次の「10年パラダイムシフト」を探る旅、投資家たちが語るスタートアップ・2030(1:体験と個人)

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次のパラダイムシフトはどこに起こるのか。

2010年代の大きな潮流として「モバイル・インターネット」、つまりスマホシフトに異論を唱える人はいないだろう。シェア(Airbnb)やオンデマンド(Uber)、ギグワークといった新たな経済のあり方は「アプリ経済圏」というテクノロジーの潮流と合流し、そこから生み出された波に乗ったスタートアップが大きく成長するきっかけとなった。

パラダイムシフトを考える時、例えばMary Meeker女史の「インターネットトレンド(全アーカイブはここに!)」やガートナーの「ハイプカーブ」を手がかりに、数年後の「波」を予想する人たちも多いと思う。一方でグローバルで発生する波が日本に届くまでに、ややタイムラグが発生する。

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ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2019年」を発表

例えば2012年に創業したオンデマンド・デリバリー「Instacart」。このモデルを約2年後に輸入したdelyはその後のピボットを余儀なくされた。今のUberEatsなどをみても提供する体験に間違いはなかったが、参入するタイミングや市場を間違えると波に飲まれてしまう。

波を知りたければ、波のことを24時間365日考えている人たちに聞けばいい。それは投資家だ。彼らは資本主義経済の波乗りであり、潮流を見極める能力が著しく高い。そこで本稿では2030年に向け、オリンピックイヤーからSDGsの目標年に至る10年で何がシフトするのか、知見豊富な識者のみなさまから意見を集め、それらと共に探る旅に出てみることにした。私が彼らにたずねたのは次の3点だ。

  • 次のパラダイムシフトで注目しているトレンドを一言で
  • どのテクノロジーや社会変容が注目されることになるのか
  • 具体的にスタートアップで注目している企業

結果、彼らの意見は大きく次の項目にまとめることができた。それぞれに沿って、今日から3回に渡りお届けする。

  • 境界線の曖昧な世界で体験はどう変わる(1)
  • ブロックチェーンと個人の時代(1)
  • DX全盛の時代(2)
  • 少子高齢化とダイバーシティ(2)
  • シンギュラリティがやってくる(3)
  • ポスト資本主義の輪郭(3)

境界線の曖昧な世界で体験はどう変わる

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Photo by Bogdan Glisik on Pexels.com

ジェネシア・ベンチャーズの鈴木隆宏氏は次の10年を「境界線が曖昧な世の中」と表現した。ヒトと機械、アナログとデジタル、オンラインとオフライン。これまで「AかBか」のような境界線があった部分が不明瞭になる。

この10年で最もインパクトが大きかった出来事として、東南アジア含めた新興国でスマートフォンが普及し、誰もがインターネットにアクセス出来る状況になったことがあります。結果として、すでにオフラインとオンラインの境界線が融合し始めています。

またそれだけではなく大企業やスタートアップの連携によるデジタルトランスフォーメーションの加速、米国・欧州・インド・中国・韓国といった多国籍な起業家が東南アジア/新興国でスタートアップを創業する流れが加速し始めました。これらスタートアップで働く人たちや投資家の顔触れも多国籍になりつつあります。

次の10年は、様々な境界線が曖昧な世の中になっていくと感じています。

数年前から言い続けていますが、個人的には広義の意味で「“あるデータ”が一定閾値を超えると、 加速度的に価値が高まる。そんなデータを収集&活用出来るプラットフォーム」をあらゆる産業分野で注目しています【様々な境界線が曖昧な世の中に】

例えばリアルとバーチャル(仮想)の境界線は分かりやすい例だろう。VR(仮想現実)AR(拡張現実)MR(複合現実)は細かな分類すらなくなりXRと総称されるようになった。没入空間から現実世界まで自由に往来できてこそ、ポケモンを「本当に」感じることができる。

D4Vの永瀬史章氏もこの点を挙げる。

2020年代のテクノロジーで注目すべきは「VR/AR、IoT」です。VR/AR、及び広い意味でのIoTはゲームやスマートスピーカー等の簡易的なアプリケーションからさらに拡大をみせます。初期のスマホアプリがそうだったように、簡単なゲームからユーザーが拡大し、その後SNSや他サービスへと事業が広がるイメージですね。

結果、現実のIoTと繋がる中でよりリアルと仮想世界の差がなくなります。ベースになるのはOculus等のハードの爆発的な普及とキャズム超えです。国内プレーヤーとして期待しているのは、ハードであるOculus、AppleやAmazon、Googleのスマートホーム規格「Connected Home Over IP」に乗るようなコンテンツを出していける企業になります【VR/AR、IoTがリアルと仮想を一つにする】

