DXの型:0次流通を体現した「マクアケ」とノウハウ提供型SaaSの「ノバセル」(2/2)

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Photo by Andrea Piacquadio from Pexels

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr

型8:0次流通

画像クレジット:ジェネシア・ベンチャーズ

(前回からのつづき)8つ目の型は「0次流通」です。1次流通(小売)より前の仮想的流通(プレマーケティング)を指した造語ですが、この型のポイントは、企画の意思決定工程をデジタル化することによって製販の分離ならぬ「製販の逆転」が可能になり、無駄のない効率的な企業活動ができるという点です。

クラウドファンディング大手のマクアケは、ビジネスモデルとしてこの型を体現することで、消費者とメーカーの双方に大きな付加価値をもたらしています。とりわけ、新たな企画製品を検討しているメーカーに対して先行予約販売のノウハウを提供する取り組み(Makuake Incubation Studio)が製造業向けのオープンイノベーションプラットフォームとして機能している点については、メーカーのDXを大きく促進するという意味で特筆に値するものと思います。

なお、このメーカー×マクアケの座組みを一社単体で実現し得るプレイヤーとしてはD2C企業があり、私たちの支援先ではTOKYO MIX CURRYを運営するFOODCODE、TAIROED CAFEを展開するカンカク等が、デジタル化した顧客接点を軸に企画〜生産〜販売のPDCAを高速かつ柔軟に回しています。またメーカー以外の業種では、ソーシャルゲーム業界で新タイトルの「引き」を測るためにゲームのリリースに先立って公開する事前登録サイト(ティザーサイト)も、一種の0次流通と言えるのではないかと思います。

型9:ノウハウ提供型SaaS

画像クレジット:ジェネシア・ベンチャーズ

9つ目の型は、「ノウハウ提供型SaaS」です。コスト削減のみを目的とするSaaSと比較した場合、利用者がコストメリット以外に付加価値を享受できるという点で優位性があります。

この型の特徴は、従来特定分野のスペシャリストのもとに偏在していた専門的な知見やノウハウを、広く一般のユーザーに届けられることにあります。もともとソフトウェアが持つ特徴として語られてきたこの民主化というメリットは、ソフトウェアをサービスとして提供するSaaSには色濃く反映されるはずであり、実際にそれを地で行くプレイヤーがあらゆる領域で立ち上がっています。

世界トップクラスの技術者集団が自社プロダクトの開発、分析のために内製したシステム/フレームワークを一般向けに製品化したGoogle Cloud Platform、自らが広告主としてテレビCMを出稿する過程で感じた非効率や課題欲求を「運用型テレビCM」という外販サービスに昇華させたノバセル、会員制の飲食店を経営する過程で蓄積した集客ノウハウやCRMの手法を飲食店向けのバーティカルSaaSとして提供するfavyなど、その事例は枚挙にいとまがありません。

私たちの支援先では、信越化学工業出身の起業家が製造業のスキル教育管理のノウハウを凝縮して作り出したスキルノートがこの型を織り込んで順調に業績を伸ばしています。

ノウハウ提供型SaaSは、ユーザー企業の視点では人材採用難という課題の解消に有効です。例えばマーケティングを強化するためにP&G出身の敏腕マーケターを採用するのはコストや希少性の観点で難易度が高い一方、P&G出身の起業家が生み出したノウハウ提供型のSaaSを月額数十万円で利用することは可能なのです。

一方ベンダー企業の視点でも、プロダクトが元々内包しているノウハウに加えて、ユーザーが提供してくれる情報や知見がさらにそのノウハウを増長させていくという点でネットワーク効果が利くため、単価向上や解約率の低下といったメリットを享受しやすいモデルであるということが言えます。

もちろん、SaaSの導入メリットからコストの視点を取り払うことはできず、どんなSaaSであっても対オンプレミスや対人件費、あるいはそれらを包含したTCO(Total Cost of Ownershipの略で、総費用の意)でコスト優位性が認められる必要はあるため、単純な左から右へのシフトというよりは、左(コストメリット)をカバーした上でいかに右(ノウハウやネットワーク効果)の要素を加えられるかという見方をする方が正確かと思います。

何れにせよ要旨としては、コスト優位性のみを売りにするプロダクトは構造的に顧客が離反しやすいため、今後はSaaSに限らずあらゆるB2Bビジネスの成長性を検討する上で重要な観点の一つになっていくものと考えます。

おわりに

本稿では、私たちが普段思考のフレームワークとして使用しているDXの型について、その一部を例示しながらご紹介してきました。背景としては、冒頭にも述べた通り、真のDXを実現させるためには各々の企業がバラバラに効率化や個別最適を追求するのではなく、スタートアップも、大企業も、VCも、政府機関も、社会全体が同じ方向を向いて取り組みを進めていく必要があるという強い思いがあります。

DXを通じて、データによる取引の透明化や低コスト化といったソフトウェアの効能が企業内オペレーションや企業間取引、消費者体験にまで広く染み出していくことで、結果的に機会の偏在や情報の非対称性が解消され、受注者と発注者、提供者と利用者、企業と従業員との間に嘘のない関係が再構築される。そんな社会を、皆さんと共に作っていけると良いなと考えています。

関連リンク:DXの型 #6-9 | DX-Compass by Genesia.

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