は途切れることはありません。卒業後も続くカスタマーサクセスが大事になってくる長期サービスが同校のモデルです。

Lambda Schoolが採用する出世払い制度は、既存の大学機関では収益構造を抜本的に変える必要があるため取り入れられません。しかし、学生はLambdaのようなブートキャンプではなく、大学に通いたいとニーズを持っているのも確かそこで出世払いサービスのみに特化した金融機関も登場しています。「Blair Finances」は学費を肩代わりする代わり、卒業後に返済させるレンディングサービスを展開しました。

どの教育期間でも出世払いで通えるサービスですが、1学生当たりに貸し出す金額と、回収期間が非常に長い難しいモデルです。機関投資家から長期投資商材として資金を集めれば回せるモデルになるのではないでしょうか。

出世払いを採用したレンディングモデルは、ギグ経済にも波及しています。「FlexClub」はUberドライバー向けに自動車を貸し出す投資プラットフォームを展開。投資家は自動車を購入し、FlexClubを通じてドライバーに貸し出します。

週もしくは月単位で収益分配されるため、自動車を長期投資対象として運用できるモデルです。ドライバーも頭金0で自動車を所有できるため、双方にとってWin-Winの関係を構築できます。このように出世払いの考えは教育市場から始まり、他市場へと拡大を見せているのが2019年の大きな流れです。

専門学校の躍進

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Image Credit: Landit
  • Cloud Guru」はクラウドコンピューティングを学ぶためのオンライン学習コースを提供。2015年にロンドンで創業し、4月に3,300万ドルの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Summit Partnersがリードを務め、AirTree VenturesとElephantがラウンドに参加。
  • Empowered Education」はウェルネスコーチ育成のためのオンラインコースを提供。2015年にニューヨークで創業し、3月に800万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Rethink Educationがラウンドに参加。
  • Flockjay」はセールスマン養成向けオンラインアカデミーを運営。2018年にサンフランシスコで創業し、10月に298万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。Lightspeed Venture Partners、Coatue、Y Combinator、F7、SV Angel、Index Ventures、Serena Williams氏、Will Smith氏がラウンドに参加。
  • Giblib」は医療手術に関するオンライン学習コースを提供。2015年にロサンゼルスで創業し、4月に250万ドルの資金調達をシードラウンドで実施。Mayo Clinic、Venture Reality Fund、Wavemaker 360、USC Marshall Venture Fund、Michelson 20MMがラウンドに参加。
  • Immersive Labs」はサイバーセキュリティに関するオンライン学習コースを提供。2017年にイギリスで創業し、11月に4,000万ドルの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Summit Partnersがリード投資を務めた。
  • Landit」は女性のキャリア育成のためのオンラインコースを提供。2014年にニューヨークで創業し、2月に1,300万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。WeWorkがリードを務め、New Enterprise Associates、Valo Ventures、Workday Ventures、Gingerbread Capitalがラウンドに参加。
  • Ornikar」は自動車免許取得のためのオンライン教員マッチングサービスを提供。2014年にパリで創業し、6月に4,000万ユーロの資金調達をシリーズBラウンドで実施。IdinvestとBpifranceがラウンドに参加。
  • SV Academy」はビジネスディベロッパー養成プログラムを提供。2017年にサンフランシスコで創業し、6月に950万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Owl Venturesがリード投資を務めた。

インターネットを用いた大規模公開オンライン講座プラットフォーム「MOOC (Massive open online course)」が広がり、市場は寡占状態。「Coursera」「Lynda.com」「Udacity」の3社を利用すれば、必要なオンライン教育コンテンツへほぼリーチできる状態だと言えます。この市場状態で次の勝ち筋を探すには、1つの分野に特化させてユーザー満足度を圧倒的に上げる以外ありません。リストにある通り、2019年は各分野で特化型オンライン教育プロバイダーが登場しました。

いずれのスタートアップもオンライン動画サービスではなく、ブートキャンプ式を採用しています。また、Serena Williams氏やWill Smith氏も出資する「Flockjay」は出世払い制度を採用しています。

各分野のプロフェッショナルの養成機関として、入学コスト0でサービスを提供するモデルが流行っている印象です。出世払いから始まったトレンドは、ソフトウェアエンジニア養成から始まりましたが、今後は専門学校分野へと幅広く広まっていくでしょう。

パッション・エコノミー文脈

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Image Credit: Outschool
  • Mighty Networks」はオンライン学習コース向けウェブサイトビュルダーを提供。2010年にパロアルトで創業し、4月に1,100万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Intel CapitalとSierra Wasatchが共同でリード投資を務めた。
  • Outschool」は小学生教育コンテンツ向けライブ動画マーケットプレイスを提供。2015年にサンフランシスコで創業し、5月に850万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Union Square VenturesとReach Capitalが共同でリード投資を務めた。
  • Patreon」はクリエイター向け有料作品を発表するためのサブスクリプションプラットフォームを運営。2013年にサンフランシスコで創業し、7月に6,000万ドルの資金調達をシリーズDラウンドで実施。Glade Brook Capitalがリード投資を務めた。
  • Substack」は有料ニュースレターを発行できるプラットフォームを運営。2017年にサンフランシスコで創業し、7月に1,530万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Andreessen Horowitzがリード投資を務めた。
  • Tinkergarten」は幼少児向け屋外学習マーケットプレイスを提供。2014年にマサチューセッツ州で創業し、3月に2,100万ドルの資金調達をシリーズBラウンドで実施。Omidyar Network、Owl Ventures、Reach Capitalがラウンドに参加。
  • Zyper」はSNSインフルエンサーがコアファンとブランドと繋がれるマーケティングプラットフォームを運営。2017年にサンフランシスコで創業し、6月に650万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施。Talis Capitalがリード投資を務め、 Forerunner VenturesとY Combinatorがラウンドに参加。

パッションエコノミー文脈のサービスは2019年で見逃せない動きでしょう。パッションエコノミーの大雑把な定義として、ギグワーカーが自分の個性を活かしてサービス展開できるSaaSを指します。たとえば「Outschool」はライブ動画を通じて自分の教室を持てるプラットフォームを展開。教員免許を持たない人が、手軽に高品質な動画教育サービスを提供できるSaaSです。

創造性に富んだデジタルコンテンツを世界中に発信して稼げる分野特化型SaaSが多々登場してきています。分野を問わず、自分のコンテンツを発信するためのウェブサイトを作成できる「Mighty Networks」のような業態も登場。無料のビュルダーは「Strikingly」や「Wix.com」などが有名ですが、パッションエコノミー特化のウェブサイト作成サービスに注目が集まっています。

デジタルコンテンツ提供者は大規模なオーディエンスを構築し、ニッチな趣味や特技などの情熱を効率的に収益に変えて生計を立てられます。誰もが「マイクロ起業家」になれるツールであり、私たちが現在考える「仕事」の概念を大きな変える意味合いを持ちます。このトレンドはしばらくは続くでしょう。

2編はここまでです。3編ではヘルスケアやメディアを中心に見ていきます。

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