もう一つの境界線がオンラインとオフラインだ。OMO(オンラインとオフラインの融合)というトレンドも「境界線が曖昧になった」ケーススタディのひとつだろう。これまでのO2Oマーケティングでは「オンラインはオフラインへの誘導ツール」だった。しかし、中国で強烈な成長を見せた「ラッキン・コーヒー(瑞幸咖啡)」はその概念を「融合」に変える。

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ラッキン・コーヒー(瑞幸咖啡)

コーヒーの注文・決済はスマホで完結し、店舗はあくまで受け取りのための拠点でしかない。重要視されるのは「どうやって気持ちよくコーヒーにありつけるか」という体験なのだ。ジェネシア・ベンチャーズの田島聡一氏もこの「融合」に言及する。

2030年に向けて注目している事業領域の一つがOMO領域です。中国の平安保険やラッキン・コーヒーなどがまさにその一例ですが、ジェネシアでは未公表先も含めて、日本・東南アジアの両方において、OMOベースでの教育スタートアップや飲食・小売スタートアップに積極的に投資しています。

既存のビジネスプロセスのDXではなく、ゼロベースでオンラインからビジネスモデルを構築することで、そのサプライチェーンやカスタマージャーニーを180度変え得るOMOスタートアップがデジタルネイティブの生活スタイルを大きく塗り替えると考えています【OMOスタートアップがデジタルネイティブの生活スタイルを大きく塗り替える】

体験の話で「時間」という視点を挙げていたのがEast Venturesの村上雄也氏だ。スーパーインスタント化という「体験時間が細切れになる」アイデアは確かにここ数年で加速した感がある。Amazon Primeのように「昨日頼んで今日届く」から「今すぐ」の傾向は強まるばかりだ。

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単発バイトアプリを運営するタイミー(同社ウェブサイトより)

以前から存在する流れなので、シフトというよりもより一層ギアが入るという具合ですが、インスタント化がより浸透すると感じます。

国内の流れでいえば即席で働ける「タイミー」や即席でお金を借りられる「バンドルカードのポチッとチャージ」、先日α版がローンチされたたった1カ月で本格アプリがリリースできる「Appify」等は最たる例でしょう。YouTubeにも教養動画やマンガ動画、本の要約のコンテンツが増えていますが、これもインスタントに情報を摂取したい欲求と解釈できます。

海外に目を向けても、即席で承認欲求が満たせたり、ほんのスキマ時間で手軽にコンテンツを楽しめるショート動画「TikTok」は今年15億DLされたモンスター級のアプリです。

また爆発的に伸びているソーシャルECの「Pinduoduo(拼多多)」は共同購入やゲーミフィケーションも特徴ですが、SNSのように最適化されたフィード上に商品が並んでいるのも大きな特徴です。多くのユーザーはフィードから欲しい商品を見つけるなど、検索すらも面倒になり始めています。

こうした各種サービスを見ると、とにかく欲望までのリードタイムの短縮化が顕著で、人が待てなくなっているのが分かります。恐らくスマホと機械学習がもたらした副次作用ですが、そのスマホ的な感覚に最適化させたサービスやコンテンツがさらに生まれる余地が大きいと思います。

この文脈で最近の海外スタートアップだと今年のYCに出ていた、1時間単位で部屋を貸し借りできる「Globe」があります。また先日「Solve」というSnapchatやInstagram向けのショートドラマ制作会社がLightspeed等から調達するなど、コンテンツ面でも生まれてきています。

以上のように、スマホ脳にフィットするスーパーインスタント化はくると予測します。

しかし、パーソナルコンピュータの父であるアラン・ケイ氏も「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創り出すことである」と語っているように、East Venturesは自らパラダイムシフトを起こすあらゆる起業家を支援し続けたいと思っています【スーパーインスタント化】

ブロックチェーンと個人の時代

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Image Credit : LayerX

2017年の仮想通貨バブルで社会的にも顕在化した、ブロックチェーン技術による「自律分散型」の考え方は今後の個人を占う上で大きな変換点になりうる。個人に紐づく資産や仕事、評価、あらゆるデータが自律的に執行される世の中を実現できるからだ。

一方でその世界観は「ゆるやかに」進行する。D4Vの永瀬氏も「2030年」の10年視点が必要と指摘していた。

2020年代を牽引するテクノロジーで最有力はブロックチェーンです。ビットコイン等の通貨としての普及ももちろん進みますが、ブロックチェーンは技術として、保守コストの低減及びインセンティブ革命に本質があります。

企業でいえば、巨大すぎて手をつけられていなかった金融、不動産関係のシステムのブロックチェーン化(ScalarやLayerX)、個人でいえば、個性を生かしたSNS、コミュニティ(FiNANCiEやgaudiy)が面白いと感じてます。後者に関しては、個の時代という2010年代後半の流れも引き継ぎながらさらなる次の時代の礎となるのではないでしょうか【ブロックチェーン革命が既存システムを塗り替え、さらには個の時代のインフラとなる】

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パッション・エコノミーのMOSH(同社ウェブサイトより)

では、具体的にこのようなデータを自律分散化するインフラが整ったとして、個人はどのような変化を迎えるのだろうか。再び登場する田島氏は「多様性」と「信用」に着目する。

個人の興味や関心の多様化、及び働き方や生き方の多様化がより一層進むと同時に、日本の経済活動を支える存在としての外国人材がより一段と注目されると考えています。このような変化に伴い、フリーランスや副業活動をアシストするクラウドソーシングやギグエコノミーといった経済圏の拡大はもちろんのこと、YouTuberなどのインフルエンサーやE-Sportsなど、かつては成立しなかった職業が新たに生まれています。

同時に、こういった生き方を支えるインフラ、例えば保険や福利厚生、金融機能などを提供するスタートアップが大きく事業を拡大すると考えています。支援先で言えば、好きなこと、得意なことで生きる人々の活動を応援するプラットフォームを提供しているMOSH、すべてのLGBTが自分らしく働ける社会の創造を目指すJobRainbow、外国人財と日本の架け橋となり、より多様性と包容力溢れる社会の実現を目指すLincなどがあります。

また信用についても、外国人材がより活躍するフリーランスや起業家などに向けた家賃保証の提供を通じて信用創造への変革を目指すリース、消費者金融のアップデートを目指すCrezitなどが上げられます【個人のエンパワーメントと信用創造の進化】

これまでの単一民族国家と異なり、日本は多様性を受け入れる時代に入る。日本語でのみ通用したあらゆる「ローカル基準」のものさしは通用せず、絶対的な信用スコアリングが重要視されるようになる。

一方で、新しい世界は冷たく固い数値のみが人間の「優劣」を決める単一指標になるわけではない。今、世界で起こりつつある「パッション」を重要視した個性ある個人のあり方も、同時に注視しなければならない。W venturesの東明宏氏も同じく、こういった多様性の中に生まれるギャップこそがチャンスになると指摘する。

これからの10年、世界中で益々成熟化が進み、人々がそれぞれの豊かさを求めて人生の多様化が進むと考えています。日本国内では、フリーランス、ギグワーカー、副業等は当たり前となり、働き方が本格的に変わっていくのはもちろんのこと、暇になった時間を何に使うか、でその人らしさが強く形成されていくようになるのではないでしょうか。

人々は他の人とは違う、自分ならではの人生をより強く追求するようになり、人生は画一的なものではなく、それぞれに分かれたものとなっていく。人々はそれぞれの興味/関心などを軸にますます多く、自らの世界を持っていく。

また、現実世界のほかに、XR技術の進化・浸透とともに、バーチャル世界がリアル世界と融合し、リアルとバーチャルの境界は意味をなさないものとなります。リアルとバーチャルが融合された世界の中で、人々はそれぞれの世界毎にアイデンティティを保有する、マルチアイデンティティ時代が本格的に到来すると考えています。

この流れの中で、国内では働き方の多様化を促進するサービスについては、周辺サービスも含めて引き続き注目していきたいと思います。投資先のGO TODAY SHAiRE SALONなど、スペシャリティをもった人々の働き方の多様化、その周辺には特に注目をしています【リアル世界の分散とバーチャル世界の融合、マルチアイデンティティ時代の本格到来】

個人が最大化される時代ーー。学生から社会人、個人や会社という「昭和的な」境界線はさらに曖昧となり、それぞれ個々を特定するデータが細やかに自律管理される世界。個人はデータを懐に、あらゆる人種、個性と繋がりながら人生を形成していく。世界はオンラインもオフライン、リアルも仮想もなく、全ての価値は体験で決まる。

次回はデジタルトランスフォーメーション(DX全盛の時代)、少子高齢化とダイバーシティについて識者の意見を綴る。